どうしたら自分を愛せるか? マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』が描き出した答え

どうしたら自分を愛せるか? マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』が描き出した答え

2022/01/12
インタビュー・テキスト
金子厚武
編集:原里実(CINRA編集部)

DISH//への提供曲“僕らが強く。”は「メンバーの想いを汲んで書き上げた」

アルバムがさらなるクライマックスを迎えるのが、DISH//への提供曲のセルフカバー“僕らが強く。”。<笑ってたいんじゃなくてね、笑い合ってたいのだ>と「共生」を描く、いまを生きるすべての人々に贈られる人生賛歌だ。

マカロニえんぴつ“僕らが強く。”を聴く(Spotifyを開く

はっとり:ちょうどコロナ禍で自分たちの活動が止まり気味だった時期に楽曲提供の話をいただいて、この曲を書いたことで僕自身が救われました。書き下ろしではあるんですけど、メンバーから直接いろんな言葉をもらって、その気持ちを汲みながら書いた曲で、タイトルも(DISH//のボーカル&ギター・北村)匠海からもらって。

彼らの言葉からは「ロックバンドでいたい」という想いが強く感じられて、そのことに対する自信や確信も強く感じられたことが、自分も同じバンドマンとしてすごく嬉しかったです。


DISH// “僕らが強く。”ミュージックビデオ

この言葉どおり、“僕らが強く。”はDISH//のメンバーの想いを強く反映した楽曲であることは間違いない。それでも「提供曲」であることによって、客観的に自分を見つめたことで、表現者としてのはっとりの本質が自分のバンドの曲以上に強く表れているようにも思う。

この曲の主人公はいまも愛を探しているし、「生きるをする」ことから逃げずに立ち向かおうとしている。<逃げ場所を守るためだったら僕も行く、僕らも戦うよ>というラインは、インディーズ時代に発表した“ハートロッカー”で<形にならないこの気持ちの 逃げ場所になってくれ>と歌っていたように、自分たちが誰かにとっての逃げ場であり続けることをもう一度宣言している。

そして、<足りないものばかりの僕らなら 何度も出会えるからね>と、何もない僕らだからこそ、ともに生きることの重要性を歌う。「自分である」ことと「他者とつながる」ことは決して矛盾することではなく、この二つが両立してこその「共生」であることを、このラインは端的に示している。僕らはともにいることで、強く生きていける。

はっとり:独り占めしたいわけじゃなくて、分け合いたいし、笑い合っていたいんです。チームとして、ファミリーとして、くじけそうでもみんなで笑ってる。そういう小さな塊がいろいろ集まって、場所を分け合って、気持ちを分け合って、生活をしてるんだと思います。だから、この歌が抱えるキャパシティーはすごく壮大です。包容力のある曲だと思いますね。

アルバムのラストを締め括るのは、「帰る場所」について歌う“mother”。マカロニえんぴつの旅は、またここから続いていく。

はっとり:いまだに僕らのつくる歌のなかの人たちはどこにも落ち着いてないんですよ。これからも青春を問い続けるだろうし、帰る場所を探し直し続けるだろうし、つながったはずの関係性をわざと断ち切ってまで他とつながろうとするだろうし。

このアルバムはかなりつくり込まれていて、やり切った実感はあるんだけど、かなりとっ散らかってもいるんですよね。ただ、ファーストアルバムの『CHOSYOKU』が乱暴に散らかってたのに対して、このアルバムはあえて散らかしてる感じがする。収まっていたくない、ずっと満足していたくない、そういったメジャー一年目ならではの気持ちも乗っかってたりして。でもこのアルバムをつくったことによって、いつでも帰って来れる場所ができた気がします。

マカロニえんぴつ「Liner Voice+」を聴く(Spotifyを開く

『ハッピーエンドへの期待は』が「邦ロック最新の名盤」である理由

最後に、マカロニえんぴつの音楽性について少し触れさせてもらうと、彼らの音楽は古今東西のアーティストや楽曲をかき集め、そのオマージュやパロディーを楽しみつつ、自分たちなりのロック / ポップスに落とし込んでいることが大きな魅力となっている。

