荏開津広×渡辺志保 音楽から見るBLMの様相

荏開津広×渡辺志保 音楽から見るBLMの様相

2020/09/29
インタビュー・テキスト・編集
久野剛士
撮影:寺内暁

さまざまな主張が生まれた、BLM関連の楽曲

―そうしたブラック・ライブズ・マターの理解を深めるための楽曲などありますでしょうか。

渡辺:人種差別に言及するなど、ブラック・ライブズ・マターに関する曲は数多くリリースされていますが、それらもいくつかのパターンにわかれると思っていて。例えばMeek Millの“Otherside Of America”などは、ジャーナリスティックに人種問題をあぶり出している曲ですし、Lil Babyは「もっと自分はこうして考え、行動していかないといけない」という前向きなメッセージを歌う”The Bigger Picture”をリリースしています。

Meek Mill“Otherside Of America”を聴く(Spotifyを開く

Lil Baby“The Bigger Picture”を聴く(Spotifyを開く

渡辺:ブラック・ライブズ・マターについてだと、Public Enemyの“Fight The Power”(1989年)みたいなラディカルな曲か、前向きなメッセージの曲がスポットに当たりがちだと思うんですけど、私が今回、紹介したいと思うのはアフリカン・アメリカンの内面を深く掘り下げていく曲です。自分たちのブラックネスを、自分たちでどう昇華し、どう周りに良い影響を与えていくべきか、ということを彼ら自身が模索しているように思いました。その1曲として、ジャミラ・ウッズがNONAMEとコラボした“VRY BLK”(2017年)があります。

ジャミラ・ウッズ“VRY BLK (feat. NONAME)”を聴く(Spotifyを開く

渡辺:ジャミラ・ウッズもNONAMEもシカゴで活躍するアーティストで、ポエトリーリーディングのシーンとも密接な関係を結ぶアーティストです。ジャミラ・ウッズは「アサタズ・ドーター(アサタの娘たち)」という、女性向けの教育機関を運営しているんですね。ちなみに「アサタ」は、2Pacの名付け親である叔母アサタ・シャクールのことで。

荏開津:アメリカでは2Pacの母親と同じくらい、彼女も影響力が強いんですよね。COMMONが彼女に捧げる曲“A Song for Assata”を、キューバにいる彼女を訪ねた後にリリースしています。

渡辺:そうです。彼女もラディカルなブラックパンサー党の一員でした。その「アサタズ・ドーター」からもわかるように、ジャミラ・ウッズ自身が教育に関心があるし、2016年に発表された彼女のアルバム『Heavn』の内容は「Self Love(自身を愛しましょう)」ということに重きを置いています。

そんな彼女に昔インタビューしたことがあって。彼女は他の曲でも「BLACK」を「BLK」と綴っているので、「それはなぜですか?」と聞いたんです。そもそも、その元ネタとなる詩人がいるそうなんですが、「BLACK」に新しい意味を与えるために「BLK」と綴っていると言うんです。この曲は、ネガティブな側面もあるんですが、自身の「BLK」と向き合った曲として秀逸だと思います。

NONAMEも自分でブッククラブ(朗読会)を主宰しているんですが、この2人はまずは本を読むこと、知識を得ること、教育がなにより大切であるということはブレずに発信していますね。それに私も触発されて、彼女たちが紹介していた本を買ったり、先ほど言ったように図書館に行ったりするようになりました。

荏開津:ブラック・ライブズ・マターについての曲でもさまざまなタイプがあると最初に渡辺さんがおっしゃったように、日本人から見て同じ肌の色に見えても、当たり前ですが感じることや意見は同じではない。このことは忘れないようにしたいです。例えば、作家で活動家のキャンディス・オーウェンズとT.I.、キラー・マイクなどがショーン・コムズのメディア「REVOLT TV」で昨年ディベートをしている。キャンディス・オーウェンズはトランプ支持者のアフリカン・アメリカンです。民主党支持でバイデンを支持しているCardi Bと最近やりあいました。これは親しくさせてもらっている自身も保守派のラッパーKダブシャインさんから教えてもらって観ましたが。

ファレルも、古くからの大きな建物として奴隷制時代の大地主の家の建物なんかが未だに残っているバージニア州の出身だからこそ、もちろん人種差別の歴史を理解していなかったわけではない。にもかかわらず、彼は融和政策的にこれまでは活動していたのではないかと思ったりします。バージニアの風景は奴隷制と切り離せない。初代大統領ジョージ・ワシントンの広大なプランテーション跡はマウントバーノンとしてバージニアの子どもが見学するような場所です。

