既報の通りスチャダラパーとライムスターのコラボレーションが満を持して実現する。あらためて説明するのもはばかられるが、互いに日本のヒップホップシーンの黎明期からキャリアをスタートさせ、音楽的にも立ち位置的にも独立独歩の道を進んできた同世代の3人組グループである。
しかし、シーンがまだ発展していない時代に登場した2組だからこそ、その関係性はバックグラウンドやコネクションの微妙な相違もあいまって、どこか緊張感を帯びた距離があったと認識しているリスナーは少なくないだろう。それは本人たちも部分的には認めている。
そして、時は経ち2020年。TOKYO FMの50周年アニバーサリー、今年デビュー30周年を迎えるスチャダラパー、昨年結成30周年を迎えたライムスターという3つの要素が絡み合い、待望のコラボレーションが実現した。
楽曲のタイトルはズバリ、“Forever Young”。プロデューサーは、2組とほぼ同期でありキエるマキュウのメンバーとして、あるいは日本のラップミュージックにおける「ヤバい音」を構築するサウンドエンジニアとしても知られるThe Anticipation Illicit Tsuboi。楽曲の情報解禁に併せてサンプリングソースや参加ミュージシャンのクレジットも公表されたが、ヒップホップの原理に則ったサウンドプロダクションとOKAMOTO'Sからハマ・オカモトとオカモトレイジも参加している生音が融合し、強烈かつ解放的なソウルネスとポップネスを誇るトラックが鳴っている。
そして、「まさに!」という喩えが満載のネームドロップが続々と投下され、「ニヤリ」が止まらないこの2組の掛け合いならではの諧謔と説得力、多幸感に満ちたマイクリレーはたまらないものがある。この30年もの間、なぜスチャダラパーとライムスターは栄枯盛衰の激しい音楽シーンの中で自らのヒップホップアティテュードとラップスタイルを貫き通せているのか? 今回のコラボレーションが実現するまでの過程や楽曲の手応えも含めて6人がおおいに語ってくれた。
※この取材は東京都の外出自粛要請が発表される前に実施しました。
10年以上の期間を経た、念願のコラボ実現に向けて
―「スチャダラパーからのライムスター」としては初対談ですか?
Mummy-D:うん。以前、6人で対談したことはあるけど、この企画で取材を受けるのは初めてだね。
―こちらも緊張しますね(笑)。
Mummy-D:話を掘ろうと思えばキリがないからね(笑)。
DJ JIN:いくらでも話が脱線していく可能性もあるし(笑)。
―まず思い出すのは、宇多丸さんがメインパーソナリティーを務めているTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の前身番組といえる『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』にスチャのみなさんがゲスト出演し、宇多丸さんがスチャへの愛憎入り交じった思いを語る回(2008年2月16日の放送回。「スチャダラパーと振り返る! ポスト・バブルと日本語ラップの20年」)がありましたよね(笑)。
Mummy-D:愛情じゃなくて愛憎なんだ(笑)。
Bose:あれはね、持ちネタだから(笑)。
宇多丸:年季の入ったひがみ芸(笑)。
Bose:僕らもパターンとして乗っかるやつ。
ANI:団体芸的なね。「押すなよ、押すなよ」的な(笑)。
―この曲の解禁時のコメントでも2組の絶妙な関係性と距離感、そしてこのコラボレーションがいかに特別であることがよくわかるんですけど。
Bose:前から一緒にやりたいねとはゴニョゴニョいっていて。
Mummy-D:10年以上前からいってるもんね。でも、なかなかタイミングが合わなくて。そこに世話好きのおばさんのTOKYO FMが「あんたたちそろそろくっ付いてみなさいよ」「あんまり長い春はよくないわよ」みたいな感じで引き寄せてくれて(笑)。ちなみに世話好きのおばさんというのは比喩だよ? 本当におばさんがいるわけじゃなくて。
―TOKYO FMの擬人化という(笑)。実際にコラボレーションの話が動き出したのはいつごろなんですか?
宇多丸:TOKYO FMに集まってミーティングしたのは2019年の10月くらいだった気がする。
Bose:一堂に会して曲の内容を決める時間もなかなかないから、一気にそのタイミングで話して。でも、ややこしいことはなにもなかったよね。
宇多丸:結局、この曲(トラック)になった経緯があって。じつはライムスターが『ダーティーサイエンス』(2013年1月リリースのメジャー8thアルバム)を作ってるときにすでにこの曲をスチャと一緒にやるイメージがあったんです。
ライムスター『ダーティーサイエンス』を聴く(Spotifyを開く)
―あ、Tsuboiさんからこのビートをだいぶ前にもらっていたということですか?
