たなかみさき×長田杏奈が語る 自分の価値を信じるための筋トレ

たなかみさき×長田杏奈が語る 自分の価値を信じるための筋トレ

2021/04/30
インタビュー・テキスト
松井友里
編集:井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

国際女性デーの2021年3月8日、Spotifyがプラットフォーム上に1つのスペースを立ち上げた。「EQUAL(イコール)」と呼ばれるその場所では、女性アーティストの作品や、女性が出演・制作するポッドキャストが紹介されている。また同スペースの発足をきっかけに、今後、オーディオ業界におけるジェンダーギャップ解消に向けた助成金を提供していくことも発表された。

このスペースが発足した背景には、アメリカのアネンバーグ財団とSpotifyが協力して行なった調査の結果がある。そこには、配信中のポッドキャストにおいて女性プレイヤーが全体の20%に満たないなど、音楽業界において、活躍している女性がいまだ少ないという事実が記されていた。

現在の社会のそこかしこには、悲しいかな、「EQUAL」とはいいがたい状況があふれている。いびつなパワーバランスや、それを助長する社会構造を手直しするため前進しようとするとき、私たちはどのようなことから考え、何を大切にしていくべきだろうか。

ポッドキャスト番組『長田杏奈のなんかなんかコスメ』を配信する美容ライターの長田杏奈と、「深夜の保健室」がテーマのラジオ&ポッドキャスト『MIDNIGHT CHIME』のナビゲーターをつとめるイラストレーターのたなかみさきとともに話し合った。

なぜポッドキャストには女性プレイヤーが少ない? 「当たり前」に存在している性差別

―ポッドキャストの女性プレイヤーが少ない状況を受け、このたびSpotifyが「EQUAL」という場所を立ち上げたわけですが、ポッドキャストでご自身の番組を持つおふたりは、テレビやラジオなどさまざまなメディアにおいて、女性がホストを務めるプログラムが少ないことについてどのように思われますか?

「EQUAL」内で4月28日に公開された新たなプレイリスト。カバー写真はCHAI(Spotifyを開く

長田:私も含め、この国で生まれ育った人は見慣れちゃっていると思うのですが、以前スウェーデンに住んでいる翻訳家の方とお話ししたら、日本のテレビ番組で男性のメインキャスターに女性のアシスタントがつく構図が異様に見えると言っていました。

あとは日本に限らず、女性が表現することに対して「自己顕示欲」とか「自意識過剰」みたいなレッテルが貼られて冷笑されやすい状況があると思います。だから、人前で喋ることへのハードルも高くて、ポッドキャストの女性プレイヤーが少ないのかなって。

長田杏奈(おさだ あんな)<br>ライター。美容をメインに、フェムケアについての執筆やインタビュー記事も手がける。趣味は植物栽培。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)、責任編集に『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)。
長田杏奈(おさだ あんな)
ライター。美容をメインに、フェムケアについての執筆やインタビュー記事も手がける。趣味は植物栽培。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)、責任編集に『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)。

―女性が表現を行う場合、内容以前のハードルがあるのではないかということですね。

たなか:現状は女性が表立って何か発言しようとすると、女性というだけで特別な意味を持たされてしまったりしますよね。

日常生活の中でも、私がパートナーと一緒に飲みに行ったときに、お店の人が男性であるパートナーの職業しか聞いてこなかったりすると、そもそもの発言権が与えられてないように感じます。ナチュラルに差別されてるなと思って、そういう扱いを受けるたびにお酒を飲んで怒り狂ってます。

たなかみさき<br>1992年生まれフリーランスのイラストレーター。軽やかかつ叙情的な作品が特徴。J-WAVE『MIDNIGHT CHIME』のラジオ&ポッドキャストナビゲーターとしても活動。
たなかみさき
1992年生まれフリーランスのイラストレーター。軽やかかつ叙情的な作品が特徴。J-WAVE『MIDNIGHT CHIME』のラジオ&ポッドキャストナビゲーターとしても活動。

長田:とある雑誌で性差別についてのアンケートをとったときに、9割の女性が「性差別は存在しないと思う」と答えたんですって。でもそれって、その人たちが実際に性差別に直面していないという意味じゃないと思うんです。

差別的な状況が当たり前になっていたり、本当は社会の問題であるはずのことが個人の努力や才能や運の問題に置き換えられてしまったりしていて、自分でもそのことに気づけていないんじゃないかなって。

―「性差別は存在しないと思う」と答えた9割の人たちに、どうすればそうした現状に目を向けてもらえると思いますか?

