ROTH BART BARON×田中宗一郎 2020年代を僕らはどう生きるか?

ROTH BART BARON×田中宗一郎 2020年代を僕らはどう生きるか?

2019/11/20
ROTH BART BARON『けものたちの名前』
インタビュー・テキスト・編集
山元翔一(CINRA.NET編集部)
撮影:木村篤史

「エコロジーをテーマにする動きは1990年代ごろからずっとあって。Radioheadあたりはずっとそれをやってきた」(田中)

―優れたアーティストの作品には、未来予言的な要素が入り込んでくることがあるじゃないですか。それはROTH BART BARONについても言えることだからこそ聞きたいのですが、タナソウさんがここ最近いろんなところで気候変動のお話をしていること、また気候変動というイシューが音楽に及ぼしている影響について教えてほしくて。

田中:例のアントロポセン(人新世)っていう、現代は人間の文明が地球環境に強烈に影響を与える時代だと位置づける立場がまずあって。ところが、おそらくそれに反発するだろうと思われていた保守的な学者含めて、多くの学者がその議論に賛成しちゃったんですよ(笑)。それで、ここ数年でまた一気に議論が拡がることになったという背景があります。ただ、それ以前にも、ポップミュージックやアートの世界でも、以前の言葉で言うと地球温暖化やエコロジーをテーマにする動きは1990年代ごろからずっとあって。たとえば、Radioheadあたりはずっとそれをやってきた。

おそらく2010年代で一番忘れられたレコードって、Anohniの『Hopelessness』(2016年)と、Radioheadの『The King of Limbs』(2011年)だと思うんですけど、両方とも政治と気候変動についてある種の神話のように観客に語りかけたレコードなんですよ(笑)。

Anohni『Hopelessness』を聴く(Spotifyを開く

Radiohead『The King of Limbs』を聴く(Spotifyを開く

田中:でも、そのメッセージが「社会的な生き物」として成熟した大人たちの間でシェアされるのではなくーーもちろん、アメリカ政府とその後ろにいる企業が京都議定書から離脱したことが大きいんですけどーー10代の子どもたちの間で広まった。しかも、グレタ・トゥーンベリみたいな10代のアイコンにそれを背負わせる形で。でも、それってどうなの? とも思うんですよ。

三船:たとえば、震災(東日本大震災)が起きて、原子炉を使わなくなりましたよね。その結果、火力発電(石炭火力発電)に頼るようになって、二酸化炭素をバカバカ排出する国になった。おかげで台風がすげえ来るようになりました、っていうのはここ10年の出来事で。トラウマがあるから原子力発電は使いたくない、でも火力発電に頼ることで地球をぶっ壊してます、っていう状態に陥っている。

田中:三船くんが言うように、日本における3.11のトラウマは本当に大きくて。それまで、日本でも二酸化炭素排出に対する議論はなくはなかったんですよ。ただ、3.11以降、そもそも沿岸地域の人々だけに危険を押しつけていることはどうなんだ? という議論が高まるなかで、地球全体の環境汚染に対する我々の加害者としての立場はすっかり忘れさられてしまった。もちろん、目の前の危険を回避し、不平等を是正することは大切なことなんだけどーー。

左から:田中宗一郎、三船雅也

三船:ただ、そうやって火力発電に頼り続けて、子どもたちの将来を削ってもいいのかって話で。東京は40度が当たり前になって、ロンドンなんてもともと雪が降らない街にバカみたいに雪が降って、パリも今年は38度とか信じられらない気温に一瞬なった。そういうことが起きている世界で、ちょっとやべえなって思うのは普通のことだと思うんだよね。

田中:体感としても確実にあるよね。映画『天気の子』(2019年公開、監督は新海誠)のおばあちゃんの台詞じゃないけど、自分が小学生のころの四季の移り変わりと今の四季の移り変わりはもう全く別物。もっと春と秋は穏やかで長かった。こんな急激に1年間の気候が変動することはなかったわけですよ。

たとえばインドや中国は、この10年で緑化が進んでる。でもアメリカや日本はその真逆をいってる。ずっと環境破壊に加担してきた僕らの世代は今の現実は受け入れなければならないのかもしれない。でも、10代の人たちがそこに猛烈に反発せずにいられないのは、やっぱりリーズナブルなんだよね。

三船:俺たちはなにもやってないのに地球がぶっ壊れそうになってる。で、「お前ら大人たちは金ほしいの?」って。そりゃ10代は怒るよね、俺でもキレるもん。

ビリー・アイリッシュ“all the good girls go to hell”を聴く(Spotifyを開く) / 同楽曲のMVを公開後、ビリーはInstagramのストーリーズで「今この瞬間も、世界にいる何百万人もの人たちが、各国の指導者たちに向けて地球温暖化への迅速な対応を求めている。私たちの地球は、いまだかつてない速度で温暖化している。極地の氷は溶け、海面は上昇し、野生生物たちは毒され、森林は燃えている」とメッセージを配信した。

今、気候変動について、切実に議論しなければならない理由

田中:ただ、ここ3年くらいずっと考えているのは、我々は人類共通のナラティブ、つまり人類共通の物語がすっかり失ってしまったということなんです。1970年代には文明の発達と共に、誰もが幸せになって不平等や差別がなくなっていくに違いない、みんなでそこに向かっていこうというナラティブがあった。でも今、人類に共通するそういう物語ってないでしょ。誰もが目の前の個別の問題を解決することに必死になっている。それぞれの利益を求めるあまり、局地的な衝突と分断が進んでしまうことになった。でも、そうやって自分たちの社会的な立場を必死に守ろうとしている人たちのことはとても責められない。

