アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

田中絵里菜(Erinam)『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』、桑畑優香『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲

BTSの躍進は、アジアに対するアメリカ人の考え方に変化が起きつつあることも大きいのかなと思います(田中)

―「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」は、インターネット上での影響力を示すビルボードの「ソーシャル50」チャートでのランキングやファン投票を基に選定されるもの、つまりネットやファン投票での盛り上がりがまずあったと。それは具体的にどのようなものだったのでしょうか。

田中:マスメディアの報道によって注目される以前から、すでにアメリカに存在していたファンダム(熱心なファン、または熱心なファンにより形成されたカルチャー)が、「スミン」と呼ばれる活動(ストリーミングで動画や音源を連続再生すること)を行っていました。BTSの楽曲がラジオでたくさんかかるようにみんなでリクエストしたり、チャートのランキングを上げるためにストリーミングの再生をしたり。それによって、アメリカのマスの人たちも無視できないような現象が起きていったのではないかと。

桑畑:同年11月には、アメリカン・ミュージック・アワード(AMAs)にも出演を果たします。BTSのパフォーマンスが始まると、大歓声とともにスタンディングオベーションが巻き起こり、来場していたセレブたちが踊り出す姿がテレビに映し出されました。「この人たちは一体誰?」と、そこでまた注目されたわけです。『エレンの部屋』(アメリカ版『徹子の部屋』みたいな番組)に出演したときなど、例えばRMさん(BTSのメンバー)は英語も堪能ですから通訳なしでも話すことができる。それで、タレントとしての地位も徐々に確立していったのかなと思いますね。

極めつきは初めて全編英語で歌った“Dynamite”(2020年)の大ヒットです(ビルボードチャートで2週連続1位を獲得)。ラジオでも頻繁にオンエアされたりして、字幕などを見ないアメリカ人たちも「BTSの曲はいいよね、僕らの感性に合っている」と認知し、老若男女が聴くようになっていったのだと思います。

BTS“Dynamite”を聴く(Spotifyを開く

田中:K-POPのなかで、BTSだけがアメリカでなぜここまで流行ったか、結局理由を断定することはできないと思うのですが、桑畑さんが今おっしゃったように、やはり歌詞が普遍的で、海外の人たちにも分かりやすいことは大きかったと思います。他のK-POPのアーティストは、特にここ最近コンセプトがかなり複雑に作り込まれているため、初見だと入りにくいところもあるのですが、BTSの場合は「青春」や「成長」がテーマになっていたり、抑圧された社会に対するメッセージを歌っていたり、誰もが共感しやすい要素がたくさんあるんですよね。

それと、これはBTSに限らないのですが、K-POPアーティストは環境問題や差別の問題について積極的に考えていたり、社会貢献に取り組んでいたり、あるいは「多様性」や「セルフラブ(自己愛、自己肯定)」などZ世代に刺さるテーマを歌っていることが多いんです。昨今、アジアの映画が認められつつある状況とも似ていますが、アジアに対するアメリカ人の考え方に変化が起きつつあることも大きいのかなと個人的には思っています。

―なるほど。いずれにせよファンダムの影響力を抜きに語れない部分が多そうですね。

田中:そう思います。韓国では、自分が応援するアーティストのカムバ時期に、音楽番組で1位になることを目指してファン投票したり、スミンしたりCDを買ったりしているのですが、そうしたファンダム活動をアメリカに住むARMY(BTSのファンのこと)たちも受け継いだことが、「トップ・ソーシャル・アーティスト賞」の結果に大きく影響したのだと思いますね。

桑畑:日本だと、いわゆる「賞レース」も偉い人たちが決めることが多いじゃないですか。韓国では、毎週やっている音楽番組もファン投票、しかもネットによる投票が浸透しているんですよね。

それともう一つ、ジャパニーズカルチャーや東アジアのカルチャーが好きな人たちが、かなり前から世界中に存在していて。そういった人たちが初期のK-POPファンになった背景もあるのではないかと。アニメのYouTubeを見ていたら、関連動画でK-POPのミュージックビデオが出てきて、クリックしてみたら映画のような世界観で歌っているから面白くなって見ていくうちに、どんどんハマってしまったという人も多いようです。


LOONA“Why Not?”

―そういう、昔から点在していたファンたちがインターネットで繋がったのも大きいでしょうね。例えば、ちょっと前の世代だと非英語圏の文化が英語圏で勝負するには「言葉の壁」が常に立ちはだかりましたが、そういったものもネットの普及やデジタルテクノロジーの進化により、軽々と乗り越えているように感じます。

桑畑:おっしゃる通りです。最近は、公式のミュージックビデオに英訳詞が付いていることも多いですし、ネットの情報なら韓国語でもワンクリックで自動翻訳できる。『BTSとARMY わたしたちは連帯する』や田中さんの著書『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』でも紹介されていたように、ファンダムの中にはミュージックビデオに勝手に翻訳リリックを付けたり、韓国語の情報を様々な国の言語に翻訳したりしている人もいるので、あっという間に世界中に広まっていく。それと、K-POPにはダンサブルかつシンプルな英語でサビを歌う曲が多いから、踊りながら口ずさんでいるうちにいつの間にか夢中になっていた、みたいなこともあるようです。


[Produce 101] The Dance Avengers! “BANG BANG”

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プロフィール

田中絵里菜(たなか えりな)

1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン / 編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで、撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してから、現在はフリーランスのデザイナーおよびライターとして活動。過去に『GINZA』『an·an』『Quick Japan』『ユリイカ』『TRANSIT』などで韓国カルチャーについてのコラムを執筆。韓国 / 日本に留まらず、現代のミレニアルズを惹きつけるクリエイティブやカルチャーについて制作 / 発信を続けている。

桑畑優香(くわはた ゆか)

ライター・翻訳家。1994年に『101回目のプロポーズ』の韓国リメイク版を見て、似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューを中心に『韓国TVドラマガイド』『韓国テレビドラマコレクション』『韓流旋風』『AERA』『FRaU』『Yahoo! ニュース』などに寄稿。訳書に『韓国映画俳優辞典』(ダイヤモンド社・共訳)、『韓国・ソルビママ式 子どもを英語好きにする秘密のメソッド』(小学館)、『韓国映画100選』(クオン)、『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY わたしたちは連帯する』(イースト・プレス)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)など。

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