多彩な小泉今日子の歌手としての魅力 現在までの曲で振り返る

多彩な小泉今日子の歌手としての魅力 現在までの曲で振り返る

テキスト
濱口英樹
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

作詞やエッセイなど、ペンの分野で才能を発揮する90年代から現在

ではプレイリストに13曲が収録された1990年代はどうだろう。この時期の小泉は自作詞中心の活動に移行。“あなたに会えてよかった”(1991年)が女性ソロアイドル初のミリオンセールスを記録し、『日本レコード大賞』の「作詞賞」を受賞するなど、新たな才能を開花させる。同作の作曲・編曲は当時新鋭の小林武史だったが、ほかにも藤原ヒロシ、奥田民生、鈴木祥子、菅野よう子など、自分と同世代の当時若手だったミュージシャンと組んで、ヒットを重ねていった。それは彼女自身に旬の才能を見つける目と、才能を惹きつける力が備わっていたからに他ならない。

“あなたに会えてよかった”を聴く(Spotifyを開く

しかし30代を迎えた1990年代後半以降、小泉は徐々に女優業に重心を移していく。本人によると、常に面白いことを期待される音楽活動に疲れを感じ始めたからだと言うが、新しいことに挑戦する姿勢は芝居の世界でも変わらなかった。持ち前の「人たらし力」と吸収力も発揮した彼女はテレビドラマのみならず、映画や舞台にも本格的に進出し、役者としての地歩を固めていく。

そして2000年代、小泉に新しい肩書きが加わった。「書評家」と「エッセイスト」だ。少女時代から読書家だったことに加え、芸能界での経験や、多くの才人との交流が生かされたのだろう。筆者は彼女最大の魅力は「借り物ではなく自分の言葉で語れること」と「世の中がネガティブに捉えがちな事象(加齢や孤独など)をポジティブに受け入れる度量」にあると思っているが、独自の視点と語り口は新たなファンを獲得し、歌手、俳優、文筆業と3足の草鞋を履く唯一無二の存在となる。

今回のプレイリストには2000年代の7曲、2010年代の6曲も収録されている。ドラマ関連の企画盤を除くと、その多くが彼女の年輪や人生観を感じさせる作品だ。それは同年代へのエールを込めた『Nice Middle』(2008年)や、『Koizumi Chansonnier』(2012年)といったアルバム名からも滲み出ているが、それらの楽曲がアイドルだった頃の作品と並んでも違和感がないのは、あの甘い声が10代の頃からそれほど変わっていないからだろう。

『Nice Middle』を聴く(Spotifyを開く

『Koizumi Chansonnier』を聴く(Spotifyを開く

2018年に長年所属した事務所から独立した小泉は現在、舞台や映画のプロデュースに傾注する一方で賛否がわかれる社会的な意見も発信。近年は「丸腰であることが私の強み」と語っているが、おそらくこれからも融通無碍に、自分が「これ」と思ったことに挑み続けていくに違いない。時代とともに立ち位置や主戦場を変えながらも第一線を走り続ける多面的な存在。それこそが「This is 小泉今日子」なのだ。

Page 2
前へ

リリース情報

『This Is 小泉今日子』プレイリスト

プロフィール

小泉今日子(こいずみ きょうこ)

1982年「私の16才」で歌手デビュー。以後、「なんてったってアイドル」「学園天国」「あなたに会えてよかった」「優しい雨」など数々のヒットを放つ。女優として映画、舞台などの出演も多数。エッセイなど執筆家としても活躍中。2015年より自らが代表を務める株式会社明後日ではプロデューサーとして舞台制作を手掛ける。映像制作プロダクション新世界合同会社のメンバーでもあり、2020年8月28日公開の外山文治監督「ソワレ」にアソシエイトプロデューサーを務めた。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Kompass" ? コンパスとは

「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。