「ライブバンド」としてのドリカムを、中村正人&吉田美和の発言から紐解く「ライブで演って腑に落ちる」

メイン画像:吉田美和

DREAMS COME TRUEによる4年に一度の大規模ライブ『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND』(以下、『ワンダーランド』)。2023年は7月1日に行なわれた札幌ドーム公演を皮切りに、9月2日の東京ドーム公演まで5都市9公演とアリーナ公演『ワンダーランドミニ』の2都市4公演が開催される。

ファンからのリクエストをもとに演奏曲が決まるグレイテストヒッツライブである『ワンダーランド』は、これまで数々の伝説を生んできた。単に人気曲を披露するというだけではない。さまざまな趣向を凝らし、凄腕ミュージシャンと大勢のトップパフォーマーが集い、大がかりな演出や特殊効果に目を奪われる、一大エンターテインメントショーを実現させてきた。

なかでも代名詞となっているのが、「3Dフライト」の技術を用いて吉田美和が空中を縦横無尽に飛び回りながら歌うフライングパフォーマンスだろう。日本のエンターテイメントシーンの最高峰といってもよいDREAMS COME TRUEならではのダイナミックな演出だ。

ブレイクを果たした1991年に初めて開催され、今年で9回目となる『ワンダーランド』は、DREAMS COME TRUEのキャリアにおける一つの大事なキーポイントにもなっている。その開催を記念して、先日にはテレビ朝日系『関ジャム 完全燃SHOW』とFM802、Spotifyによるメディアを横断した特集企画も実現した。

この記事では、Spotifyにて『DREAMS COME TRUE: ArtistCHRONICLE』として公開された中村正人、吉田美和の発言をもとに、ライブを通してDREAMS COME TRUEのアーティストとしてのスタンスを紐解いていく。

DREAMS COME TRUE: ArtistCHRONICLEを聴く

DREAMS COME TRUE自身が演出を手掛けた『ワンダーランド』

まず特筆すべきは、DREAMS COME TRUEのライブ演出へのこだわりだ。特に『ワンダーランド』への意識は徹底している。

前述した通りステージ演出にも相当手がかかっているのだが、それはすべて吉田美和、中村正人の監修によるものだ。通常のアーティストのライブとは異なり、演奏して歌うだけでなく、世界観の構築や振り付けなど、制作の隅々まで携わっている。1995年の『ワンダーランド』はマイケル・ジャクソンとの仕事で知られるケニー・オルテガが演出を担当したが、その後1999年からはDREAMS COME TRUE自身が演出にも携わってきた。圧倒的なライブパフォーマンスの源はそこにある。

吉田:ステージの上で起こることは100%関与しています。何から何まで。使う小道具の値段まで(笑)。

中村:何百人というキャストを全部吉田が配置して動かしますから。一つひとつの振りまで、全部吉田が監修しているので、これは大変ですね。

吉田:1995年にケニー・オルテガとやって、その後はもう自分たちでやっていくしかないなと、だんだんなっていったので。

楽曲を制作し、それを歌うという音楽活動のど真ん中の面においても、DREAMS COME TRUEにとってライブはとても大切な場になっているようだ。レコーディングの段階で完璧に仕上げた楽曲が、ライブでのアプローチによってさらに良いものに進化するということも多いという。“眼鏡越しの空”のように歌うのが難しいメロディーを持つ楽曲について、吉田はこんな風に語っていた。

吉田:“眼鏡越しの空”は、まさにもうあのメロディーが聴こえてきちゃったので、もういくしかないなって。音域が下がったり上がったりが多いんですけど、その曲ができた当初よりは、いまのほうが上手く歌える自信がある。

そういう意味で言うと、全曲難しいかもしれない。最初レコーディングするときとかは、何回も歌って「どういうアプローチにしたら一番伝わるかな」とか「ここをもうちょっと長くした方がいいかな」とか「ここでブレス入れない方がいいかな」とか。そして、ライブでやって初めてその曲の自然のかたちがわかる。

レコーディングしてるうちは、曲に関しては100%まで追い込むんですけれど、全体としては多分80%ぐらいなんだと思う。それでライブで演って、全部が腑に落ちる。そんな感じにいままでなっていますね。

DREAMS COME TRUE“眼鏡越しの空”(from DWL 2015 Live Ver.)

その話のなかで吉田がDREAMS COME TRUEのことを「ライブバンド」と表現していたのも印象的だった。

吉田:直に聴いてもらえる単純な喜びがそこに存在しているじゃないですか。だから多分そこで曲が完成していくんだと思う。そうだ、もともとウチらがライブバンドだからだ。だからそこできっと完結するんでしょうね。

ただ、そんな吉田も、ライブ前の緊張はいまでも変わらないという。

吉田:諦めました。もう治らないから、何十年経っても。デビューして30年以上なのに、ライブ前は本当にどうにもならないんです。だから諦めた。もうそれでいいや、しょうがないやと思っています。

コロナ禍を経たドリカムの目標はアバター?

