Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

ここは東東京にある、某寿司店。そこでは、ヒップホップを生業にする人々が身を寄せ合い、まるで幕末の維新志士のように、これからの時代と、シーンの大きな展望とを語っていた。

この会のきっかけは、Spotifyが日本のヒップホッププレイリストを「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)としてリニューアルするという1通の報せ。リニューアルに際しては、KMがトラックを制作し、その上にさまざまなラッパーがラップを載せるオリジナルソングを発表するという。このプロジェクトには、AwichやLEX、Daichi Yamamoto、BIM、Leon Fanourakisら錚々たるラッパーが参加。

今回はその中から、Awich、KM、LEXを招き、話を聞いた。司会は音楽ライターの渡辺志保。アーティストではないが、この人物も密かな志を宿す1人。日本のヒップホップの行く末を語る4人の会話に、耳を傾けてほしい。

左から:LEX、Awich、KM

「お前のスタイルは何なの?」って問われたときに、ちゃんと自分らしいビートを出せるように努力しています(KM)

渡辺:今回はSpotifyが日本のヒップホッププレイリストを刷新するにあたり、KMさんがシェフとなって楽曲を提供される企画がスタートすると伺いました。KMさんはそのお話いただいたときに、どう思いました?

KM:恐れ多いチャレンジだったんで、ご指名いただいたからにはちゃんとオリジナルのものを作ろうと思って臨みました。

渡辺:KMさんが作った1つのビートに対して、多彩なラッパーが81秒間のラップを乗せるんですか。

KM:そうです。フリースタイルをそれぞれのアーティストが乗せていく感じです。

KM(ケーエム)<br>音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。
KM(ケーエム)
音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

渡辺:これから1人目、Awichさんがレコーディングに挑むとのことですが、意気込みはいかがですか?

Awich:トップバッターとして、覚悟しております。「GILA GILA」でございます(笑)。

Awich"098 (Theme of +81 Connect)"を聴く(Spotifyを開く

Awich”GILA GILA”を聴く(Spotifyを開く

渡辺:プレイリストの名称になっている「+81」は、日本の国番号ですけど、みなさんは世界のマーケットを意識して曲を作ることはありますか?

Awich:私はずっと世界を意識してやってきました。そして、世界を意識するには、まずは日本を意識しないとダメってことに、数年前に気づいて。私たちが海外、例えばインドネシアに行ったら「今インドネシアでバズってる人、誰?」って聞くと思う。ということは、国内でちゃんと固いファンベースがないといけない。「日本でウケなくていいや」は、逃げてるだけって気づきましたね。

「日本のリスナーはダメだ」とか言ってるばかりじゃダメかもなって。だったら日本のオーディエンスも、アーティストも、全員の底上げが必要だと感じたんです。

Awich(エイウィッチ)
1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たす。

渡辺:そうした意識の変化には、なにかきっかけがあったのでしょうか? 逆に言うと目覚める前は、「日本のシーンなんて」と思っていたこともあったんでしょうか。

Awich:超性格悪かったので(笑)、日本のシーンに対して「ダセー」みたいなことをずっと言ってました。だけどアメリカから帰ってきてから、周りの支えもあって「やっぱ逃げてるのかも」って気づけましたね。

渡辺:自分のスタンスが変化した今、手応えはありますか?

Awich:めっちゃ感じてます。プレイヤーたちもみんなレベルが高いと思っていますし、リスナーも責任を持って「これがいいんだ」って言ってる気がするんですよね。

渡辺:ご自身が日本のローカルにアジャストしていくことで、逆にグローバルなファンにも届いてるという感覚もある?

Awich:"WHORU?"くらいから感じ始めましたね。海外の人にも聴かれて「Nice track!」と言われたりするし。あとは"NEBUTA"っすね。沖縄の米軍基地近くのクラブで、修行としてライブすることがあるんですよ。あまりまだ私のことを知らない人が多くて、「俺たちはライブよりDJプレイ聴きたいんだよ」みたいな層が多い場所でも、"NEBUTA"は一番盛り上がります。

Awich"NEBUTA"を聴く(Spotifyを開く

Awich:"Bloodshot"も、英語が多めだから盛り上がるな。アメリカ人ってリリックをクラブでもめっちゃ聴くんですよ。雰囲気で「かっこいい」「いい雰囲気」みたいなのはそんなに上がってくれない。だから英語でちゃんとしたリリックの曲をやると、「OK? OK? YEAH!!」みたいな(笑)。"NEBUTA"はいっつも最終的に盛り上がりを感じます。

渡辺:KMさんは今年、海外でのセッションも経験されていますよね。普段自分でビートを作るときや、どなたかをプロデュースするときに、「この曲を世界に届けるぞ」みたいな意気込みはありますか?

