悲願のUKチャート1位を獲得。いまや海外フェスでヘッドライナーを務めるFoalsの現在地
あなたは、Foalsというバンドをどのように捉えているだろうか? 普段から海外の音楽に馴染みのある人なら名前を耳にしたことがあるだろうし、海外のロックを好んで聴いている人ならば誰しも「2000年代後半から活動しているUKロックバンド」、くらいの認識はあるだろう。ただ、「いま」のFoalsについて、日本では十二分に知られていないのが現状だと思う。
まずは簡単に、直近の活動規模から紹介しよう。Foalsが10月18日にリリースした6作目『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』(今年3月に発表された『Part 1』に続く2連作)は、本国イギリスでアルバムチャート1位を獲得。彼らが全英1位を経験するのは、デビュー12年目にして今回が初めてのことだ。
Foals『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』を聴く(Spotifyを開く)
同アルバムに伴うツアースケジュールは2020年7月まで発表されているが、ロンドンでの公演はオリンピアロンドン(約1万人規模)という大会場で3日間連続を予定。また、11月1日に出演するスペインの『BIME FESTIVAL』というフェスでは、Kraftwerk 3D、Jamiroquaiといった大御所と並んでヘッドライナーという位置付けになっている。
つまり2019年現在、本国イギリス及びヨーロッパにおいて、Foalsはアリーナ~スタジアムクラスの会場を埋め、フェスではヘッドライナークラスのポジションを担う、立派な「アリーナロック」バンドへと成長を遂げているのだ。彼らの人気が海外でどれほどのものなのか、知ってもらうためには映像を見てもらうのが手っ取り早いだろう。以下の動画は、11月15日にAmazon Prime Videoで公開される予定となっている、彼らのツアーを追ったドキュメンタリー『Rip Up The Road』のトレイラーだ。
一方、今年来日した『SUMMER SONIC』では、3番目のステージでトリ前出演。圧倒的なパフォーマンスだったことは強調しておきたいが、ここ日本と海外では、Foalsというバンドの認識に大きな乖離があることは間違いない。
そこで、ここからは全世界的なアリーナロックの潮流の変化を振り返りながら、Foalsがその時流にどのように対応し、ファンベースを拡大していったのか、見ていこう。
ロック不況に苦しんだ2010年代。Foalsが例外的な成功を収めるまで
ポストパンク~マスロック的な文脈で紹介されることの多かったデビュー作『Antidotes』(2008年)、アトモスフェリックなアートロックへと進化した2ndアルバム『Total Life Forever』(2010年)を経て、Foalsがアリーナロック的なスケールを獲得しはじめたのは2013年リリースの3rdアルバム『Holy Fire』において。当時、冬の時代を迎えていたUKロックシーンを横目に、彼らが志したのは、持ち前の精緻なアートロックと1990年代USオルタナ的なダイナミズムの融合だった。
Foals『Holy Fire』を聴く(Spotifyを開く)
同作でプロデューサーとして招聘したのは、アラン・モウルダーとフラッドの2人。彼らは、U2やDepeche Modeらによる1980年代ニューウェイブを代表する傑作から、Nine Inch Nails、Smashing Pumpkinsといった1990年代オルタナのメガヒットを手がけたことで知られる大御所だ。この人選は、わかりやすくFoalsの目指したサウンドを象徴している。
フラッド&アラン・モウルダーがプロデュースを手がけたSmashing Pumpkins『Mellon Collie and the Infinite Sadness』(1995年)を聴く(Spotifyを開く)フラッド&アラン・モウルダーがプロデュースを手がけたNine Inch Nails『The Fragile』(1999年)を聴く(Spotifyを開く)
2013年当時、アリーナロック勢として最も勢いのあったバンドといえば、前年リリースの1stアルバム『Night Visions』が英米同時にチャート2位を記録したImagine Dragonsだろう。複数の太鼓を打ち鳴らすことでフィジカルに訴えかける彼らのライブスタイルは、いま振り返れば、多くのUK出身バンドが当時直面した「アメリカの壁」を暗示するものでもあった。ただ、同時期にアメリカ的なサウンドスケールを視野に入れていたFoalsは、数少ない例外としてアメリカでの成功の足がかりを手にした。
