Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

2021/09/15
インタビュー
渡辺志保
撮影:玉村敬太 テキスト・編集:久野剛士

BAD HOPには「みんなでシーン全体を盛り上げたいっすね」って言われました(Awich)

渡辺:CD世代のKMさん、Awichさんと、ネット環境が整っていたLEXさんでは、世代の違いも感じると思います。昔と今でテクノロジーが発達し、いろんな制作に関わる環境が変わっていますが、自分の作品をアウトプットする上でいい方向に変わったと思いますか?

Awich:思いますね。だって、楽曲にするほどでもないけど、言いたいことは(Instagramの)ストーリーで上げればいいし。ツールが表現によって選択できるのはいいと思う。ただ、どのツールを使っても消費されるのが早いですね。

LEX:消費されるスピードの早さは、めっちゃくちゃ感じるっすね。

Awich:でもLEXたちの世代は、そのスピード感を、身体感覚でわかってるんだよね、多分。

LEX:いやでも自分でも早いのは感じます。だからちょっと今、制作ペースについて考えることが多いです。

渡辺:制作、リリースのペースは自分で決めているんですか?

LEX:計画はするっす。人一倍、楽曲をたくさん作るんで、やっぱりリリース前のものが詰まっちゃってますね。

LEX

渡辺:たくさん作って、ハイスピードでリリースするのは今のアーティストにとって大事な要素だと思います?

LEX:うーん、そのアーティストの段階によると思います。まだ芽が出る前の時期だと、とにかくめっちゃくちゃ出すのも必要ですけど、ときには止まることも必要だと思います。

自分は今、止まる必要を感じてますね。走りすぎてるという感覚はそれほどないんですけど、もうちょっと1曲1曲をじっくり突き詰めてもいいんじゃないかって感じるときはあります。

渡辺:Awichさんは、リリーススケジュールはどう決めてるんですか?

Awich:いつもチームでああだこうだ言いながら決めます。最近、(BAD HOPの)YZERRくんがめっちゃ助けてくれていて。最近、YZERRから「Awichさんってどういうふうになりたいんすか?」って聞かれて。「正直、Awichさんがヒップホップのクイーンになってくれないと俺たちが困るんですよ。ヒップホップ、辞めるんすか?」と言われて。

ここ最近は、”Happy X-mas (War Is Over)”とかを歌ってたから、ポップスのフィールドに接近していくような雰囲気に受け取られたのかもしれない。それで、「もうラップやらないんすか?」って聞いてくれた。

Awich『Happy X-mas (War Is Over)』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:いいエピソード!

Awich:BAD HOPには「みんなでシーン全体を盛り上げたいっすね」みたいなことを言われて。そういう他のアーティストの言葉も取り入れてます。私はユニバーサルミュージックっていう大きい企業と活動していて、プロダクション、マネージメントもあって若いスタッフも意見してくれる。

だから色んな人を巻き込んでやってるって感じです。ちゃぶ台返しみたいな、きついときもあるんですけど、その分できたときや、ライブでその曲をやるときが気持ちいいんですよ。

渡辺:リリースの早さと言えば、KMさんもですよね。

KM:なんか、サラリーマンの方が毎日仕事するのと同じっていうか。「仕事」と言うと、ドライな印象になってしまうかもしれないけど、せっかく音楽で生活させてもらってるから。俺が制作を怠けちゃうと、本当はここの地位に立ちたかった多くの人に申し訳ないので。

渡辺:身に沁みる言葉ですね。

KM:気を抜いたり、さぼったりしたら、簡単に追い抜かれるんで。今はまだ自分の作品を更新していきたいから、一生懸命やってます。

KM

渡辺:そのマインドっていつ頃から確立されたんですか?

KM:SoundCloudで海外のビートメイカーがリミックスとかを毎日いっぱい出しているのを見てると、そこに自分も参加したいと思うようになって。それがモチベーションになって、とにかく毎日曲を作るようになりました。たくさんリリースしたいというよりは、SoundCloudのスピード感についていくための鍛錬というイメージです。

渡辺:Spotifyなどのストリーミングの時代になって、リスナーとしてもアーティストたちのペースについていくのに精一杯になるときがあります。うれしい悲鳴なんですけどね。

プレイリストのカバーになれるよう競い合うのが、今の「ラップゲーム」なのかもしれない(KM)

渡辺:一方で、リリースが多いから、毎週、話題の新曲が出てくるようになりましたよね。

KM:僕も毎週、SpotifyのJ HIPHOPプレイリストの表紙、今週は誰なんだろう、ってリスナーとして気になっちゃいますよ(笑)。もしかしたら、色んなタイプのラッパーたちがそれぞれのスタイルでプレイリストのカバーになれるよう競い合うのが、今の「ラップゲーム」なのかもしれない。

Awich:私も、それ気にします。

リニューアルした日本のヒップホッププレイリスト『+81 Connect』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:おー(笑)。お三方ともプレイリストのカバーが自分になることがありますよね。LEXさんは気にしないですか?

