サカナクション山口一郎「CDを100万枚売って、音楽史に名前を残す時代は終わった」

(メイン画像:『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』 写真:横山マサト)

サカナクションのコンセプトアルバム『アダプト』が、3月30日にリリースされた。第1章「アダプト」(適応)と第2章「アプライ」(応用)からなる2つのシリーズで構成される新たなプロジェクトを始動したサカナクション。「アダプト」では、コロナ禍にどう適応してきたか、適応していくかを、本作やオンラインライブ、リアルライブを通じて体現する。

コロナ禍により世界が変容するなか、サカナクションは新たな時代への「アダプト」を試みてきた。ライブ活動が制限されていた2020年8月に開催した初のオンラインライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』では、大量の高性能カメラの導入やオンラインライブで日本初となる3Dサウンドシステムの採用など、配信鑑賞に特化した演出を追求。2日間で6万人を動員し、先行き不透明だった音楽業界に、新たな可能性を提示した。

本稿では、Spotifyのプレイリストシリーズ「Liner Voice+」で行われた、音楽評論家・小野島大によるサカナクション山口一郎の全曲解説インタビューを紐解き、コロナ禍においていかにして新たな音楽表現を生み出してきたのか、迫った。

サカナクション
右上から時計回りで:岩寺基晴(G)、岡崎英美(K)、山口一郎(Vo&G)、江島啓一(Dr)、草刈愛美(B)
2005年に活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。日本の文学性を巧みに内包させる歌詞やフォーキーなメロディー、ロックバンドフォーマットからクラブミュージックアプローチまでこなす変容性。さまざまな表現方法を持つ5人組のバンド。全国ツアーはつねにチケットソールドアウト、出演するほとんどの大型野外フェスではヘッドライナーで登場するなど、現在の音楽シーンを代表するロックバンドである。2015年から、クリエイター・アーティストとともに音楽に関わる音楽以外の新しいカタチを提案するプロジェクト「NF」を始動。また映画『バクマン。』音楽で第39回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。音楽的な評価も受けながら「ミュージシャンの在り方」そのものを先進的にとらえて表現し続けるその姿勢は、新世代のイノベーターとして急速に支持を獲得している。
サカナクション「Liner Voice+」を聴く(Spotifyを開く

CDからダウンロード、サブスクへ。コロナ禍で思い立った、しがらみからの脱却

サカナクション、約3年ぶりのニューアルバム『アダプト』。「適応」を意味する「アダプト」は、アルバムタイトルであると同時に、コロナ禍におけるサカナクションの活動全般のプロジェクト名でもあると、山口一郎は語る。

山口:コロナでツアーが中止になって、曲をつくるのもリモートになって、CDではなくサブスクで音楽を聴くリスナーが増えた。そうやって状況が変わっていくなかで、同じシステムで音楽をつくり続けていかなきゃいけないというある種のしがらみたいなものを……ちょっと前から感じてはいたんですが、コロナが発生したことによって、いままでのシステムに縛られる必要はないんじゃないかって、より強く感じたんです。

なので、単純に作品をつくるということだけではなくて、活動全般でいまの状況に適応していくことをコンセプトにしたのが、「アダプト」というプロジェクトです。CDからダウンロード、サブスクへと変化しても、「CDを買ってくれ」とか「アルバムとして聴いてくれ」と言い続けて、これまではどこかごまかしていたところもあった気がして。CDとは何なのか? アルバムとは、シングルとは何なのか? ライブとは何なのか? そういったことを一回全部フラットにして、このコロナ禍で考えてみようと思ったんです。

「アダプト」プロジェクトの幕開けは、昨年11月20日、21日の2日間で行われたオンラインライブ『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』。「舞台×ミュージックビデオ×ライブ」というコンセプトで、4階建てビル相当の巨大な建造物「アダプトタワー」を舞台としたこのオンラインライブは、一般的な「オンラインライブ」とは一線を画す、サカナクションならではの斬新なものに。『アダプト』の収録曲である“プラトー”、“月の椀”、“ショック!”の3曲は、ここで初披露されてもいる。

山口:「オンラインライブ」と言っても、いままでと同じライブ会場、ステージで演奏して、それを配信するのが普通だったじゃないですか。でも、舞台と映画が全然違うものであるように、リアルのライブとオンラインライブも違う表現だと考えて、オンラインライブというものを一から構築してみようと思ったんです。

