NOT WONKの精神。集団でも記号でもない、1人のあなたにむけて

NOT WONKの精神。集団でも記号でもない、1人のあなたにむけて

2021/03/24
インタビュー・テキスト
矢島大地
撮影:佐藤祐紀 編集:柏井万作(CINRA.NET編集部)

無人の渋谷が映るテレビの傍ら、故郷の景色を見ていると、きっとこれが俺の財産なんだなって思えて、気が楽になったんです。

―それは、2020年を経たことも大きいんですか。2019年の年末に『your name』があって、年が明けた直後にコロナ禍になってしまって。つまり活動の指針が定まったと同時に大変な時期になってしまったことで、何よりも自分の喪失感を超えていくための音楽が必要だったのかなと。

加藤:コロナがきて大変だったのは事実なんですけど、このアルバムの構想自体は2019年の『your name』の時点で考え始めていたので、実は、コロナによって制作の方針が変わることは無かったんですよ。ただ、外出できなくなったことで、小学生ぶりかってくらい長く地元(苫小牧)で過ごしたのは大きくて。

―それはどういう意味で、ですか。

加藤:……正直な話をすると、僕は2019年にパニック発作が起きるようになっちゃってて、それが怖くて電車に乗れなくなったりご飯が食べられなくなったりしてたんですね。でも東京に来るために飛行機に乗らなきゃいけなくて、それがだいぶストレスになってたみたいなんです。だけど2020年は強制的に外出できない事態になった。そしたら急にスッキリしたんですよ。無人の渋谷が映るテレビの傍ら、窓の外には何も変わらない山があって……そうして故郷の景色を見ていると、きっとこれが俺の財産なんだなって思えて、気が楽になったんです。

しかも2020年は天気がいい年だった印象があって。気持ちのいい天気の中、土日に何もないっていうのはこういう感じかあ、と思って過ごしているうちに、ギターを弾いたり曲を作ったりすることが純粋に楽しくなっていって。生活のリズムの中で、自分の感情の赴くまま音楽を作ればいいっていう思考になっていきましたね。

―2020年はあらゆる意味で生活の距離の変化がテーマだったと思うんですね。今まで当たり前にあったライブが難しくなったことで自分たちと音楽の距離感が変化したとか、あるいはストリーミングサービス上で新曲の反応を見ることでNOT WONKとリスナーの関係を実感するとか、そういう場面はありましたか。

加藤:ストリーミングサービスが台頭したのは、僕らにとってもデカかったことで。たとえばSpotifyは、ユーザーインターフェース的に全部の音楽を同じ土俵に上げるじゃないですか。それによって、NOT WONKのことを苫小牧のバンドだと知ってる人のほうが少なくなってる気がするんですよ。ストリーミングサービスって、場所が関係なくなっていくところだと思うので。もちろん僕らは生まれや精神性も大事にしていますけど、純粋に音楽の評価として一緒くたにぶち込まれるっていうのは面白いことですよね。

たとえば最近アメリカの男性からメッセージがきて、「NOT WONKに影響を受けてバンドやってます」みたいな内容だったんですよ。それで彼の音源を聴いたらカッコよくて。そういうところでも聴かれてるのは、Spotifyがあったおかげですよね。僕は英語で歌ってますけど、海外の方も好きでいてくれるなら、割と大丈夫なんだなって思えますし(笑)。嬉しい話ですよね。

対話と思考こそが、僕のやりたいことなんですよ。

―ありがとうございます。先ほどの話に戻すんですが、「今の時代は何が正解かわからない」と話していただいたように、正解を定めず感情に素直に音楽を鳴らすことこそが今を表すことになる、みたいな気持ちも『dimen』を作る上ではあったんですか。

加藤:きっと「正しいことをしよう」っていう感覚は人それぞれにあると思うし、基本的に「自分は悪くない」と思って生きてるのが人間だとも思う。だけど今の世の中は、その悪意のなさが人を傷つけている状態に見えるんですよ。さっき話した男の加害性の話もそうですけど、無邪気でいることによって誰かに加害している場面がたくさんあって。だから、嬉しさや楽しさだけを許していくのは本当の素直さじゃないと思うんですよ。全部を素直に許すっていうのは、申し訳なかったことや、誰かを傷つけてしまったことも含めて省みることで。そういう意味では、今の自分とか、省みたことをそのまま表した作品だとは思います。

実は音楽で誰かに言いたいことなんてないのかもしれないし、あくまで自分に課すものを歌っている気がするんですよね。特に今作は、今の世の中と自分と生活の景色が妙に繋がってしまったがゆえに抽象化されたラインが多いと思うんですよ。これはどういうことなんだ? って思うポイントが多過ぎる気がするんですけど(笑)。

―そうですね。たとえば“get off the car”の<car>だけでも、とっくに資本主義の限界を迎えた世の中から脱出しようという意志なのか、地に足を着けた生き方を示唆するものなのか、いろいろと推察したんですけど。

