haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

2021/12/16
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:TKC(「Pray for Nujabes」と雲見を除く) 編集:金子厚武、CINRA編集部

「自分のなかでまた違う時計が動き始めた」。haruka nakamuraが覚悟を決めた、ターニングポイントとなる経験

―世界中にファンのいるNujabesさんのトリビュートを制作するというのは、ある種のプレッシャーもあったのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?

haruka:もちろん、いろんな想いを持った方が聴くアルバムになるとは思ったんですけど、それを気にし過ぎて縮こまるべきではないと思ったし、ご家族からの依頼を受けたぼくだからこその答えをひとつ出したいと思ったんです。

今回トリビュートを引き受けたのはひとつ大きなきっかけがあって、maoくんとひさしぶりに会ったときに、瀬葉さんによく連れて行ってもらってた焼き鳥屋さんに、初めて2人で行ったんですよ。そこでいろいろ話すなかで、瀬葉さんが亡くなったのがこの近くだっていわれて、そこは本当にご家族しか行ったことがない場所だったんですけど、その日に2人で行くことになり。あの時間はターニングポイントになったと思います。

―その場所で何かを話したというよりも、その場所に2人で行って、時間を共有したことが大きかった?

haruka:そうですね。その場所は10年間時が止まっていて、それは実際行ったらわかるんですよ。その場所にずっと一人で通っていたmaoくんに「時を進めてほしい」といってもらえたら、それは「ぼくでよければ」という決心がつくというか。

人はいつか必ず旅立っていくわけですけど、残された人が忘れなければ在り続けられるじゃないですか? 瀬葉さんもいろんな人のなかにいまも存在している。そういう人が旅立った場所に実際に足を運ぶと、自分のなかでまた違う時計が動き始めたというか。それまではイメージでしかなかったけど、リアルな質感としてその場所、空間がぼくの深いところに入ってきてしまった。その体験をしたからこそ、作品をつくる覚悟が決まった気がしています。

「このアルバムはみんなのNujabesへの想いが集結したアルバム」

―アルバムのラストに収められている“Let me go”は、『MELODICA』のラストに収録されていた“let go”のタイトルを変えたものですね。

haruka:“let go”は「手放す」ですけど、“Let me go”だと「私を次に行かせてください」という意味に変わる。それは何も瀬葉さんにいってるわけじゃなくて、そこまでの曲たちが「ぼくを次に行かせてくれるための10曲」みたいなイメージで。だから、最後のこの曲だけはピアノソロなんですよね。

ぼくはこれからピアノソロに向き合っていきたいと思っていて、この作品をやり切ったことによって、本格的なピアノソロへの道が始まるかもしれない。そういう物語になれば、自分のなかでも腑に落ちると思ったんです(haruka nakamuraがピアノソロに対する想いを語ったインタビューはこちら「haruka nakamuraが語る、音楽とは灯台の光 日々の生活に慈しみを」)。

―この「me」は聴き手それぞれに置き換えられるようにも感じました。それこそ、maoさんやご家族の方も自身を重ねられるんじゃないかなって。

haruka:そう感じてもらえると嬉しいです。ぼく一人の物語じゃなくて、もっと大きな流れのなかにある物語だということをいかに丁寧に伝えるかも、ひとつのテーマだったので。

―今回のアートワークはHydeout Productionsのレーベルコンピ『2nd Collection』と同じCheryl D. McClureさんによるもので、そこにも物語を感じます。

『Nujabes PRAY Reflections』のアートワーク
『Nujabes PRAY Reflections』のアートワーク

『2nd Collection』のアートワーク
『2nd Collection』のアートワーク

haruka:Nujabes作品のジャケットはどれもかっこいいですけど、個人的に一番好きだったのが『2nd Collection』で、いつかお願いしたいと思ってたんです。Instagramから直接コンタクトをとって、彼女の新作の絵のなかから選ばせてもらいました。

この絵はいろんな見え方がするなと思います。遠くに江ノ島がある、鎌倉の風景のようにも見えるし、あちらとこちらの「あわい」の境目というか、Horizonのようにも見えるし。

―てっきり鎌倉をイメージして描いてもらったのかと思ってました。

haruka:違うんですよ。でも絵をいくつか見せてもらったときに、maoくんと「これしかない!」ってなりましたね。『2nd Collection』みたいな鮮烈な色彩ではないけど、今回のアルバムにふさわしい、どこか懐かしさや優しさが感じられる色合いだなって。

ブックレットは、Nujabesがきっかけで奥さんと出会ったというデザイナーのsuzuki takahisaくんが、これまでのNujabesのアルバムを踏襲したデザインにしてくれて。写真を撮ってくれたTKCも、もともと渋谷のタワレコでNujabesやぼくの音楽を広めてくれたバイヤーさんで、彼と出会ったのも、ぼくが『MELODICA』をタワレコに持って行ったときで。なので、みんなのNujabesへの想いが集結したアルバムなんです。

―メモリアルなアルバムをつくり終えて、現在はどんな心境ですか?

haruka:世に出した自分の作品って、基本的にもう聴き返さないんですけど、このアルバムはぼくだけのものじゃなくて、瀬葉さんのものでもあるし、みんなのものでもあって。だからなのか、折に触れて聴きたくなりますね。そして、聴くたびに「つくってよかった」と思えるんです。

他の作品だと、「ここをもっとこうすればよかった」とか気になっちゃったり、タイミングによっては感情が不意に揺さぶられたりするから、あんまり聴きたくないんですけど。このアルバムは個人のものじゃなくて、祈りのようなアルバムだから、自然に聴けて、いいと思えるんです。それはNujabesの音楽の懐の深さでもあると思いますね。

Page 4
前へ

リリース情報

haruka nakamura『Nujabes PRAY Reflections』
haruka nakamura
『Nujabes PRAY Reflections』(CD)

2021年12月4日(土)発売
価格:3,300円(税込)
HPD19

1. Another Reflection
2. Horizon
3. Waltz of Reflection Eternal
4. flowers
5. kumomi
6. Feather
7. latitude
8. Light on the land
9. Final View
10. World's end Rhapsody
11. Reflection Eternal
12. Let me go

プロフィール

haruka nakamura(はるか なかむら)

音楽家 / 青森出身。カテドラル聖マリア大聖堂、世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は杉本博司『江之浦測候所』の特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』、安藤忠雄『次世代へ告ぐ』、京都・清水寺よりライブ配信、東京スカイツリーなどプラネタリウム劇伴音楽、早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲共演。Nujabesをはじめとする音楽家や、柴田元幸、ミロコマチコ、BEAU PAYSAGEなど多方面とコラボレーション。MVは川内倫子、奥山由之などの写真家が手掛ける。Huluドラマ『息をひそめて』、NHK『ひきこもり先生』などの劇伴、任天堂CM『あつまれどうぶつの森』楽曲提供、カロリーメイト、ポカリスエット、スマートニュース、ロト・ナンバーズ、AC公共広告機構、CITIZENなど多くのCM、ドラマ、ドキュメンタリー番組などの音楽を手掛ける。2021年12月Salyuとのコラボレーションで本格ライブ復帰。

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。