Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

2021/09/15
インタビュー
渡辺志保
撮影:玉村敬太 テキスト・編集:久野剛士

ここは東東京にある、某寿司店。そこでは、ヒップホップを生業にする人々が身を寄せ合い、まるで幕末の維新志士のように、これからの時代と、シーンの大きな展望とを語っていた。

この会のきっかけは、Spotifyが日本のヒップホッププレイリストを「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)としてリニューアルするという1通の報せ。リニューアルに際しては、KMがトラックを制作し、その上にさまざまなラッパーがラップを載せるオリジナルソングを発表するという。このプロジェクトには、AwichやLEX、Daichi Yamamoto、BIM、Leon Fanourakisら錚々たるラッパーが参加。

今回はその中から、Awich、KM、LEXを招き、話を聞いた。司会は音楽ライターの渡辺志保。アーティストではないが、この人物も密かな志を宿す1人。日本のヒップホップの行く末を語る4人の会話に、耳を傾けてほしい。

左から:LEX、Awich、KM
左から:LEX、Awich、KM

「お前のスタイルは何なの?」って問われたときに、ちゃんと自分らしいビートを出せるように努力しています(KM)

渡辺:今回はSpotifyが日本のヒップホッププレイリストを刷新するにあたり、KMさんがシェフとなって楽曲を提供される企画がスタートすると伺いました。KMさんはそのお話いただいたときに、どう思いました?

KM:恐れ多いチャレンジだったんで、ご指名いただいたからにはちゃんとオリジナルのものを作ろうと思って臨みました。

渡辺:KMさんが作った1つのビートに対して、多彩なラッパーが81秒間のラップを乗せるんですか。

KM:そうです。フリースタイルをそれぞれのアーティストが乗せていく感じです。

KM(ケーエム)<br>音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。
KM(ケーエム)
音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

渡辺:これから1人目、Awichさんがレコーディングに挑むとのことですが、意気込みはいかがですか?

Awich:トップバッターとして、覚悟しております。「GILA GILA」でございます(笑)。

Awich"098 (Theme of +81 Connect)"を聴く(Spotifyを開く

Awich”GILA GILA”を聴く(Spotifyを開く

渡辺:プレイリストの名称になっている「+81」は、日本の国番号ですけど、みなさんは世界のマーケットを意識して曲を作ることはありますか?

Awich:私はずっと世界を意識してやってきました。そして、世界を意識するには、まずは日本を意識しないとダメってことに、数年前に気づいて。私たちが海外、例えばインドネシアに行ったら「今インドネシアでバズってる人、誰?」って聞くと思う。ということは、国内でちゃんと固いファンベースがないといけない。「日本でウケなくていいや」は、逃げてるだけって気づきましたね。

「日本のリスナーはダメだ」とか言ってるばかりじゃダメかもなって。だったら日本のオーディエンスも、アーティストも、全員の底上げが必要だと感じたんです。

Awich(エイウィッチ)<br>1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たす。
Awich(エイウィッチ)
1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たす。

渡辺:そうした意識の変化には、なにかきっかけがあったのでしょうか? 逆に言うと目覚める前は、「日本のシーンなんて」と思っていたこともあったんでしょうか。

Awich:超性格悪かったので(笑)、日本のシーンに対して「ダセー」みたいなことをずっと言ってました。だけどアメリカから帰ってきてから、周りの支えもあって「やっぱ逃げてるのかも」って気づけましたね。

渡辺:自分のスタンスが変化した今、手応えはありますか?

Awich:めっちゃ感じてます。プレイヤーたちもみんなレベルが高いと思っていますし、リスナーも責任を持って「これがいいんだ」って言ってる気がするんですよね。

渡辺:ご自身が日本のローカルにアジャストしていくことで、逆にグローバルなファンにも届いてるという感覚もある?

