フィッシュマンズの音楽は世代を超える 崎山蒼志ら3人が綴る魅力

フィッシュマンズの音楽は世代を超える 崎山蒼志ら3人が綴る魅力

2021/07/09
リードテキスト・編集
井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

「人生の夢を見る(MY LIFE)」(草野なつか)

風邪をひき熱で寝込んでいる日の昼間に見る夢は人生に最も近いかたちをしているなあ、とよく考える。手触りや匂いもどこかそんな感じがする。フィッシュマンズの音楽は、そんな夢の感触によく似ている。

『映画:フィッシュマンズ』は「何かについて語る」人物とその言葉たちに最も重心が置かれている映画で、そのことに強く感銘を受けた。この映画における「何か」はフィッシュマンズというバンドのことであり既に不在の佐藤伸治という圧倒的魅力を放つ人物のことであるのだが、本作ではあらかじめその内容が象られて先行するようなことはなく、あくまで語られた言葉を土台に丁寧に構築されている。

おなじ速度で歩を進めるような時間の流れ。時折挟まれる過去の映像は神格化されずそこにあって、いま・私が・観ているその映画のなかに等価に存在している。カメラのアングルも撮り方も至極シンプルでありながら、距離が保たれ誠実なそのまなざしはこちらの眼をスクリーンから離させない。

フィッシュマンズのドラム・茂木欣一。『映画:フィッシュマンズ』より © 2021 THE FISHMANS MOVIE
フィッシュマンズのドラム・茂木欣一。『映画:フィッシュマンズ』より © 2021 THE FISHMANS MOVIE

大学時代、当時全盛のSNSでフィッシュマンズのコミュニティーに入っていた。コミュニティーの住人にはライブに足繁く通った世代も私のような「その後」の世代もいたが、その場所の雰囲気はどこか「さとちゃん信仰」を強く感じさせるもので、私自身、佐藤伸治は大好きだったがその空気に辟易し徐々に離れて行った。

何かを盲目的に信じ愛し拠り所にする行為は、時に共感と結びつき大きな塊となってこちらへ迫って来る。数年経って再び聴き始めたフィッシュマンズは同じ音源であるにも拘らず大学時代に聴いていたそれとはまったく異なる印象を与えた。

佐藤伸治の紡ぐ言葉たちは暮らしの隣にあるような等身大の単語群でありながら日常という形容に回収されることなく(むしろ正反対)、「言葉で説明できない言葉」は確実に存在するということを思い知る。彼のノートに残された「わかりにくいことをわかりやすく」という筆跡はとても腑に落ちるものであり、いち物づくりを生業とする人間として強く背中を押される思いがした。劇中でハナレグミ・永積タカシが言う「自分の身近にある顔と同じ顔してる言葉」はすべての共感と呼ばれるものを拒んでいるようで、この映画はその孤独な闘いを包み込んでいるようにも感じた。

『LONG SEASON』のジャケット撮影地を20年ぶりに訪れたバンドメンバーの柏原譲が「フィッシュマンズ的なものとは関係なく破壊されて」いてコメントしづらいと言っていたその場所は、人工的なもの、橋やパイプが朽ちて落ちてしまっても緑や川や岩がとても美しく雨がよく似合っていた。長い時間が過ぎかたちを変えたとしても残っているものは必ずあって、それに対して抱く寂しさや記憶の脆さすらも愛おしいと思える瞬間が人生においては何度もある。

フィッシュマンズ『LONG SEASON』をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

最近殊に人生は意外なほどシンプルなものであると実感することが増えた。そのくせ、掴めそうで掴めなくてそのたびに驚かされ続けながら生きている。33歳でこの世を去った佐藤伸治は既にそのことに気がついていたのかもしれない。

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作品情報

『映画:フィッシュマンズ』
『映画:フィッシュマンズ』

2021年7月9日(金)から新宿バルト9、CINE QUINTOほかで公開

監督:手嶋悠貴
出演:
佐藤伸治
茂木欣一
小嶋謙介
柏原譲
HAKASE-SUN
HONZI
関口“dARTs”道生
木暮晋也
小宮山聖
ZAK
原田郁子(クラムボン)
UA
ハナレグミ
YO-KING(真心ブラザーズ)
こだま和文
上映時間:172分
配給:ACTV JAPAN、イハフィルムズ

プロフィール

佐藤千亜妃(さとう ちあき)

1988年9月20日、岩手県出身。2007年にきのこ帝国を結成し、Vo / Gt / 作詞作曲を担当。2015年に『桜が咲く前に』でメジャーデビュー。2019年に活動休止を発表。現在はソロとして活動中。2019年にファーストソロアルバム『PLANET』をリリースし、盛岡と東京で初のワンマンライブを開催。2021年3月に約1年ぶりとなるシングル『声』をリリース。4月スタートの連続ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系 木曜22:00~)の主題歌に新曲“カタワレ”が決定。

草野なつか(くさの なつか)

1985年生まれ、神奈川県出身。映画作家。東海大学文学部文芸創作学科卒業、映画美学校12期フィクション・コース修了。2014年『螺旋銀河』で長編映画を初監督。『第11回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』にてSKIPシティアワードと監督賞を受賞。2018年長編監督2作目となる『王国(あるいはその家について)』が英国映画協会が選ぶ「1925~2019年、それぞれの年の優れた日本映画」の2019年で選ばれるなど、期待の俊英として注目を集めている。

崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ、静岡県浜松市出身。2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛けるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。また『FUJI ROCK FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』など、大型フェスからのオファーも多い。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。初のバンドスタイルでのリリースライブは即日完売。3月31日には早くも新曲“逆行”を配信リリースした。

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