うまい歌より、いい声。大橋トリオの音世界
シンガーソングライターでありテレビドラマやCM、映画音楽の作家としても知られる大橋好規。ソロプロジェクトの大橋トリオ名義では、ジャズを基調にさまざまなジャンルを巧みに折衷した歌ものを自身のボーカルで聴かせるほか、劇伴制作や他ミュージシャンへの楽曲提供・プロデュース、さらには演奏や歌唱などの客演も旺盛に行ってきた。
そんな大橋が、Spotifyが展開する、日本の作詞家、作曲家、編曲家の仕事に注目したプレイリストシリーズ「Works」にフィーチャーされた。この記事では、大橋のソロワーク、客演、編曲仕事をコンパクトにまとめたプレイリストを通じて、このミュージシャンの姿に迫りたい。
「Works」に収録の楽曲は、大橋トリオ名義のものを除けば、編曲かプロデュースを担当したものがほとんどを占める。小泉今日子やSMAP、V6ら、作曲までを担当した楽曲がカタログ中にないという単純な理由もあろうが、結果として大橋のある種の作家性が浮き彫りになっている。
大橋トリオ「Works」プレイリストを聴く(Spotifyを開く)
まず、大橋のユニークなスタンスとして基本的に自分では歌詞を書かない、というものがある(一部、例外はあるが)。大橋トリオ名義で自ら歌う場合でもその姿勢は一貫している。作曲と編曲、演奏、歌唱を手掛け、レコーディングやミックスまでを自ら行うこともある中で、自ら言葉を紡ぐことに執着をみせないのは興味深い。
それでは、大橋にとって歌うとはどういうことなのだろう。あるインタビューでこのように語っている。「その歌詞の世界に全身でひたって、意味を深く噛み締めて、情感たっぷりこめて‥‥じゃなく、できるだけ「いい声で歌う」。歌い手として歌を歌うときは、そのことを、心がけていますかね」(『ほぼ日刊イトイ新聞』「ぼくは作曲家になります。」より)
つまりボーカリストとしての大橋が重視するのは、「いい声」、サウンドとしてのよさだといえよう。「Works」でいえば、矢野顕子をフィーチャーした“窓”や、平井堅をフィーチャーした“東京ピエロ”(どちらも2012年のアルバム『White』収録。14曲中11曲に客演を招いた作品だ)で聴けるデュエットはその例証のようだ。表現力豊かな「うまい歌」と対比されるように、表現的な要素を抑制した大橋の「いい声」が浮かび上がってくる。あるいは、ボーカルとして客演したMONDO GROSSO“TURN IT UP”では、ロック、レアグルーヴ、エレクトロニックが混じり合うエクレクティック(折衷主義の意味)なサウンドに、大橋の歌声が見事に溶け込んでいる。
念の為付記しておくと、もちろん大橋自身歌唱の技巧にこだわりがないなどということはない。しかし、自身のボーカルについて、まず「いい声」を重視するというスタンスは、次節でみていく大橋の作家性にも通じている。
楽曲のみならず、サウンドを創造する。大橋トリオの作家性
「うまい歌」というよりも「いい声」。この対比はたんにボーカリストとしての大橋の特徴をあらわすのみならず、もっと広い意味での作家性に通じる。大橋が受けた過去のインタビューを紐解いてみると、こんな発言がある。「その中でも音質をすごく大事にしていますね。音質がいいとグルーヴがよくなるので。メロディはその次。だから音質はかなり上です」(『音楽ナタリー』「大橋トリオ「STEREO」インタビュー「音楽ってこういうことでいいのかな」意識変化の中で踏み出した11年目の第一歩」より)
音楽、ことポップミュージックがほとんど「録音芸術」と等しい現在において、この感覚はとてもまっとうなものだ。ほかのインタビューでは、レコーディングというプロセスを重視するだけではなく、サウンドそれ自体が創作の基礎にあることが伺える。
たとえばある音楽が「ジャズっぽい」という場合、どの楽器でどんなメロディーを奏で、どんなリズムに乗せて……という編曲と同じくらい、レコーディングの質がものをいう。大橋はジャンルに特有の録音に対する美意識(ジャズであれば、空間の持つ質感までを捉えた、アンビエンス多めの録り方、とか)を的確に取り入れていると思う。野宮真貴による“悲しい歌”のセルフカバーや、平井堅による“切手のないおくりもの”のカバーは耳を惹きつける。特に後者はノンシャランとしたイントロの雰囲気がたまらない。
身構えずとも聴き手にしっかりと浸透してゆく良質なポップスが並ぶ大橋の「Works」を聴くと、このミュージシャンが持つサウンドへのこだわり――「いい声」に「音質」――が改めて感じられるだろう。2月19日にはニューアルバム『This is music too』をリリースする大橋トリオ。願わくばより高音質でも楽しんでみたいところだ。