Foalsは、続く4thアルバム『What Went Down』(2015年)でもラウド化、ヘビー化を推し進め、同作収録のシングル“Mountain at My Gates”で全米オルタナティブチャート1位を獲得。
この頃には、イギリスのみならずアメリカでもロック不況の流れが顕著になっており、アリーナ、スタジアム、フェスを埋める音楽界の主役の座は、EDMやヒップホップ勢へと取って代わられていった。
2019年、「ロック」はどこにある?「アリーナロック」をキーワードに考える
では、2019年、Foalsを含むいくつかの例外を除いて「アリーナロック」的な意匠は完全に潰えてなくなったのか? と言えば、答えはノーだろう。2018年頃を境にして、バンド的なサウンドスタイルは明らかに復権の兆しを見せている。現在のところ、その兆しは、ロックバンドの活躍というよりもむしろ、EDM、ヒップホップといった他ジャンルのヒットメイカーによるパフォーマンスのなかに見出せる。
たとえば、今年の『SUMMER SONIC』でヘッドライナーを務めたThe Chainsmokersは、いわゆるEDMのDJプレイとは一線を画し、ドラムやギターを使用したバンドスタイルでスタジアムの観衆を沸かせていた。
また、昨年・今年と2年連続でリリースしたアルバムが全世界的ヒットを記録しているポスト・マローンは、当初ヒップホップ / トラップの文脈で捉えられていたものの、作を追うごとにロックへと接近している。
EDMからポストEDMへの派生、あるいはトラップからエモラップへの変遷という近年のポップトレンドには、アリーナロックの意匠が重要な役割を果たしているのだ。
「ロック冬の時代」を生き残ったFoalsは、未来のバンドたちの希望になる
話をFoalsに戻そう。アリーナロック的意匠がバンドだけに留まらず、他ジャンルにまで拡張している一方で、Foalsはむしろバンドという枠組にこだわり、その制約から生まれる爆発的なダイナミズムを作品へと落とし込んでみせた。今年2作連続でリリースした『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』と『Part 2』は、史上初めて外部プロデューサーを起用せず、バンド自身のセルフプロデュース作に。サウンド的にも、これまで彼らがずっと志してきた知性と肉体性の融合が理想的なバランスで鳴らされている。
Foals『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』を聴く(Spotifyを開く)
作品ごとにサウンドの方向性が明確だったこれまでのアルバムとは違い、今回の二連作は言わばFoalsサウンドの総決算。ダンサブルなマスロック的ビートからアトモスフェリックなレイヤード処理、ゆったりとしたスケールのファンク、ラウド&ヘビーなギターリフまで、音楽性は過去最高にバラエティー豊かだ。
曲順までこだわり抜いたセルフプロデュースによって多彩な楽曲を配置したことで、2枚のアルバムを通して聴くと芳醇な物語性が立ち上がってくる。PCゲームの注意書きなどでよく用いられる『Everything Not Saved Will Be Lost(保存されていないものは全て削除されます)』というタイトルが象徴するように、今作で重要なテーマとなっているのは環境問題や政治などの切迫した社会問題である。
ダンサブルな楽曲が多く配置され、アンビエントなピアノバラード“I'm Done with the World (& It's Done with Me)”で余韻を残した幕引きとなる『Part 1』。世界の終わりを思わせる砂漠の風景で始まり、力強いギターが荒涼としたイメージを打ち破っていく、ロック色の強い『Part 2』。The Beatlesの『White Album』、The Rolling Stonesの『メイン・ストリートのならず者』、Pink Floyd『The Wall』等々、ロックの歴史にはバンドのクリエイティビティが絶頂に達した瞬間を余さず記録したダブルアルバムの系譜というものがあるが、この『Everything Not Saved Will Be Lost』もまた(二連作という形ではあるものの)そうしたマスターピースの系譜に連なる作品だと言っていいだろう。
