長谷川白紙の楽曲を解剖 「リズム」「響き」「声」の3点から分析

長谷川白紙の楽曲を解剖 「リズム」「響き」「声」の3点から分析

2019/11/13
テキスト
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編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

『エアにに』の「響き」――ひと言では言明できない、感覚や感情が刺激される音遣い

長谷川白紙の音楽にはよく、ポップミュージックでは耳慣れないようなコードやメロディーの動きが登場する。親しみやすさは薄いかもしれないが、そうしたコードやメロディーが楽曲のなかに鳴らされたときに生まれる響きには、はっとするような魅力がある。たとえば、あれだけキャッチーな“あなただけ”のなか、間奏空けのブリッジにあたるパートでアクセントごとに鳴らされる、ちょっと不協和に感じられるピアノ。瞬間ごとに、多幸感のなかへ陰影が挟み込まれるさまの味わい深さがある。

長谷川白紙“あなただけ”を聴く(Spotifyを開く

“悪魔”や“いつくしい日々”といった長尺の楽曲には、そうした響きの魅力が満ちている。

“悪魔”では、冒頭から鳴らされる、金属質の冷たく硬い、しかしきらびやかな質感を備えた1音1音が、ころころと転がるように上下するメロディーのなかで互いにぶつかりあいながら響く。さらにピアノ、コーラス、ボーカル、アーメンブレイク(ヒップホップなどでサンプリングされる定番のドラムパターン)、ガバキックなどが徐々に重ねられ、楽曲は響きの飽和状態に至る。乱反射する光がホコリさえも輝かせるように、楽曲のなかに収められたあらゆる要素が魅力的な響きとして耳に入ってくるのは、特筆すべきところだろう。

長谷川白紙“悪魔”を聴く(Spotifyを開く

“いつくしい日々”はもともと姫乃たまに提供された楽曲で、歌詞は共作。前述したようにセルフカバーだ。この曲は、AメロからBメロまで浮遊感の強いコード進行とメロディーで構成され、サビに入ると一気に重力がはっきりと感じられるようになる。こうした対比的なパートが代わる代わる、ときには互いに重なりながら重力と無重力を行き来し、気だるさと夢心地がずっと入り混じったような酩酊感のある響きが楽曲を貫く。

長谷川白紙“いつくしい日々”を聴く(Spotifyを開く

歌詞とあわせるとなおよくわかるが、ずるずる酔っ払い続ける心地よさと気持ち悪さをこんなふうに表現されると、見事すぎてちょっと怖い(ちなみにこの曲、2019年発表の『パノラマ街道まっしぐら』に収められた姫乃たまによる歌唱も素晴らしい。アルバム自体素晴らしいので必聴です)。

姫乃たま“いつくしい日々”を聴く(Spotifyを開く

どちらの楽曲が持つ響きも、楽しい、悲しい、美しい、汚い、といった感情や感覚のあわいを刺激する。それゆえ、ふだん味わわないような(あるいは味わっていたとしてもそれ意識されないような)感情に包まれる面白さがある。

『エアにに』の「声」――長谷川白紙が開花させた、ボーカリストとしての素質

ここまではどちらかというと楽曲の構造の話に寄っていたが、一番の聴きどころは、長谷川白紙の声の魅力がいかんなく発揮されている点だ。

めちゃくちゃ素朴なことを言うと、ボーカルのニュアンスや味わい深さがぐんぐん強まっている。たとえば“砂漠で”の『アイフォーン・シックス・プラス』版と『エアにに』版を比較するとわかる。アレンジは基本的に変わっていないものの、前者のボーカルは後者に比べてやや低いトーンの、少し張ったような声になっている。

並べて聴くと明らかに違うので、ミックスし直しただけではなく、ボーカルを再録音したのではないかと思う。『エアにに』版の、力が抜けてちょっとウィスパーにも寄っている発声はよりチャーミングな印象を与える。

長谷川白紙“砂漠で”(『エアにに』版)を聴く(Spotifyを開く)(『アイフォーン・シックス・プラス』版はこちらより

そうした声の魅力がダイレクトに味わえるのが、アルバムの最後を飾る“ニュートラル”だ。シンプルなピアノの弾き語りから始まりつつも、旋律や和声に特徴的な響きをところどころに交えていく構成が耳を惹きつける。

長谷川白紙“ニュートラル”を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙は、さきがけてリリースされたパソコン音楽クラブの2ndアルバム『Night Flow』(2019年)の“hikari”にもボーカリストとして参加していたが、そこで聴くことができるボーカルも素晴らしかった。さらに『エアにに』で改めてその魅力が確認できたのは素直にうれしい。

パソコン音楽クラブ“hikari feat.長谷川白紙”を聴く(Spotifyを開く

アルバムを通じてアイデアにもキャッチーさにも欠かすことのない本作は、長谷川白紙を知るには最良の一枚だろう。あくまで本稿で取り上げたのは魅力のいち側面に過ぎない(たとえば歌詞についてはほとんど書いていない)ので、ぜひ実際に聴いてみてほしい。

長谷川白紙『エアにに』を聴く(Spotifyを開く

長谷川白紙『エアにに』ジャケット
長谷川白紙『エアにに』ジャケット(Amazonで見る

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リリース情報

長谷川白紙『エアにに』
長谷川白紙
『エアにに』

2019年11月13日(水)発売
価格:2,300円(税抜)
MMCD20032

1. あなただけ
2. o(__*)
3. 怖いところ
4. 砂漠で
5. 風邪山羊
6. 蕊のパーティ
7. 悪魔
8. いつくしい日々
9. 山が見える
10. ニュートラル

プロフィール

長谷川白紙
長谷川白紙(はせがわ はくし)

20歳音楽家。2016年頃よりSoundCloudなどで作品を公開し、2017年11月、Maltine RecordsよりフリーEP作品『アイフォーン・シックス・プラス』をインターネット上で発表。2018年12月、10代最後に初CD作品『草木萌動』をリリース。知的好奇心に深く作用するエクスペリメンタルな音楽性ながら、ポップミュージックの肉感にも直結した衝撃的なそのサウンドは、各所で絶賛され、新たな時代の幕開けをも感じさせるものとなった。2019年11月13日、1stフルアルバム『エアにに』をリリースした。

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