宇多丸が時代に添いながら『アトロク』で示す、ダメさの肯定

宇多丸が時代に添いながら『アトロク』で示す、ダメさの肯定

インタビュー・テキスト
松井友里
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

いいなと思ったときに、自分なりにそのよさを因数分解したり、構造を取り出して納得したいんです。(宇多丸)

―そうですね(笑)。本放送とPodcastの棲み分けもですが、「フューチャー&パスト」のように1週間の放送を振り返るコーナーがあったり、『アトロク』はいまの時代におけるラジオの聴かれ方や届け方についてすごく意識的であるという印象を持っています。

宇多丸:この場にいるから気まずいですけど、それはプロデューサーの橋本吉史が常にそういうことを考えているからでしょうね。あと僕がやっていることは幸運にも、ネット的なシーンと比較的食い合わせがいいんだと思います。ラジオをリアルタイムで聴いている方もたくさんいてくださると思うけど、たとえば映画評が広く知られていったのはイリーガルにアップされているものも含めて、ネット上で拡散された影響が明らかに大きくて。

―映画評に関しては、書き起こし職人のみやーんさんのブログを見ていた方も多いと思うのですが、公式で書き起こしをされるようになったときは驚きました(みやーん|TBSラジオFM90.5+AM954~何かが始まる音がする~)。

宇多丸:リアルタイムで生放送を聴くからこそ面白みのあることや、「放課後podcast」的な駄話は書き起こしと食い合わせが悪いと思うんだけど、映画評はリアルタイムのラジオ話芸でもありつつ、「情報」という側面もあるから相性がよかったんですよね。

以前は自分がつけている映画評のためのノートを見て、前に発言した内容を調べていたんだけど、書き起こしがアーカイブされていくわけだから、単純に俺自身にとって便利でもある(笑)。放送中の発言で間違っていた部分を訂正したり、情報を追加したりする機会をいただいているという意味でも僕にとって最高で、ないと困ります。あとから映画評をチェックされる方には、音声で聴くより書き起こしを見てほしいくらいです。

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―『アトロク』には本当に多方面のジャンルのゲストの方が登場されますが、さまざまなゲストの方のお話を受け止めるうえで宇多丸さんが心掛けられていることはありますか。

宇多丸:相手の方が話していることをすべて理解できるかどうかは別として、なるべく誠実に受け止めて理解しようとしたいし、誰に対してもフラットなキャッチャーでいたいと思っています。内容によっては決してこちらが詳しいジャンルでもなかったりしますし、初対面のゲストも多いから、どうやって向き合ったらいいかわからないこともあります。最近はリモート放送だから、面と向かってすらいないですし。

聞き手としてのプロの方に比べたら、それはそれは不器用だと思います。生身の人間同士の会話だから、思い通りに進むわけでもないし、ほとんどレースみたいなものですよ。ピットクルーがいて、僕はドライバーに近い立場で、生放送をわーっと走っていく中で「あれ? ちょっと煙出てるんだけど!?︎」みたいなときには、チーム総出でなんとかしていく。ずっと聴いてる人は、「あっ、いまこすったな宇多丸」とか「スピンしたけどなんとか戻そうとしている」とか気づいているんじゃないですかね(笑)。

それに、2年間『アトロク』をやって痛感しましたけど、俺は本当にものを知らないんです。恥ずかしい。でも、ゲストの話を聞くうえで大事なのは知識じゃないんだと思います。逆に、わかった気になっているからこそ、アウトプットに落ち度がある場合もなくはないですし。とはいえ、ほかの番組じゃなくて僕の番組に来ていただいているのだから、僕というフィルターを通してゲストの方のお話をリスナーのみなさんに理解いただくことに誠実さをつぎ込むことしかできないと思っています。俺はタモさんじゃないんだと開き直って。

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―『アトロク』にいらしたゲストの中で、宇多丸さんがとくに印象的だったのは、どの方のお話ですか?

宇多丸:たとえば「格ゲー自宅諜報員」の白水さん。格ゲーってまったく俺のフィールドじゃないから、なにも知識がないんだけど、白水さんの話を伺っていると感動します。白水さんは話し手としていわゆるプロっぽい喋り方をする人ではないんだけど、だからこそ、白水さんという人のチャームや、届けようとしていることの熱さが伝わってくる。でも白水さんに限らず、この番組になってからお会いした方々は、どなたのお話も毎回本当に感心するばかりです。

―『アトロク』に登場するゲストの方は毎回「伝えたい」という熱量の高い方ばかりですよね。映画評がまさにそうですが、宇多丸さんご自身も心が動いた対象を伝えようとすることへの思いを強くお持ちのように感じます。

宇多丸:それはまさにおっしゃる通りです。小学生の頃から『スター・ウォーズ』(日本では1978年公開)を観た翌日、友達に熱く語っていましたし、ヒップホップだって、ヒップホップのすごさがあまり日本に伝わっていない中で伝えていこうという思いがあった。なにかに対していいなと思ったときに、自分なりにそのよさを因数分解したり、構造を取り出して納得したいという欲が強いんです。たとえば先日ゲストにお越しいただいた藤津亮太さんが、「見落とされがちだけど重要なアニメ作品」というテーマで『巨人の星』の話をしていたんですけど、それからずっと『巨人の星』の物語構造や作者である梶原一騎という作家について考え続けちゃっているわけですよ。

『巨人の星』について話をされていた「カルチャートーク:藤津亮太」を聴く(Spotifyを開く

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番組情報

『TBSラジオ・アトロク放課後podcast』(Podcast)
TBS『アフター6ジャンクション』(Podcast)

プロフィール

宇多丸
宇多丸(うたまる)

1969(昭和44)年東京生れ。ラッパー、ラジオ・パーソナリティ。1989(平成元)年、大学在学中にヒップホップ・グループ「ライムスター」を結成。日本ヒップホップの黎明期よりシーンを牽引し第一線での活動を続ける。また、ラジオ・パーソナリティとしても注目され、2009年にはギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞。番組内コーナーの映画批評コーナーが人気を呼ぶ。

橋本吉史(はしもと よしふみ)

1979年生まれ。富山県出身。一橋大学商学部経営学科卒業。2004年、新卒で株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズに入社し、制作センターに配属。ADおよびディレクターとして『ストリーム』『伊集院光 日曜日の秘密基地』『荒川強啓 デイ・キャッチ!』『小島慶子キラ☆キラ』を担当。2007年より『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(通称:タマフル)を立ち上げる。現在、『アフター6ジャンクション』プロデューサーを務める。

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