30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

2021/09/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:西村満 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

My Bloody Valentineの『Loveless』は、1991年の名盤として挙げていいのか迷う。そのくらいヘンなアルバムだった(荒野)

―レニー・クラヴィッツ(以下、レニクラ)はどうですか。1989年に1stアルバム『Let Love Rule』が出たときの衝撃は計り知れなかったし、本国と同じくらい日本での人気も高かったですよね。小林武史さんがレニクラのスタジオで、Mr.ChildrenやYen Town Bandのレコーディングをしたのは有名な話です。

荒野:レニクラは1991年だと『Mama Said』を出していますね。いまは過小評価されているけど、ぼくはこれが出たときめちゃめちゃ聴いたし、彼とポール・ウェラーの影響で、カーティス・メイフィールドなどのソウルミュージックもちゃんと聴くようになったんですよ。このあとのネオソウル勢に与えた影響も絶大でしょう。それと同時に、同じくこの年『Use Your Illusion I』『II』を発表したGuns N' Rosesのスラッシュが参加していたり、音楽性の幅がとても広い。

―当時レニクラは「黒いジョン・レノン」ともいわれていて、『ジョンの魂』(1970年にリリースされた、ジョン・レノンの初ソロ作)をシミュレートしたような1stアルバム『Let Love Rule』(1989年)のサウンドも衝撃的でしたね。

レニー・クラヴィッツ『Mama Said』を聴く(Spotifyを開く

―一方、UKでは「シックスティーズ再評価」と「セカンド・サマー・オブ・ラブ」(1980年代後半に英国で起きたダンス・ミュージックのムーブメント)が融合し、Primal Screamの『Screamadelica』やMy Bloody Valentine(以下、マイブラ)の“Soon”(1990年)などが生まれました。

荒野:“Soon”が収録されたマイブラの2ndアルバム『Loveless』はもちろん孤高の名盤なんですけど、「1991年の名盤」として代表的に挙げていいのか迷うところなんですよ。ほかのどの作品とも違うし、とにかくサウンドがヘン!(笑)

ラブリーサマーちゃん

―『Loveless』は、1989年には原型ができ上がっていたものの、オーバーダビングやミックスダウンに2年もかかったといわれています。「1991年っぽさ」を感じないのは、そういう制作過程があったからなのかもしれないですよね。

荒野:だから当時聴いたときも、スッとは入ってこなかった。前作『Isn't Anything』(1988年)に比べるとあまりにも奇妙で……。アルバム1枚で1曲みたいに感じる塗り壁のようなサウンドだったし、“Soon”のようなダンサブルな楽曲がもっと入っているのかなと思って心の準備をしていたら、意外とそうでもないし。

My Bloody Valentine『loveless』を聴く(Spotifyを開く

―たしかに。セカンド・サマー・オブ・ラブの象徴のようなPrimal Screamの『Screamadelica』に対して、マイブラはどんな返答をするんだろう? という期待はあったかもしれない。なのに、かなりアンビエントにシフトしていて驚きましたよね。

ラブサマ:私、『THE THIRD SUMMER OF LOVE』というアルバムをつくったくらい、当時のシーンが大好きなんですけど、その存在を知ったのはPrimal Scream『Screamadelica』のおかげなんですよ。最初に彼らを認識したのは“Ivy Ivy Ivy”(1989年)ですが、ああいうガレージロックや1枚目の『Sonic Flower Groove』(1987年)みたいなフォークロックを奏でていた人たちが、『Screamadelica』であそこまで覚醒したことに、すごく憧れを感じます。

ラブリーサマーちゃん

荒野:でも『Screamadelica』を聴いたときも、びっくりしたのを覚えてますよ。先行シングルの“Come Together”(1990年)がぼくはすごく好きで「ジム・ビーティーがいなくてもこんないいメロディーが書けるんだ!」と感動してアルバムを買ったら、まったく違う、ほぼインストバージョンの“Come Together”が入ってて。「歌、ねえじゃん!」って(笑)。

ラブサマ:あははは! ボビー・ギレスピー(Vo)が歌えばどんな曲でも名曲になるのに、あそこまでダンスミュージックへ舵を切ったガッツはすごいですけどね。

荒野:きっとアンドリュー・ウェザオール(イギリスのDJ、プロデューサー。2020年2月17日に逝去)の影響もデカかったと思うけど、それまでロック一辺倒だったぼくがこの作品の真価を理解するには、ちょっと時間が必要でしたね。

Primal Scream『Screamadelica』を聴く(Spotifyを開く

1990年代になって、再び脚光を浴びた「ワウペダル」

荒野:関係ないけど、この頃のサウンドでいうとワウペダルの存在感ってすごくないですか? みんなワウペダルを踏んでいましたよね。

ラブサマ:わ、たしかに!

荒野:ぼくはローゼズのジョン・スクワイアが発端かなと思っているんだけど、BlurもChapterhouseもRideも、みんなギターにワウをかけてます。きっと、16ビートのリズムとロック的なものをどう絡ませるか?というときに、ワウが便利だったのかも知れないですね。

左から:ラブリーサマーちゃん、荒野政寿

―ダンスミュージックでいうところの、フィルター的な使い方もワウでできますし。

荒野:そうそう。ワウペダルは1960年代後半、ジミ・ヘンドリクスやCreamなどが用いて脚光を浴びたけど、やっぱり飛び道具的なエフェクトなので、1980年代になるとロック界隈ではほとんど誰も使わなくなる。しかし1990年代になってダンスとロックが融合し、メロディーだけじゃなくて「ビートやリズムとどうつき合っていくか?」ということを考えたときに、再びワウペダルが重要になっていったのだと思います。ローゼズの“Fools Gold”なんてワウギターだらけですよね(笑)。

ラブサマ:なるほどね。すごく面白いです。

荒野:そういえば、当時多くのミュージシャンやライターが1991年のベストアルバムの1枚に選んでいたFive Thirtyの『Bed』も、ワウを踏みまくってる。このアルバム、最高なんですよ。普通のエイトビートの激しい感じのロックもあれば、ローゼズタイプの“13th Disciple”というダンスっぽい曲もあるし、サイケポップっぽい“You”という曲もあって。

ラブサマ:Five Thirty、知らなかったです。気になる。

Five Thirty『Bed』を聴く(Spotifyを開く

荒野:ギター(ポール・バセット)もベース(タラ・ミルトン)もリードボーカルを取れるし曲も書けるのだけど、そういうリーダー格が複数いるバンドって解散するのが早いじゃないですか(笑)。彼らもすぐに仲違いして、それぞれ別のバンドをはじめたんです。

―そのせいか、いまやほぼ忘れ去られています。

荒野:勿体ないですよね。ちなみにドラマーの人(フィル・ホッパー)は、日本に移住してN.G.THREEなど日本のバンドでもプレイしてました。

ラブサマ:え、そうなんですか。私ともバンド組んでほしい!

アラン・マッギーのサインが入ったTeenage Fanclubの『Bandwagonesque』を披露してくれるラブサマちゃん
アラン・マッギーのサインが入ったTeenage Fanclubの『Bandwagonesque』を披露してくれるラブサマちゃん

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リリース情報

ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
ラブリーサマーちゃん
『THE THIRD SUMMER OF LOVE』

2020年9月16日(水)発売
価格:3,630円(税込)
COCP-41239

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

書籍情報

XXX
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』

2021年8月12日(木)発売
著者:黒田隆憲、佐藤一道(共同監修)
価格:3,080円(税込)
発行:シンコーミュージック

プロフィール

荒野政寿(あらの まさとし)

1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。今年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

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