Hi-STANDARD、ストリーミングサービス解放。闘争と軌跡を辿る

Hi-STANDARD、ストリーミングサービス解放。闘争と軌跡を辿る

テキスト・編集
矢島大地(CINRA.NET編集部)

活動休止、それぞれに負った痛み、そして再始動。ハイスタが体現する、バンドという生命体のすごさ

しかし、ハイスタの航路は決して順風満帆なだけではなかった。2018年に公開され、4月22日にDVD作品が発売されたドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT the story of Hi-STANDARD』で詳細をぜひご覧いただきたいが、急激に巨大化していく状況の中でライブのチケットを取れない人が続出したことに葛藤を抱え、フェスという言葉がまだ根付いてもいなかった1997年に「多くの人がハイスタを観られるように」と興されたのが『AIR JAM』であったこと。PIZZA OF DEATH RECORDSを3人だけの手で動かし始め、その代表取締役を務めた横山健が抑鬱になってしまい、2000年の『AIR JAM』をもって活動休止に入ったことーー3人が3人の自由を手に入れるために始めた活動が巨大化していくにつれ、葛藤と代償もヘヴィになっていったことが赤裸々に語られている。

『SOUNDS LIKE SHIT』より
『SOUNDS LIKE SHIT』より

もっとも『AIR JAM』に関して言えば、1990年代は消防法の関係でアリーナでのスタンディングライブが開催できなかったことや3000人規模のライブハウスが日本になかったことも関係して、新興の埋め立て地で特設ステージを組むアイディアや、前代未聞の野球スタジアムライブに繋がっていった。『AIR JAM 2000』の頃は、まだ『SUMMER SONIC』が幕張で開催されていなかった時期。千葉マリンスタジアム(現:ZOZOマリンスタジアム)は、『AIR JAM』の前は本当にただの野球場だったのだ。どんな場所でも、自分たちの意志とアイディアひとつで「作ってしまう」。上述したようなバンド内ストレスを抱えながらも、ハイスタのイズムだけは一切変わることがなかった。

ハイスタ自身の話に戻そう。『AIR JAM 2000』をもって活動休止して以降、横山はBBQ CHICKENSやKen Yokoyamaをスタート。恒岡は数多のミュージシャンのサポートプレーヤーとして、そしてCUBISMO GRAFICO FIVEでも活動。難波は沖縄に移住し、ソロプロジェクト・TYÜNK、ULTRA BRAiNでの活動を経たのち、難波章浩-AKIHIRO NAMBA-名義でバンドサウンドに帰還、NAMBA69でのバンド活動へ移行していった。

Hi-STANDARD『Love Is A Battlefield』(2000年)を聴く(Spotifyを開く
活動休止前最後の作品となったEP

ハイスタを動かせない中、3人が個々の活動を展開する過程で心の距離は次第に広がり、難波、恒岡がメンタル面のバランスを崩していた時期のことも『SOUNDS LIKE SHIT』では語られている。さらに、一種のボタンのかけ違いから始まった難波と横山の確執や、2011年の東日本大震災を受けてハイスタを始動させるためにお互いの関係を丁寧に解していった一部始終までが告白されていた。『AIR JAM 2011』『AIR JAM 2012』までの過程の真ん中には、常に「3人でハイスタである」という根本を大事にする意識と、3人それぞれの美学が強烈だからこその衝突があったのだ。

『SOUNDS LIKE SHIT』より

『SOUNDS LIKE SHIT』より

『SOUNDS LIKE SHIT』より
『SOUNDS LIKE SHIT』より

たとえば2018年にリリースされたKen YokoyamaとNAMBA69のスプリット盤『Ken Yokoyama VS NAMBA69』を聴けば、両バンドのサウンドの特徴とともに、ハイスタの生態の面白さと異様さも浮かび上がってくる。

『Ken Yokoyama VS NAMBA69』(2018年)を聴く(Spotifyを開く

マッシブなサウンドとメタリックなフレーズが走るNAMBA69に対し、スカやロックンロールなどのルーツを消化してぶっ放すKen Yokoyama。この音楽たちがどう混ざったらハイスタになるのか。さらに、もともとソウルやR&Bをルーツに持っている恒岡のドラムが加わることで、どんな魔法がかかってHi-STANDARDが完成するのかーー個々を見ることでむしろ、そんなバンドマジックが浮かび上がる。そして、そのバンドの面白さに誰よりもロマンを持ってきたのが、他でもない3人自身なのだと思う。そのバンドマジックを生み出せる生命体になるまでの過程の数々に、3人の生態と、バンドの面白さ・すごさそのものが刻まれている。

これは余談になるが、PIZZA OF DEATHの会議室に伺うたびに、「Hi-STANDARD」のステッカーが貼られた自転車を目にしてきた。上述したメンバー間の確執があった時期も、難波と恒岡がPIZZA OF DEATHを離れた後も、この自転車がHi-STANDARDとPIZZA OF DEATHの絆を繋ぎ止めていたのだと未だに胸が熱くなる(『ROCKIN’ON JAPAN』2005年4月号に掲載された難波のインタビューでも、この自転車が置かれ続けていることへの感謝が語られていた)。もちろんハイスタは今もずっと3人のものだ。しかし11年の活動休止の間も、ハイスタが撒いた夢は巨大化し続け、人々の中でずっと輝いていたのだ。

『SOUNDS LIKE SHIT』より。『AIR JAM 2018』のステージに登るHi-STANDARD
『SOUNDS LIKE SHIT』より。『AIR JAM 2018』のステージに登るHi-STANDARD

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リリース情報

Hi-STANDARD『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD / ATTACK FROM THE Far East 3』
Hi-STANDARD
『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD / ATTACK FROM THE Far East 3』(2DVD)

2020年4月22日(水)発売
価格:4,950円(税込)
PZBA-12/13

Hi-STANDARD
『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』(DVD)

2020年4月22日(水)発売
価格:3,850円(税込)
PZBA-14

プロフィール

Hi-STANDARD(はい すたんだーど)

1991年結成。恒岡章(Dr)、難波章浩(Vo,Ba)、横山健(Gt,Cho)からなるパンクバンド。1994年に『LAST OF SUNNY DAY』をリリースしてデビュー。フルアルバム『GROWING UP』『ANGRY FIST』『MAKING THE ROAD』は海外でもリリースされ、『MAKING THE ROAD』はインディーズ流通では異例となる国内外合計100万枚のセールスを記録した。1999年からはPIZZA OF DEATH RECORDSを独立させ、完全DIYでの活動を展開。『AIR JAM 2000』以降は長期の活動休止に入るも、『AIR JAM 2011』にて活動を再開。2016年にはシングル『ANOTHER STARTING LINE』を、2017年にはアルバム『THE GIFT』をリリースし、全国ツアーも展開。2018年に公開されたドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT the story of Hi-STANDARD』のパッケージ作品が4月22日にリリースされ、同日に、ストリーミングサービスにて全曲を解放した。

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