Foalsの歩みとともにライター4人が語る、2010年代のUKロック

Foalsの歩みとともにライター4人が語る、2010年代のUKロック

2019/11/29
Foals『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1&2』
インタビュー・テキスト
天野龍太郎
編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

USインディーロックが最盛期を迎えた2000年代末。今につながる、ロックを取り巻くメディアの状況

小熊:『Antidotes』は「日本で売れる洋楽」でもありましたよね。日本人好みの音であるポストロック、マスロックともリンクしていたし、彼らの前座を務めたTwo Door Cinema Clubとともに、2010年代前半の邦楽ロックをよくも悪くもリードした「4つ打ちダンスロック」にも影響を与えたはず。


Foals『Antidotes』収録曲(Spotifyで聴く

―翌2009年は重要で、アメリカの話になっちゃいますけど、Animal Collective、Grizzly Bear、Dirty Projectorsという3組が傑作を出し、ブルックリンを中心とするインディーロックってすごいな、プログレッシブだなと盛り上がった年です。

小熊:現状、ロックシーンが全体的にクリエイティブだったと言い切れる最後の時期ですね。客観的に振り返っても、2000年代は明らかに北米インディーの時代で、UKを圧倒するほど中身や影響力が伴っていた。


Animal Collective『Merriweather Post Pavilion』(2009年)収録曲(Spotifyで聴く

―おっしゃる通りですね。ただ最初に言ったように、ムーブメントがUKのロックの歴史を牽引し、更新していった側面があるわけですけど、それが雲散霧消したのはこの頃なのかなと思います。音楽シーン全体でジャンルが細分化し、タコツボ化していった。それを差し引いても、日本ではある時期までUKロックが文化としてそれなりに定着していたわけですけど。

小熊:日本のポップ寄りな洋楽ジャーナリズムは、2000年代までイギリス偏重だったと思うんです。たとえば『MUSIC LIFE』(シンコーミュージック刊行、1998年休刊)がQueen、『rockin'on』がThe Stone Roses、『snoozer』がKlaxonsを本国に先駆けてブレイクさせたように、UKロックと日本のリスナーは相思相愛の関係を築いてきた。でも、2000年代後半くらいになると、インターネットやSNSもだいぶ普及して、簡単に海外の情報を手に入れられるようになったのもあり、ある種の信仰が薄れていったような気がします。

照沼:『rockin'on』や『snoozer』で推されているバンドの新作を『Pitchfork』で見ると、5点とかつけられていたり(笑)。ただ当時は、USインディーはまだマニアックでしたよね。

天井:洋楽誌では予算面の都合で北米インディーについての紙面が組みにくくて、日本のメディアが推すものと海外で評価されているものとの差が露骨に生まれてきちゃったんだよね。

―今、本国で存在感の大きいUKバンドとしてFlorence + the MachineとMumford & Sonsがいますよね。この2組がアルバムデビューしたのも2009年。ただ、はっきり言ってこの2組の日本での認知度は低いと思います。このあたりから日本とUK、USとの評価がだいぶ分断されてしまった。

小熊:日本のUKロック人気って、The Beatlesの時代からイケメン好きの女性ファンが支えてきたんですよね。でも、2010年前後にデビューした才色兼備のロックスターって、The 1975のマシュー・ヒーリーくらい。そこも分断の理由として大きかった気がします。

照沼:US寄りのサウンドになると、みんな髭面になるからね(笑)。The Beatlesがインドに行って、髭を生やして帰ってきた、みたいな。


Florence + the Machine『Lungs』(2009年)収録曲(Spotifyで聴く


Mumford & Sons『Sigh No More』を聴く(Spotifyで聴く

同世代のバンドがことごとく失脚するなか、Foalsが選んだ道

―そういうなかで2010年にリリースされたのが、Foalsの2ndアルバム『Total Life Forever』です。

照沼:The Horrorsの2ndアルバム(2009年リリースの『Primary Colours』)と同じで、ロックじゃない要素も入っていて、ロックというものを俯瞰的に見ている作品だと思う。僕は苦手なんだけど(苦笑)。


Foals『Total Life Forever』収録曲(Spotifyで聴く

―ミニマリズムにアプローチしていますよね。

小熊:じっくり聴かせるためのスペースが生まれていますよね。1stアルバムはリフからビートまで落ち着きがなくて、情報量もトゥーマッチなところがよかったんだけど、バンドの人気が出てライブ会場も大きくなっていくなかで、そういう忙しない曲だけだとしんどくなってきたのかもしれない。

これは数多のロックバンドが通ってきた道で、成功したデビュー作を焼き直すのか、もっとスケールアップしていくのかの二者択一を迫られるわけですよ。そこで「らしさ」を見失うバンドが少なくないなかで、Foalsは演奏力とリスナーとしてのセンスがしっかりしているから、前作と矛盾しない形でビッグになれた。

ただ当時は「日本で売れる洋楽」からは外れてしまったようにも映ったんですよ。でも改めて聴くと、2010年代基準のバンドアンサンブルを先取りしていたような気もして。曲によってはちょっとD.A.N.っぽいな、とか。