NOT WONK“get off the car”を聴く(Spotifyを開く

加藤:今回やりたかったのは、まさにそこで。「これはこういう意味?」って推察してくれること自体が大事なんです。その行為って、僕が歌ったことの真意を読み解くというよりも、言ってくれた人の心の中にある言葉に近いと思うんですよ。「加藤はこう考えたんじゃないか」って考える行為は、実はその人の深層心理にあるものを言葉にしているだけのような気がして。それが、芸術に触れる一番の意義なんじゃないかと思うんですよね。対象に対して思うことって大抵、自分自身の答えに近いから。今回の作品に対訳をつけなかったのも、そういう意図なんですよ。

―どうして“get off the car”について話したかというと、飛躍的に音響が深くなった今作のサウンドメイクと、ここで歌われている内容と、そして今日話してくれたことに合致を感じたからなんです。今作のサウンドには一種のエスケーピズムを感じたんですが、「間違っているものに唾を吐きかけない」という生き方や、<get off the car>というラインが示唆する「現代からの脱出感」を含めて考えると、悪を見つけて叩き潰すことに躍起になる人の渦から抜け出して、1対1の自治が成立する場所を作り出すことこそが理想の社会なんじゃないか、っていう発想がある気がしたんですね。こう言われてみて、どう思いますか。

加藤:確かに、僕はそういう気質があると思っていて。たとえば……この前大きな地震があった時に、「朝鮮人が井戸に毒を入れてる」っていうデマがSNSで流れたじゃないですか。そしたら全国のパンクスが集まって、ヘイトに対する抗議が始まって。僕ももちろん参加したし、ヘイトなんか即刻なくすべきなのは当たり前ですよね。やらないことよりもできることから始めたほうがいいし、ジェンダーのことにしろ、差別のことにしろ、いろんな場所で議論があって然るべきだとも思う。

ただ、僕はNPO法人で子供に勉強を教えたりする、発達支援の仕事を続けているんですけど、その中で感じるのは、議論が起こっている場所の外には、もっと困っている人たちがいて。メディアとかSNSとかで巻き起こっている議論って、生活がままならないような状況の人、今本当に苦しんでいる人にリーチできていないんですよ。そこに大きな隔たりがあると思っていて……それは僕にも言えることで、曲を作ったりメディアで語ったりすることも大事だけど、いざ苫小牧に帰ると、僕がどんな表現をしても届かないところがあると気づかされる。結局、自分の手と足を動かさないと、届くべきところに届かないんですよね。そういう意味で、正しさって何なんだろう、本当に社会をよくするための行動って何だろうって考えることは増えたと思います。

……結局、唾を吐いたりゴミ箱を蹴っ飛ばしたりして何が変わったかっていう話なんですよ。僕らが今闘わないといけないのは、1970年代のイギリスよりもデカい敵かもしれない。だとすれば、同じ主張をとってそれをパンクとするのは正しいのか。ただ団結して悪を引きずり下ろすことだけが目的なのか。ずっと考え続けているし、その過程はアルバムの歌の中にも入っている気がします。

―今のお話も含めて、すごく的確なアルバムだと感じました。何が正解かがわからなくなっていくばかりの日々に対して、「わからない」っていう言葉の奥に思考を促す余白がドーンとあって、そこにこそ芸術と音楽の力を感じる素晴らしい作品だと思います。

加藤:この作品を作った時にも、自分で全然わからないと思ったんですよ(笑)。で、そのわからなさが自分で気持ちよかったし、こうして人と話しながら作品のことがわかってくる。その対話と思考こそが、僕のやりたいことなんですよね。

加藤修平

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リリース情報

NOT WONK『dimen』
NOT WONK
『dimen』(CD+DVD)

2021年1月27日(水)発売
価格:3,500円(税込)
CTCR-96007B

[CD]
1. spilit in the sun
2. in our time
3. slow burning
4. shell
5. get off the car
6. 200530
7. dimensions
8. interlude
9. the place where nothing’s ever born
10. your name

[DVD]
1. Boycott
2. I Won't Cry
3. Shattered
4. Down the Valley
5. slow burning
6. your name

イベント情報

『LIVE! : dimen_210502_bipolar_dup.wtf』

2021年5月2日(日)
【第一部】14:30開場 / 15:15開演
【第二部】18:00開場 / 18:45開演
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
料金:自由席4,000円(税込 / ドリンク代・送料込み) / 当日券未定

プロフィール

NOT WONK(のっと うぉんく)

2010年に結成した、苫小牧を拠点に活動する3ピース。2015年の1st AL『Laughing Nerds And A Wallflower』をリリース、タワーレコメンにピックアップされる。2017年にはRISING SUN ROCK FESTIVALにも出演(その後、18、19年と3年連続での出演を果たす)。2018年にはFUJI ROCK FESTIVAL ルーキー・ア・ゴーゴー、りんご音楽祭、全感覚祭2018に出演。同年11月には札幌ベッシー・ホールでのワンマン、翌年3月東京での初ワンマンを成功させるなど、その卓越したライブパフォーマンスで着実なステップアップを果たす。今年、コロナ禍においても、8月には渋谷WWWXにてワンマンライブ&配信イベントを敢行。9月には、Levi’s「TYPE-1 JEANS」キャンペーン映像の音楽をVo.加藤(SADFRANK)が担当する。さらに、10月27日にKT Zepp Yokohamaで開催された収録ライブに『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2020 酔杯2 ~The Song of Apple ~』にゲストとして抜擢されるなど、スタイルを崩さずしっかりとした実績を積んでいる。

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