「ブラック・ライブズ・マター」というスローガンが広く浸透していくと同時に、その一方で実際にはアメリカのようなすごく広い国で、いろんな人がいるということは見過ごされがちになっている面もあります。逆に「ブラック・ライブズ・マターといえばこうでしょ」という一面的なイメージが流布する面もある。

渡辺:まさに、ブラック・ライブズ・マターといっても警察を糾弾するだけの曲ばかりではないし、前向きな曲ばかりでもないです。私が紹介したいもうひとつの曲、BUDDYの“BLACK 2”(2020年)は、ブラック・カルチャーを賛美する一方、どこか皮肉っぽくアフリカン・アメリカンのステレオタイプに触れた曲でもあるんです。この構造には、かつてChildish Gambinoが発表した“This Is America”(2018年)にも通じる鋭さがあると感じました。

私はこの曲を聞いて、自分も反省しなければと思ったんですが、いくらアフリカン・アメリカンの文化が好きで、もっと深く知りたい、学びたいと思っても、「あなたたちは黒人になれないし、同じ経験もしたことないだろ」と言われたら、それは本当にその通りなんですよね。私たちは、これまで虐げられてきた彼らの背景から生まれた文化を搾取してきただけなのではないか、とこの数か月考えながら過ごしてきましたし、それはこれからも考え続ける必要があるのだろうと思っています。

BUDDY“BLACK 2”を聴く(Spotifyを開く

―アフリカン・アメリカンの文化を搾取してきたという指摘は、アーティストたちからもなされていましたね。

荏開津:ブルースをコピーして自作だと発表して財産を得た白人のロックのアーティストたちは自分たちの配当を返したほうがいいかもしれないと思います……と私が言うことではありませんが、少なくとも、ブラック・ライブズ・マターの主張はそれくらいこれまでの歴史をひっくり返す意見につながっている。それは別に2010年代に出た意見ではなくて、歴史上の活動家W.E.B.デュボイスの著書『Black Reconstruction in America』(1935年)からして警察解体を提案している。そういうこともあるなら、NONAMEに対するJ.Coleの「それくらい歴史を動かす大きな問題なんだから、簡単には語れないよ」というニュアンスが逃げ腰な印象を与えてしまったのも納得がいく。

渡辺:たしかにそれくらい大きな問題ではあるんですが、もう奴隷制度から400年経っているんですよね(1619年に最初のアフリカ人奴隷の記録がある。)。だから、今回のブラック・ライブズ・マター運動の中でも「もう耐えるのは十分。なぜなら、私たちはこれだけ耐え続けてきたのだから」というメッセージを含んだ「enough is enough(もうたくさん)」という言葉もよく目にしました。そういう雰囲気の中で、J.Coleの考えは、やはり批判の的になったのだろうと思います。

荏開津:去年の暮れに、高山明さんがディレクターの演劇ユニットPort Bの「ワーグナー・プロジェクト」というヒップホップについてのプロジェクトのために、フランクフルトに行ったんです。それで、フランクフルトには米軍基地があるから、アメリカにルーツを持つ子どももたくさんいるんですよ。J.Coleはもともと出身がフランクフルトでお母さんは白人です。日本にも米軍基地はあるし、アメリカをルーツに持つ人もいる。そうした場所から考えると、ポップ音楽としてだけでラップを見るのは一面的ではないでしょうか。

J.ColeがNONAMEにあてたとされる“Snow On Tha Bluff ”を聴く(Spotifyを開く

NONAMEによるJ.Coleに対するアンサーソング“Song 33”を聴く(Spotifyを開く

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プロフィール

荏開津広(えがいつ ひろし)

執筆 / DJ / 京都精華大学、東京藝術大学非常勤講師、RealTokyoボードメンバー。東京生まれ。東京の黎明期のクラブ、P.PICASSO、MIX、YELLOWなどでDJを、以後主にストリート・カルチャーの領域で国内外にて活動。2010年以後はキュレーション・ワークも手がけ、2013年『SIDECORE 身体/媒体/グラフィティ』より、ポンピドゥー・センター発の実験映像祭オールピスト京都ディレクター、日本初のラップの展覧会『RAP MUSEUM』(市原湖畔美術館、2017年)にて企画協力、Port Bの『ワーグーナー・プロジェクト』(演出:高山明、音楽監修:荏開津広 2017年10月初演)は2019年にフランクフルト公演好評のうちに終了。翻訳書『サウンド・アート』(フィルムアート社、2010年)、『ヤーディ』(TWJ、2010年)。オンラインで日本のヒップホップの歴史『東京ブロンクスHIPHOP』連載中。

渡辺志保(わたなべ しほ)

音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタヴュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。

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