haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

haruka nakamuraが奏でた、Nujabes「極上の8小節」のゆくさき

2021/12/16
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:TKC(「Pray for Nujabes」と雲見を除く) 編集:金子厚武、CINRA編集部

2020年2月26日、Nujabesの10周忌にあたるその日に、渋谷のスクランブル交差点にあるモニター全面を使って、Nujabesの音楽と映像が流された。2000年代に数多くの名曲を残し、現在ではLo-Fi Hip Hopの始祖とされ、世界中で楽曲が聴かれ続け、下の世代にも影響を与え続けているNujabes。彼の音楽の発祥の地で、その功績をたたえ、祈りをささげるような、特別な時間だった。

そして、このたびharuka nakamuraがNujabesのトリビュートアルバム『Nujabes PRAY Reflections』を完成させた。nakamuraは生前のNujabesと交流を持ち、2013年には途中まで一緒に制作していたアルバム『MELODICA』を完成させ、発表している。今回はNujabesの実弟から「時間を進めるための作品」という依頼を受け、この10年で培ったさまざまな手法を詰め込み、冒険的な作品をつくりあげた。

そこで今回の取材では、nakamuraにトリビュートアルバムの制作を振り返ってもらうとともに、ともに時間を過ごした彼だからこそ知る、Nujabesの実像についても話を聞いた。なぜいまもNujabesの音楽が世界中で聴かれ続けているのか。その理由の一端が垣間見えるはずだ。

2020年2月26日、渋谷のスクランブル交差点にNujabesの音楽が流れた日

―トリビュートアルバムを制作することになった経緯を教えてください。

haruka:2020年は瀬葉さん(Nujabesの本名)が亡くなってから10年目の年で、命日の2月26日に渋谷のスクランブル交差点のモニター全部を使って、Nujabesの音楽と映像を流す企画があったんです。瀬葉さんはもともと渋谷でレコード屋をやっていて、Nujabesの音楽も渋谷のタワーレコードやHMVから火が点いたように思いますし、Nujabesは渋谷発の音楽だったのだと思います。

ただ、彼は自分の曲でミュージックビデオをつくってなかったので、ぼくがNujabesさんと一緒につくった“Lamp”という曲のミュージックビデオを使わせてほしいという連絡があり、「ぜひどうぞ」とお返事をしたことがまずあって。


haruka nakamura - Lamp feat.Nujabes

haruka:ぼくも当日観に行ったんですけど、それまでそこら中から音が鳴ってたのに、なぜか一瞬無音になったんです。たまたま居合わせた人たちは「え? 何?」みたいな感じになって。その直後にNujabesの音楽と映像が流れるんですけど、それまで爆音でいろんな音が鳴ってたから、その狂騒の世界との対比で、曲が流れてもすごく美しい静寂に感じられて。それはまるでこの世でもあの世でもないような時間だったんです。

渋谷のスクランブル交差点のモニターに映し出された「Pray for Nujabes」
渋谷のスクランブル交差点のモニターに映し出された「Pray for Nujabes」

―「Pray for Nujabes」というタイトルどおり、祈りの時間でもあったというか。

haruka:そうですね。そのときに、すべてのことがこうやって帰結するんだなって思いました。“Lamp”のミュージックビデオの映像にはぼくがNujabesさんと曲をつくっていたころに、何気なくiPhoneで撮っていた動画が結構入っているんですけど、まさかそれが10年以上経って、渋谷のスクランブル交差点で流れるとは夢にも思わなかった。いろんなピースが折り重なってこうなったんだなって、ひとつの物語として受け止めています。

haruka nakamura(はるか なかむら)<br>音楽家 / 青森出身。カテドラル聖マリア大聖堂、世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は杉本博司『江之浦測候所』の特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』、安藤忠雄『次世代へ告ぐ』、京都・清水寺よりライブ配信、東京スカイツリーなどプラネタリウム劇伴音楽、早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲共演。Nujabesをはじめとする音楽家や、柴田元幸、ミロコマチコ、BEAU PAYSAGEなど多方面とコラボレーション。MVは川内倫子、奥山由之などの写真家が手掛ける。Huluドラマ『息をひそめて』、NHK『ひきこもり先生』などの劇伴、任天堂CM『あつまれどうぶつの森』楽曲提供、カロリーメイト、ポカリスエット、スマートニュース、ロト・ナンバーズ、AC公共広告機構、CITIZENなど多くのCM、ドラマ、ドキュメンタリー番組などの音楽を手掛ける。2021年12月Salyuとのコラボレーションで本格ライブ復帰。
haruka nakamura(はるか なかむら)
音楽家 / 青森出身。カテドラル聖マリア大聖堂、世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は杉本博司『江之浦測候所』の特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』、安藤忠雄『次世代へ告ぐ』、京都・清水寺よりライブ配信、東京スカイツリーなどプラネタリウム劇伴音楽、早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲共演。Nujabesをはじめとする音楽家や、柴田元幸、ミロコマチコ、BEAU PAYSAGEなど多方面とコラボレーション。MVは川内倫子、奥山由之などの写真家が手掛ける。Huluドラマ『息をひそめて』、NHK『ひきこもり先生』などの劇伴、任天堂CM『あつまれどうぶつの森』楽曲提供、カロリーメイト、ポカリスエット、スマートニュース、ロト・ナンバーズ、AC公共広告機構、CITIZENなど多くのCM、ドラマ、ドキュメンタリー番組などの音楽を手掛ける。2021年12月Salyuとのコラボレーションで本格ライブ復帰。

―そのタイミングで、トリビュートの依頼があったわけですか?

haruka:Hydeout Productions(Nujabes主宰のレーベル)はいまNujabesさんの弟のmaoくんが引き継いでいて、命日の2月26日に毎年トリビュートライブをやっていたんです。

