亀田誠治が語る、松本隆トリビュートという50年間のJ-POP大全

亀田誠治が語る、松本隆トリビュートという50年間のJ-POP大全

2021/07/20
インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:丹野雄二 編集:タナカヒロシ、CINRA.NET編集部

松本隆の作詞活動50周年を記念したトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が、7月14日にリリースされた。

はっぴいえんどのメンバーとして、またヒットチャートを彩る数々の名曲を手掛けた作詞家として、後の音楽シーンに大きな影響を与えた松本隆。トリビュートアルバムは、その名曲の数々をいまの時代に新たなかたちで蘇らせた一枚だ。

そのプロデュースを担ったのが、自身も松本隆を敬愛する音楽プロデューサーの亀田誠治。アルバムの制作にあたっては編曲やサウンドプロデュースだけでなく、選曲や参加アーティストの選定にも自ら携わり、B'zや宮本浩次、YOASOBIの幾田りらなどアーティストへの依頼も直々に行ったという。

「昭和から平成、令和にまたぐ50年間のJ-POP大全にしたかった」と亀田が語る本作は、どのようにして出来上がっていったのか? そこに込められた「時代を超える名曲」の持つ輝きとは――。

Spotifyでは、トリビュートアルバムのリリースにあわせて、亀田による楽曲解説コメントとトリビュートアルバム収録曲の音源、そしてそのオリジナル曲の音源を続けて聴くことのできるスペシャル企画『松本隆トリビュートを2倍楽しむプレイリスト』を展開している。そして、この記事では筆者が聞き役をつとめた約2時間にわたるインタビューからエッセンスを抽出したテキストとともに、配信ではアクセスしづらい詳細な演奏クレジットも含めた全曲解説をお送りする。

「ぼくのすべてがここに投入されています」と亀田が胸を張る全11曲の成り立ちをディープに掘り進めていきたい。

亀田誠治(かめだ せいじ)<br>1964年生まれ。音楽プロデューサー・編曲家として数多くのヒット曲を生み出し、ベーシストとしても様々なアーティストのレコーディングやライブに参加。2004年には椎名林檎らと東京事変を結成。2005年からはBankBandのベーシストとして『ap bank fes』に参加。近年はJ-POPの魅力を解説するNHK Eテレの音楽教養番組『亀田音楽専門学校』シリーズへの出演や、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽を体験できるフリーイベント『日比谷音楽祭』の実行委員長を務めるなど、さまざまなかたちで音楽の魅力を発信している。<br><br>柴那典(しば とものり)<br>1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手掛ける。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。
亀田誠治(かめだ せいじ)
1964年生まれ。音楽プロデューサー・編曲家として数多くのヒット曲を生み出し、ベーシストとしても様々なアーティストのレコーディングやライブに参加。2004年には椎名林檎らと東京事変を結成。2005年からはBankBandのベーシストとして『ap bank fes』に参加。近年はJ-POPの魅力を解説するNHK Eテレの音楽教養番組『亀田音楽専門学校』シリーズへの出演や、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽を体験できるフリーイベント『日比谷音楽祭』の実行委員長を務めるなど、さまざまなかたちで音楽の魅力を発信している。

柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手掛ける。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

亀田誠治『松本隆トリビュートを2倍楽しむプレイリスト』を聴く(Spotifyを開く

最初から吉岡聖恵が歌っている情景が浮かんだ“夏色のおもいで”

“夏色のおもいで”は、チューリップによる1973年のヒット曲。はっぴいえんど解散後、松本隆が専業作詞家として最初に手掛けた一曲でもある。<きみをさらってゆく風になりたいな>という一節も印象的なこの曲は、いきものがかりの吉岡聖恵が歌っている。

亀田:松本隆さんの歌詞の世界には「風」という言葉がよく出てくる。いきものがかりの曲もそうなんです。「きみ」とか「風」とか、そういう言葉が出てくる。“夏色のおもいで”は50年前の曲なんだけど、いまのJ-POPのなかで松本隆さんが描き出したような景色を歌っているアーティストの代表選手はいきものがかりしかいないなと思いました。最初から聖恵ちゃんがこの歌を歌っている情景が目に浮かんでいました。

吉岡聖恵
吉岡聖恵

オリジナル曲を聴くと、当時のチューリップがThe Beatlesのソングライティングやアレンジに大きな影響を受けていたことがわかる。今回のアルバムに収録されたバージョンでも、原曲のコーラスアレンジを忠実に再現している。

亀田:この曲は、ボーカルディレクションに三宅彰さんが入ってくださったんです。三宅彰さんは宇多田ヒカルさんのプロデュースもなさった、いまのJ-POPのど真ん中をつくり上げてきた方で、その三宅さんがつぶさにチューリップのサウンドを分解して、研究して、この曲のコーラスアレンジに貢献してくださいました。スタジオでも、聖恵ちゃんと三宅さんと3人で、当時のチューリップやオフコースとかが生まれてきた時代の話を1時間ぐらいしたんですよ。新しい出会いが生まれたセッションでした。

吉岡聖恵“夏色のおもいで”を聴く(Spotifyを開く

夏色のおもいで / 吉岡聖恵
作曲:財津和夫(オリジナルアーティスト:チューリップ / 1973年リリース)

Produced & Arranged by 亀田誠治
Recording & Mixing Engineer:今井邦彦(OORONG-SHA)
Assistant Engineer:清宮光貴(prime sound studio form)、國土祐希(Mouri Artworks Studio)
Recording & Mixing at Mouri Artworks Studio
Except Strings Recording at prime sound studio form Chorus Arranged by 三宅彰
Vocal Recording Engineer:齊藤祐也
Vocal Recording at ABS RECORDING
Vocal Recording Director:三宅彰

