デジタルディストリビューターが見た、日本の音楽業界の現在地

デジタルディストリビューターが見た、日本の音楽業界の現在地

2021/06/30
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:鈴木渉 編集:金子厚武、CINRA.NET編集部

ワールドツアーが組めるかどうかは、シングルよりアルバムのヒットが重要

―国内の話の一方で、いかに日本のアーティストが海外でも普通に聴かれるような状況をつくるかというのは、TCJとFRIENDSHIP.双方にとって大きなミッションかと思います。現状の手応えと、今後の展望をうかがいたいです。

野田:ぼくらにもサブミット機能(資料をDSP側にアップロードする機能。新譜リリースをサブミットすることで、バナー掲載やプレイリスト入りなど、楽曲が展開・紹介されやすくなる)があったり、海外のDSPと交渉したり、できる範囲でのプロモーションはやっていますが、アーティスト本人でプレイリストにピッチ(プレイリストに曲を申請すること)をしたり、地道にやっている子がしっかり成功するようになってきたと思います。

ちょっと前だと、cinnamonsがTikTokを使って海外で聴かれた事例がありましたけど、最近だとHIMIの曲がSpotifyの「Chill Vibes」というプレイリストに入って。フォロワーが200万人くらいいて、アジアから選ばれている曲も少ないプレイリストなので、特筆すべき事例だったなと。

プレイリスト『Chill Vibes』を聴く(Spotifyを開く

野田:やっぱり、どのジャンルのどういうプレイリストに、どのタイミングで載りたいかって、アーティスト本人が考えるのがベストだと思うんですよね。ぼくらが全員分をピッチするのは無理ですけど、TCJのオンラインメディア「THE MAGAZINE」でアーティスト向けの情報は発信しているので、ぜひ活用してもらいたいです。

こういうプロモーションに関する質問はアーティストからよくもらうんですけど、実際にそれを実行に移す人は本当に少ないので、それを代わりにやるレーベルや事務所のようなチームの存在もアーティストによってはやっぱり必要だとは思いますね。

野田威一郎

―山崎さんはどうお考えでしょうか?

山崎:さっき「FRIENDSHIP.がコミュニティーになりつつある」という話をしましたけど、最近はコミュニティー同士をつなげることもやり始めていて。例えば、フランスのアーティストと日本のアーティストをつなげて一緒に曲をつくったり、海外のアーティストとスプリットみたいなかたちで作品を発表して、お互いの国のリスナーに聴いてもらったり。そうやってコミュニティーとコミュニティーをつなげることが、海外とつながる近道になると思います。

FRIENDSHIP.から配信しているフランスのブラスファンクバンドFunkindustryの“Rock This Night”を聴く(Spotifyを開く

山崎:あと先日IMMF(International Music Managers Forum)っていう、世界5大陸50か国のマネージャー団体のトップと情報交換をする機会があって。そのときに、「ワールドツアーができるアーティストは、アルバムがヒットしているアーティストだ」という話になったんです。

アメリカの年間チャートは、シングルとアルバムのチャートでアーティストがほぼ被ってなくて、ブッキングエージェントはアルバムがヒットしてるアーティストに声をかけて、ワールドツアーを組むと。シングルヒットはあくまで曲ヒットで、アーティストヒットではないので、ワールドツアーを組んでもチケットが売れないことが多いんですよね。

―なるほど。

山崎:そこに海外で活動するヒントがあると思っていて。ぼくらは一曲がどれだけ再生されるかに気を使い過ぎちゃうところがあるけど、最終的には曲ヒットからそのアーティストのファンになって、そこからライブやフィジカルへという流れがあると思うんです。要はもっとアーティストのブランドを高めるプロモーションをしていくことが、結果的に海外でのヒットにつながっていくんじゃないかと思いますね。

世界に向かうには「点」ではなく「面」で。音楽業界全体の課題とは

野田:ぼくらは2016年から『サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)』(アメリカで行われる世界最大級のテクノロジーとカルチャーの祭典)でイベントをやってるんですけど、2020年はちょっと形を変えて、FRIENDSHIP.さんと音楽メディアのSpincoasterさんを交えて、向こうで日本人アーティストが出られるイベントを企画してたんです。そうしたら……ギリギリでコロナになっちゃって。

山崎:出発まで一週間切ってましたよね。

野田:ぼく、完全に行くつもりでしたからね(笑)。

野田威一郎

―やはり海外にアプローチするためには、連帯も必要になってきますよね。

野田:世界に向かうときは、点で行っても一発で終わりなんで、やっぱり面で、全体で向かわないとダメだと思います。しかも、世界中の国が同じようなことをしようとしているわけで、そのためにもまずは楽曲の数を増やさないといけない。僕がTCJを始めて、最初に「これは日本勝てないな」と思ったのは、「数」なんですよ。

昔よくプレゼンで使ってたんですけど、そもそも海外に流通してる日本の楽曲の数って、世界全体のなかだと乳首くらいだったんです(笑)。このなかからヒットを生み出すのは相当に難易度が高いので、クオリティーは担保しつつ、数も絶対に必要だと思いました。今では世界配信は手軽になり、世界を身近に感じてもらえると思いますが、そのうえで配信だけではなく、ライブやイベントをやったり、全体で世界を考える必要があるなって。

―デジタルディストリビューターも、それぞれのポジションを認識しつつ、業界全体を押し上げる動きができるといいですよね。

野田:海外への対応に関しては、国内のディストリビューターのなかでも結構差があって、パッと見は一緒でも、「このディストリビューターは海外のこのストアには出してない」とかがあるので、そういうことも啓蒙していきたいですね。

ぼくらがつくるアーティストページはマルチランゲージに対応してますけど、今後はアーティストページ一つにしても、ちゃんと海外を意識してつくる必要があります。向こうの検索に引っかからなかったら、情報が存在してないのと一緒ですから。そうやって成功の確率を少しでも上げておくことが、ぼくらの仕事でもあると思います。

山崎:英語で情報を出すことは最低限必要ですし、現地のアーティストと関わることも重要で、やはり活動を限定しちゃうと広がらないから、どんどん外に出て行くことですよね。もちろん、いま実際に向こうでライブをやるのはハードルが高いですけど、SNSを通じて海外のリスナーとつながったりして、コアなファン層にリーチしていくことがまずは重要だと思います。

左から:野田威一郎、山崎和人

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プロフィール

野田威一郎(のだ いいちろう)

東京出身。香港で中学・高校時代を過ごし、慶應義塾大学卒業後、株式会社アドウェイズ入社。2008年に独立しWano株式会社を設立。2012年にはTuneCore Japanを立ち上げ、2012年10月にサービスを開始。

山崎和人(やまざき かずと)

1978年生まれ。2000年、株式会社ハーフトーンミュージック入社、2003年よりライブハウス"新宿MARZ"店長/ブッキングマネージャーを経て、2009年に株式会社ヒップランドミュージック・コーポレーション入社。The fin.、LITEのA&R/マネージャーとして、作品リリースやアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど数々の海外ツアーの制作を担当。2019年5月より、デジタル・ディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」をスタートさせる。

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