KM:あんまり身構えたりはしないですけど、今のアーティストってSpotifyとかSoundCloudとかに楽曲を出した時点で、舞台は世界なんです。そこで聴かれてなければ届いてないし、再生回数が伸びたらいろんな人に聴いてもらえてるってことなので。

ただ、アメリカと違う何かを見つけないと、自信を持っていても海外に行ったときに、「お前のビートのアイデンティティは何なんだよ」と言われてしまう。メトロ・ブーミン(アメリカの音楽プロデューサー)そっくりのビートを作ることはできるけど、「お前のスタイルは何なの?」って問われたときに、ちゃんと自分らしいビートを出せるようには努力してますね。

KM『EVERYTHING INSIDE』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:実際にどうですか? セッションしてみて。

KM:全然海外でもいけると思います(笑)。

一同:おー!(笑)

KM:もうほとんどスタジオでビートバトルなんですよ。現地のアーティストが一番流行りのビートを出してきても、「全然そんなんじゃダメだよ、日本人なめたらあかんよ」みたいな(笑)。そこで自分のビートを鳴らせる気合いがないと勝てないんだなって思って。

「僕もこういうのあるんですけど……」じゃなくて、「そういうタイプはすでに聴いたことある。日本人はそのビート知ってるから驚かないよ」みたいに強気に。もちろん緊張もありましたけど、そういう気合いでやってましたね。

渡辺:いいですね。海外で本格的に活躍してほしいです。LEXさんは世界を意識することはありますか?

LEX:うーん、僕は今のところは特にないですね。でもあんまり意識しないっていうところが自分の持ち味なのかなって。フラットに作れる環境が一番自分にとっていい気がするんです。

LEX(レックス)
2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。

渡辺:LEXさんの世代だとSpotifyやSoundCloud、YouTubeが普通にある環境で音楽をスタートしたのかなと思うんです。例えばネット上に上げたら海外の人も聴いてくれるとか、世界とのコネクションを感じる瞬間はありますか?

LEX:そういうものを感じたのは最近ですね。最近出た新譜も、多くの人に協力してもらったんですけど、そうした人との交流の中でやっと実感しました。

LEX、Only U、Yung Sticky wom『COSMO WORLD』を聴く(Spotifyを開く

BAD HOPには「みんなでシーン全体を盛り上げたいっすね」って言われました(Awich)

渡辺:CD世代のKMさん、Awichさんと、ネット環境が整っていたLEXさんでは、世代の違いも感じると思います。昔と今でテクノロジーが発達し、いろんな制作に関わる環境が変わっていますが、自分の作品をアウトプットする上でいい方向に変わったと思いますか?

Awich:思いますね。だって、楽曲にするほどでもないけど、言いたいことは(Instagramの)ストーリーで上げればいいし。ツールが表現によって選択できるのはいいと思う。ただ、どのツールを使っても消費されるのが早いですね。

LEX:消費されるスピードの早さは、めっちゃくちゃ感じるっすね。

Awich:でもLEXたちの世代は、そのスピード感を、身体感覚でわかってるんだよね、多分。

LEX:いやでも自分でも早いのは感じます。だからちょっと今、制作ペースについて考えることが多いです。

渡辺:制作、リリースのペースは自分で決めているんですか?

LEX:計画はするっす。人一倍、楽曲をたくさん作るんで、やっぱりリリース前のものが詰まっちゃってますね。

渡辺:たくさん作って、ハイスピードでリリースするのは今のアーティストにとって大事な要素だと思います?

LEX:うーん、そのアーティストの段階によると思います。まだ芽が出る前の時期だと、とにかくめっちゃくちゃ出すのも必要ですけど、ときには止まることも必要だと思います。

自分は今、止まる必要を感じてますね。走りすぎてるという感覚はそれほどないんですけど、もうちょっと1曲1曲をじっくり突き詰めてもいいんじゃないかって感じるときはあります。

渡辺:Awichさんは、リリーススケジュールはどう決めてるんですか?