Foals『Total Life Forever』収録曲(Spotifyで聴く

天井:僕は1stアルバムのコアな面が好きだったので、エレクトロニックな要素が増えてサウンドスケープ然とした作風に少し落胆したのを覚えています。持ち味だったアフリカ音楽やクラウトロックからの引用も後退した印象で。ちょうどアメリカではチルウェイブが流行りはじめた時期で、そことも重なって見えたんですよね。

2010年代は、「ロックがサブジャンル化していった10年」でもある

―2010~2014年のディケイド半分で『NME』が選んだベストアルバム50というリストでは、ニューレイブ、ニューエキセントリックのバンドが撃沈するなか、Foalsは『Total Life Forever』と『Holy Fire』(2013年)の2作が選ばれています(外部リンクを開く① / 外部リンクを開く②)。

小熊:ここで同世代のバンドはほとんど脱落してしまったと。

―あと、天井さんが言うように2009~2010年はチルウェイブが盛り上がり、ウィッチハウスやヴェイパーウェイブがインターネットで注目を集めたのは2009~2012年。UKとは対照的に、2010年代前半の北米は動きがわかりやすいんですよね。

マック・デマルコやアリエル・ピンクがインディーロックの流れを変え、Grimes『Visions』(2012年)がベッドルームポップを一新したと僕は考えています。しかも、アリエル・ピンクとGrimesは英国のレーベルである「4AD」から作品を出していた。当時は「催眠的でレトロ趣味」といった意味の「ヒプナゴジック」というキーワードも流行りましたが、UKロックがそこから取り残された印象は否めません。

小熊:UKバンドでそことリンクしていた数少ない例がThe xxじゃないですか。


The xx『xx』収録曲(Spotifyで聴く

―1stアルバム『xx』が2009年で、翌年『マーキュリー賞』を受賞。でも、The xxはJamie xxがプロデューサーでビートを作っているので、ロックバンド的ではないですよね。

小熊:まあ、それも今や普通じゃないですよね。ロックがメインストリームで生き残るために、「バンド」という形態そのものが変化していった2010年代を象徴する存在だと思います。ジェイムス・ブレイクが出てきたのもこの頃ですよね。


ジェイムス・ブレイク『James Blake』収録曲(Spotifyで聴く

―最初に注目を集めたEP『CMYK』が2010年で、デビューアルバム『James Blake』が2011年です。

小熊:The xxやジェイムス・ブレイクも、ざっくり言えばクラブミュージックの出身ですよね。このあと台頭するDisclosureも含め、そういう人たちがロックリスナーの支持も集めていくようになると。

―UKの音楽シーンのなかでロックが相対化され、ラップやR&B、ポップ、エレクトロニックミュージックと並列なひとつのジャンルですよ、というふうになったのがこの10年なんでしょうね。

小熊:Oasis解散も2009年ですよね。原因は兄弟ゲンカかもしれないけど、タイミングとしてはこれも象徴的で。「ノエル・ギャラガーお墨付き!」みたいなコテコテのUKロックバンドは、ここから一気に求心力を失っていくわけです。だから、「ロックがサブジャンル化していった10年」っていうのはひとつの正しい見立てだと思うけど、寂しい話でもありますね。

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リリース情報

『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』(CD)
Foals
『Everything Not Saved Will Be Lost Part 2』(CD)

2019年10月23日(水)発売
価格:2,640円(税込)
SICX141

1. Red Desert
2. The Runner
3. Wash Off
4. Black Bull
5. Like Lightning
6. Dreaming Of
7. Ikaria
8. 10,000 Ft.
9. Into the Surf
10. Neptune

『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』(CD)
Foals
『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』(CD)

2019年3月8日(金)発売
価格:2,640円(税込)
SICX122

1. Moonlight
2. Exits
3. White Onions
4. In Degrees
5. Syrups
6. On The Luna
7. Cafe D'Athens
8. Surf, Pt. 1
9. Sunday
10.I'm Done With The World (& It's Done With Me)

イベント情報

『Foals 来日ツアー』

2020年3月3日(火)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2020年3月4日(水)
会場:大阪府 BIGCAT

2020年3月5日(木)
会場:東京都 新木場STUDIO COAST

プロフィール

Foals
Foals(ふぉーるず)

英オックスフォード出身、ヤニス・フィリッパケス(Vo,Gt)、ジミー・スミス(Gt)、ジャック・ベヴァン(Dr)、エドウィン・コングリーヴ(Key)からなる4人組のロックバンド。全オリジナルアルバムが、全英チャートにてTOP10入りを果たしている。ゼロ年代から「非オーソドックス」を探求し続け、この10年の間には海外大型フェスティバルのヘッドライナーを飾る唯一無二なバンドへと進化を遂げ、2019年、共通のテーマ、アートワーク、タイトルをもつ、2枚の新作『Everything Not Saved Will Be Lost』を発表。その『Part 1』が3月8日に全世界で発売となり、『SUMMER SONIC 2019』では圧倒的なライブを披露した。『Part 2』は10月にリリースされ、初の全英1位を獲得した。2020年には6年ぶりとなる単独ツアーが決定している。

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