アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

2021/04/30
田中絵里菜(Erinam)『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』、桑畑優香『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲

ビジネスモデルは韓国を大いに参考にしつつ、日本は日本独自の音楽をそのまま発信していくべき(桑畑)

―ところで、今年4月にBTSがback numberとのコラボ曲“Film out”をリリースしました。これまでもK-POPアーティストは、日本語や中国語の歌詞を歌うといったローカライゼーションを積極的に行ってきました。それがサブスクによって、今度は世界中で聴かれるといった現象が起きていますが、そのことについてお二人はどのように感じますか?

田中:私がK-POPにハマった10年くらい前とは、ローカライゼーションの意味合いもちょっと変わってきているのかなと個人的には思っています。例えばBoAや少女時代、東方神起がやっていたのは完全に日本のマーケットに向けたローカライゼーションで、歌詞だけでなくファッションやアートワークも含めて日本で売るための展開方法でした。

でも最近のK-POPが日本語で歌うのは、昔みたいに完全に日本に寄せようとしているわけではないというか。今はネットで海外にも同時に情報を流せるので、カルチャーに時差がなくなっていきていますよね。「日本で流行っていて韓国で流行っていない」とか、あるいはその逆といった格差が、ファッションも音楽も昔ほどありません。もちろん、海外のアーティストが自分の国の言葉で歌ってくれたらファンとしては嬉しい気持ちもありますが。

BTS“Film out”を聴く(Spotifyを開く

―「日本に寄せる」というよりは、どちらかというと日本語の響きの良さ、日本っぽさを「要素」として自分たちの世界観に取り入れ、同時に世界へ発信していくような感覚なのかも知れないですね。

桑畑:おっしゃる通りだと思います。今回の“Film out”もローカリゼーションというよりはコラボレーションという感じがしますし、対等に音楽を作る時代に来ているように思いますね。それは、日本のアーティスト側も今までなかなか出来なかったところでもあるので、お互いにすごく健全だなと思っています。アメリカに住むARMYによると、最近はCDショップへ行くとBTSの作品が一番いい棚に置いてあって、そこには日本語版のBTSのCDも並んでいるんですって。意外なところで波及効果が出てきて、また新しい音楽の楽しみ方、ビジネスのあり方が出てきているのかなと思いましたね。

―ビジネスといえば、昨年のコロナ禍でエンタメ業界は大打撃を受けて、大きなパラダイムシフトが起きています。田中さんは著書の中で、「韓国のビジネスモデルは、これからの日本にとって大きなヒントになる」と書かれていました。

田中:日本はコロナになってからUberEatsが急に流行ったりオンラインライブが始まったりしていましたが、実は韓国のマーケットは、コロナ禍になる以前から今の状況に適した環境が整っています。例えば昨年4月には、すでにBeyond Liveというオンラインライブを始めていて。しかもただ映像を流すだけではなく、VRやARといった技術をどんどん取り入れ、チャット機能も搭載しファンとコミュニケーションも取れるようにしていました。日本はそこまでの体制を整えるのに、結構時間がかかっていたと思うんですよね。

―なぜ韓国は、オンラインの環境をそんなに早く整えられたのでしょうか。

田中:「海外に広まったK-POPのファンを楽しませるために、どういうコンテンツやプラットフォームが必要なのか?」ということを、コロナの前からずっと考えていたので既に準備が完了している状態だったからだと思います。韓国のアーティストが日本によく来るのも、キャパの大きなライブ会場が韓国よりもたくさんあり、ツアーをした時の収益が比べ物にならないくらい大きいからなのですよね。そのくらい日本のマーケットは大きいので、海外に出なくても国内で充分回してこられたわけです。そのため、ネット配信によって国内のコンテンツを海外に広めていこうという意識がそもそも低かった。その違いはあると思います。

桑畑:今、田中さんがおっしゃったこと以外でも、例えばソングキャンプ(複数のコンポーザーが集まってコライトすること)も今はオンラインで出来るようになりましたよね。きっとBTSとback numberのコラボも膝を突き合わせてではなくオンラインで制作していったのではないでしょうか。今後、そういうシステムがますます発達していくと思いますし、今のところ最先端にいるのが韓国という気がしますね。

―韓国のマーケット、ビジネスモデルをずっと見てこられたお二人は、今後日本はどうしていったら良いと思いますか?

田中:とりあえず間口を広げて入りやすいよう無料コンテンツを増やすなど、ファンが言語や時間に制約されず楽しめるコンテンツを提供するというのは、一つ見習える部分なのかなと思います。ただ、これまでポジティブに作用してきた韓国の制約の少なさや緩さが、契約や賃金の面でアーティストにしわ寄せがいくなど少しずつ破綻してきてはいるんですよ。逆に日本はサブスクが浸透してきたことによって、ビジネスモデルも徐々に変わってきていますし、今まさに両国ともターニングポイントにあるのかなと思います。

―ある意味、今は日本にとってチャンスなのかも知れないですね。

田中:今まで日本は権利を大事していたからこそ、利益を出していたところもあるので、それをいきなり手放すのはなかなか難しいとは思うのですけどね。

桑畑:個人的には日本のアーティストも世界に出たらいいなあと思いつつ、K-POPの一部みたいな感じで出ていく必要も別にないかなと思うんですよね。例えばLiSAさんの歌う『鬼滅の刃』のオープニングテーマ曲“紅蓮華”は、海外でもかなり再生されていますよね。米津玄師さんの“Lemon”や、YOASOBIの“夜に駆ける”もそう。ビジネスモデルは韓国を大いに参考にしつつ、日本は日本独自の音楽をそのまま発信していくべきかなと。

―確かにそうですね。

桑畑:やはり日本はアニメが強いんですよね。海外では30年くらい前から、もはやニュースにもならないくらい定着しています。例えば、『鬼滅の刃』にしてもそうですが、日本が持っている強いコンテンツと合わせて日本の音楽を世界に出していく。韓国のような「バリアフリーのプラットフォーム」が日本に必要な時代が来たのかなと思います。そこでアニメを観た人がアニソンを好きになったり、そこからJ-POPのど真ん中にハマったりすることもあるかも知れない。そんな化学反応が起きる時を楽しみにしています。

『K-POP Fresh』を聴く(Spotifyを開く

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プロフィール

田中絵里菜(たなか えりな)

1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン / 編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで、撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してから、現在はフリーランスのデザイナーおよびライターとして活動。過去に『GINZA』『an·an』『Quick Japan』『ユリイカ』『TRANSIT』などで韓国カルチャーについてのコラムを執筆。韓国 / 日本に留まらず、現代のミレニアルズを惹きつけるクリエイティブやカルチャーについて制作 / 発信を続けている。

桑畑優香(くわはた ゆか)

ライター・翻訳家。1994年に『101回目のプロポーズ』の韓国リメイク版を見て、似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューを中心に『韓国TVドラマガイド』『韓国テレビドラマコレクション』『韓流旋風』『AERA』『FRaU』『Yahoo! ニュース』などに寄稿。訳書に『韓国映画俳優辞典』(ダイヤモンド社・共訳)、『韓国・ソルビママ式 子どもを英語好きにする秘密のメソッド』(小学館)、『韓国映画100選』(クオン)、『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY わたしたちは連帯する』(イースト・プレス)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)など。

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