多彩な小泉今日子の歌手としての魅力 現在までの曲で振り返る

(メイン画像 撮影:岩澤高雄)

2020年に再考する、歌手としての小泉今日子

一瞬、『時間ですよ』(1965年放送のテレビドラマ)の森光子や『寺内貫太郎一家』(1974年放送のテレビドラマ)の加藤治子の姿がオーバーラップした。今年3月に上演された舞台『︎マイ・ラスト・ソング~久世さんが残してくれた歌~「懐かしの水曜劇場編」』のステージに、和装の小泉今日子が登場したときのことだ。

恩師・久世光彦の同名エッセイをもとに、浜田真理子のピアノ弾き語りと、小泉の朗読で構成される同公演は2008年にスタート。以来、彼女のライフワークとなり、毎回趣向を凝らした内容で人気を集めている。その日のテーマは「懐かしの水曜劇場」だったため、件の出で立ちで現れたわけだが、舞台上には『時間ですよ』で実際に使用された銭湯「松の湯」ののれんも登場。場内から「キョンキョン!」と声が飛ぶと「今日はそういう設定じゃないの!」と笑い、小泉の「おかみさ~ん」に客席が「時間ですよ~!」と応えるほほえましい一幕もあった。

実は筆者は小泉と同学齢。高校1年の春休みに彼女が“私の16才”(1982年)でデビューして以来、リアルタイムでその活躍を見聞きしてきた。たとえ面識はなくとも、同い年の動向は気になるもの。聖子ちゃんカットのアイドル歌手として世に出た少女が、今では森光子をオマージュした女将さんに扮し、恩師の才能と教養を今に伝える語り部を堂々と務めている。その姿を目の当たりにして、38年間の記憶がフラッシュバックした一夜となった。

小泉今日子(こいずみ きょうこ) 撮影:岩澤高雄

その小泉今日子は近年、女優やプロデューサーとしての活動が顕著となっているが、今年は久々に歌手としての話題も数多く提供してくれている。

まず7月公開の映画『8日で死んだ怪獣の12日の物語』の主題歌に“連れてってファンタァジェン”(1987年発売のアルバム『Phantasien』収録曲)が起用されたこと。それは監督の岩井俊二からのオファーによるものだったが、小泉は33年ぶりのセルフカバーで、そのラブコールに応えたのだ。

そして8月21日には8年ぶりの単独ライブ『唄うコイズミさん』を、自身初の無観客・配信スタイルで開催。同じ日にこれまでリリースしてきた全104タイトル、726曲のストリーミング配信の開始も発表したため、メディアでは「キョンキョン、サブスク解禁!」が大きく取り上げられた。

小泉今日子の配信ライブの様子 撮影:岩澤高雄

本人いわく、最近は「歌手・小泉今日子」を知らない世代もいるらしいが、Spotifyの小泉の月間リスナーは早くも20万人を突破。解禁と同時に作成されたプレイリスト『This is 小泉今日子』も好評を博していることから、コアユーザーの若年層にも浸透していることが窺える。ここからはそのプレイリスト(本人からのコメントに加え、全50曲で構成)に基づき、小泉のキャリアを振り返りたい。

『This Is 小泉今日子』プレイリストを聴く(Spotifyを開く

「人とは違う女のコ像」を模索した1980年代

まずは50曲中24曲を占める1980年代。有力新人が多数デビューした1982年に歌手となった小泉は、もともと「早く自立したい」と考えていたこともあり、芸能界を就職先として捉え、最初の1年間は様子見でアイドルに徹する。確かにデビュー曲“私の16才”や“素敵なラブリーボーイ”(1982年)は従来のアイドルのイメージを踏襲した作品であった。

“私の16才”を聴く(Spotifyを開く

“素敵なラブリーボーイ”を聴く(Spotifyを開く

だが1983年春、小泉は独断で髪をショートにし、王道路線に別れを告げる。それはタレントとしての最初の意思表明だったが、ときを同じくして、ビクターの担当ディレクターが田村充義に交代。スペクトラムや山田邦子など、企画性の高い作品作りで頭角を現していた田村との出会いが小泉をブレイクに導くことになる。

「人とは違う女のコ像を作りたい」小泉と「新鮮味があって面白いことをやりたい」田村――。その化学反応が“まっ赤な女の子”(1983年)から始まる、自己紹介風のキャラクター路線を生み出し、トップ10ヒットの連発に結びついたのだ。“艶姿ナミダ娘”(1983年)、“ヤマトナデシコ七変化”(1984年)など、キャッチコピー風のタイトルもインパクト抜群で、小泉は松田聖子、中森明菜に次ぐポジションを獲得。その路線の極めつけがアイドルをセルフパロディ化した“なんてったってアイドル”(1985年)であった。