Vocal:吉岡聖恵
Piano:皆川真人
Drums:河村“カースケ”智康
Guitars:小倉博和
Bass:亀田誠治
Strings:今野 均ストリングス
Manipulator:豊田泰孝(誠屋)

川崎鷹也の歌で令和の色彩感を加えることができた“君は天然色”

じつはこのトリビュートアルバムは、本来10曲収録の予定だったという。その制作の最終盤で亀田が「もう1曲、この曲をどうしても入れるべきだ」と提案したのが大滝詠一の“君は天然色”。40周年記念盤のリリースやストリーミング解禁も大きな話題を呼んだ1981年のアルバム『A LONG VACATION』収録の一曲だ。CMソングにも用いられ、数々のアーティストがカバーしてきた名曲の歌い手として白羽の矢を立てたのは、“魔法の絨毯”で昨年に大きな飛躍を果たした川崎鷹也だった。

亀田:“魔法の絨毯”という曲がYouTubeでヒットしていて、すごくいい声だなと思って聴いてたんですよ。いまっぽさのなかにすごく正統なJ-POPマナーみたいなものを感じたし、声に輝きと陰りの両方があった。川崎さんの歌だったら、キラキラしたあの1980年代の世界に、令和の色彩感を加えることができるんじゃないかと思ったんですね。

でも、オファーしようと思っても連絡先がわからない。ホームページの「CONTACT」の欄から「松本隆さんのトリビュートアルバムをつくっているんですけども、そこで“君は天然色”をやりたいと思っていて、川崎鷹也さんに歌っていただけないでしょうか?」というメッセージをスタッフから送ってもらいました。真正面からお願いしたら快諾してくださった。自分としても手応えのある出来栄えになったなと思います。

川崎鷹也
川崎鷹也

オリジナル曲にかなり忠実なアレンジがなされた同曲のなかでも、イントロには亀田なりの原曲へのオマージュが込められているという。

亀田:イントロのピアノのホーリーなフレーズは、オリジナルのエンディングについているものなんですね。何故そういうことをしたかと言うと、“君は天然色”はたくさんのアーティストがカバーしてきたし、『A LONG VACATION』の40周年ということもあって、大滝詠一さんの原曲自体も世の中に流れてきているタイミングでもあった。いろんなものが1周、2周、3周して、循環の起点と終点の区別がつかなくなってきているような、それがなだらかにつながっている感覚があるんですね。だから、この曲のエンディングをあえてイントロに持ってくることによって、そういう音楽の循環みたいなものを表現したかった。ぼくはこのバトンを受け取って循環させる役目ですということを伝えたかったんです。

川崎鷹也“君は天然色”を聴く(Spotifyを開く

君は天然色 / 川崎鷹也
作曲:大瀧詠一(オリジナルアーティスト:大滝詠一 / 1981年リリース)

Produced & Arranged by 亀田誠治
Recording & Mixing Engineer:今井邦彦(OORONG-SHA)
Assistant Engineer:國土祐希(Mouri Artworks Studio)、眞鍋 広(VICTOR STUDIO)、萩原雪乃(VICTOR STUDIO)、豊田泰孝(誠屋)
Recording at VICTOR STUDIO
Vocal Recording & Mixing at Mouri Artworks Studio

Vocal:川崎鷹也
Piano:斎藤有太
Drums:河村“カースケ”智康
Guitars:佐橋佳幸
Bass:亀田誠治
Strings:今野 均ストリングス
Manipulator:豊田泰孝(誠屋)

亀田誠治

Page 1
次へ

イベント情報

『松本隆トリビュートを2倍楽しむプレイリスト』

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』を、制作総指揮をつとめた亀田誠治が全曲解説!(インタビュアー:柴那典)

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』

初回限定生産盤(CD+LP+豪華特典本)

2021年7月14日(水)発売
価格:11,000円(税込)
COZP-1747-8

1. 夏色のおもいで / 吉岡聖恵
2. 君は天然色 / 川崎鷹也
3. SWEET MEMORIES / 幾田りら
4. SEPTEMBER / 宮本浩次
5. Woman“Wの悲劇”より / 池田エライザ
6. セクシャルバイオレットNo.1 / B'z
7. スローなブギにしてくれ(I want you) / GLIM SPANKY
8. キャンディ / 三浦大知
9. 風の谷のナウシカ / Daoko
10. ルビーの指環 / 横山剣(クレイジーケンバンド)
11. 風をあつめて / MAYU・manaka・アサヒ(Little Glee Monster)

松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム
『風街に連れてって!』

通常盤(CD)

2021年7月14日(水)発売
価格:3,300円(税込)
COCP-41453

プロフィール

亀田誠治(かめだ せいじ)
亀田誠治(かめだ せいじ)

1964年生まれ。音楽プロデューサー・編曲家として数多くのヒット曲を生み出し、ベーシストとしても様々なアーティストのレコーディングやライブに参加。2004年には椎名林檎らと東京事変を結成。2005年からはBank Bandのベーシストとして『ap bank fes』に参加。2007年および2015年には日本レコード大賞で編曲賞、2021年には映画『糸』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説するNHK Eテレの音楽教養番組『亀田音楽専門学校』シリーズへの出演や、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽を体験できるフリーイベント『日比谷音楽祭』の実行委員長を務めるなど、さまざまなかたちで音楽の魅力を発信している。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手掛ける。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

感想をお聞かせください

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答を選択してください

ご協力ありがとうございました。

Category カテゴリー

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。