Awich:いつもチームでああだこうだ言いながら決めます。最近、(BAD HOPの)YZERRくんがめっちゃ助けてくれていて。最近、YZERRから「Awichさんってどういうふうになりたいんすか?」って聞かれて。「正直、Awichさんがヒップホップのクイーンになってくれないと俺たちが困るんですよ。ヒップホップ、辞めるんすか?」と言われて。

ここ最近は、”Happy X-mas (War Is Over)”とかを歌ってたから、ポップスのフィールドに接近していくような雰囲気に受け取られたのかもしれない。それで、「もうラップやらないんすか?」って聞いてくれた。

Awich『Happy X-mas (War Is Over)』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:いいエピソード!

Awich:BAD HOPには「みんなでシーン全体を盛り上げたいっすね」みたいなことを言われて。そういう他のアーティストの言葉も取り入れてます。私はユニバーサルミュージックっていう大きい企業と活動していて、プロダクション、マネージメントもあって若いスタッフも意見してくれる。

だから色んな人を巻き込んでやってるって感じです。ちゃぶ台返しみたいな、きついときもあるんですけど、その分できたときや、ライブでその曲をやるときが気持ちいいんですよ。

渡辺:リリースの早さと言えば、KMさんもですよね。

KM:なんか、サラリーマンの方が毎日仕事するのと同じっていうか。「仕事」と言うと、ドライな印象になってしまうかもしれないけど、せっかく音楽で生活させてもらってるから。俺が制作を怠けちゃうと、本当はここの地位に立ちたかった多くの人に申し訳ないので。

渡辺:身に沁みる言葉ですね。

KM:気を抜いたり、さぼったりしたら、簡単に追い抜かれるんで。今はまだ自分の作品を更新していきたいから、一生懸命やってます。

渡辺:そのマインドっていつ頃から確立されたんですか?

KM:SoundCloudで海外のビートメイカーがリミックスとかを毎日いっぱい出しているのを見てると、そこに自分も参加したいと思うようになって。それがモチベーションになって、とにかく毎日曲を作るようになりました。たくさんリリースしたいというよりは、SoundCloudのスピード感についていくための鍛錬というイメージです。

渡辺:Spotifyなどのストリーミングの時代になって、リスナーとしてもアーティストたちのペースについていくのに精一杯になるときがあります。うれしい悲鳴なんですけどね。

プレイリストのカバーになれるよう競い合うのが、今の「ラップゲーム」なのかもしれない(KM)

渡辺:一方で、リリースが多いから、毎週、話題の新曲が出てくるようになりましたよね。

KM:僕も毎週、SpotifyのJ HIPHOPプレイリストの表紙、今週は誰なんだろう、ってリスナーとして気になっちゃいますよ(笑)。もしかしたら、色んなタイプのラッパーたちがそれぞれのスタイルでプレイリストのカバーになれるよう競い合うのが、今の「ラップゲーム」なのかもしれない。

Awich:私も、それ気にします。

リニューアルした日本のヒップホッププレイリスト『+81 Connect』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:おー(笑)。お三方ともプレイリストのカバーが自分になることがありますよね。LEXさんは気にしないですか?

LEX:気にはしないかもしれないです。でも、なったときはうれしいっす。

渡辺:そういうラップゲームっぽさが出てきて、盛り上がりを徐々に感じ始めたのがこの4、5年ぐらいのような気がします。ちょうど、ストリーミングのサービスが日本でもスタートした時期というか。

Awich:なんかしてますよね、シーン全体でざわついてる感じが。

渡辺:常になにかしら話題があって、尽きないですよね。AwichさんやLEXさんたちのような、超一流のプレーヤーがたくさん増えてきて、全員がハイペースで音源を出している状況が、アクティブだなって感じます。

最近も、TVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』を見ていた親戚から、「ラッパーが出ているけど、知ってる人いる?」と聞かれたんです。ずっとこうしてアーティストの方と関わる仕事をしてきたけど、こんなことを言われたの初めてでした。

それぐらい、少しずつ日本の生活にヒップホップというカルチャーが自然に入ってきてますよね。KMさんも使命感みたいなものを持って、日本のヒップホップが「もっとこうだったらいいな」という思いでビートを作ることはありますか?