Awich:"WHORU?"くらいから感じ始めましたね。海外の人にも聴かれて「Nice track!」と言われたりするし。あとは"NEBUTA"っすね。沖縄の米軍基地近くのクラブで、修行としてライブすることがあるんですよ。あまりまだ私のことを知らない人が多くて、「俺たちはライブよりDJプレイ聴きたいんだよ」みたいな層が多い場所でも、"NEBUTA"は一番盛り上がります。

Awich"NEBUTA"を聴く(Spotifyを開く

Awich:"Bloodshot"も、英語が多めだから盛り上がるな。アメリカ人ってリリックをクラブでもめっちゃ聴くんですよ。雰囲気で「かっこいい」「いい雰囲気」みたいなのはそんなに上がってくれない。だから英語でちゃんとしたリリックの曲をやると、「OK? OK? YEAH!!」みたいな(笑)。"NEBUTA"はいっつも最終的に盛り上がりを感じます。

渡辺:KMさんは今年、海外でのセッションも経験されていますよね。普段自分でビートを作るときや、どなたかをプロデュースするときに、「この曲を世界に届けるぞ」みたいな意気込みはありますか?

KM:あんまり身構えたりはしないですけど、今のアーティストってSpotifyとかSoundCloudとかに楽曲を出した時点で、舞台は世界なんです。そこで聴かれてなければ届いてないし、再生回数が伸びたらいろんな人に聴いてもらえてるってことなので。

ただ、アメリカと違う何かを見つけないと、自信を持っていても海外に行ったときに、「お前のビートのアイデンティティは何なんだよ」と言われてしまう。メトロ・ブーミン(アメリカの音楽プロデューサー)そっくりのビートを作ることはできるけど、「お前のスタイルは何なの?」って問われたときに、ちゃんと自分らしいビートを出せるようには努力してますね。

KM『EVERYTHING INSIDE』を聴く(Spotifyを開く

渡辺:実際にどうですか? セッションしてみて。

KM:全然海外でもいけると思います(笑)。

一同:おー!(笑)

KM:もうほとんどスタジオでビートバトルなんですよ。現地のアーティストが一番流行りのビートを出してきても、「全然そんなんじゃダメだよ、日本人なめたらあかんよ」みたいな(笑)。そこで自分のビートを鳴らせる気合いがないと勝てないんだなって思って。

「僕もこういうのあるんですけど……」じゃなくて、「そういうタイプはすでに聴いたことある。日本人はそのビート知ってるから驚かないよ」みたいに強気に。もちろん緊張もありましたけど、そういう気合いでやってましたね。

渡辺:いいですね。海外で本格的に活躍してほしいです。LEXさんは世界を意識することはありますか?

LEX:うーん、僕は今のところは特にないですね。でもあんまり意識しないっていうところが自分の持ち味なのかなって。フラットに作れる環境が一番自分にとっていい気がするんです。

LEX(レックス)<br>2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。
LEX(レックス)
2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。

渡辺:LEXさんの世代だとSpotifyやSoundCloud、YouTubeが普通にある環境で音楽をスタートしたのかなと思うんです。例えばネット上に上げたら海外の人も聴いてくれるとか、世界とのコネクションを感じる瞬間はありますか?

LEX:そういうものを感じたのは最近ですね。最近出た新譜も、多くの人に協力してもらったんですけど、そうした人との交流の中でやっと実感しました。

LEX、Only U、Yung Sticky wom『COSMO WORLD』を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

「+81 Connect」
「+81 Connect」(プレイリスト)

5年間展開してきた「New Era: J-Hip Hop」プレイリストを、新しいカバーデザインとともに、「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)というタイトルでリブランド。SpotifyのJ-Hip Hopのフラッグシッププレイリストがよりアーティストコミュニティーに深く浸透し、影響力のあるブランドとしてシーンと共に大きく成長する事を目指す。

プロフィール

Awich(エイウィッチ)

1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期にビジネスを学ぶため米国アトランタに渡る。ファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で起業学とマーケティング学の学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫が他界。その後、娘と共に沖縄に帰郷。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』(読み:エイト)をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。

KM(ケーエム)

音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

LEX(レックス)

2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。

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