結成10周年の乃木坂46、作曲家・杉山勝彦が語る名曲誕生の裏側

結成10周年の乃木坂46、作曲家・杉山勝彦が語る名曲誕生の裏側

2021/10/21
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:豊田和志 編集:金子厚武、CINRA編集部

山下美月のセンター曲“僕は僕を好きになる”はもともとEDMだった?

―2021年1月に発表された“僕は僕を好きになる”は、3期生の山下美月さんが初めてセンターを務めた曲で、これまでの乃木坂46の色を引き継ぎつつも、しっかりと更新された「新しい王道」というような印象を受けました。

乃木坂46“僕は僕を好きになる”を聴く(Spotifyを開く

杉山:コンペに出した最初のデモはいまのアレンジと全然違って、もっとEDMに近い感じだったんです。サビのメロディーは乃木坂46っぽいと思ったんですけど、「普通のアレンジじゃ通用しないかもしれない」と思ったんですよね。そうしたら、「これをもう少し従来のスタイルに寄せてもう一回聴きたい」と言ってくださって、徐々にいまの形になっていったんです。

―たしかに、“君の名は希望”や“きっかけ”の生バンド感と、EDMっぽいエレクトロニックなサウンドの中間という感じがします。

杉山:ドラムの音ネタは最初のデモからそのまま残ってたりもするし、うっすらとシンセが入っていたり、現代のダンスミュージックっぽい要素もあって。ピアノや弦の音にしても、よりブラッシュアップされていると思います。

杉山勝彦

―一音を繰り返すイントロも非常に印象的です。

杉山:このときピアノのリフを死ぬほどつくったんですよ。それこそ“君の名は希望”を彷彿とさせるようなものも考えたんですけど、でも新しさを感じられなかったんです。それで、これはもっと振り切らないとダメだと思って、同じ音を連打したらどうなるんだろうと。

そのあとのメインのリフレインは先にできていたんです。でもいきなりそこから入ってもグッと来ないと思っていたところに、冒頭のパートがついて、「あ、乃木坂46の曲になった」と思いました。あの曲ができるまでにはすごく時間がかかったんですけど、その半分はピアノのリフレインと冒頭のパートを考えることに使った気がしますね(笑)。

ボカロPからの影響を昇華した“ごめんねFingers crossed”

―2021年6月に発表され、遠藤さくらさんがセンターを務めた“ごめんねFingers crossed”は、これまでも乃木坂46の楽曲の主に編曲を数多く手がけられているAPAZZIさんとのコライトで書かれています。明確に新境地で、初オンエアの際はSNS上で「YOASOBI感」というワードが話題になったりもしました。

乃木坂46“ごめんねFingers crossed”を聴く(Spotifyを開く

杉山:ボカロPさんが素晴らしい曲をたくさん発表するようになって、その研究はしばらくしていたんです。例えば、YOASOBIの“夜に駆ける”は(伴奏が静かになる)落ちサビのところで突然半音下がって、そのあと全音半上がる——つまりはじめのサビより全音上がるという設計がされていて、「だから新しく聴こえるんだ」と思ったり。

YASOBI“夜に駆ける”を聴く(Spotifyを開く

杉山:ぼくはボカロのネイティブ世代ではないので、自分を現代にチューニングする必要を感じてもいて、そういうことを一年前くらいからやっていたんです。で、そういう現代っぽさが必要なタイプの曲の募集があったときに、尊敬している作家であるAPAZZIさんと一緒につくるのがいいと思ったんですよね。

―じゃあ、もちろんマネをしたわけではないものの、YOASOBIをはじめとしたボカロP出身の人たちの研究をしたうえで、“ごめんねFingers crossed”が書かれていると。

杉山:トラックのリファレンスに関しては、APAZZIさんが何年も前に出された曲のなかで、「この曲のイメージいいですね」というものがあって、それを参考にしてるんです。まあ、これだけYOASOBIの曲がたくさん聴かれているなかなので、リスナーのみなさんが「YOASOBI感」といいたくなるのもわかるんですけどね。

―ボカロP出身の人たちがつくる曲を研究した結果、どんな部分に現代らしさを感じて、“ごめんねFingers crossed”の作曲に生かしたのでしょうか?

杉山:まずわかりやすいのは「尺の短さ」ですよね。“ごめんねFingers crossed”はサビから始まって、ABサビのあとにもう一回Aに行かずにDメロに行く。そのテンポ感というか。ボカロ曲は長くて3分みたいな世界で、2コーラス目が1コーラス目とまるっきり同じということはあんまりないし、あっても2コーラスですぐ終わってたりしますからね。

杉山勝彦

杉山:なおかつ、BPMが速くて、メロディーの音のジャンプが多かったりするわけです。そういう曲を歌い手さんが歌っているのを聴いて、人間の歌唱力を甘く見てたと思いました。ボカロだから成立するみたいな、音域が広くてジャンプも多いメロディーを驚異的な歌唱力で歌い上げる、そういう歌い手さんが一人や二人でなく、どんどん出てきている。なので、“ごめんねFingers crossed”でもチャレンジングなメロディーに挑戦したというのはあります。

―尺や構成については、サブスク時代に対する目配せということでもあるのでしょうか?

杉山:どちらかというと、YouTubeを意識しています。オススメで出てきたときに、どこまで再生してもらえるかが重要で、だからイントロなしの歌始まりが多いわけですよね。キック2発で歌い出すヨルシカさんの“だから僕は音楽を辞めた”、あのスピード感が大事なんだろうなって。

ヨルシカ“だから僕は音楽を辞めた”を聴く(Spotifyを開く

杉山:だから“ごめんねFingers crossed”に関しては、それを一回やり切ってみようと思って、ボカロ曲のように、絵師さんが描いた絵に歌詞が載ってくるような映像までイメージしながらつくりました。

ただ、ボカロ曲をそのままアイドルの曲に当てはめればいいのかというとそうではなくて。アイドルの場合は、特にコンサートにおいて、イントロがすごく大事なんです。どういうフォーメーションでイントロが始まって、どういう空気感で歌い出すのか、もしくは、イントロでどんなダンスが輝きを放つのか。やはりアイドルの曲にはアイドルの曲ならではの考え方があると思いますね。

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リリース情報

乃木坂46
ベストアルバム『(タイトル未定)』

2021年12月15日(水)発売

プロフィール

杉山勝彦(すぎやま かつひこ)

作詞・作曲・編曲家・音楽プロデューサー、フォークデュオ「TANEBI」のギタリスト。1982年1月19日生まれ。埼玉県入間市出身。早稲田大学在籍時代、ラッツ&スターの佐藤善雄にスカウトされ、2007年、Sony Music Publishingの専属作曲家となる。現在は、自身が代表を務める株式会社コライトにて音楽作家活動を行う。2008年、嵐“冬を抱きしめて”で作家デビュー。2013年フォークデュオ「USAGI」結成、2014年ユニバーサルミュージックよりメジャーデビュー。2016年所属事務所を独立、「TANEBI」とあらためて活動を行い、現在に至る。家入レオ“ずっと、ふたりで”にて第59回日本レコード大賞作曲賞を受賞。

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