アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

アメリカを夢中にさせたBTS なぜK-POPは海を渡れたのか

2021/04/30
田中絵里菜(Erinam)『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』、桑畑優香『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲

韓国のアイドルたちは、SNSを使ってファンと密なコミュニケーションを取っているために、お互いの距離が近過ぎてしまう面もあります(田中)

―田中さんの著書にも書かれていましたが、ファンダムによるそうした様々な普及活動が、K-POPビギナーをあっという間に「沼らせる」ことに一役買っている気がします。

田中:さっきお話ししたように、韓国では推しのアーティストがカムバ時期に入ったとき、毎日の音楽番組でいかに1位を獲得させられるかがファンダムのミッションなんですよね。ライブやイベントがあれば花輪や米俵を送ったり、誕生日の時にファンダムでお金を出し合って街頭広告を打ったり。アーティストに「贈り物」をするというよりは、アーティストを自分たちの手で「サポート」する、自分たちが広報担当として活動しています。日本だと事務所やレーベルの制約もあるし、そこまでできないですよね。楽曲を丸々フル尺で使って解説動画を上げたり、コピーしてダンス動画を上げたり、そういう素人の投稿を一々削除せずに「みんなでシェアして楽しもうよ」という空気があるのは大きいと思います。

BTS“Life Goes On”を聴く(Spotifyを開く

桑畑:インタラクティブな流れが出来ていますよね。例えば韓国ドラマでもそういった流れが昔からあります。ファンが気に入らないと放送局にクレームやリクエストを入れて、それであらすじが変わっていくとか(笑)。作り手と受け手がとても近くて、それを楽しんでいるところもあるのかなと。

―インタラクティブといえば、日本でも例えばAKBグループの「総選挙」のような、ファン参加型のイベントがあったり、所謂オーディション番組も1990年代からあったりしました。これらが韓国のエンタメに影響を与えた部分もあるのでしょうか。

田中:それは相当あるみたいです。今回、著書の中で色々なK-POP関係者に取材をしたのですが、韓国で流行っているオーディション番組『PRODUCE 101』もAKBの投票システムを取り入れているし、ティザー映像(リリースまでにアルバムの全貌を徐々に明かしていく予告動画)も元々はavexのスポットCM、例えば倖田來未さんが2か月かけて全12曲の新曲の全貌を見せていった手法などを模倣していると言っていました。


WINNERのデビューアルバム『2014 S/S』のティザー

田中:そういう日本独自のシステムを、韓国のフォーマットにどう落とし込むかを考えた結果、SNSを活用したり、新たなアプリやプラットフォームを導入したりしているのだと思いますね。それで、K-POPならではの文化が形成されていった例はたくさんあるんじゃないかなと思います。

―影響を与えていたはずの日本のエンタメシステムが、今やすっかり韓国に追い抜かれてしまったのはなんだか皮肉にも感じてしまいます(笑)。

田中:日本の場合はマスメディアの影響力がとても大きいのですが、韓国はそこまで芸能事務所がマスメディアに力を持っていなくて、ニューメディアに頼るしかない背景もあり、それがうまく時代に合っていたのかなとは個人的に思います。それと、一つの成功例が生まれたときに、韓国の場合はみんなこぞって同じ方向を向いて進んでいくところがあって。日本の場合、例えばジャニーズのノウハウを他の事務所がやろうとはしないじゃないですか。韓国の場合は例えばSMエンターテインメント(東方神起、少女時代、SuperMなどが所属する芸能プロダクション)が成功したら、他の事務所も模倣するから、国内でライバルが多くてその結果クオリティが上がっていく部分も大きいと思います。

桑畑:発信の仕方が韓国は上手なのだと思いますね。最近はそうでもなくなりましたが、ちょっと前までジャニーズはネットに画像を上げることも厳しく規制していたり、ミュージックビデオもフル尺では流さなかったりしたじゃないですか。そうすると、遠い国にいるジャパニーズカルチャー好きの人に最新の情報が届かないことも多いんですよね。その点、韓国は早い段階でガンガン映像を解禁したりして。そうするとファンの間で拡散しやすいのだと思います。

―ファンダムが大きな影響力を持つことは、K-POPを世界中に広めるメリットがある一方、問題点もあるような気がします。日本のマネジメントが規制を厳しくしているのは、自分たちの既得権益を守るだけでなくアーティストの権利を守るためでもあると思うのですよね。そのあたりはどう考えますか?

田中:自分たちが声を上げたことによって、イベントを中止にさせたり一度決まったことを覆したり、そういう成功体験をファンダムたちが得たことで、「自分たちこそ正義」となって暴走してしまうケースはあると思います。以前なら、例えば自分が「気に入らない」と思ったらそのグループの応援をやめるだけの話だったのが、今まで買ったグッズを全て事務所に送りつけるなど、ちょっと行き過ぎた行為が一部では起きているようです。さっきお話しした『PRODUCE 101』の影響もあると思うのですが、「あなたたち視聴者こそがこの番組のプロデューサーです」と言われたことで、常にプロデューサー目線でアーティストを見たり、何か行動を起こしたりするようになったのは、良い部分と悪い部分の両方があるなと感じます。

日本のアイドルたちと違って韓国のアイドルたちは、SNSを使ってファンと密なコミュニケーションを取っているために、お互いの距離が近過ぎてしまう面もあります。遠く離れたところにいるファンとアーティストを繋ぐ便利なツールである一方、アイドルにかかる負荷もかなり大きいですよね。そこはファンももう少し考えなければいけないところ。事務所は事務所で、アーティストにどこまで話させるのかコントロールすべきだとも思っています。

桑畑:以前は遠くから眺める存在だったのが、友達みたいな感覚になってきていて。すごくいいことでもあるけど、最近は変な噂があっという間に広がったり、過去にまで遡って言動を咎められたり。それもファンダムが、ここまで大きくなった弊害の一つなのかなと思います。アーティストに対して心のケアを充分にする必要がありますし、最近は韓国でも誹謗中傷に対して法的な手段を取る事務所が増えてきました。今後、そういった対処法はより大きな課題になっていくでしょうね。

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プロフィール

田中絵里菜(たなか えりな)

1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン / 編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで、撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してから、現在はフリーランスのデザイナーおよびライターとして活動。過去に『GINZA』『an·an』『Quick Japan』『ユリイカ』『TRANSIT』などで韓国カルチャーについてのコラムを執筆。韓国 / 日本に留まらず、現代のミレニアルズを惹きつけるクリエイティブやカルチャーについて制作 / 発信を続けている。

桑畑優香(くわはた ゆか)

ライター・翻訳家。1994年に『101回目のプロポーズ』の韓国リメイク版を見て、似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューを中心に『韓国TVドラマガイド』『韓国テレビドラマコレクション』『韓流旋風』『AERA』『FRaU』『Yahoo! ニュース』などに寄稿。訳書に『韓国映画俳優辞典』(ダイヤモンド社・共訳)、『韓国・ソルビママ式 子どもを英語好きにする秘密のメソッド』(小学館)、『韓国映画100選』(クオン)、『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY わたしたちは連帯する』(イースト・プレス)、『家にいるのに家に帰りたい』(辰巳出版)など。

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