フィッシュマンズの音楽は世代を超える 崎山蒼志ら3人が綴る魅力

フィッシュマンズの音楽は世代を超える 崎山蒼志ら3人が綴る魅力

2021/07/09
リードテキスト・編集
井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

「遠いあの日と今日、私とフィッシュマンズ」(崎山蒼志)

フィッシュマンズの音楽を聴くとしばらくフィッシュマンズの音楽がずっと鳴っている。例えばオーディオ再生を止めて眠りにつき、そして迎えた翌朝に流れている。電車に乗っているとき、あるフレーズがふと脳裏に浮かび上がり、それを反芻している自分がいる。佐藤さんの歌声と聴こえてくる歌詞はそうして反芻するたびに優しくて、悲しくて私は気持ちと涙が一緒に込み上げるときの熱を感じる。

フィッシュマンズの音楽は聴いていると浮遊感ある音数の少ないサウンドが目立ってくる。ギターのフレーズ、もっと音を足してしまいそうになるだろうに、「えっ!」というほどシンプルなときもあり、その反復が後に異様なほど引き立ってくる。かと思えば大胆なファズっぽい音色のギターフレーズが響き渡る。エレピの浮遊感も欠かせないサウンドだろう。ダブと低くうねるベース、ドラムが軽やかでいて力強く、紡ぎ出される一体のグルーヴ感は思わずうなってしまうほど素晴らしい。

シンセや声、自然音っぽいサウンドの入れ方、選び方も独自の美学が光る。隙がなく無駄のない音像。力が抜けているようで、とんでもないほどのストイックさを感じる。一曲一曲の長さも、ここは聞かれないだろうからと変に切り取らず没入感をそのままに感じる最適な長さで、聴き手を底のない無限の音楽世界へと連れ込む。

『映画:フィッシュマンズ』© 2021 THE FISHMANS MOVIE
『映画:フィッシュマンズ』© 2021 THE FISHMANS MOVIE

それにしても不思議な音楽だ。いま、私は朝部屋でフィッシュマンズの音楽を聴きながらこれを書いているのだが、靄がかった峠の神社の駐車場で、遠い夏の夕暮れ国道沿いで、冬の夜道で、ひだまりのなかで聴いている気がするし、それらの場所から聴こえてきているかのようにさえ思えてくる。積み重なった時間とともにどこまでも聴き手の想像力を掻き立て、聴き手のなかにある景色を広げてくれる。佐藤さんの遠くに投げかけるような柔らかい歌声がなんとも神秘的だ。

また、ライブ版も何て素晴らしい次の曲への導入の仕方、曲順、滑らかに不意をつかれ、楽しくもあり同時に感嘆する。ビートスイッチといえるのか音進行が突然なくなったり、サンプリングをしたりとヒップホップ的要素も感じる。音使いや歌詞からは時々パンクな一面も垣間みることができる。あらゆる音楽を感じさせながらも圧倒的にフィッシュマンズでいる。いつまでも新しく普遍的な、あらためてものすごいバランス感のバンドだ。

フィッシュマンズのライブアルバム『8月の現状』を聴く(Spotifyを開く

特有の浮遊感から夢のなかのように思える瞬間も多々あるが、時の流れていく「日常」と非常に合致している音楽だとも思う。あの日、あの場所、今日と変わらず夜は静かで昼間は陰り、青空と雲が流れている。風の質感、そういったあの日と共通する万物の動きや空気感を根源的に捉えている、またはそれ自体のような音楽だとも不意に思った。と瞬間に知らない景色がわっとなだれ込む。胸ぐらを掴まれ、一人の人間の視界が広がった。

これからも私はフィッシュマンズの音楽と時間をともにしていく。何度も考えその素晴らしさを噛みしめて。

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作品情報

『映画:フィッシュマンズ』
『映画:フィッシュマンズ』

2021年7月9日(金)から新宿バルト9、CINE QUINTOほかで公開

監督:手嶋悠貴
出演:
佐藤伸治
茂木欣一
小嶋謙介
柏原譲
HAKASE-SUN
HONZI
関口“dARTs”道生
木暮晋也
小宮山聖
ZAK
原田郁子(クラムボン)
UA
ハナレグミ
YO-KING(真心ブラザーズ)
こだま和文
上映時間:172分
配給:ACTV JAPAN、イハフィルムズ

プロフィール

佐藤千亜妃(さとう ちあき)

1988年9月20日、岩手県出身。2007年にきのこ帝国を結成し、Vo / Gt / 作詞作曲を担当。2015年に『桜が咲く前に』でメジャーデビュー。2019年に活動休止を発表。現在はソロとして活動中。2019年にファーストソロアルバム『PLANET』をリリースし、盛岡と東京で初のワンマンライブを開催。2021年3月に約1年ぶりとなるシングル『声』をリリース。4月スタートの連続ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系 木曜22:00~)の主題歌に新曲“カタワレ”が決定。

草野なつか(くさの なつか)

1985年生まれ、神奈川県出身。映画作家。東海大学文学部文芸創作学科卒業、映画美学校12期フィクション・コース修了。2014年『螺旋銀河』で長編映画を初監督。『第11回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』にてSKIPシティアワードと監督賞を受賞。2018年長編監督2作目となる『王国(あるいはその家について)』が英国映画協会が選ぶ「1925~2019年、それぞれの年の優れた日本映画」の2019年で選ばれるなど、期待の俊英として注目を集めている。

崎山蒼志(さきやま そうし)

2002年生まれ、静岡県浜松市出身。2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛けるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。また『FUJI ROCK FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』など、大型フェスからのオファーも多い。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。初のバンドスタイルでのリリースライブは即日完売。3月31日には早くも新曲“逆行”を配信リリースした。

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