BLACKPINK『THE ALBUM』を紐解く。軽やかさと貫かれた力強さ

デビューから4年。『コーチェラ』出演や、レディー・ガガらとのコラボでグローバルな存在感を確かなものに

韓国に住んでいて日常的にこの国のヒットチャートの曲を耳にしていると、BLACKPINKの曲は際立って重たくハードに感じる。例えば今年春からずっとヒットし続けているOH MY GIRL“NONSTOP”と比べてみてほしい。あるいは夏からチャート上位に居座るヒップホップ色の強いJessiの“NUNU NANA”と比べてもBLACKPINKの曲の重低音やダイナミックなサウンドは韓国のポップミュージックシーンの中でも異色だ。10月2日に発表され、アメリカ・ビルボードチャートとイギリス公式チャート2位をはじめ、世界中で大ヒット中の彼女たちの1stフルアルバム『THE ALBUM』を聴いていて感じたのも、そうしたK-POPらしさ以上に際立つBLACKPINKらしいサウンドだった。

OH MY GIRL“NONSTOP”を聴く(Spotifyを開く

Jessi“NUNU NANA”を聴く(Spotifyを開く

BLACKPINKのここまでの道のりとその中での『THE ALBUM』の位置付けを確認してみよう。2016年シングル『SQUARE ONE』でYGエンタテインメントからデビューすると収録曲“Whistle”は韓国の公認音楽チャートであるガオンチャートで1位を記録、翌2017年には初の日本公演を日本武道館で、しかもチケット即完と華々しく飾った。

BLACKPINK 『SQUARE ONE』を聴く(Spotifyを開く

BLACKPINK“Whistle“PV

昨年春には、アメリカの『コーチェラ・フェスティバル』に出演、全世界にストリーミング配信されたパフォーマンスは現地の批評家にも、アジアのアーティストに親しみのなかった欧米の大衆にも圧倒的な印象を残した。今年にはレディー・ガガ、セレーナ・ゴメスと共演した楽曲がアメリカのビルボードチャート「HOT100」でそれぞれ33位、13位を記録、YouTubeではジャスティン・ビーバーに次ぐ最も多いチャンネル登録者数をもつアーティストとなるなど、本国シーンを超えた人気を確かなものにしつつある。また音楽以外でも、ジェニーのシャネルをはじめ、各メンバーがハイブランドのアンバサダーに就任するなど、世界のさまざまなフィールドからラブコールを受ける存在だ。

そんな彼女たちが未だに成し遂げていなかった「成功」、それこそが「フルアルバムのヒット」だった。それもそのはず、『THE ALBUM』は約4年におよぶ彼女たちのキャリアにおいて、初のフルアルバムなのだ。

2019年『コーチェラ・フェスティバル』でのパフォーマンス

レディー・ガガとのコラボ曲“Sour Candy”。ガガのアルバム『Chromatica』に収録(Spotifyを開く

セレーナ・ゴメスやカーディ・Bも参加。初のフルアルバム『THE ALBUM』のクレジットに並ぶ海外クリエイター陣

全8曲を収録した『THE ALBUM』(Spotifyではメンバーの限定イメージビデオや各楽曲のテーマ、背景を説明した「ストーリーライン」も堪能できるエンハンスト版を配信中)はBLACKPINKが、文字通りグローバルなガールズグループとしてのブレイクの決定打とするべく発表した作品だ。それだけに作品の内容がいかにして欧米のポップシーンにより順応したものになっているかは、多くの人にとって関心の的だっただろう。

『THE ALBUM』のクレジットは、そのポイントについての簡単なヒントを示している。まずセレーナ・ゴメスと共演し8月に発表された“Ice Cream(feat. Selena Gomez)”(作曲にはアリアナ・グランデが参加)に加え、カーディ・Bが参加した新曲“Bet You Wanna(feat. Cardi B)”を収録。またこの2曲はアリアナ・グランデの曲を多数手掛けるトミー・ブラウンと、トミーと共にジャスティン・ビーバーの最新ヒット“Holy”を手掛けたスティーブン・フランクスのコンビが作曲・編曲にクレジットされている。さらに後者“Bet You Wanna(feat. Cardi B)”の作詞には自身のバンド、OneRepublicからレオナ・ルイス“Bleeding Love”や、昨年のJonas Brothers “Sucker”まで数々の大ヒット曲を手掛ける、まさにメインストリームのトップソングライターの一人、ライアン・テダー、そしてリード曲“Lovesick Girls”の作曲にはデヴィッド・ゲッタといったビッグネームの名前も見られるのだ。

