beabadoobeeとラブリーサマーちゃん、同世代の2人が好きな音楽について語り合う

今年7月にニューアルバム『Beatopia』をリリースしたbeabadoobeeことビー・クリスティ。フィリピン生まれロンドン育ちの彼女は、The 1975やWolf Alice、Pale Wavesなどを擁するDirty Hitからデビューを果たし、ビートルズやオアシスなど1960年代〜1990年代UKロックに影響を受けつつティーンが内包する不安定な心情を歌詞に投影し、Z世代を中心に熱烈な支持を集めている。新作ではThe 1975のマシュー・ヒーリーや、新進気鋭のシンガーソングライター、ピンクパンサレスなど豪華ゲストを迎え、前作『Fake It Flower』(2020年)よりもさらにバラエティに富んだ世界観を展開した。

そんな彼女の音楽性に深く共感するのは、同じくUKロックに強い影響を受けたラブリーサマーちゃん。昨年リリースした3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』では、ライブのサポートメンバーとともにスタジオに入り、これまでになく骨太なバンドアンサンブルを展開してみせた。

もし二人が出会ったら、一体どんな話題が飛び出すのだろう? 以前より念願だった夢の対談がついに実現した。

原宿の古着屋でのお買い物や、博多ラーメン。初来日で日本を満喫中

beabadoobee:音源、聴いたよ。すごくよかった。Super cool!

ラブサマ:本当に!? ありがとう。

beabadoobee:Instagramも見たんだけど、どの写真もあなたの顔が映ってなくて。どうして隠しているの?

ラブサマ:うーん、いろいろあるけど、顔のこと馬鹿にされたりしたら嫌だなと思って。

beabadoobee:えー、可愛いのに。

ラブサマ:Yeah I think so too. I'm pretty!

ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を聴く

beabadoobee:あなたのことは何て呼んだらいいかな?

ラブサマ:よかったらニックネームを考えてくれませんか?

beabadoobee:「ラブリーサマーちゃん」でしょう? じゃあ、「サマー」でどうかな。

ラブサマ:I like it! 私、本当にあなたの大ファンで、聞きたいことたくさんあって矢継ぎ早に聞いていくことになっちゃうかもしれない。その前にこれ……お土産なんだけど。

beabadoobee:え、何これ。わあ!

ラブサマ:原宿駅前のビルに養蜂場があって、名前があなたのアルバムタイトルと同じ『Beetopiaはらじゅく』だったから、思わず買ってきたの。綴りはちょっと違うんだけどね。

beabadoobee:Oh my goodness! (日本語で)ありがとう。

beabadoobee『Beatopia』を聴く

ラブサマ:やったー! 喜んでもらえて嬉しい。じゃあ始めますね。ビーにとって今回が初来日ですけど、以前のインタビューで「日本に来たらスーツケースがパンパンになるくらい買い物がしたい」「カラオケに行きたい」と言ってましたね。どうですか? 日本を楽しめてますか?

beabadoobee:カラオケはまだ行けてないんだけど、『PIN NAP』という原宿の古着屋で服や帽子を買ったり、ラーメンを食べに行ったり。昨日になってようやく少し時間ができたかな。

ラブサマ:ラーメン食べたんだ、どこに行ったの?

beabadoobee:名前忘れちゃったんだけど、写真は撮ってきた。渋谷にあって看板が黄色いところ……。

ラブサマ:ああ、『博多天神』ね! あそこ最高やね!

beabadoobee:そうなんだ!

曲づくりのプロセスや、好きなコード進行。ソングライターとしてのビーの魅力に迫る

ラブサマ:いつも曲づくりやレコーディングはどうやって進めているんですか?

beabadoobee:アレンジやサウンドプロダクションの部分ではエンジニアのイアン・ベリーマンも加わるんだけど、曲づくりに関しては私とジェイコブ・バグデンがほとんど一緒にやってる。ジェイコブはギタリストでもあるので、ソロは全部彼が考えてるよ。

ラブサマ:ジェイコブは天才だね。

beabadoobee:ジェイコブは天才。

ラブサマ:今回のアルバムには、「泣きのコード進行」が増えたように思う。例えば“Ripples”の<Please don't make me hide / I've been putting up a fight>のところ(と言って歌い出す)とか、聴いてて泣きそうになっちゃうんですよ。

beabadoobee“Ripples”を聴く

beabadoobee:そうだね、今作はこれまでに比べてよりスロウで悲しいラブソングが増えたから、コード進行もちょっと切ない感じになったのかもしれない。

ラブサマ:じゃあ、ビーが好きなコード進行を挙げるとしたら?

beabadoobee:うーん、曲でいうとSnow Patrolの“Velocity Girl”かな。すごくクールなコード進行だと思う。サマーは?

Snow Patrol“Velocity Girl”を聴く

ラブサマ:えー! めっちゃ難しい。降参!

beabadoobee:あははは!