KM:使命感とまでは言わないですけど、ちょうど日本でヒップホップの流行が落ち着いた時期に青春だったので。一生懸命ラップをやってた人たちの中で、一風変わっていたのがミクスチャーロックだったんです。それで俺はどっちも好きなのに、先輩は「ミクスチャーはダメだ」と。でも、そんなのおかしいと思っていました。

そうした、当時のコンプレックスがあるから、もっとごちゃ混ぜにすれば、日本語のラップが進化するかもしれないって思っていて。だから、自分の青春にケリをつけようとしてるんです。だからLEXがロックなステージをしているのは、すごく楽しい。

(sic)boy、KM 『CHAOS TAPE』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:Awichさんは「私がクイーンにならなきゃ」みたいな、対シーンへのマインドはここ数年で変わりましたか?

Awich:最近「私、それ求められてるんだ」みたいなうれしさがありますね。私がロールモデルになっていいと思ってくれる人がいるなら、その覚悟は全然できてます。

それは長くやってきて確立されたもの。だからこそ、イノベイティブなことを私がやらなきゃ、シーンが進まないと思ってます。叩かれる覚悟、ヒットを受ける覚悟がないと、ヒットは生み出せないと思うんですよ。だから、第一線に立つ人間として、腹を括ってやるって感じです。

渡辺:素晴らしい! LEXさんも時代の最先端を走ってる、若手ラッパーみたいに言われることも多いと思うんですけど、それに対する責任感や、逆にプレッシャーを感じることはあります?

LEX:うーん、そうっすね。逆にそうした外部の声を意図的に感じないようにしてるのかもしれないっすね。多分、自分がなにかしらプレッシャーをかけられたら、いい状態ではいられないと思ってしまっているのかもしれないっす。

自分はまだ若いし、周りの雰囲気に流されがちだし、心も強くないので、できるだけ周りは見ないようにしてます。

LEX『 なんでも言っちゃって (feat. JP THE WAVY)』を聴く(Spotifyを開く

KM:制作で離島に行ったりするんだよね。ノイズがないように。

LEX:そういう感じっすね。

勇気を持って自分を曝け出してやってるかっていうのが基準です(Awich)

渡辺:今の日本のヒップホップって、大規模なイベントをやると、LEXさんの世代から、大御所の先輩まで同じステージに立ってますよね。第一世代と若手が同じ場所に立つのが、エキサイティングだと思います。Awichさんも自分より若いアーティストからいいエナジーをもらうこともありますか?

Awich:めっちゃあります。大人を見て嫌だったことは、凝り固まった考え方だったから。例えば時代が変化するような新しいスタイルが生まれたときに「あれはダメだ」って言う年長者をずっと見てきたし、その無意味さを知ってるから。みんなの話をできるだけオープンマインドでやることが、私自身の理想を超越するためにも重要なんですよね。

「これはダメ、あれはダメ」って言ってたら、絶対それになれないから。全てを包み込むイメージで、いろんな人の話を聞きたい。自分へのヘイトとかも、何も言われないよりかはうれしい。

渡辺:ヘイトも受け止められるようになったのっていつ頃ですか?

Awich:最近(笑)。でも、受け止めようと思ってからは簡単だった。自分がいろんなことを経験した上では、あの言葉があったからこそ今があるんだって思える。もちろん、本当はそんな経験はなくてもいいとも思うけど。人間は色んなことをこじつけて、「自分はもう強くなれてる」って思うかもしれない。そして、今「強い」って思えるなら実際に強いんだと思う。ずっとイメージしてると、だんだんそう見えてくると思うし。

渡辺:これは世界共通だと思いますが、今のアーティストってソーシャルメディアや、ヘイトなコメントとどうつき合うか、という問題を抱えていますよね。もちろん強くある必要はないんですけど、SNSとの折り合いのつけ方が必要な環境でアーティストとして前に出ていかなきゃいけないのは、相当なプレッシャーだろうなって思います。

Awich:私は、どんな分野でもいいので、それぞれのフィールドでしっかりステージに立って、勇気を持って行動している人の意見にだけ耳を傾けます。そうじゃない人の意見は無意味。今は安い席で見てるのに、人が取った行動に対して難癖をつける人が多すぎる。じゃあ、あなたは何かやってるんですかって聞くとやってない。

自分のことに集中して、夢中で何かをやってる人って、人のことをとやかく言わないですよ。そんな暇ないから。そういう人が、それでも言ってくれる言葉はちゃんと聞きます。だから、勇気を持って自分を曝け出してやってるかっていうのが基準です。

その点で、BAD HOPはすごいと思う。アリーナに立って、それが成功してもしなくても、勇気をもってやることに意味がある。絶対に自分たちの人生の価値につながってくるから。名前も伏せて顔も伏せて、何もやってない人たちに対しては、「お前、誰?」って思いますね。安い席が多すぎるんです。