BLACKPINK『THE ALBUM』配信版ジャケット
BLACKPINK『THE ALBUM』 Spotify Enhanced Albumを聴く(Spotifyを開く

「BLACKPINKらしい」サウンドの立役者。Teddyらお馴染みのプロデューサーたちが全面的に参加

実際に曲を聴いてみても、トミーとスティーブンが手掛けた “Ice Cream(feat. Selena Gomez)”と“Bet You Wanna(feat. Cardi B)”は、前者は2つのコードをひたすらループさせる構成、後者もほぼ全編一定のライトでパーカッシブなビートが支配している。そのシンプルで軽やかな作りは、アメリカのラジオ局のプレイリストにも自然とフィットしそうだ。ただアルバム全体では、そうしたアメリカのメインストリームポップらしさよりも、今までのBLACKPINKの楽曲を貫いていた彼女たちらしいサウンドの存在感が支配的に思えた。

そう感じさせた要因は、前述のソングライターたちが関わった曲も含め収録曲8曲全てに関わる、Teddy、24、R.TeeといったYGエンタテインメントの「The Black Label」所属ソングライターたちの存在にある。彼らはこれまでもほぼ全てのBLACKPINKの楽曲のソングライティングに携わってきた、BLACKPINKのサウンドに欠かせない存在だ。決まったソングライターではなく、その時々で異なるソングライターと共作したり、世界各地の作曲家たちがコライトした楽曲を起用するグループも多いなか、BLACKPINKはデビュー以来、とくにプロデューサーのTeddyと密接に協力して作品を作り上げてきた。アメリカのメインストリームポップのソングライターの力を借りながらも、全体的に音に統一感が感じられるのはやはり同事務所のプロデューサーが全編にわたって関わっているからだろう。

BLACKPINK“How You Like That”を聴く(Spotifyを開く

彼らがメインとなって手掛けた曲にはよりBLACKPINKらしさが体現されている。まず“How You Like That”“Pretty Savage”“Crazy Over You”の3曲は特に“DDU-DU DDU-DU”以降の近年のシングル曲のスタイルに近い。具体的には、サビ前からのビートのビルドアップとドロップ、サビではメロディを歌わずにキメのフレーズをリズムに乗せ、印象的なシンセのメロを際立たせる点などEDMらしい曲展開、重厚なベース音に激しいハイハットやスネアなどアメリカの現行ヒップホップと遜色ないダークなトラップサウンドが挙げられる。構成面でもう一点触れるなら、曲のラストにサビと同等かそれ以上に力強いビートで「クライマックス」を演出するブリッジ、いわゆるCメロパートの存在もBLACKPINKのシングルではお馴染みだ。その展開の変化の多い曲の構成は、前述の“Ice Cream(feat. Selena Gomez)”や“Bet You Wanna(feat. Cardi B)”と比べれば個性がより際立つし、その圧倒的にヘビーな音圧は、冒頭でも述べた通り韓国発のポップミュージックの中でも異彩を放ち、メインストリームのポップスというよりはクラブミュージックを聴いている感覚を起こさせる。

BLACPINK “Pretty Savage“を聴く(Spotifyを開く

10年代前半のEDMを彷彿とさせる“Lovesick Girls”。BIGBANGや2NE1ら先輩グループとの繋がりも

一方、同じく彼らが手掛けている本作のリード曲“Lovesick Girls”は少しムードが違う。ヒップホップ要素は減少し、シンセベースやメンバー4人が揃ってメロディをなぞるアンセミックなサビのパート、カントリー風なアコースティックギターのストロークなどEDMポップが主流だった2010年代前半頃のポップシーンにタイムワープさせるかのようだ。

