あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

2021/07/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

自分のクリエイティブに忠実なあまり、時には周りを傷つける。ポールの「優しさ」と「厳しさ」について

―ポールマッカートニーの人柄についてはどう思いますか?

鈴木:黒田さんはポールにインタビューしているんですよね? そのときにどう思いました?

―本当に限られた時間でのインタビューでしたが、彼の話を聞いている時にずっと思っていたのは、「この人はなんて賢く、想像力が豊かなのだろう」ということでした。こちらがどういう意図で質問をしているのかを瞬時に把握し、相手の立場に立った言葉でわかりやすく伝えようとする。過去にデヴィッド・ボウイが「ポール・マッカートニーやジョン・レノンを世界の頂点に立たせたのは、『才能』ではなくその『賢さ』だ」と言ったそうですが、まさに同じことをぼくも思いましたし、「賢さ」は「冷たさ」ではなく「暖かさ」や「優しさ」なのだなとあらためて実感しました。

鈴木:ひとつぼくが強烈に覚えていることがあって。2018年の東京ドーム公演で、アンコールで“Yesterday”をやらなかった日があるんですよ(11月11日、2日目の公演)。

―“Yesterday”は、“Hey Jude”や“Let It Be”と同じくポールのライブレパートリーでは定番中の定番であり、これまでほぼ欠かすことのなかった曲ですよね。

鈴木:「もしThe Rolling Stonesが“(I Can't Get No) Satisfaction”をライブで演奏しなかったら、君はどう思う?」とインタビューで話していたくらい、ポールはサービス精神のある人。そんな彼が“Yesterday”を演らないなんて、ちょっとした事件なわけです。おそらく、いつもポールとお茶目な寸劇をやるローディーのおじさんが、“Yesterday”用のアコギと間違えて“I Saw Her Standing There”用のエレキベースを持ってステージに上がってきてしまった。そこでポールは「なるほど、このままロックショーで終わるのも悪くないな」と、それをすんなり受け入れたんじゃないかと思うんですよね。あくまでも憶測ですが。

プレイリスト『This Is: Paul McCartney』を聴く(Spotifyを開く

―あるいはローディーのおじさんに、恥をかかせないようにしたのかも知れない……。鈴木さんのおっしゃるように憶測の域は超えないですが、ハプニングを面白がるポールの性格ならあり得なくないような気もします。その一方で、スイッチが入ると周りが見えなくなる、自分のクリエイティブな欲求に対してとても忠実な人という印象もあります。

鈴木:残念ながらぼくはポールと会ったことがないので(笑)、彼の人柄に関してもやはりThe Beatlesにおけるジョン・レノンとの関係性で考えてしまいます。もともとポールはジョンが組んでいたスキッフルバンド、The Quarry Menに後から加入して、それがきっかけでThe Beatlesの歴史が始まるわけですよね。当初、リーダーはいうまでもなくジョンだったのだけど、一緒にやっていくにつれてその関係性は徐々に変化していく。ポールの才能が開花してパワーバランスは変化し、それがバンドのなかで大きな要素を占めていくようになるわけです。

鈴木惣一朗

鈴木:そのときのジョンの気持ちは察するにあまりあるものがあるけど、ポールはそこで忖度するわけにはいかなかった。なぜなら自分がやりたいサウンド、やりたいビジョンがはっきり見えていたから。そこがポールの正直で素直なところでもあって……。ポールって、その後の行動を見ていても感じることだけど、「やるしかない」と思ったときはかなり強引に推し進めていますよね。

―The Beatles解散の遠因となった『マジカル・ミステリー・ツアー』(The Beatles製作・主演のテレビ映画)の制作や、「ゲット・バック・セッション」(『Abbey Road』制作前に行われた、アルバムのためのレコーディングセッション)もそうですよね。自分の才能がどれだけ人を振り回したり、傷つけたりしているかについて無自覚というか。Wingsからソロの時期にかけてもきっとそういうことがあったような気がします。

鈴木:そう。そういう衝動的なところがぼくは人間らしくてすごく好きなんです。音楽に対して本当に正直な人だなとも思うし。それにつき合う周りの人たちはきっと大変だろうけど。

―ポールの歌詞について鈴木さんはどんな見解を持っていますか。“Rocky Raccoon”や“Maxwell's Silver Hammer”など、ストーリーテリング調の歌詞を得意としているイメージがありますが。

鈴木:そういう物語仕立ての歌詞は、ジョンに揶揄されていたんですよね。「おばあちゃんがベッドで聴くような歌詞を書きやがって」みたいなことを言われ、ずっと気にしていたんじゃないかな(笑)。例えば『McCartney III』だとぼくは“Deep Deep Feeling”が好きなのだけど、歌詞を読むと割と内省的なことをシンプルな言葉で表そうとしているように感じました。そのあたり、俳句に影響を受けたジョンを意識しているのかもしれない。

The Beatles “Maxwell's Silver Hammer” を聴く(Spotifyを開く

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プロフィール

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある

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