“ハッピーエンドへの期待は”からはQueen、“メレンゲ”からはOasis、“mother”からはWeezerといったアーティストの面影が浮かび、“なんでもないよ、”に関しても、LA出身のシンガーソングライター / プロデューサーのgnashが2018年に発表し、日本でもTikTok経由でバズを起こした“imagine if”のサウンドメイクをリファレンスとしたことをはっとり自身が語ってもいる。

そして、それらの曲にはメンバー4人の個性が反映され、ジャンルはごく自然とミックスされ、ときにユーモアも交えながら鳴らされる。はっとりが敬愛するユニコーンがまさにそういったバンドの代表だったわけだが、もともと日本のロックはそうやって海外の音楽を引用・参照しながら、独自の発展をしてきた。

はっとりの声が「似ている」とよく言われるMr.Childrenの桜井和寿の先達にはエルヴィス・コステロがいるし、2000年代以降の日本の「ギターロック」の雛形をつくり上げたといえるASIAN KUNG-FU GENERATIONも、初期にはWeezerそっくりの曲があった。「ジャパメタ」の系譜にも連なる“TONTTU”は、かつての日本の音楽シーンにとって一番距離の近い洋楽のジャンルがHR/HMであり、その人気がいまも根強いことを伝えてもいる。

一部の日本のロックが日本の音楽だけを参照につくられるようになったのは、2000年代後半くらいからだろうか。それはそれだけ日本のロック文化が豊かになったことの証拠ともいえるが、そこにはつねにちょっとした閉塞感がついて回っていた感も否めない。

それに対して、マカロニえんぴつの音楽はある意味オーセンティックだが、非常に開かれていて、自由を感じさせる。加えて、現代的なDTM感覚もあり、素晴らしくポップなメロディーのセンス(歌だけではなく、楽器も含めて)と、世代意識を撃ち抜く言葉のセンスを併せ持つことで、確かなオリジナリティーを獲得している。そんな文脈から、僕は『ハッピーエンドへの期待は』を、賞賛の意味を込めて「邦ロック最新の名盤」と呼びたい。

なお、『ハッピーエンドへの期待は』はインディーズ時代も含めれば通算3作目のフルアルバムだが、ユニコーンの3枚目のフルアルバムが「はっとり」の名前の由来である『服部』であった。そして、ユニコーンはその後にバンド史上随一の傑作と名高い『ケダモノの嵐』を発表している。だいぶ気の早い話だが、マカロニえんぴつの次の作品がいまからとても楽しみだ。

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リリース情報

マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』
マカロニえんぴつ
『ハッピーエンドへの期待は』通常版(CD)

2022年1月12日(水)発売
価格:3,300円(税込)
TFCC-86799

1. ハッピーエンドへの期待は(映画『明け方の若者たち』主題歌)
2. 生きるをする(テレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』オープニング主題歌)
3. 八月の陽炎(大正製薬「コパトーン」CMソング)
4. 好きだった(はずだった)(TBS系『王様のブランチ』2021年4月~9月テーマソング)
5. メレンゲ(JR SKISKI 2020-2021 キャンペーンテーマソング)
6. はしりがき (『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』主題歌)
7. キスをしよう
8. トマソン(ブルボン「濃厚チョコブラウニー」CMソング)
9. 裸の旅人(ColemanウェブCM「灯そう」テーマソング)
10. TONTTU
11. ワルツのレター(TBS系『news23』新エンディングテーマ)
12. なんでもないよ、
13. 僕らが強く。
14. mother(テレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』エンディング主題歌)

プロフィール

マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ

2012年はっとり(Vo / Gt)を中心に神奈川県で結成。メンバー全員音大出身の次世代ロックバンド。はっとりのエモーショナルな歌声と、キーボードの多彩な音色を組み合わせた壮大なバンドサウンドを武器に圧倒的なステージングを繰り広げる。

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