たとえば、マイノリティーの問題にしてもそうだよね。女性は何百年、何千年と酷い目にあってきた。象牙街道から連れて来られた時代から今も変わらずアフロアメリカンたちは不平等や死の恐怖に日常的に直面している。だからこそ、それを改善しようという動きがこの10年であった。日本だと福島や辺野古の問題も同じように位置づけられるかもしれない。ただ、その流れのなかで、よりまた局地的な衝突が増えたり、そもそも資本主義や現状の民主主義というシステムはどうなんだ? という本質的な議論は端に追いやられてしまったところがある。

左から:田中宗一郎、三船雅也

田中:でも、気候変動というのは地球に暮らす全ての人類、すべての生命にとっても共通するイシューじゃないですか。例の国連でのスピーチの直前に、グレタが一緒に写真を撮って、ソーシャルにアップしてたのがナオミ・クラインっていうカナダの学者なんだけど。彼女は気候変動というのは政治や経済の問題だとずっと主張してる人なんですよ。

つまり、気候変動を押しとめる流れのなかで、その他の政治問題や、世界経済の破綻さえも克服できるんだ、と。だからこそ、気候変動について議論することが新たな人類共有のナラティブになりうるんじゃないないか。今年前半からそんなふうに考えるようになったんですね。ところが、それに水をかけたのがグレタのスピーチに対する世界中からのバックラッシュ。

―さっき三船さんが言ったように、議論の本質ではなくグレタさん自身に世間の目が向いてしまった。

田中:自分たちの子孫の未来に対して科学的に議論するような基盤が人類にはないんだな、自分自身の目の前の利益のほうが大事なんだなってふうに思いました。人類には、核も、民主主義も、資本主義も、議論することに関しても、まだ早かったんだ、みたいな(笑)。

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リリース情報

『けものたちの名前』(CD)
ROTH BART BARON
『けものたちの名前』(CD)

2019年11月20日(水)発売
価格:2,750円(税込)
PECF-1177 / felicity cap-318

1. けもののなまえ
2. Skiffle Song
3. 屋上と花束
4. TAICO SONG
5. MΣ
6. 焔
7. HERO
8. 春の嵐
9. ウォーデンクリフのささやき
10. iki

イベント情報

ROTH BART BARON
『TOUR 2019-2020~けものたちの名前~』

2019年11月27日(水)
会場:東京都 渋谷 WWW X

2019年11月29日(金)
会場:宮城県 仙台 Darwin

2019年12月21日(土)
会場:台湾 台北 The Wall

2020年2月1日(土)
会場:富山県 高岡 飛鳥山善興寺

2020年2月2日(日)
会場:石川県 金沢 アートグミ

2020年2月7日(金)
会場:福岡県 the voodoo lounge

2020年2月8日(土)
会場:鹿児島県 SR Hall

2020年2月9日(日)
会場:熊本県 NAVARO

2020年2月10日(月)
会場:山口県 岩国 Rock Country

2020年2月11日(火)
会場:会場:大阪府 梅田 Shangri-La

2020年2月22日(土)
会場:愛知県 愛知芸術文化センター 中リハーサル室

2020年2月23日(日)
会場:会場:広島県 福山 Cable

2020年2月28日(金)
会場:北海道 札幌 Sound Lab mole

『肘折国際音楽祭』

2020年3月7日(土)
会場:山形県 肘折温泉

2020年3月8日(日)
会場:青森県 八戸 Powerstation A7

2020年3月22日(日)
会場:京都府 磔磔

2020年5月30日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール 大ホール

詳細情報

ROTH BART BARON「PALACE Premium」

ROTH BART BARONによるファンコミュニティの有料版。「PALACE Premium」では、ROTH BART BARONライブの生配信や動画配信、バンドメンバーによるラジオ配信、デモ音源や写真の販売、ここでしか投稿されないトピックなど、「PALACE」では公開されない限定コンテンツをお届けします。有料版「PALACE Premium」でご支援いただいた資金は、バンドの活動資金、また新しいアルバムや Music Video の制作費に充てさせていただきます。制作のプロセスや使い方などもコミュニティの中で共有していく予定です。ROTH BART BARONをよりもっと深く楽しみたい方へ、新しいコミュニティ「PALACE Premium」をどうぞよろしくお願い致します。

プロフィール

ROTH BART BARON
ROTH BART BARON(ろっと ばると ばろん)

三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)から成る2人組フォークロックバンド。2014年、米国フィラデルフィアで制作されたアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』でアルバムデビュー。2015年、2ndアルバム『ATOM』をカナダ・モントリオールにて制作。2017年、EP『dying for』英・ロンドンにて制作。2018年、3rdアルバム『HEX』を発表し、『Music Magazine』『The Sign Magazine』をはじめ多くの音楽メディアにて年間ベストにランクイン。2019年、ファンコミュニティー「PALACE」の有料版「PALACE Premium」が始動した。

田中宗一郎(たなか そういちろう)

編集者、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『rockin’on』副編集長を務めたのち、1997年に音楽雑誌『snoozer』を創刊。同誌は2011年6月をもって終刊。2013年、小林祥晴らとともに『The Sign Magazine』を開設し、クリエイティブディレクターを務める。自らが主催するオールジャンルクラブイベント、『club snoozer』を全国各地で開催している。Spotifyプレイリスト『POP LIFE』の選曲、『POP LIFE: The Podcast』の制作出演。

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