サブサマ:でも以前、The 1975のマシューがインスタライブで「すべてのコードにsusをつけると名曲になるから、とにかくsusし続けろ(suspended chordを多用しろ)」って熱弁してたんですよ。それを聞いてから、私もことあるごとにsus4を多用するようになって。それが「好きなコード」かもしれない。

beabadoobee:なるほど、ちょっとスパイスを足す感じだね。面白い。もう一つ、私の曲を特徴づけているのは、ギターのチューニングによるところも大きいと思うんだ。なるべく指を簡単に動かせるよう、変則チューニングにしてるんだよね。今回、『サマソニ』でもチューニングを変えたギターを7本くらい用意してあって、曲ごとにそれを持ち替えて演奏するつもりだよ。

ラブサマ:やってることが往年のオルタナバンドですよね。ローディさん大変そう(笑)。

beabadoobee:そう、それで辞めちゃった人がたくさんいる(笑)。私が変則チューニングしたギターで爆音を出したい理由はMy Bloody Valentineみたいになりたいからなんだ。ケヴィン・シールズとサーストン・ムーア(元Sonic Youth)はクレイジーだよ(笑)。

ラブサマ:私も今度チューニング変えてみようかな。ちなみに、サマソニであの蛍光グリーンのギターは使う? 私のバンドメンバーは、ビーに影響されて同じやつ買ったんだ。

beabadoobee:え、そうなんだ!

デビュー曲“Coffee”からの音楽的成長。日本文学からの意外な影響

ラブサマ:アルバムの話に戻すと、前作『Fake It Flowers』からの、音楽的な成長がすごいですよね。私、ビーの音楽は『Loveworn』(2019年)から知ったんですよ。そのときに「なんていい声なんだろう」「なんていい曲なんだろう」と思っていたのだけど、2019年のEP『Space Cadet』と2020年の『Fake It Flowers』でロック色がゴリッと強くなったじゃないですか。それを聴いたときに、「この人は私なんじゃないか?」くらいに感じたんです。好きな音楽が一緒過ぎて。だって、私も「I Wish I Was Stephan Malkmus」(スティーヴン・マルクマスになりたかった)って思ってるし。

beabadoobee“I Wish I Was Stephan Malkmus”

beabadoobee:ほんと? Pavement好き?

ラブサマ:もちろん、大好き!

beabadoobee:最高だよね。

ラブサマ:わー、Pavementの話もしたい!(笑)

ラブリーサマーちゃん“I Told You A Lie”

ラブサマ:なのでビーは私がやりたいロックの理想形だったし、その時ビーに抱いていた感情は「共感」だった。でも『Beatopia』を聴いたときにはもう「共感」を超えて「憧れ」になったんだよね。曲そのものの完成度も、演奏力もサウンドプロダクションもずば抜けてて。ちょっと呆気に取られてしまうくらいだった。年を経るごとにあなたの自信が満ちていくのがわかるし、その姿がパワフルでかっこいいと思うんです……ごめんね、話が長くて。

beabadoobee:ううん、嬉しい。

ラブサマ:あなたが“Coffee”を出したのは2017年で、5年もあれば人も変わると思うんですけど、ビーの進化は目覚ましく、何かに解放されたような感じさえする。何があなたをそこまで成長させたのですか?

beabadoobee“Coffee”

beabadoobee:まず最初に言いたいのは「ありがとう」ということ。そこまで言ってもらえて本当に嬉しい。でも、私もサマーもギターを弾く同世代の女性だし、お互いにかっこいい音楽をやっているわけだから憧れる必要なんてないよ。

ラブサマ:えー、どうなんだろうねえ(笑)。

beabadoobee:そうだよ、同じ夢を抱いて活動しているんだしさ。確かに自分はこの5年間で、歳を重ねたし成長できたとも思う。スタジオで過ごす時間も増えて、そこでたくさんのことが学べたし、バンドメンバーと一緒にいろいろな場所でライブをやった。プライベートでは失恋も経験したし、失敗だってあった。いいことも悪いこともたくさん起きて、その全てが私に自信を与えてくれたと思ってるけどね。もちろん、完璧な自信を持っているわけじゃなくて、ちょっとずつそこに近づけている気がしているかな。

ラブサマ:そうかあ。頑張って生きている証ってことだよね。ちなみにビーの曲は「彼ら」とか「みんな」みたいな代名詞があまり出ずに、「君」「私」が圧倒的に多いと思っています。主にどんな人のことを考えながら今回のアルバムはつくりました?