そうすれば、発信する側も受け取る側も、いままでやったことがない、観たことがないものに対して、緊張感やドキドキが感じられるじゃないですか。過去にもテクノロジーの発展や時代背景の変化によって新しい音楽が生まれてきたように、新しいシステムでミュージシャンが何かを発信するときに、新しいコンテンツを増やすことって、時代のなかで当たり前に出てくる波のような気がするんですよね。

山口:サブスクの時代になって、新曲がすぐに繰り返し聴けるようになったじゃないですか。でもぼくは1980年生まれで、ラジオで流れた新曲をカセットテープに録音して、それを聴いてた世代で。だから、新曲を聴いたときのショックって、いまの時代とちょっと違ったと思うんです。

じゃあ、当時の感動をいまに蘇らせるにはどうしたらいいかを考えたときに、シングルも出さず、サブスクで配信もせず、まずオンラインライブで新曲を初披露すると。そうなると、繰り返しは聴けないから、一回聴いたときの感覚が残る。それってぼくらが当時新曲から得た感動を、現代に呼び起こせたんじゃないかなって。

昨年12月からは2年ぶりとなる全国ツアー『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』を開催。オンラインライブでもシンボルとなっていた「アダプトタワー」をステージ上に完全再現し、バンドの演奏と女優が演技をする舞台が先鋭的なビジュアルとともに同時進行する内容は、声が出せない状況であっても、その場で体験する価値を十二分に感じさせるものだった。

また、このツアーではサカナクションオリジナルのサウンドシステムSPEAKER+も初導入。ぼくは1月に行なわれた日本武道館でのライブを観に行ったのだが、音響的には決してライブ向きとは言えない日本武道館が、高純度のサウンドシステム化していたことに驚かされた。そして、今回の『アダプト』リリースを経て、6月から開催されるツアーが「アダプト」プロジェクトの最終章となる。

山口:『アダプト』はハーフアルバムなんです。ひとつの作品を半分にして、期間を空けてリリースする。その期間のなかで、オンラインライブなのか、リアルライブなのか、それ以外なのかわからないけど、何かのコンテンツでその間を埋めていく。なので、すでに次は「応用」を意味する『アプライ』という作品をリリースすることが決まってるんです。

「時代を歌う」って、その時代に適応しないと歌えないじゃないですか。ちゃんとそのなかに埋没しないと歌えないと思うから、自分はそれに合わせてアプローチしてるだけなんです。でもそうやって、誰もやったことがないことをみんなでやってみて、結果を出していくのって、ワクワクするじゃないですか。それがいいなって思うんですよね。

コロナ禍になって戻った、ミュージシャンになる前の精神状態

オンラインライブのオープニングで使われたサウンドを再構築した“塔”で幕を開ける『アダプト』は、「適応する=すべてをフラットにもう一度考えてみる」というコンセプトが、曲調、サウンドメイク、歌詞からもはっきりと感じられる。

サカナクションらしいオリエンタル感があり、草刈愛美のベースラインと、山口の言葉のリズムで聴かせる“キャラバン”も、フレンチハウス風でありながら単なるハウスには着地していない“月の椀”も、ライブでの機能性を重視したというより、もう少し自由な楽しみ方ができる余白がある。そして、ポストパンクなバンドサウンドを聴かせる“プラトー”の歌詞は、コロナ禍だったからこそ書けたものだと山口は語る。

サカナクション“塔”を聴く(Spotifyを開く

サカナクション“キャラバン”を聴く(Spotifyを開く

山口:“プラトー”はサカナクションっぽい曲というか、例えば、“Aoi”とか“Klee”とか“さよならはエモーション”みたいに、自分たちの活動のなかのある種の切実なシーンで生まれてきた、そういう枠組みに入る曲なんじゃないかなって。

ぼくはミュージシャンで、生活のリズムが他の仕事の人とは全然違うんですよね。同じ業界の人で集まることが多いし、見てるテーブルも小さいわけです。そうやって他の人と違う生活をしているにもかかわらず、みんなの気持ちを音楽のなかで代弁しなきゃいけない瞬間がたくさんあって、それって矛盾してるなと思ってて。

