亀田誠治が語る、松本隆トリビュートという50年間のJ-POP大全

亀田誠治が語る、松本隆トリビュートという50年間のJ-POP大全

2021/07/20
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:丹野雄二 編集:タナカヒロシ、CINRA.NET編集部

幾田りらの思い描く設計図に沿って歌われた“SWEET MEMORIES”

松本隆は、“赤いスイートピー”や“風立ちぬ”など松田聖子の名曲の数々の作詞も手掛けている。そんななかから亀田が選んだのは、自身が編曲家を目指すきっかけになった存在だという大村雅朗が作曲・編曲を手掛けた“SWEET MEMORIES”。その歌い手をYOASOBIの幾田りらにオファーするというのも亀田のアイディアだった。

亀田:去年の秋にYOASOBIさんとトークイベントでご一緒することがあって。そのときにAyaseさん、ikuraさんといろんなお話をしてピンと来たんです。YOASOBIのなかでikuraとして歌っている世界は、幾田りらさんというシンガーの「ある一面」にすぎないんだということに気づいた。それに、やっぱり去年から今年にかけてのYOASOBIの躍進はすごいじゃないですか。だから、当時日本で一番聴かれていた松田聖子さんの歌を幾田りらさんの歌声で歌っていただくことができたら最高だなって思って。それでオファーをしました。

幾田りら
幾田りら

スローテンポでしっとりとしたジャズテイストの楽曲で、松田聖子にとって歌手としての新境地を切り拓くきっかけになったこの曲。幾田りらも、YOASOBIでは見せていなかった歌の表現力を見せている。亀田はその真摯な姿勢をレコーディングで垣間見ていた。

亀田:幾田りらさんは、とにかく歌が上手いし、耳がいい。それだけでなく、ボーカリスト・幾田りらとしての、自分の思い描いている歌の設計図がしっかりとある。歌入れのときにも、歌詞カードに「ここはこう歌う」という矢印や記号がいっぱい書きこんである。ミックスダウンのときにも、自分の声の微妙なかすれ部分に対して「ここのフレーズにこのかすれはないほうがいいと思うんです」っていうことを言ってくださったりした。すごい才能の人が現れたと思いましたね。


幾田りら“SWEET MEMORIES”レコーディング映像

幾田りら“SWEET MEMORIES”を聴く(Spotifyを開く

SWEET MEMORIES / 幾田りら
作曲:大村雅朗(オリジナルアーティスト:松田聖子 / 1983年リリース)

Produced & Arranged by 亀田誠治
Recording & Mix Engineer:今井邦彦(OORONG-SHA)
Assistant Engineer:清宮光貴(prime sound studio form)、國土祐希(Mouri Artworks Studio)、豊田泰孝(誠屋)
Rhythm Recording & Mixing at Mouri Artworks Studio
Vocal & Strings Recording at prime sound studio form

Vocal:幾田りら
Drums:河村“カースケ”智康
Wood Bass:亀田誠治
Piano:皆川真人
Strings:今野 均ストリングス

宮本浩次が歌うことを熱望した“SEPTEMBER”

“SEMTEMBER”は1979年にリリースされた竹内まりやの3枚目のシングル。林哲司が作曲を手掛けたシティポップの名曲だ。歌い手は、昨年にリリースされたカバーアルバム『ROMANCE』でも松本隆による作詞曲を歌っていた宮本浩次。亀田からオファーを受けた宮本からの熱望でこの曲に決まったようだ。

亀田:“SEPTEMBER”に関しては、宮本くんのほうから「この曲を歌いたい」と弾き語りのデモが送られてきたんです。それがめちゃくちゃよくて、「あ、これはもう決まりだ」と。宮本くんがデモで歌っている<セプテンバー>っていうフレーズの歌いまわしが、竹内まりやさんとまるっきり同じカーブを描いていて。「よっぽど好きだったな」と思って訊いたら、「当時、街中でこの曲流れてましたからね。あの時代はぼくも大好きなんですよ」みたいな、そんな会話をしたのを覚えています。

宮本浩次
宮本浩次

オリジナル曲の洒脱なグルーヴ感をいまの時代にあわせて換骨奪胎したアレンジでは、ベーシスト・亀田誠治による主張の強い演奏も聴きどころになっている。

亀田:オリジナル曲には当時のディスコミュージックの影響を果敢に取り入れてる感じがあったんですね。ディスコミュージックのポップな側面を意識して、踊れるようなベースにしたいという気持ちを込めて演奏しました。ディスコとポップの中間みたいなキラキラ感を、いつもは雄叫びの歌を歌う宮本浩次の歌でやりたかった。そういう狙いがあります。

宮本浩次“SEPTEMBER”を聴く(Spotifyを開く

SEPTEMBER / 宮本浩次
作曲:林哲司(オリジナルアーティスト:竹内まりや / 1979年リリース)

Produced & Arranged by 亀田誠治
Recording & Mix Engineer:今井邦彦(OORONG-SHA)
Assistant Engineer:岩田祐資(prime sound studio form)、國土祐希(Mouri Artworks Studio)
Vocal & Strings Recording at prime sound studio form
Brass Recording & Mixing at Mouri Artworks Studio

Vocal:宮本浩次
Guitar:西川進
Bass:亀田誠治
Piano:皆川真人
Trumpet:西村浩二
Sax:山本拓夫
Trombone:村田陽一
Manipulator:豊田泰孝(誠屋)

左から:柴那典、亀田誠治

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イベント情報

『松本隆トリビュートを2倍楽しむプレイリスト』

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』を、制作総指揮をつとめた亀田誠治が全曲解説!(インタビュアー:柴那典)

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』

初回限定生産盤(CD+LP+豪華特典本)

2021年7月14日(水)発売
価格:11,000円(税込)
COZP-1747-8

1. 夏色のおもいで / 吉岡聖恵
2. 君は天然色 / 川崎鷹也
3. SWEET MEMORIES / 幾田りら
4. SEPTEMBER / 宮本浩次
5. Woman“Wの悲劇”より / 池田エライザ
6. セクシャルバイオレットNo.1 / B'z
7. スローなブギにしてくれ(I want you) / GLIM SPANKY
8. キャンディ / 三浦大知
9. 風の谷のナウシカ / Daoko
10. ルビーの指環 / 横山剣(クレイジーケンバンド)
11. 風をあつめて / MAYU・manaka・アサヒ(Little Glee Monster)

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』

通常盤(CD)

2021年7月14日(水)発売
価格:3,300円(税込)
COCP-41453

プロフィール

亀田誠治(かめだ せいじ)
亀田誠治(かめだ せいじ)

1964年生まれ。音楽プロデューサー・編曲家として数多くのヒット曲を生み出し、ベーシストとしても様々なアーティストのレコーディングやライブに参加。2004年には椎名林檎らと東京事変を結成。2005年からはBank Bandのベーシストとして『ap bank fes』に参加。2007年および2015年には日本レコード大賞で編曲賞、2021年には映画『糸』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説するNHK Eテレの音楽教養番組『亀田音楽専門学校』シリーズへの出演や、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽を体験できるフリーイベント『日比谷音楽祭』の実行委員長を務めるなど、さまざまなかたちで音楽の魅力を発信している。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手掛ける。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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