ラブリーサマーちゃんが、ファンを想って書いた楽曲“LSC2000”を聴く

beabadoobee:いくつかのラブソングを除いては、特定の誰かを想定していたわけじゃないんだよね。自分の周りにいる人であれば、誰でも「you」の対象になると思って書いたかな。

ラブサマ:あと、以前のインタビューで川村元気の『世界から猫が消えたなら』に影響を受けていると言っててびっくりしたんですよね。どこで日本の文学を知るんですか?

beabadoobee:ほんと、たまたま手に取ってみたの。私は猫が好きだから、猫が表紙に描かれていたので気になって。日本の小説とは知らなかったんだけど、すごく美しいストーリーだなと思った。最近はあまり本を読む時間がないんだけど、実はいまはまた違う猫に関する本を読んでいて、それもたまたま日本の小説だったんだよね。『I'm a Cat』っていうんだけど……。

ラブサマ:え! 夏目漱石の『吾輩は猫である』を読んでるの? 日本の古典文学だよ。

beabadoobee:そうなんだ。猫の目から見た人間世界を描いてて、とっても面白いよ。

「いつかは学校の先生になりたい」。よりよい社会をつくり上げるための覚悟

ラブサマ:アルバムのクレジットの欄に、「Dirty Hit、好きなようにやらせてくれてありがとう!」と頻繁に書いていますよね。Dirty Hitの素敵なところを教えてもらえますか?

beabadoobee:Dirty Hitはクリエイティブな面で、自分にすごく自由を与えてくれるレーベルなんだ。自分がつくりたいと思うどんな作品でも受け入れてくれるところが好き。

ラブサマ:あと、これは個人的に聞きたかったことなんですけど、私、今度ワーキングホリデーでイギリスに行こうと思っていて。どこかおすすめの場所とか教えてもらえたら嬉しいです。

beabadoobee:ロンドンのお気に入りスポットといえば、やっぱりカムデン。どのお店もいいけど、「The Rocket」というパブはぜひ行って欲しい。それとイーストロンドンにブリック・レーンという通りがあって、そこはファッション系のショップがたくさん並んでいるから買い物におすすめ。ウェストロンドンは週末にポートベロー・ロードでマーケットをやってて、それも楽しいよ。

サマーにはライブハウスやクラブにも行ってほしい。ギグはそこら中でやっているから。それこそカムデンにもイーストロンドンにもあるよ。サウスバンクというエリアも大好きでよくボーイフレンドと行ってるんだけど、そこもクラブがたくさんあるし、テムズ川がとってもきれいなので、そこで石投げをよくやっているんだ。

ラブサマ:石投げ! かわいすぎるでしょ(笑)。

beabadoobee:(笑)。ソーホーも飲み屋がたくさんあるしね。

ラブサマ:ソーホーね。こないだ行ってめちゃめちゃ楽しかった。

beabadoobee:これがリスト(と言って、手書きのメモを渡す)。参考にしてみて。

ラブサマ:ありがとー! もっといろいろお話ししたかったんだけど、最後の質問になってしまいました。以前ビーはインタビューで「いつかは先生になりたい」と言っていたのを読んだんだけど、それはどうしてですか?

beabadoobee:人はみんな、お互いに影響を与え合ってそれで世界が成り立っていると思うの。私自身もこれまでたくさんの人たちからたくさん影響を受けてきたし、そこで学んだことはより多くの人たちにシェアしたいという気持ちがすごくあるんだよね。自分よりも若い世代の子たち、中でも幼いキッズたちにいい影響を与えたい。そうすることで、よりよい未来を築けるんじゃないかって。だから自分は学校の先生になりたいんだ。

ラブサマ:そうかあ。ビーのInstagramのストーリーズを見ていると、よくメンタルヘルスについてフォロワーたちにメッセージを書き込んでいるじゃない? 「悲しみを表明するのは普通のことだし、それを受け入れてくれる人たちの存在をいつも思い出してね」って。ビーにそれを言ってもらうことで、どれだけの人が救われるだろう? って思う。本当に愛に溢れている人だと思うから、ビーはきっといい先生になれるよ。

beabadoobee:ありがとう。今日はサマーに会えて本当によかった。

プロフィール
beabadoobe (ビーバドゥービー)

フィリピンのイロイロ市生まれロンドン育ちのビー・クリスティによるソロプロジェクト。2017年から本格的に音楽活動を開始し、デビューシングル“Coffee”が数日で30万回以上ストリーミングされる。2019年には『Loveworm』と『Space Cadet』の2枚のEPをリリースしNMEアワード「Radar Award(新人賞)」を受賞。 Powfuのヒットシングル“death bed”にフィーチャーされ、米国Billboard「Hot Rock & Alternative Songs」チャート1位を獲得、TikTokで41億回、Spotifyで5億回の再生を記録し全世界の配信チャートを席巻した。2020年10月にデビューアルバム『Fake It Flowers』をリリースすると、日本でも高評価を得た。2022年7月にはセカンドアルバム『Beatopia』をリリース。翌月に開催されたサマーソニックにて初来日を果たした。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の27歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望のサードアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。



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