haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

2021/12/16
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:TKC(「Pray for Nujabes」と雲見を除く) 編集:金子厚武、CINRA編集部

「極上の8小節」を追求する、Nujabesの狂気的なまでのこだわり

―あらためて、harukaさんから見たNujabesの音楽の魅力について話していただけますか?

haruka:まずは一聴しただけで彼の音だとわかる、極上の8小節をつくれるということですよね。しかも、一生に一曲つくれたらいいレベルの8小節を、あんなにもたくさん世に送り出している。そのループ、メロディーだけでも最高なのに、魅力をさらに倍増させるビートを乗せられる。

あのビートのつくり方は、横で見ていてぼくには到底無理だと思いました。人間のグルーヴが出るように、小数点単位で全部細かくずらして、キックの音も何種類も混ぜて、よく聴くと同じ曲のなかでもスネアとキックの音が絶妙にブレンドされてるんですよ。そういうものすごく細かな作業の積み重ねと圧倒的なセンスで、あの極上の8小節ができてる。

そもそもサンプリングするレコードを見つけるまでも相当な道のりだし、8小節にかける意気込みは狂気的といってもいいと思います。だからこそ、何年経っても聴かれ続けてるんだろうなって。残っていくものって、そこに込められた魂があるからで、それが彼の場合は狂気に近い美意識でできてるんだと思います。

Nujabes『Spiritual State』を聴く(Spotifyを開く)。この作品はNujabesが亡くなった後、2011年に発表された

―逆に、同じ音楽家としてシェアしていたのはどんな部分だと思いますか?

haruka:メロディーに対する感覚は通じるものがあったと思います。言葉にはできないけど、なぜこれにグッと来るのか、「懐かしい」と思うのか、「美しい」と思うのか、その感覚が一緒なんですよね。だから、ぼくは続きのメロディーを弾きたいし、彼はそのメロディーを弾いてほしい。ぼくらはその利害で一致していたというか(笑)。パズルのピースがハマった感じがあったんですよね。

Nujabesが幼少から通い、“kumomi”のインスピレーション源になった西伊豆・雲見。nakamuraは“kumomi”をカバーするにあたって、自らも雲見を訪れ、そのときに録音した音を今回のカバーのなかに織り交ぜている
Nujabesが幼少から通い、“kumomi”のインスピレーション源になった西伊豆・雲見。nakamuraは“kumomi”をカバーするにあたって、自らも雲見を訪れ、そのときに録音した音を今回のカバーのなかに織り交ぜている

―2人が知り合ったのは、harukaさんのMySpaceにNujabesさんから「最高のギターを弾いてください」という連絡があったのが最初だったそうですが、それはつまり「最高のサンプリングネタをください」ということだったわけですよね(haruka nakamuraとNujabesの出会いが語られたインタビューはこちら「言葉を忘れるほどの孤独が生んだ、haruka nakamuraの音楽」)。

haruka:そういうことですね。この2人が組んだらいい循環でどんどん曲がつくれるんじゃないかって、それはお互い思ってたんじゃないかな。

アルバム制作にあたって、haruka nakamuraが自らに課した3つの縛り

―一緒に制作をしていたからこそわかる、Nujabesさんの人物像についてもおうかがいしたいです。

haruka:音楽家に対するリスペクトがすごくある人なんですよね。ぼくがNujabesさんに初めてお会いしたのはまだ1stアルバム(『grace』/ 2008)を出したくらいの頃で、Nujabesさんは当時もう『Modal Soul』を出していて、すでに伝説みたいなアーティストになっていました。それでもぼくをアーティストとして対等に、制作のときなどは基本的に敬語で接してくれました。

もちろん、制作以外では「飲みに行こうよ」みたいな感じで、面倒見のいい優しいお兄さんだったんですけど、音楽をつくるときは本当に対等で、リスペクトしてくれてるんだなっていうことがすごく伝わりました。

―それはきっとサンプリングするアーティストに対してもそうなんでしょうね。

haruka:彼がサンプリングするのは、それまで一般的にはその曲の本質的な良さが発見されていなかった音楽が多かったわけですけど、その曲のことをよく理解して、光を当てる角度を変えることによって、たくさんの人が聴くようになったわけですよね。そこは今回のアルバムでもコンセプトのひとつになっていて、ぼくもまずは元ネタの曲を一曲ずつ全部聴いていったんです。

―Nujabesさんが通ってきた道を、追体験するというか。

haruka:「なんでこの曲のここをサンプリングしたんだろう?」って考えると、この曲にどういう文脈でたどり着いたのか、この曲はアルバムの何曲目で、どういう流れで聴かれたのか、このアーティストの他のアルバムはどうなのかとか、きっといろんな理由がある。

そのプロセスを踏まえると、「ここで膝を叩いた瞬間があったんだろうな」とか、そのときのエモーションが感じられるんですよね。「この発見の喜びをサンプリングして、あのビートに乗せたんだな」って、その再発見する感じを自分も一回体験したかったんです。

―なるほど。

haruka:そのうえで、今回ビートは絶対乗せないっていうのは最初から決めてました。彼のようなビートをつくれる人は他にいないし、もちろんぼくもそうだから、「ビートは使わずに、ビートを感じるようなグルーヴをどうつくり出すか」を考えて、今回は生演奏の即興的な熱を生かすようにしました。

あとはやっぱり「8小節のメロディーの続き」というのがテーマで、そこを含めてアレンジを考える。だから1つには、まずパッと聴いて、リスナーが「あの曲だ」ってわかるようにしなきゃいけない。2つには、その一方で全然違う新しいアレンジであるべきだし、さらに3つ目には、そのメロディーの続きがぼくなりに奏でられていなければならない。この3つが全曲における縛りだったんです。

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リリース情報

haruka nakamura『Nujabes PRAY Reflections』
haruka nakamura
『Nujabes PRAY Reflections』(CD)

2021年12月4日(土)発売
価格:3,300円(税込)
HPD19

1. Another Reflection
2. Horizon
3. Waltz of Reflection Eternal
4. flowers
5. kumomi
6. Feather
7. latitude
8. Light on the land
9. Final View
10. World's end Rhapsody
11. Reflection Eternal
12. Let me go

プロフィール

haruka nakamura(はるか なかむら)

音楽家 / 青森出身。カテドラル聖マリア大聖堂、世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は杉本博司『江之浦測候所』の特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』、安藤忠雄『次世代へ告ぐ』、京都・清水寺よりライブ配信、東京スカイツリーなどプラネタリウム劇伴音楽、早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲共演。Nujabesをはじめとする音楽家や、柴田元幸、ミロコマチコ、BEAU PAYSAGEなど多方面とコラボレーション。MVは川内倫子、奥山由之などの写真家が手掛ける。Huluドラマ『息をひそめて』、NHK『ひきこもり先生』などの劇伴、任天堂CM『あつまれどうぶつの森』楽曲提供、カロリーメイト、ポカリスエット、スマートニュース、ロト・ナンバーズ、AC公共広告機構、CITIZENなど多くのCM、ドラマ、ドキュメンタリー番組などの音楽を手掛ける。2021年12月Salyuとのコラボレーションで本格ライブ復帰。

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