『カウボーイビバップ』のサントラと、優れた音楽演出

『カウボーイビバップ』のサントラと、優れた音楽演出

テキスト
小室敬幸
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

第1話を例に見る、『カウボーイビバップ』の優れたサントラの効果

『カウボーイビバップ』の「ジャズ」という側面が強調されるのは、「スペースオペラ」ならぬ「スペースジャズ」という発想で渡辺監督が本作のアイデアを生み出したからでもある。スペースオペラというのは『スター・ウォーズ』シリーズに代表される宇宙を舞台にした冒険活劇のことで、オペラというのは決して『スター・ウォーズ』のクラシック的な音楽を意味しているわけではないのだが、その部分をジャズ等、ブラックミュージックに置き換えるというアイデアが本作のはじまりとなったという。

面白いのは、この発想を単なる雰囲気作りに利用するだけでなく、キャラクター造形にも活かしているところだ。劇中でジャズファンという設定になっているのが、主人公スパイクの相棒ジェット。実年齢は意外にも36歳なのだが、容姿は巨漢のスキンヘッドで髭面、趣味は盆栽と、明らかに年齢に不相応な設定になっており、ジャズ好きという要素もこの一環であるわけだ。オンボロ宇宙船に、ジャズのスタイルから取られたビバップ号(ビバップの創始者であるチャーリー・パーカーの名前も劇中の台詞に登場する)と名付けたのもジェットであり、彼らの時代遅れの生き方を意味しているのだ。そうした音楽による意味付けは第1話の時点から徹底している。

『「COWBOY BEBOP」オリジナルサウンドトラック2 NO DISC』を聴く(Spotifyを開く

まずはアバンタイトルとしてスパイクの過去がフラッシュバック的に描かれ、“MEMORY”というオルゴールの曲が流れる。ブルース的なフィーリングをもった音楽で、オルゴールにすることで回顧的なニュアンスを強めているのだろう。その後、オープニング“Tank!”を挟んで、本編に入るとブルースハープとギターによる“SPOKEY DOKEY”というブルース風の音楽が流れ、台詞もなくビバップ号の日常風景が描かれる。

その後、音楽のないシーンや、スパイクの口笛(サウンドトラックに含まれないため、扱いとしては台詞に近い)を挟み、小惑星ティワナ(アメリカとの国境付近にあるメキシコの都市がモデル)に舞台が移ると、ブルース風のギターによる“FELT TIP PEN”という曲が流れてくるが、面白いのはよくよく聴いてみると旋律線自体はハワイアン風なのだ。気の抜けた日常に思わせておいて、その後また音楽が止まると今回の敵役であるアシモフが事件を起こし始める。しばらく音楽はなく、主人公スパイクがティワナに登場してちょっとすると“Don't bother none”(歌ものだが、使われているのはイントロ部分)という、今度こそ正真正銘のブルース風ギターが短く30秒ほどだけ流れる。

CM明け、アシモフの恋人カテリーナとスパイクが出会うところで、先ほどと同じブルースギター風の曲が流れるが、今度は更に短く15秒ほど。音楽なしの場面を挟んで、スパイクが核心を突く場面でフォーク風の歌“ELM”のギター伴奏だけが流れ、アシモフとカテリーナの悲劇的な最期を予言する。逃亡するこのカップルの背景で再びブルース風のギターが流れた後、スパイクとアシモフが対面。バトルが始まるとオープニングテーマと並ぶ本アニメの代表的楽曲“RUSH”が流れる。

アシモフとカテリーナが宇宙船で逃亡しはじめて、しばらくすると緊迫するチェイスシーンであるはずにもかかわらず“ROAD TO THE WEST”というシンセサイザーの和音にのせた物悲しいサックスの音色が聴こえてくる。まさに、こうした音楽使いが本作の真骨頂と言える部分で、通常、音楽は今まさに画面の中で起きているメイントピックを描きがちなのだが、ここでは音楽が一歩先に悲劇的なカップルの結末を描きはじめているのだ。その嫌な予兆があるからこそ、音楽が突然止まるあの演出が大きな効果を発揮。そして、すぐに本編冒頭に流れた“SPOKEY DOKEY”が流れ出すことで、悲劇の余韻に引きずられずにスパイクとジェットは――これが特別な出来事ではなく、日常茶飯事であることをほのめかして――いつもの生活へと戻っていくのだ。こうした音楽演出が、まさに「大人のアニメ」と称されるイメージを生み出している。

『「COWBOY BEBOP」オリジナルサウンドトラック3 BLUE』を聴く(Spotifyを開く

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『COWBOY BEBOP-カウボーイビバップ-』プレイリスト

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