あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

あらためて知るポール・マッカートニーの魅力。鈴木惣一朗に聞く

2021/07/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:鈴木渉 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

新作『McCartney III Imagined』を鈴木惣一朗が分析。自分をガジェット化するポールの「余裕」

―そんなポールの卓越した作家性が表れている楽曲というと?

鈴木:例えばWings時代の“Silly Love Songs”(1976年)という楽曲。じつになんてことのないコード進行なのだけど、メロディーとベースが特別なんです。さすがリズム&ブルースを死ぬほど聴いてきた人ならではというか、単にメロウなだけじゃない骨太なアプローチ。歌詞も「他愛のない内容」といわれているけど、自身のコンポーザーとしての覚悟を表明した素晴らしいメッセージソングだとぼくは思うし、タイトルを“Silly Love Songs”(取るに足らないラブソング)としたあたりもとってもシャレている。ホーンセクションのフレーズにはニューオリンズの匂いがしなくもないし。

Wings “Silly Love Songs” を聴く(Spotifyを開く

―曲の後半で“Eleanor Rigby”と同様、複数の旋律が絡み合う「対位法」が使われているところも心憎いですよね。

鈴木:そうそう。ポールのファンの間でも、割と軽くみられているし「いい曲だけど、他にもあるよね?」みたいな扱いだけど、意外とポールのソロキャリアのなかでも最重要な曲なんじゃないかな。ぼくは本当に好きで未だによく聴いています。

The Beatles “Eleanor Rigby” を聴く(Spotifyを開く

―ところで、鈴木さんがポールに惹かれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

鈴木:ぼくは浜松が実家なんですけど、The Beatlesのドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー』(1970年)を観た小学校3年生の時が最初の出会いですね。姉と一緒に観に行ったのですが、とにかく衝撃でした。もちろん、CMなどでThe Beatlesの楽曲が流れてはいたから、彼らのことを知らなかったわけではないのだけど、ちゃんと意識して向き合ったのはその映画が初めてだった。とにかくびっくりして、その足でシングル『Let It Be』を買いに行きました。

鈴木惣一朗

鈴木:A面は“Let It Be”で、B面は“You Know My Name”という曲。A面はとにかく、B面はとっても風変わりな曲なんですよ。小学生のぼくには良さがまったく分からなかった。でも、オーディオも買ってもらったばかりで他に聴くものがないから、シングル盤をひっくり返しながら何度も何度も聴くわけです(笑)。気づけば“You Know My Name”も大好きになってしまった。

The Beatles “You Know My Name” を聴く(Spotifyを開く

鈴木:あの曲はコラージュ的というか、音楽を「ガジェット」化して楽しんでいるというか。展開もコロコロ変わっていくし、サウンドエフェクトもふんだんに盛り込まれていたり、細かな編集がほどこされたりしているわけじゃないですか。もちろん、当時10歳だったぼくにはそこまで聴き取れていたわけではないけど、ちょっとこじつけて言えば今回のポールの新作『McCartney III Imagined』も、やっていることは一緒なんですよね。自分の楽曲の素材を他人に渡して、まるでガジェットのように好きに遊ばせているわけですから。

ポールの新作『McCartney III Imagined』を聴く(Spotifyを開く

―そういう懐の広さと実験精神、そして遊び心が『McCartney III Imagined』にはぎっしり詰まっていますよね。

鈴木:しかも、参加しているアーティストのアプローチが十人十色で性格も出ています。BECKのように、ポールのメロディーはしっかり残しつつ「BECK節」を加えていくようなつくり方もあれば、Khruangbinのように原形はほとんどとどめておらず、ポールのコーラスだけちょっと使ってあとは完全にKhruangbin色に塗り替えるようなつくり方もあって。ドミニク・フェイクも完全に「自分の曲」にしてしまっているけど、おそらくポールが喜んだのは、Khruangbinやドミニク・フェイクのようなアプローチの仕方だったんじゃないのかなと。


ポール・マッカートニー“The Kiss of Venus III Imagined: Dominic Fike”

鈴木:その前にもジャイルズ・マーティン(The Beatlesのプロデューサーだったジョージ・マーティンの息子)がThe Beatlesの楽曲をマッシュアップした『Love』(2006年)というアルバムがあって、ポールは前々回の東京ドームツアーのときに客入れBGMで流していた。だから、彼は自分の楽曲を脱構築していくことに対して本当に積極的なのだなって思いましたね。

―もしかしたら、『McCartney III Imagined』で起用したクリエーターのなかから次のコラボ相手を探しているのかも知れないですね。

鈴木:ああ、確かにそれはある。トライアル期間というか、お手並み拝見しようと思ったのかも知れないですね。

鈴木惣一朗

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プロフィール

鈴木惣一朗(すずき そういちろう)

1959年、浜松生まれ。音楽家。1983年にインストゥルメンタル主体のポップグループ「ワールドスタンダード」を結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスからも絶賛される。近年では、程壁(チェン・ビー)、南壽あさ子、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはななど、多くのアーティストをプロデュース。2013年、直枝政広(カーネーション)とSoggy Cheeriosを結成。執筆活動や書籍も多数。1995年刊行の『モンド・ミュージック』は、ラウンジ・ブームの火つけ役となった。細野晴臣との共著に『とまっていた時計がまたうごきはじめた』(平凡社)、『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音を作ってきた』(DU BOOKS)、ビートルズ関係では『マッカートニー・ミュージック~ポール。音楽。そのすべて。』(音楽出版社)、他に『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』(DU BOOKS)などがある

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