日本にヒップホップがライフスタイルとして根づくんだったら、もうこのタイミングしかない(KM)

渡辺:今回「Connect=コネクト」がプレイリストのテーマにもなっています。「いろんなラッパーが繋がる」のは、ラップシーンそのものの面白さですし、先ほどBAD HOPさんの発言もありましたが、みんなで盛り上げていける強みなのかなと思うんです。

LEX:そうっすね。でも、なんかそうやって繋がる人たちと真正面から真剣に向き合って、言いたいことを言う。自分のほうが年下なんで、やるからには臆せずにやるっていうところはモットーにしてます。

渡辺:逆に、年下の方から「LEXさんコラボしてください」とかそういうオファーあったりします?

LEX:そうっすね。でも、しないっすね。

一同:(笑)。

Awich:スーパースターだもん、ティーンにとって。

LEX:才能があるのにもったいないなと思って、家呼んでレコーディングさせてあげたり、何かしてあげたいという思いはあるんですけど。「一緒にやりたい」は今のところないです。

渡辺:KMさんはどうですか?

KM:「コネクト」という視点で言うと、さっきAwichさんが言ってたように、ステージに上がっている相手とは話し合えるんです。Chakiさん(日本の音楽プロデューサーChaki Zulu)が曲を出したら、ChakiさんにLINEして「ヤバかったです」って伝えるし。

ラッパーとかアーティストって全員、このラップゲームにいる以上はライバルでもある。でも、日本では深刻なトラブルとかもあんまりないですよね。

渡辺:殺し合うレベルものはないですもんね。

KM:日本のラップゲームは、そこが一つの強みだと思う。海外のような、バイオレンスやフレックス(自慢・虚勢を張るを表すスラング)でなくてもいい。アメリカとは違う形で、2021年以降、日本のヒップホップが変わるんだったらいいなと思ってます。

本当に日本にヒップホップがライフスタイルとして根づくんだったら、もうこのタイミングしかないと思ってる。もう、何度か失敗してるので。でも、これまで失敗した時期と違って、文句ばかり言ってる人には発言権がない。

Awich:そういう面では、私も責任じゃないけど、「みんな、一緒にやっていこうぜ」って言える気がするんですよ。女だからこそ、変な男同士のマウンティングとは距離を置けてると思う。少なくとも、私が必要とされる要素が、以前のシーンよりはあると思う。

渡辺:かつてはジャンルの内部でも、シーンが盛り上がると批判する人が一部いましたけど、今はそれを言う人があんまりいないのは、どうしてなんでしょう?

KM:俺はAwichさんの言ってることが全てだと思う。ステージに上がらない人がとやかく言える権利はもうない。そんな人の言うことは、誰にも届かないから。リスペクトされたいんだったら、どれだけ自分を磨くかだけですから。

Awich:もちろん、ヘイターもコメントの数を増やして盛り上げてくれるからありがたいんですよ。今までは私のことを好きな人だけが聴いてくれていたけど、知らない人の耳にも伝わっているという、いい証拠なんだと思う。

ただしその分、私は私のことを好きでいてくれるファンとちゃんと団結して活動したい。そうすると、ファンたちもウォッチャーとしての責任を持ってくれるし。

渡辺:そうですね。1回新陳代謝があってシーンがガラリと変わって、次のフェーズに移行していると私も強く感じます。

KM:地方の若いラッパーなんかもすごくいいアーティストが出てきているし。人と違う、自分にしかない何かをそれぞれが探して楽しんで欲しい。なんでもそうだけど、参加するのが一番楽しいですからね。そういう遊びの先に日本独自のヒップホップがあるかも知れないと思ってます。

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リリース情報
「+81 Connect」(プレイリスト)

5年間展開してきた「New Era: J-Hip Hop」プレイリストを、新しいカバーデザインとともに、「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)というタイトルでリブランド。SpotifyのJ-Hip Hopのフラッグシッププレイリストがよりアーティストコミュニティーに深く浸透し、影響力のあるブランドとしてシーンと共に大きく成長する事を目指す。

プロフィール
Awich (エイウィッチ)

1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期にビジネスを学ぶため米国アトランタに渡る。ファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で起業学とマーケティング学の学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫が他界。その後、娘と共に沖縄に帰郷。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』(読み:エイト)をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。

KM (ケーエム)

音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

LEX (レックス)

2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。



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