長田:私が考えたのは、まずは「あなたがいる組織やコミュニティーの、トップにいる人と最も困っている人に目を向けてみてください」ってことです。

たとえば意思決定をしていたり、お金をいっぱいもらっていたりするのは役職についている男性で、不安定な雇用環境ややりがい搾取的な低賃金で大変な思いをしているのは女性である場合が多くないですか? と。まずは自分たちのいる場所を見つめてみることで、気づけることもあるのかなと思います。

たなか:差別しない人っていないと思うんです。人はすべてを理解しあえないし、本当には自分の気持ちしかわからない。生物学的にどうしても男性のほうが力持ちだとか、生まれ育った家の環境とか、自分ではどうしようもできない先天的な違いもありますし。

でもだからこそ、優位に立っている側の人が弱い立場にある人のことを考えるのは大切だし、立場にかかわらず、人の話をたくさん聞いたり、いろんな人と話したりしてどこまで気づけるかが重要だなと思います。

長田:本当にそうですね。そういう意味でもポッドキャストやラジオで、いろんな人のとりとめのない話を聞くのはすごくいいのかも。

あと「ご機嫌」とか「ポジティブ」とか「いつも笑顔」みたいなことが、女性の「モテ」や「愛され」の条件とされてきたのも足を引っ張っているなと思っています。

女性が困っていることや辛いことを伝えると「愚痴」とか「感情的で怖い」「ネガティブを引き寄せちゃうよ」などと蓋をされがちで、怒りや悲しみや自分が直面している課題や自分の感情をシェアすることにハードルの高さがあると思うんです。

あとは、「人様に迷惑をかけるな」と言われて育った現代人特有の、誰かを助けたり甘えさせてあげることはできるけど、誰かに甘えたり助けてもらったりすることは難しいメンタリティーも足かせになっているのかも。すぐに「オチは?」って言われて、脈略のないゆるいトークがしづらかったり……。

不平等な現状があるからこそ「わきまえるマジョリティー」であれ

―「EQUAL(平等)」な状態について考えるとき、長田さんがほかに気になられている課題はありますか。

長田:コロナ禍のなかで、DVや性暴力、望まない妊娠が増えていて、そうしたリスクを女性が不平等に負うことが多い現状について、すごく気になっています。

そもそも法律や制度をつくる場所に、女性の気持ちや体のことをわかる人が少なくて。意思決定をする場所のジェンダー不均衡のツケが、立場の弱い人たちに回っていることにすごくぞわぞわしてしまって。


長田は友人と共に「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」短縮ダイヤルや「DV相談ナビダイヤル」の非公式ステッカーを作成・配布している。

―そうした状況を変えようとするとき、クオータ制(議員や役員の一定数を女性と定める制度)のような考え方は重要になってくると思うのですが、まだまだ実際に導入されているところは少ない印象です。

長田:不均衡是正のために数の平等は大切だと思います。ただしそれはゴールではなくて、あくまで糸口にすぎないんですよね。そこでやっとスタート地点に立つというか。

私自身は、シスジェンダーで、ヘテロセクシュアルで、日本国籍があって……と、マジョリティーの立場であることも多いと思うんです。そういう場合に忘れたくないのは、以前にジェンダークィアの友達がぼやいていた「マジョリティーはわきまえてよ」という言葉で。「わきまえるマジョリティー」として当事者の声を聞いたり、マイクや席を譲ることが大事だと思ってます。

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番組情報

『長田杏奈のなんかなんかコスメ』

「美容は自尊心の筋トレ」をモットーとする美容ライターが、気になるコスメについて、口癖の「なんか」と共に紹介。ポッドキャストと連動したニュースレター「なんかなんか通信」も配信中。

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『MIDNIGHT CHIME』

東京のFMラジオ局J-WAVE(81.3FM)で毎週月曜26:00~放送中のラジオ番組。ゲストと共に恋や仕事、家族、性の話題について語りあうほか、リスナーの皆さんの悩みにたなかがイラストで答える企画も。

プロフィール

長田杏奈(おさだ あんな)

ライター。美容をメインに、フェムケアについての執筆やインタビュー記事も手がける。趣味は植物栽培。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)、責任編集に『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)。

たなかみさき

1992年生まれフリーランスのイラストレーター。軽やかかつ叙情的な作品が特徴。J-WAVE『MIDNIGHT CHIME』のラジオナビゲーターとしても活動。

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