“まっ赤な女の子”を聴く(Spotifyを開く

“艶姿ナミダ娘”を聴く(Spotifyを開く

“ヤマトナデシコ七変化”を聴く(Spotifyを開く

当の小泉は「大人が悪ふざけしている」と思いながらも「これができるのは私だけ」とも自認。己のポジションを客観的に見極め、プロに徹することで、「やんちゃ」で「尖った」新しいアイドル像を作り上げる。過激な戦略に対しては、一部で「あざとい」との声も上がったが、いつの時代もフロントランナーへの風当たりは強いもの。アイドル初の「別名義使用(あんみつ姫、KYON²)」や「12インチシングルの発売」でも話題を振りまいた彼女は、主演ドラマでも高視聴率を獲得。奇抜なファッションが常に注目され、ラジオで紹介したミヒャエル・エンデの『モモ』(岩波少年文庫)がベストセラーとなるなど、歌手にとどまらず、トレンドリーダーとしての地位を確立していく。

“夜明けのMEW”や“木枯しに抱かれて”など、今も歌い継がれる曲をヒットさせた1986年以降は等身大の魅力を訴求していくが、1989年には当時最先端のハウスミュージックにも挑戦。自ら近田春夫を指名し“Fade Out”をヒットさせるなど、アンテナの高さを改めて実証する。それは出演するCMの商品がことごとく売り上げを伸ばし、「CM女王」と呼ばれ始めた時期でもあった。

“夜明けのMEW”を聴く(Spotifyを開く

“木枯しに抱かれて”を聴く(Spotifyを開く

“Fade Out”を聴く(Spotifyを開く

作詞やエッセイなど、ペンの分野で才能を発揮する90年代から現在

ではプレイリストに13曲が収録された1990年代はどうだろう。この時期の小泉は自作詞中心の活動に移行。“あなたに会えてよかった”(1991年)が女性ソロアイドル初のミリオンセールスを記録し、『日本レコード大賞』の「作詞賞」を受賞するなど、新たな才能を開花させる。同作の作曲・編曲は当時新鋭の小林武史だったが、ほかにも藤原ヒロシ、奥田民生、鈴木祥子、菅野よう子など、自分と同世代の当時若手だったミュージシャンと組んで、ヒットを重ねていった。それは彼女自身に旬の才能を見つける目と、才能を惹きつける力が備わっていたからに他ならない。

“あなたに会えてよかった”を聴く(Spotifyを開く

しかし30代を迎えた1990年代後半以降、小泉は徐々に女優業に重心を移していく。本人によると、常に面白いことを期待される音楽活動に疲れを感じ始めたからだと言うが、新しいことに挑戦する姿勢は芝居の世界でも変わらなかった。持ち前の「人たらし力」と吸収力も発揮した彼女はテレビドラマのみならず、映画や舞台にも本格的に進出し、役者としての地歩を固めていく。

そして2000年代、小泉に新しい肩書きが加わった。「書評家」と「エッセイスト」だ。少女時代から読書家だったことに加え、芸能界での経験や、多くの才人との交流が生かされたのだろう。筆者は彼女最大の魅力は「借り物ではなく自分の言葉で語れること」と「世の中がネガティブに捉えがちな事象(加齢や孤独など)をポジティブに受け入れる度量」にあると思っているが、独自の視点と語り口は新たなファンを獲得し、歌手、俳優、文筆業と3足の草鞋を履く唯一無二の存在となる。

今回のプレイリストには2000年代の7曲、2010年代の6曲も収録されている。ドラマ関連の企画盤を除くと、その多くが彼女の年輪や人生観を感じさせる作品だ。それは同年代へのエールを込めた『Nice Middle』(2008年)や、『Koizumi Chansonnier』(2012年)といったアルバム名からも滲み出ているが、それらの楽曲がアイドルだった頃の作品と並んでも違和感がないのは、あの甘い声が10代の頃からそれほど変わっていないからだろう。

『Nice Middle』を聴く(Spotifyを開く

『Koizumi Chansonnier』を聴く(Spotifyを開く

2018年に長年所属した事務所から独立した小泉は現在、舞台や映画のプロデュースに傾注する一方で賛否がわかれる社会的な意見も発信。近年は「丸腰であることが私の強み」と語っているが、おそらくこれからも融通無碍に、自分が「これ」と思ったことに挑み続けていくに違いない。時代とともに立ち位置や主戦場を変えながらも第一線を走り続ける多面的な存在。それこそが「This is 小泉今日子」なのだ。

リリース情報
『This Is 小泉今日子』プレイリスト
プロフィール
小泉今日子 (こいずみ きょうこ)

1982年「私の16才」で歌手デビュー。以後、「なんてったってアイドル」「学園天国」「あなたに会えてよかった」「優しい雨」など数々のヒットを放つ。女優として映画、舞台などの出演も多数。エッセイなど執筆家としても活躍中。2015年より自らが代表を務める株式会社明後日ではプロデューサーとして舞台制作を手掛ける。映像制作プロダクション新世界合同会社のメンバーでもあり、2020年8月28日公開の外山文治監督「ソワレ」にアソシエイトプロデューサーを務めた。



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