筆者はこの曲を聴いて「新しいBLACKPINKらしさ」というよりは、サビのボーカルのアンセミックな雰囲気がこの曲と共通する“As If It’s Your Last”や、デビューシングル収録の“BOOMBAYAH”といった初期のシングルに近い印象を受けた。“As If It’s Your Last”にはダンスホールやユーロビートも取り入れたり、“BOOMBAYAH”はよりヘビーなクラブサウンドだったりといった違いはあれど、EDMサウンドのパワフルさに委ねるこれらの3曲は、製作陣のEDMというジャンルの、ラウドで、派手なサウンドへの憧憬も感じさせる。それは同時に、BLACKPINKと同じくTeddyらが多くの楽曲を手掛けたBIG BANG、2NE1といったYGエンタテインメントの先輩グループとの繋がりをより明確にするものだ。

BLACKPINK“Lovesick Girls“PV

昨年のEP『KILL THIS LOVE』発表時、アメリカの音楽メディア「Stereogum」で評論家のクリス・デヴィルがBLACKPINKのサウンドを「2010年代初頭のポップミュージックが誇らしげにして不愉快なほどラウドだった時代に連れていってくれる」と評していたのが興味深かったが、それはBLACKPINKにとってはデビュー当初から掲げてきたアイコニックなサウンドであり、本作にも通底しているものだろう。そのサウンド自体は世界的なポップミュージックシーンの中で真新しいものとは言えないが、彼女たち自身のパフォーマンスと一体化して強烈な個性となり、さらには、多くの曲で歌われるボースティング的な歌詞や、曲名にも登場したサヴェージ(凶暴さ)なイメージ、そしてメンバーのジスとジェニーも作詞に参加し、失恋の痛みを前向きに解釈しながら高らかに踊る“Lovesick Girls”(ロビンの“Dancing On My own”やロードの“Green Light”など2010年代の失恋アンセムたちとも並べたくなる)の内面からくる強さのイメージも強化している。

BLACKPINK『KILL THIS LOVE』を聴く(Spotifyを開く

世界のガールズグループの、新たなロールモデルへ

『THE ALBUM』はBLACKPINKの作品ではラストに配置されることが多い、優しいトーンのバラードスタイルの楽曲“You Never Know”を経て、あっという間に幕を閉じる。それは8曲24分というコンパクトなボリュームのせいではない。入念に作り込まれた完成度の高さによるものだ。各曲の歌のメロディやキメのフレーズ、シンセやブラスなどのリフレインはそれぞれすごくキャッチーだし、“Crazy Over You”の南アジアの音楽を彷彿とさせる笛の音に日本の三線かゴッタンのような弦楽器のサウンドなど、新鮮な音色のアイデアも中毒性を誘う。そして何より、4人それぞれ声色の違うボーカル、リサやジェニーのキレのいいラップなどレベルの高いパフォーマンスも聴きどころが多く、飽きることなく8曲一気に再生出来る。

彼女たちの作品は、ポップミュージックにおける歌、ラップ、ダンスといった質の高いパフォーマンスの持つ重みを今一度世界の音楽シーンに訴えかけているようだし、欧米のトレンドを追随していくというよりは、むしろ自分たちが世界のポップアクトから参照される存在になろうかのようだ。だからこそ、この『THE ALBUM』が、欧米のポップスのサウンドやプロダクションを取り入れながらも、あくまで今までの自分たちらしいサウンドを武器にしていることには説得力を感じる。本作は、BLACKPINKという、世界のガールズグループの新たなロールモデルにふさわしい初のフルアルバムだ。

リリース情報
BLACKPINK
『THE ALBUM』

2020年10月2日(金)配信

1. How You Like That
2. Ice Cream (feat. Selena Gomez)
3. Pretty Savage
4. Bet You Wanna (feat. Cardi B)
5. Lovesick Girls
6. Crazy Over You
7. Love To Hate Me
8. You Never Know

サービス情報
Spotify

・無料プラン
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