30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

30年後のいま、名盤豊作の1991年をラブリーサマーちゃんと振り返る

2021/09/23
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:西村満 編集:黒田隆憲、CINRA.NET編集部

プリンスも注目していたムーブメント「ペイズリー・アンダーグラウンド」とは?

―ペイズリー・アンダーグラウンドの話は、以前ラブサマちゃんと別の対談で少ししたことがあるのですが(参考記事:ラブリーサマーちゃんと学ぶ、「現実逃避の音楽」ドリーム・ポップの歴史)、あらためてどんなムーブメントだったかを荒野さんの視点からお聞かせいただけますか?

荒野:Jellyfish(アメリカのパワーポップバンド)のジェイソン・フォークナーが、もともと所属していたバンドがThe Three O'Clockで、彼らやThe Bangles、The Dream Syndicateなど、1960年代サイケに影響を受けたバンドを中心とする1980年代前半から始まったLAのシーンです。例えばThe Three O'Clockは、「カルフォルニアのネオモッズ」という感じのイメージをプロモーションビデオでも打ち出していました。プリンスのようなアーティストも注目していて、のちに彼が設立したレーベルPaisley Parkからアルバムを出すなどしていたんですよ。

The Three O'Clockの初期音源集『Sixteen Tambourines』を聴く(Spotifyを開く

ラブサマ:へえ、プリンスも!

荒野:当時、日本では六本木にあった大型レコード店「WAVE」が、このあたりのバンドをすごく推していました。Rain ParadeとThe Dream Syndicateのツーマンで、1984年に渋公(渋谷公会堂:現在のLINE CUBE SHIBUYA)でライブをやったんですよ。THE COLLECTORSの加藤ひさし(Vo)さんがこれを観てるんですけど、「客席はガラガラだったし、演奏もうまくなくて期待していた感じと違った」とおっしゃっていましたね(笑)。

でも、そういう「シックスティーズ再評価」のようなムーブは、1980年代半ばから世界のインディーレベルで同時多発的に起こっていたのかもしれない。XTCの変名プロジェクト、The Dukes of Stratosphearの1stアルバム『25 O'Clock』がリリースされたのも1985年ですから。

荒野政寿

荒野:ちなみにプリンスは1991年に、『Diamonds and Pearls』というアルバムを出しています。彼にとっては「仕切り直し」の時期といいますか。バンドの編成も変えて、当時台頭してきたヒップホップにも対応しようとしている。プリンスはコクトー・ツインズも好きなんですけど、そういう耽美的な要素がこのアルバムではファンクやヒップホップなどとごちゃ混ぜになっていて面白いんですよ。

ラブサマ:そうだったんですね。プリンス、ちゃんと聴いたことないので聴いてみます。

プリンス『Diamonds and Pearls』を聴く(Spotifyを開く

マシュー・スウィート、Velvet Crush、Teenage Fanclub。当時旬のアーティストが核となり、名盤が生まれた

―「シックスティーズ再評価」が同時多発的に起こっていたという意味では、ペイズリー・アンダーグラウンドとはまた別の潮流でR.E.Mやレニー・クラヴィッツという存在もありました。まずR.E.M.の『Out of Time』は1991年のアルバムです。

荒野:R.E.M.は解散してから長い時間が経っていて、その間メンバーも華やかな活動をしていないせいか、最近は彼らの作品が若い人たちにどう受け止められているのかよくわからないところがあって。ラブサマちゃんはどうですか?

ラブサマ:周りで聴いている人はあまりいないです(笑)。私もたまに聴いて「いい曲だなあ」と思うし好きですけど、熱心に聴いてきたわけじゃないですね。

左から:ラブリーサマーちゃん、荒野政寿

荒野:やっぱり、不在期間が長過ぎたのかも知れない。フォークロック的なスタイルは初期から一貫していて、時期によってマイナーチェンジはあるけど、基本的な音楽スタイルはずっと一緒だったから、そのぶん取っつきにくく見えそうな気はしますね。もはや、R.E.M.が武道館でやったことなど知らない人のほうが多いんじゃないかな。

ラブサマ:え、武道館でやったの? すごいじゃないですか。

R.E.M.『Out of Time』を聴く(Spotifyを開く

ラブサマ:その流れでいうと、同じく1960年代ロックに影響を受けたVelvet Crushの『In the Presence of Greatness』も、いま聴いてもまったく古びてないですよね。私、このアルバムが本当に好きなんですけど、これってじつはデモテープだとか。

荒野:そう。メンバーは出すのを渋っていたらしいけど、アラン・マッギーが「この荒削りな音がいいんじゃん!」と言って、録り直させなかったらしいです。個人的にはこのアルバムと、これをプロデュースしたマシュー・スウィートの『Girlfriend』、それからTeenage Fanclubの『Bandwagonesque』が同じ1991年に出ているだけでもう、1991年はとんでもない年だなと思いますね。

Velvet Crush『In the Presence of Greatness』を聴く(Spotifyを開く

荒野:特にマシューの『Girlfriend』は、いまラブサマちゃんが出してくれたVelvet Crushの『In the Presence of Greatness』とレコーディングメンバーも被っているし、切っても切れない印象です。特筆すべきは、リチャード・ロイド(Television)とロバート・クイン(リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズ)というレジェンドが参加していたこと。そのときの旬のミュージシャンを核に、新旧の世代がつながっていろんな作品が生まれていくことにワクワクしました。世代的には少し上のドン・フレミングが、Dinosaur Jr.のシングルや、Teenage Fanclubの『Bandwagonesque』に関わったりしていたのもそう。

マシュー・スウィート『Girlfriend』を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
ラブリーサマーちゃん
『THE THIRD SUMMER OF LOVE』

2020年9月16日(水)発売
価格:3,630円(税込)
COCP-41239

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

書籍情報

XXX
『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』

2021年8月12日(木)発売
著者:黒田隆憲、佐藤一道(共同監修)
価格:3,080円(税込)
発行:シンコーミュージック

プロフィール

荒野政寿(あらの まさとし)

1988年から都内のレコードショップで勤務。1996年、シンコー・ミュージックに入社。『WOOFIN’』『THE DIG』編集部、『CROSSBEAT』編集長を経て、現在は書籍と『Jazz The New Chapter』『AOR AGE』などのムックを担当。著書に『プリンスと日本 4 EVER IN MY LIFE』(共著、小社刊)。今年8月、『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』を編集。

ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の26歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

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