今、ロックが立ち向かう敵は気候変動? 大谷ノブ彦×柴那典が語る

今、ロックが立ち向かう敵は気候変動? 大谷ノブ彦×柴那典が語る

2019/11/06
テキスト
柴那典
撮影:Uwabo Koudai 編集:中島洋一、中田光貴(CINRA.NET編集部)

現代には、かつてのカウンターカルチャーみたいに反抗する明確な相手がいない。(柴)

:そんな中に新曲を出してきたのがThe 1975なんですけど、それがまさしく気候変動をテーマにした曲なんですよ。グレタ・トゥンベリ(スウェーデンの環境活動家)っていう16歳の女の子のスピーチが入ってる。

大谷:あの国連のスピーチで大騒ぎになった?

:そうそう、次のアルバムの『Notes on a Conditional Form』が2020年2月にリリースされるんですけど、冒頭の“The 1975”が、グレタの言葉を引用した曲になっている。

The 1975“The 1975”を聴く

大谷:すごいなあ! 新曲の“People”も最高ですよね。Nine Inch Nails(アメリカのインダストリアルロックバンド。1988年に活動を開始)みたいなサウンドで、めちゃめちゃ力強い。

:アルバムの1曲目と2曲目がその“The 1975”と“People”なんですよ。“The 1975”の終わりでグレタが「今が反逆の時です」って語って、間を置かず次の“People”でマシュー・ヒーリー(The 1975のヴォーカリスト)がギャーン! ってギターを鳴らして<Wake Up>って叫んで曲が始まるわけだから、これはもう明らかなメッセージ性がある。

大谷:立ち上がれ、と。ロックバンドとして気候変動を叫ぶほうに舵を切ったってことですよね。

:そうそう。気候変動って、若い世代のあいだで本気の怒りをもって立ち向かうべきイシューになってきてるということですよね。だからグレタ・トゥンベリにあれだけ注目が集まってるわけだし、マシュー・ヒーリーもその匂いをかぎとっている。

大谷:そういえば、グレタ・トゥンベリの国連のスピーチをデスメタルに乗せた動画もありますよね。あれめちゃめちゃ笑ったなあ。

:予想以上にフィットしてるっていう(笑)。でもあれって、実はロックにとって本質的な問題なんですよ。

左から:大谷ノブ彦、柴那典

大谷:そうなの?

:やっぱり、ギターをギャーン! って大きな音で鳴らして叫ぶのって、気持ちいいことじゃないですか。だからロックンロールバンドはそれをやる。でも、いざ大きな音を鳴らして叫ぼうとしたときに、今は叫ぶイシューが見当たらない。

現代には、かつてのカウンターカルチャーみたいに反抗する明確な相手がいない。それがここ最近の欧米のロックバンドが乗り越えられてない壁の一つだと思うんです。そこに意味なんていらないって言い続けてるのがクロマニヨンズみたいなバンドで、それはそれで全然かっこいいんですけど。

大谷:なるほどなあ。ロックバンドが言いたいことがなくなってるってのはすごくわかる。

:The 1975はそこを乗り越えようとしてるんですよね。最初はスタイリッシュなサウンド感重視のバンドだったんですけど、前作の『ネット上の人間関係についての簡単な調査(A Brief Inquiry Into Online Relationships)』あたりから明らかに社会的なイシューについての表現が増えてきた。

The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』を聴く

大谷:『サマソニ』のライブでも映像を使って、オーディエンスにメッセージを伝えるってことをすごく意識してましたもんね。数年前とは全然違う。

:その先にグレタ・トゥンベリの引用と“People”があると思うんです。やっぱりロックバンドが叫ぶとき、そこに時代的な必然があるとめちゃめちゃ説得力が出てくると思うんですよね。

大谷:たしかになあ。でも、話を聞いてて日本はちょっと状況が違うかも、って思ったんですよ。ただ単に政治的なメッセージを歌うバンドが出てくればいいかっていうと、そういうわけでもないなって。そういう曲が出てくると、すぐ怒る人が出てくる。

:これはすごくわかります。特に日本だと、左右の陣営にわかれて怒りをぶつけ合ってる人たちがいて、それを遠巻きに見てる人がたくさん沢山いる。そこに手を出すと当事者以外の興味がさーって引いていくような感覚がある。うまく言語化できないんですけど。

大谷:なんかね、周りの目が気になっちゃうんですよね。言いたいことがあっても、無闇に攻撃して目立つのには、みんなちょっと抵抗があると思う。

:さっきも言ったけど、世の中の価値基準ってどんどん多様化してきたわけじゃないですか。だから、人々の価値観もいろんな立場によって分かれてきた。

でも、怒りの感情って、とにかく共有するのが簡単なんですよね。たとえばドライブレコーダーに録画された煽り運転の動画を観たときの「ムカつく」っていう感情は、カルチャーの知識がなくても、文脈を共有しなくても、簡単に共有することができる。そうやって人が繋がろうとする動きが前面化してきたのが2010年代だと思うんです。

そして、我々がずっと「心のベストテン」で話してきたことって、そういう動きになんとか立ち向かっていこうって話なんだと思うんです。怒りで繋がるんじゃなくて、好きなもので繋がろうっていう。

大谷:好きなものを肯定して、共有しようってね。

:そうそう。で、実はテイラー・スウィフトが新作の『Lover』でそういうことを言ってるんですよ。

大谷:へえ! そうなんだ!

大谷ノブ彦

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プロフィール

大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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