大橋トリオ『This is music too』を聴く(Spotifyを開く)
- リリース情報
-
- 大橋トリオ
『This is music too』(配信) -
2020年2月19日(水)配信
1. LOTUS
2. ポラリス
3. Let us go
4. 夕暮のセレナーデ
5. Ways and scenes
6. LIFE
7. 青月浮く海
8. Lady (2020)
9. quiet storm
- 大橋トリオ
『This is music too』初回生産限定盤(CD+DVD) -
2020年2月19日(水)発売
価格:5,830円(税込)
RZCB-87019/B<CD>
1. LOTUS
2. ポラリス
3. Let us go
4. 夕暮のセレナーデ
5. Ways and scenes
6. LIFE
7. 青月浮く海
8. Lady (2020)
9. quiet storm<DVD>
ohashiTrio & THE PRETAPORTERS YEAR END PARTY LIVE 2019 at NHK Osaka Hall 2019.12.11
1. The Music Around Me
2. 真夜中のメリーゴーランド
3. sing sing
4. MAGIC
5. kite
6. EMERALD
7. スノーマン
8. アネモネが鳴いた
9. THUNDERBIRD
10. Be there
11. 東京ピエロ
12. りんごの木
13. タイムマシーン
14. Bing Bang
15. Lady
- 大橋トリオ
『This is music too』初回生産限定盤(CD+Blu-ray) -
2020年2月19日(水)発売
価格:6,050円(税込)
RZCB-87020/B<CD>
1. LOTUS
2. ポラリス
3. Let us go
4. 夕暮のセレナーデ
5. Ways and scenes
6. LIFE
7. 青月浮く海
8. Lady (2020)
9. quiet storm<Blu-ray>
ohashiTrio & THE PRETAPORTERS YEAR END PARTY LIVE 2019 at NHK Osaka Hall 2019.12.11
1. The Music Around Me
2. 真夜中のメリーゴーランド
3. sing sing
4. MAGIC
5. kite
6. EMERALD
7. スノーマン
8. アネモネが鳴いた
9. THUNDERBIRD
10. Be there
11. 東京ピエロ
12. りんごの木
13. タイムマシーン
14. Bing Bang
15. Lady
- 大橋トリオ
『This is music too』通常盤(CD) -
2020年2月19日(水)発売
価格:3,300円(税込)
RZCB-870211. LOTUS
2. ポラリス
3. Let us go
4. 夕暮のセレナーデ
5. Ways and scenes
6. LIFE
7. 青月浮く海
8. Lady (2020)
9. quiet storm
- 大橋トリオ
- イベント情報
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- 『ohashiTrio HALL TOUR 2020』
-
2020年3月12日(木)
会場:神奈川県 関内ホール2020年3月14日(土)
会場:石川県 金沢市文化ホール2020年3月20日(金・祝)
会場:北海道 札幌市教育文化会館2020年3月27日(金)
会場:兵庫県 神戸文化ホール中ホール2020年4月2日(木)
会場:鹿児島県 かごしま県民交流センター 県民ホール2020年4月4日(土)
会場:福岡県 福岡市民会館2020年4月10日(金)
会場:岡山県 倉敷市芸文館2020年4月12日(日)
会場:愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール2020年4月18日(土)
会場:宮城県 若林区文化センター2020年4月24日(金)
会場:大阪府 NHK大阪ホール2020年4月29日(水・祝)
会場:東京都 NHKホールチケット:全席指定7,000円(税込)