全世界的な潮流から見れば、バンド形態にこだわったFoalsの右肩上がりの成功は異例と言えるかもしれない。ただ、その背景にはイギリスにおけるバンドシーンの復調があることも見逃せない。2010年代デビュー組のなかで最も成功したUKバンドと言えばThe 1975だが、彼らの孤軍奮闘状態だった2010年代半ばを過ぎ、いまでは次世代のアリーナロックバンドが次々と頭角を現しつつあるのだ。
The 1975『A Brief Inquiry into Online Relationships』(2018年)を聴く(Spotifyを開く)
その中核となっているのがThe 1975も所属するレーベル「Dirty Hit」であり、同レーベルには2ndアルバム『Visions of a Life』が全英2位を記録したWolf Aliceや、The 1975の後を追う存在として注目を浴びるPale Wavesらがいる。その他、草の根的な盛り上がりを見せるサウスロンドンのシーンを筆頭に、イギリスにおけるバンド音楽の復権は少しずつ現実味を帯びはじめていると言えるだろう。
2010年代はロックが不遇な立場に置かれ続けた10年間だった。ただ、いま少しずつ揺り戻しが来ようとしているのも事実だろう。多様化が進む現在において、ロックの意匠はありとあらゆるジャンルと融合して発展・拡張を続けている。ロックはいまや、バンド形態だけのものではない。バンドであることと、ロックであることはもはやイコールではないのだ。
ただ、そのなかでもバンドという絆に結ばれた運命共同体に夢を見ていたいという人は少なくないだろう。筆者もその一人だ。あなたもそんな一人なのだとしたら、絶対に現在のFoalsのことを注目しておくべきだろう。なぜならFoalsは、ロック冬の時代をサバイブてきた例外的な存在であると同時に、若手に希望を与える理想のバンド像を体現する稀有な存在なのだから。
2020年3月、Foalsの単独来日ツアーが決定している(詳細を見る)
- リリース情報
-
- Foals
『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』(CD) -
2019年10月23日(水)発売
価格:2,640円(税込)
SICX1411. Red Desert
2. The Runner
3. Wash Off
4. Black Bull
5. Like Lightning
6. Dreaming Of
7. Ikaria
8. 10,000 Ft.
9. Into the Surf
10. Neptune
- Foals
-
- Foals
『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』(CD) -
2019年3月8日(金)発売
価格:2,640円(税込)
SICX1221. Moonlight
2. Exits
3. White Onions
4. In Degrees
5. Syrups
6. On The Luna
7. Cafe D'Athens
8. Surf, Pt. 1
9. Sunday
10.I'm Done With The World (& It's Done With Me)
- Foals
- イベント情報
-
- 『Foals 来日ツアー』
-
2020年3月3日(火)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO2020年3月4日(水)
会場:大阪府 BIGCAT2020年3月5日(木)
会場:東京都 新木場STUDIO COAST
- プロフィール
-
- Foals (ふぉーるず)
-
英オックスフォード出身、ヤニス・フィリッパケス(Vo,Gt)、ジミー・スミス(Gt)、ジャック・ベヴァン(Dr)、エドウィン・コングリーヴ(Key)からなる4人組のロックバンド。全オリジナルアルバムが、全英チャートにてTOP10入りを果たしている。ゼロ年代から「非オーソドックス」を探求し続け、この10年の間には海外大型フェスティバルのヘッドライナーを飾る唯一無二なバンドへと進化を遂げ、2019年、共通のテーマ、アートワーク、タイトルをもつ、2枚の新作『Everything Not Saved Will Be Lost』を発表。その『Part 1』が3月8日に全世界で発売となり、『SUMMER SONIC 2019』では圧倒的なライブを披露した。『Part 2』は10月にリリースされ、初の全英1位を獲得した。2020年には6年ぶりとなる単独ツアーが決定している。