ライブに対して強い思い入れとこだわりを持つDREAMS COME TRUEだからこそ、ライブエンターテイメントが逆風の中にあったコロナ禍の3年間は、まさしく苦境の期間だった。特に集まること自体が忌避された外出自粛期間は、これまで当たり前のように行なうことができた音楽活動自体もままならない状況になった。

それでもバーチャル空間にデジタルアバター「ヴァーチャル・ドリカム」を生み出し初のオンラインイベントを開催するなど意欲的な試みを絶やすことはなかった。その体験について、中村と吉田はこんな風に語っている。

中村:本業ができなかったからね。声を出すということが禁じられていたからね。

吉田:まあでもそれはエンターテイメントのなかの世界の皆さんがそうだからね。

中村:スキルを上げないと、って思ったね。「これがなきゃできない」とか「こうじゃなくちゃできない」とか、そういうのは乗り越えていこうって。バンドが一緒にリハーサルできないことも、ドアを開けっぱなしにして。

吉田:一人は廊下、一人は駐車場とか。全部外に丸聴こえでリハーサルして。

中村:オンラインツアーもやってみたし。

吉田:あれはカテゴリー的には、なんて呼べばいい?

中村:動画生配信ですかね。

吉田:私のなかからはああいう発想が本当になかった。ただただ背中を丸めて家に閉じこもっている毎日だったので、マサ君があの頃はすごくリードしてくれて、無理やり進めていったんですよ。だからいまとなってはすごい感謝しています。

「ヴァーチャル・ドリカム」によるDREAMS COME TRUEのアルバム『DOSCO prime』全12曲ダイジェスト

中村と吉田は、DREAMS COME TRUEのこの先の展望についても語っている。2019年のワンダーランドはデビュー30周年のアニバーサリーイヤーと重なった記念すべき開催となった。それを終えたときに、吉田には一つの目標が生まれたのだという。

吉田:夢というよりかは具体的な目標なんですけれど、もうあと何回か『ワンダーランド』をやると、私たちのデビュー50周年が『ワンダーランド』の年になるんです。ちょっと恐ろしいけれども、なんか辿り着いてみたいなという気になっていて。マサ君が81歳になる年で、私が74歳になる年で、そのときの景色をちょっと見てみたいなって。

中村:僕は、できるだけ早いうちにアバターに変わっておきたいですね(笑)。誰も気がつかないうちに。ユーミンさんも今年で50周年ですけど本当に勇気づけられます。小田(和正)さん見ても、桑田(佳祐)さん見ても、サザン見ても、ユーミンさん見ても、(中島)みゆきさん見ても、まだまだ俺たち頑張らなきゃって本当に思います。

筆者が以前『ワンダーランド』を体験したときにもっとも強く感じたのは、これだけのキャリアを重ねてきたDREAMS COME TRUEというアーティストが、いまもなお、飽くなき挑戦を続けているということだった。リクエストをもとにしたグレイテストヒッツライブであるから、セットリストは当然ファンの聴きたい名曲が中心になる。それに応えるサービス精神もありつつ、最終的に残るのは「見たことのないものを見た」という驚きに満ちた余韻だった。

DREAMS COME TRUEがデビュー50周年を迎えるのは2039年。いまから16年後だ。きっとその時も「見たことのない景色」を見せてくれそうな気がする。

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プロフィール
DREAMS COME TRUE
DREAMS COME TRUE (ドリームス カム トゥルー)

ベーシストでありコンポーザー、アレンジャーの中村正人と、ヴォーカリストでありコンポーザー、パフォーマーである吉田美和の二人からなるDREAMS COME TRUE。二人であることを核に、楽曲のクリエイトにおいては時代に合わせたかたちを柔軟に模索してきた。さらに2022年には「⾳楽を聴くだけでなく、その⾳楽の世界観で楽しみ遊べるパッケージ」を提案。「プレイブック仕様」「ボードゲーム仕様」「ビジュアルDECOブック仕様」をリリース。また近年は、DREAMS COME TRUEのバーチャルキャラクター『MASADO and MIWASCO』が『VTuber Fes Japan 2021』でデビュー、世界初公式パラリンピックゲーム『The Pegasus Dream Tour』でのライブ、さらには『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022』にも出演。リアル世界とバーチャル世界での今後の活躍にも期待がかかる。そして今年2023年には、4年に一度のグレイティストヒッツライブ『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023」を開催。来年2024年にはデビュー35周年を迎える。



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