この矛盾した気持ちをどうやって埋めたらいいのかをすごく考えていたんですが、コロナになって家から出られなくなって、自分も含めたみんなが同じ生活を送ってる瞬間があったんですよね。デビューする前の、ミュージシャンになる前の自分と同じ精神状態になれたんです。この感じをちゃんと書き留めておきたい、音楽にしなきゃいけないと思って“プラトー”をつくりました。家に閉じこもって、不安な夜を過ごしていた人たちが感じていた気分を、この曲に表すことができたんじゃないかと思います。

コロナ禍の日常で無意識のうちに求める刺激をアフロビートで表現

『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』でのワイドショーとライブの融合、そして「ショックダンス」も話題を呼んだ“ショック!”では、アフロビートをフィーチャー。サカナクションの楽曲は山口がコンセプトとメロと歌詞を考え、各メンバーがアレンジを担当し、それを最終的にバンドで仕上げるという流れで制作されているが、この曲のアレンジは草刈が担当し、武嶋聡とともにホーンセクションのアレンジも手掛けている。

山口:朝起きるといつもウェブニュースを見るんですが、毎朝何か大きな事件が起きてないかなって、無意識のうちに探してる自分がいたんです。それにすごくショックを受けたんですけど、みんなコロナが日常になるなかで、ショックに飢えてるんじゃないかと思ったんです。刺激の餌があるとみんなそこに群がって、何かが満たされてるような感じになる。

この感じを音楽でどう表現しようかと思ったときに、出てきたのがアフロビートだったんです。アフロビートの生みの親であるフェラ・クティとかガーナの伝説的ギタリストのエボ・テイラー、あとはデヴィッド・バーン率いるTalking Headsのアルバム『リメイン・イン・ライト』とか、ああいう作風がすごくマッチするんじゃないかなって。それと、日本の懐かしいビッグバンドジャズの雰囲気を上手く混ぜ合わせて、歌謡曲性みたいなものを付加していくことで、「ショック」というものを表現できないかと考えました。

日本の民謡のグルーヴとアフリカのビートって、すごく近い気がするんです。『NHK紅白歌合戦』に出て、北島三郎さんの“まつり”を聴いたときに、「これアフロビートじゃん」と思ったくらい、ルーツとして共通性があるのかなって。ただそれをポップスに昇華するにあたっては、どれくらいアフロビートを歌謡曲のなかに持ち込めるか、すごくセンシティブに考えて。それをつなぐ要素がTalking Headsの雰囲気、ロックバンドが表現するアフロビートだったんです。

「アダプト」というコンセプトで作品をつくる上で考えた「間」のこと

ドラムの江島啓一がアレンジを担い、NFのメンバーでありかつてはフランスのKitsuneのメンバーでもあったShōtaro Aoyamaも参加したインストの“エウリュノメー”は、「今後発表されるプロジェクトにつながる」という一曲。サカナクションのルーツにあるフォークの叙情性が表れつつ、生々しくも歪なミックスで聴かせる“シャンディガフ”に続いて、アルバムは“フレンドリー”で締め括られる。

サカナクション“エウリュノメー”を聴く(Spotifyを開く

サカナクション“シャンディガフ”を聴く(Spotifyを開く

サカナクション“フレンドリー”を聴く(Spotifyを開く

山口:これまでぼくは政治的なことはあまり歌にしてこなかったんですが、コロナ禍では、政治的な議論のされ方がちょっと変化したと思っていて。

ミュージシャンが政治を語ることって、日本のなかでは正当化されていないというか、「ミュージシャンごときが何を言ってんだ」という、正論を言われるわけです。実際、ぼくからすると、ミュージシャンなんて仕事をしてる人にろくなやつはいないんですよ(笑)。音楽を仕事にするってやっぱり特異なことで、政治的な信条を最初から持ってる人は少ないと思うから、世の中の意見もわかるんです。

だから、自分が音楽で何を表現すべきかを考えたときに、これまでは日常の心象スケッチのなかにそういった想いも内包させてたんですが、この曲に関しては、コロナ禍で感じた対極にあるもの同士をちゃんと表現したいと思って書きました。

<左側に寄って歩いた 側溝に流れてる夢が 右側に寄って歩いた それには何があるんだ>と歌いながら、「正しさ」について問う“フレンドリー”は、既成の「正しさ」を疑ってみるという意味で、やはり「アダプト=すべてをフラットにもう一度考えてみる」というコンセプトと確実にリンクしている。