ぼくやUyama Hirotoさん(Nujabesの作品やライブに数多く関わってきたプロデューサー / マルチプレイヤー)はNujabesさんが亡くなった当時、Nujabesさんが出る予定だったライブとかイベントにいろいろ出て、shing02さんやクラムボンさんたちと一緒に『METAMORPHOSE』(2012年まで開催されていたフェス)にも出演して、クラムボンさんが“Reflection Eternal”をやってくれたりもして。

でもそういうことを2、3年やるなかで、そろそろ次に進んで、それぞれのやり方でNujabesさんの想いをつないでいく段階に来たなと感じていて。それでぼくはNujabesさんとつくっていた『MELODICA』という作品をリリースすることができて、そこからPIANO ENSEMBLEとしての活動も始まり、自分なりに光の方向に向かっていった。

haruka nakamura『MELODICA』(2013年)を聴く(Spotifyを開く

haruka:だから、トリビュートライブは自分のなかで卒業した感覚だったんですよね。Nujabesさんの音楽は静かな通奏低音としてずっと自分のなかにあって、最近はお守りのような存在というか(笑)、護ってくれる存在になっていたんです。

過去を振り返るのではなく、次に進むためのトリビュートアルバム

―自分のなかでNujabesさんへのトリビュートはひとつの区切りがついていた。ただ、2020年という節目の年を経て、その心境にも変化があったわけですか?

haruka:maoくんは2020年もトリビュートライブをしようとしてたんですけど、コロナの影響でできないから、代わりに何か次に向かうための作品をつくってほしいといわれたんです。ぼくらは前に進んでいたけど、maoくんやご家族のみなさんからすると、止まったままの10年があって、その時間を先に進めるような、新しい作品が出せないかって。

―過去を振り返るのではなく、前に進むための作品をつくってほしいと。

haruka:そういうことですね。ただ……「新しい作品」というのはすごく難しいと思いました。もちろん、もうNujabesさんと一緒につくることはできないし、自分としては彼の音楽を自分なりに昇華した音楽をやってきたつもりだったし。

難しいと思いながらも、10年前のことを振り返ってみると、もともと自分はギターを弾いてたから、当時はまだそんなにピアノを弾いてなかったんですよね。でも、この10年はピアノを主軸にやってきて、この10年で出会った仲間もいるから、いまだったら彼の音楽ともう一度向き合って、自分なりにできることがあるんじゃないかと思って。

―「いまだったらできること」とは?

haruka:Nujabesさんはレコード屋でもあったから、埋もれている音楽にビートを乗せて光を当てることによって、その曲と一緒に元の曲も世界中に広めるっていう「循環」をつくったわけです。でもサンプリングミュージックなので、宝探し的な部分があって、自分で新曲をどんどんつくれる、というわけじゃなかったんですよね。

Nujabes『Metaphorical Music』(2003年)を聴く(Spotifyを開く

Nujabes『Modal Soul』(2006年)を聴く(Spotifyを開く

haruka:そこが本人としてはジレンマだったのかもしれなくて、だからぼくが呼ばれた。Uyamaさんやぼくとセッションをすることによって、サンプリングされたメロディーの続きを奏でることができるんじゃないかって。そうやってNujabesさんはどんどん生楽器に重きを置くようになっていってたんです。

―『Modal Soul』などにUyamaさんが参加しているのはそういう流れがあったわけですよね。

haruka:そうですね。サンプリングの質感とビートのかっこよさはNujabesさんにしか出せないもので、最高峰のものだからこそ、サンプリングした8小節のメロディーの続きを聴いてみたい。奏でてみたい。そういうシンプルな渇望があることは本人からも聞いていました。

なので、自分が10年間やってきたことの集大成として、Nujabesさんが聴きたかったであろう8小節の続きを、ぼくなりに弾いてみたらどうなるかな? っていう話をmaoくんにしました。音楽という大きな川の流れがあって、瀬葉さんが彼の岸辺から見た視点でつくっていたとすれば、対岸に立って見たものをぼくなりにかたちにできたら、それはある意味では「新しい作品」といえるんじゃないかなって。

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リリース情報

haruka nakamura『Nujabes PRAY Reflections』
haruka nakamura
『Nujabes PRAY Reflections』(CD)

2021年12月4日(土)発売
価格:3,300円(税込)
HPD19

1. Another Reflection
2. Horizon
3. Waltz of Reflection Eternal
4. flowers
5. kumomi
6. Feather
7. latitude
8. Light on the land
9. Final View
10. World's end Rhapsody
11. Reflection Eternal
12. Let me go

プロフィール

haruka nakamura(はるか なかむら)

音楽家 / 青森出身。カテドラル聖マリア大聖堂、世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は杉本博司『江之浦測候所』の特別映像、国立新美術館『カルティエ 時の結晶』、安藤忠雄『次世代へ告ぐ』、京都・清水寺よりライブ配信、東京スカイツリーなどプラネタリウム劇伴音楽、早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて自作曲共演。Nujabesをはじめとする音楽家や、柴田元幸、ミロコマチコ、BEAU PAYSAGEなど多方面とコラボレーション。MVは川内倫子、奥山由之などの写真家が手掛ける。Huluドラマ『息をひそめて』、NHK『ひきこもり先生』などの劇伴、任天堂CM『あつまれどうぶつの森』楽曲提供、カロリーメイト、ポカリスエット、スマートニュース、ロト・ナンバーズ、AC公共広告機構、CITIZENなど多くのCM、ドラマ、ドキュメンタリー番組などの音楽を手掛ける。2021年12月Salyuとのコラボレーションで本格ライブ復帰。

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