30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

2021/09/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:西村満 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

湾岸戦争、ソ連崩壊。激動する世界情勢と、「バブル崩壊」といわれた日本の音楽シーン

―当時の社会情勢については、荒野さんはどんなことを覚えていますか?

荒野:一番大きかったトピックはやはり湾岸戦争の勃発とソビエト連邦の崩壊ですよね。時代が大きく変動しているのを実感した年です。そういえば、今年リリースされたBreachersの新作『Take the Sadness Out of Saturday Night』の1曲目が“91”というタイトルで、まさに湾岸戦争のことを歌っていました。Breachersのリーダー、ジャック・アントノフ(テイラー・スウィフトやロード、ラナ・デル・レイなどを手がけるプロデューサー)は1984年生まれだから、彼が7歳のときの出来事になるのかな。

あとはフレディ・マーキュリーがエイズであることを公表し、その翌日に亡くなったのも1991年なんですよね。

ラブサマ:翌日だったんですか……?

荒野:以前から「具合が良くない」という噂は伝わってきていたんですけどね。現役のロックスターが不治の病で亡くなるというニュース、それまではほとんどなかったから、そういう意味でも衝撃的でした。

荒野政寿

―日本では「バブルが崩壊した」といわれて、でもまだ何となく世の中は浮ついた空気が続いていましたよね。ジュリアナ東京がオープンしたのも1991年だし。当時のヒットチャートを見ると、小田和正の“Oh! Yeah! / ラブ・ストーリーは突然に”や、CHAGE&ASKAの“SAY YES”、KANの“愛は勝つ”に槇原敬之の“どんなときも。”など、J-POPクラシック目白押しです。

荒野:音楽業界はまだまだ潤っていましたよね。「小室ブーム」の全盛期は1996年からですし。いわゆる「プロデューサー時代」が訪れる少し前の時代。小林武史さんが原由子の2枚組ソロアルバム『MOTHER』のプロデュースをしたり、彼が作編曲した小泉今日子の“あなたに会えてよかった”が大ヒットしたりしたのが1991年で、やがてサザンオールスターズ関連以外のアーティストも積極的に手掛けるようになっていく。

小泉今日子“あなたに会えてよかった”を聴く(Spotifyを開く

ラブサマ:そうなんですね。その頃はもうMr.Childrenも活動しているイメージがあったけど。

荒野:小林さんがMr.Childrenを手がけるのは1992年なんです。

―ちなみにラブサマちゃんは、当時の日本の音楽だとどの辺りが好きですか?

ラブサマ:Venus Peterの『SPACE DRIVER』(1992年)とかめちゃめちゃ聴きました。あとはスピッツですね。

ラブリーサマーちゃん

―スピッツの同名1stアルバムと、2ndアルバム『名前をつけてやる』も1991年リリースです。後者は当時マイブラやRideに傾倒していた草野マサムネさん(Vo,G)が、「ライド歌謡」をテーマにUKのギターロックのサウンドと歌謡曲を融合しながらつくったアルバムといわれています。

ラブサマ:そうだったんだ! いま聴くと全然Rideには聴こえないけど(笑)、やっぱりあの人たちは「歌心」ですべて持っていっちゃうんですね。1991年だと、あとはCHARAさんの1stアルバム『Sweet』も大好きです。

荒野:プロデューサーの浅田祐介さんと一緒にやっていた頃ですね。

ラブサマ:音がモダンでいまも聴けちゃう。いい曲ばっかりなんですよ。歌詞と歌声が、女性というより「女の子」という感じ……愛への眼差しがまだ無邪気すぎるし、しかも切ない歌詞が多くて「これぞ1stアルバム!」という感じ。“うそつくのに慣れないで”や、“Heaven”“Sweet”“Break These Chain”など、大好きな曲ばかり入ったアルバムです。

CHARA『Sweet』を聴く(Spotifyを開く

―そして、1991年の音楽シーンについて語るうえで、避けては通れないのがNirvanaの『Nevermind』です。このアルバムのリリースをきっかけに、あっという間に彼らはシーンを席巻した印象が当時はあったのですが、荒野さんはどう見ていましたか?

荒野:ぼくが最初に彼らの存在を知ったのは、雑誌『CROSBEAT』に掲載されていた「ソニック・ユースが選ぶオールタイム・ベスト50アルバム」というコーナーでした。The StoogesやThe Velvet Underground、Televisionらの名盤が並ぶなか、見たことがないレコードジャケットが掲載されていたんですよ。それがNirvanaの1stアルバム『Bleach』(1989年)だったんです。

雑誌『CROSBEAT』に掲載されていた「ソニック・ユースが選ぶオールタイム・ベスト50アルバム」
雑誌『CROSBEAT』に掲載されていた「ソニック・ユースが選ぶオールタイム・ベスト50アルバム」

ラブサマ:そんな企画が雑誌に載っているのもすごいですね。

荒野:当時もちょっとした話題になりましたよ。このページを同級生が見せてくれて、持ってないアルバムを競ってチェックしていく感じでした。でもこの時点では、仲間うちで誰も『Bleach』を聴くことができなくて。そうこうしているあいだに“Smells Like Teen Spirit”がラジオで流れはじめました。最初はピンとこなかったんですよね。「これ……メタルじゃね?」って(笑)。それまでSonic YouthやPixiesなど、一風変わったアートっぽくてモダンな音楽がUSで生まれてUKにまで影響を及ぼしていたのに、またメタルっぽいリフの時代に逆戻りするの!? と思って。


Nirvana“Smells Like Teen Spirit”

荒野:ぼくはオルタナを聴く前にメタルも聴いていたので、余計にそう思っちゃったんですよね。逆にMetallicaがこの年出した『Metallica』(通称「ブラック・アルバム」)で急にオルタナっぽくなったのも、不思議な感じがしました。

Metallica『Metallica』を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
ラブリーサマーちゃん
『THE THIRD SUMMER OF LOVE』

2020年9月16日(水)発売
価格:3,630円(税込)
COCP-41239

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

書籍情報

XXX
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』

2021年8月12日(木)発売
著者:黒田隆憲、佐藤一道(共同監修)
価格:3,080円(税込)
発行:シンコーミュージック

プロフィール

荒野政寿(あらの まさとし)

1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。今年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

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