山口:ぼくは自分が音楽過激派だと思っていて(笑)、音楽を利用したりする存在に対しては牙をむいてきたし、自分が音楽を表現するなかで、邪魔なものに対してはぶつかってきたんです。でも15年やってきて、コロナという状況のなか、「アダプト」というコンセプトで作品をつくる上で、この曲はもうちょっと「間」のことを考えたんです。

この曲で歌われてるのは「ウヨク」と「サヨク」で、その間は「ナカヨク」じゃないですか。だから、この曲のタイトルは“フレンドリー”なんですけど(笑)、双方の気持ちがわかるのは間にいる人だから、その気持ちを代弁できるんじゃないかと思ったんです。

体験を提供して対価を得る。音楽ビジネスの本来のあり方

前述の通り、6月からは「アダプト」を締め括るホールツアー『SAKANAQUARIUM アダプト NAKED』が開催され、その後は次章「アプライ」へと移っていくことが予告されているが、コロナ禍が当初の予想より長期化していることもあり、「アダプト」と「アプライ」の間にさらなるコンテンツを追加する可能性があることも、Line Voice+のなかで山口は示唆している。

何にしろ、音源の聴かれ方、ライブのあり方、オーディエンスとのつながり方などをもう一度ゼロから考え直した「アダプト」を経ることで、「アプライ」からは大きなタームの変化が起こるはずだ。そして、それはおそらくWeb3的な、アーティストとリスナーとの関係性がよりフラットになった、自己主権型の新たな共生のあり方を、あくまで音楽を軸に提示するものになるのではないだろうか。

山口:ぼくはこれから「血を濃くする」ということをやっていかなきゃいけないと思っていて。CDを100万枚、200万枚売って、音楽史に名前を残す時代は終わったじゃないですか。たくさんの人に評価される恐怖も味わってきて、そうなったときに、自分たちのやってることに興味を持ってくれた人たちと、いいときも悪いときも一緒に深く知り合いながら、伝えていく時代が来ている気がするんです。

音楽で巨大なビジネスをしようと思う時点で、ぼくは不純だと思っていて。そもそも音楽をつくるときって、お金儲けのためにと思ってるわけじゃない。でもそれをどうビジネスに転換するか考えられてできあがったのがいまのシステムなわけで。そうじゃなくて、もっと楽しい体験だったり、いい遊び方だったり、それを発見して提供する代わりに、みんなにはお金を払って楽しんでもらう。そういうあり方であるべきだなって。

サブスクが生まれて、いまは古い曲も新曲として聴いてもらえるし、即時的な、すぐに愛されるものではなく、ずっと愛されるものをつくるというスタンスで音楽をやっていけたら、それって幸せじゃないですか。双方の幸せをちゃんと理解して、シェアできる環境であれば、規模なんてどうでもいい。でもそうやって続けて行ければ、音楽ってものはまたちょっと違う価値を生み出すと思うし、これまでとは違う層を救い始めると思うんです。

サカナクション「Liner Voice+」を聴く(Spotifyを開く

リリース情報
サカナクション
『アダプト』通常盤(CD)

2022年3月30日(水)発売
価格:2,090円(税込)
VICL-65644

プロフィール
サカナクション
サカナクション

右上から時計回りで:岩寺基晴(G)、岡崎英美(K)、山口一郎(Vo&G)、江島啓一(Dr)、草刈愛美(B)

2005年に活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。日本の文学性を巧みに内包させる歌詞やフォーキーなメロディー、ロックバンドフォーマットからクラブミュージックアプローチまでこなす変容性。さまざまな表現方法を持つ5人組のバンド。全国ツアーはつねにチケットソールドアウト、出演するほとんどの大型野外フェスではヘッドライナーで登場するなど、現在の音楽シーンを代表するロックバンドである。2015年から、クリエイター・アーティストとともに音楽に関わる音楽以外の新しいカタチを提案するプロジェクト「NF」を始動。また映画『バクマン。』音楽で第39回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。音楽的な評価も受けながら「ミュージシャンの在り方」そのものを先進的にとらえて表現し続けるその姿勢は、新世代のイノベーターとして急速に支持を獲得している。



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