LEX:気にはしないかもしれないです。でも、なったときはうれしいっす。

渡辺:そういうラップゲームっぽさが出てきて、盛り上がりを徐々に感じ始めたのがこの4、5年ぐらいのような気がします。ちょうど、ストリーミングのサービスが日本でもスタートした時期というか。

Awich:なんかしてますよね、シーン全体でざわついてる感じが。

渡辺:常になにかしら話題があって、尽きないですよね。AwichさんやLEXさんたちのような、超一流のプレーヤーがたくさん増えてきて、全員がハイペースで音源を出している状況が、アクティブだなって感じます。

最近も、TVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』を見ていた親戚から、「ラッパーが出ているけど、知ってる人いる?」と聞かれたんです。ずっとこうしてアーティストの方と関わる仕事をしてきたけど、こんなことを言われたの初めてでした。

それぐらい、少しずつ日本の生活にヒップホップというカルチャーが自然に入ってきてますよね。KMさんも使命感みたいなものを持って、日本のヒップホップが「もっとこうだったらいいな」という思いでビートを作ることはありますか?

KM:使命感とまでは言わないですけど、ちょうど日本でヒップホップの流行が落ち着いた時期に青春だったので。一生懸命ラップをやってた人たちの中で、一風変わっていたのがミクスチャーロックだったんです。それで俺はどっちも好きなのに、先輩は「ミクスチャーはダメだ」と。でも、そんなのおかしいと思っていました。

そうした、当時のコンプレックスがあるから、もっとごちゃ混ぜにすれば、日本語のラップが進化するかもしれないって思っていて。だから、自分の青春にケリをつけようとしてるんです。だからLEXがロックなステージをしているのは、すごく楽しい。

(sic)boy、KM 『CHAOS TAPE』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:Awichさんは「私がクイーンにならなきゃ」みたいな、対シーンへのマインドはここ数年で変わりましたか?

Awich:最近「私、それ求められてるんだ」みたいなうれしさがありますね。私がロールモデルになっていいと思ってくれる人がいるなら、その覚悟は全然できてます。

それは長くやってきて確立されたもの。だからこそ、イノベイティブなことを私がやらなきゃ、シーンが進まないと思ってます。叩かれる覚悟、ヒットを受ける覚悟がないと、ヒットは生み出せないと思うんですよ。だから、第一線に立つ人間として、腹を括ってやるって感じです。

Awich

渡辺:素晴らしい! LEXさんも時代の最先端を走ってる、若手ラッパーみたいに言われることも多いと思うんですけど、それに対する責任感や、逆にプレッシャーを感じることはあります?

LEX:うーん、そうっすね。逆にそうした外部の声を意図的に感じないようにしてるのかもしれないっすね。多分、自分がなにかしらプレッシャーをかけられたら、いい状態ではいられないと思ってしまっているのかもしれないっす。

自分はまだ若いし、周りの雰囲気に流されがちだし、心も強くないので、できるだけ周りは見ないようにしてます。

LEX『 なんでも言っちゃって (feat. JP THE WAVY)』を聴く(Spotifyを開く

KM:制作で離島に行ったりするんだよね。ノイズがないように。

LEX:そういう感じっすね。

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リリース情報

「+81 Connect」
「+81 Connect」(プレイリスト)

5年間展開してきた「New Era: J-Hip Hop」プレイリストを、新しいカバーデザインとともに、「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)というタイトルでリブランド。SpotifyのJ-Hip Hopのフラッグシッププレイリストがよりアーティストコミュニティーに深く浸透し、影響力のあるブランドとしてシーンと共に大きく成長する事を目指す。

プロフィール

Awich(エイウィッチ)

1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期にビジネスを学ぶため米国アトランタに渡る。ファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で起業学とマーケティング学の学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫が他界。その後、娘と共に沖縄に帰郷。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』(読み:エイト)をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。

KM(ケーエム)

音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

LEX(レックス)

2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。

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