あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

2021/07/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

つねにジョンを意識していたポール。神話のようなその関係性に、鈴木は思いを馳せる

―“Deep Deep Feeling”は、誰かを愛したときに感じる「天にも昇る気持ち」と「どん底の気持ち」を歌っていて、そういう意味では“So Bad”(1983年のアルバム『Pipes of Peace』収録)の歌詞に近いのかなとぼくは思いました。ポールの歌詞では、個人的には“The End”の“And, in the end, the love you take / Is equal to the love you make”(結局、君が受け取れる愛は、君が与えた愛とイコールなんだよ)というフレーズが大好きなんです。ジョンが「哲学的だ」と褒めたそうですが、これは現代にも通じるメッセージだと思うんですよね。

鈴木:確かにそうですね。あの曲を『Abbey Road』のラスト、つまりThe Beatlesにとって最後の楽曲にしたのはあまりにも出来過ぎな気がするけど(笑)、きっと“The End”もジョンへのメッセージだったんじゃないかと思います。というか、ポールがつくる大抵の楽曲はジョンに対して歌っているのではないかとさえ思いますね。しかも、ジョンが亡くなったあともポールはジョンにメッセージを投げ続けている。「この曲はどうかな?」って。

The Beatles “The End” を聴く(Spotifyを開く

鈴木:解散時、ジョンとポールはとても険悪な関係で喧嘩ばかりしていたといわれてますよね。それであるとき、ポールがメンバーをスタジオに残して帰宅してしまって。その頃ポールの家は、アビーロードスタジオのそばにあったのですが、ジョンが彼の家まで追いかけて行って道端のレンガを窓に投げつけるという事件があったらしいんですよ(笑)。

―ええ!?

鈴木:そんなこと、普通するかな? と思いますよね。愛憎入り混じった感情というか、その思いの強さに圧倒されてしまう。きっとジョンの心中には「お前はなんてすごい才能なんだ!」というポールへの嫉妬もあっただろうし、「The Beatlesは俺のバンドだぞ!」という悔しさもあったと思う。それでもジョンは、ポールのことが大好きなんですよ。「こんなバンド、いますぐにでも辞めてやる」と言い続けていた自分より先に、ポールがThe Beatles解散の発表したことで、彼はものすごく傷ついたわけですから。

鈴木惣一朗

―ジョンの、ポールに対する愛憎入り交じる感情は“Oh! Darling”の制作エピソードからもうかがえますよね。

鈴木:このヘビーなロッカバラードをモノにするため、ポールは毎朝誰よりも早くスタジオ入りして、何度も歌入れを行った。彼は、「ジョン・レノンみたいに歌いたい」と思ったわけです。その様子をジョンはコントロールルームで見ながら、「俺が歌えば一発でOKテイクが出せるのに」と思っていたかもしれない。その二人のせめぎ合いというか、静かなる攻防をジョージ(・ハリスン:The Beatlesのギタリスト)はどんな思いで見ていたのか? ということも気になるんだけど(笑)、とにかく何日か後にようやくポールはOKテイクを出すことができた。そして、それを聴いたジョンが絶賛するんですよね。「俺が歌いたかった。そのくらいいい曲だ」って。美しいストーリーです。

The Beatles “Oh! Darling” のアウトトラックを聴く(Spotifyを開く)。ポールは納得のいくボーカルテイクを得るまで毎朝スタジオに通い詰めた。

―最初に鈴木さんがおっしゃっていたように、いまもポールは「ジョンに認められたい」という思いでアーティスト活動を続けているようにさえ思います。

鈴木:これもぼくの大好きなエピソードなのですが、“Hey Jude”の歌詞をポールがジョンに初めて披露したとき、“The movement you need is on your shoulder"(やるべきことは、君の肩にかかっている)の部分を「気に入ってないからあとで修正するつもり」とエクスキューズした。するとジョンはポールに、「何を言ってるんだ、この曲の一番いいところじゃないか。絶対に残すべきだよ」とアドバイスしたんです。自分で自信が持てない部分を、最も信頼している人に「いい」と褒めてもらえたら心の底から嬉しいじゃないですか。その支えがあったからこそ、ポールは自信を持ってあの屈指の名曲“Hey Jude”を世に出すことができた。そういう関係、ぼくにはもう「神話」のようにさえ思えるんですよね。


The Beatles “Hey Jude”

鈴木惣一朗

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プロフィール

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある

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