Mummy-D:その時点でこの曲をスチャとやったらいいんじゃないかって思ってたの。でも、なんとなく話が流れていっちゃって。「スチャさんは最近どんな感じなんですかね?」って探りを入れると、「ボーちゃん(Bose)は京都精華大学でバリバリ教員もやってるし、モチベーションはそんなに高くないらしい」とか話が入ってきて(笑)。
Bose:あくまで人づてにね(笑)。
Mummy-D:人づてにはいろんな噂が流れてくるから、「そうか、じゃあ今は誘わないほうがいいか」って思ったり。
Bose:間に人が入るとどうしてもそういう感じになっちゃうよね。お互い気遣うし。
Mummy-D:一緒にやりたいとは思うけど、実際やるとなるとちょっと怖いじゃん。失敗できないからさ。
―それは双方のファンも思ってるかもしれないですね。近年の交流でいえば、2015年にライムスター主催の野外フェス『人間交差点』にスチャが出演したり、あと去年の夏も『夏びらき MUSIC FESTIVAL』に2組とも出演しましたよね。
Mummy-D:『夏びらき』はけっこうデカかった。「こういうときに一緒にやれる曲が1曲あったらすげえ盛り上がっちゃうよね」って会話もあって。
Bose:そうなんだよね。
Mummy-D:『人間交差点』のときもすでにモヤモヤしてたから。一緒にやりたいトラックがすでにあったわけで。
―お互い30周年というタイミングも後押しした要因になったのではないかと。
Bose:TOKYO FMもそこを気にしてくれたんじゃないかな。
Mummy-D:TOKYO FMが50周年を迎えるから、50歳くらいのアーティストにお願いしたってポイントもあると思う。そこにお互いの30周年も重なって。
急行電車のスチャダラパーと鈍行列車のライムスター。当時の関係性を語る
―最初のミーティングでTsuboiさんのビートをみんなで聴いたんですか?
DJ JIN:それはミーティングを経てスチャ部屋に行ってからじゃない?
Bose:僕らのスタジオというか作業部屋ね。まずはこのトラックで1曲作ってみようってなったんだよね。でも、その時点で「同時に何曲かやってみない?」という話になった。
宇多丸:そう、じつは並行して進めているのがもう1曲あって。それが世に出るかはこの曲の評判次第ですね。あまりにもディスられまくったらないでしょうね(笑)。
ANI:それかシュ~って無反応か(笑)。
Bose:「なにも反応がないのも想定内でした!」とかいって(笑)。
―いや、それはないでしょう(笑)。この曲もすでにクラシック感をまとってるじゃないですか。しかし2組のコラボレーションをどんなビートで、どんなトピックでマイクリレーするかを想像したら無尽蔵に描けると思うんですよね。
Bose:それもお互いのファンに決めてもらったほうが、話が早そうだしね(笑)。
ANI:ついでに熱心なファンに歌詞も書いてもらったほうがいいかもしれない(笑)。
SHINCO:AI(人工知能)に歌詞を書いてもらうみたいに(笑)。
宇多丸:でも本当に、この2組のことを僕ら自身より詳しい人のほうが多いと思うから。随一の日本語ラップマニアであるR-指定だって書けるだろうし(笑)。「それっぽく書いてみてよ」っていったら。
SHINCO:「本人は歌いもしないのになんの曲だよ!」っていう(笑)。
―実際、歌詞のテーマもサクサクと決まったんですか?
Mummy-D:そこは周年感もありつつ──。
Bose:セレブレーション感を出していこうと。
Mummy-D:今回はパーティー系でいきましょうって感じで。
Bose:ただ、ANIのラインが今の世の中を予言してる感じもあるよね(笑)。
ANI:<陽性反応 秘伝の漢方>って。不謹慎!(笑)。もちろん歌詞を書いてるときは世の中がこんな状況になるとは思ってなかったんですけど。
―いや、でも閉塞感が充満してる今の状況にあってこの曲の突き抜けたパーティー感はかなり効くものがあるなと。トラックも素晴らしいですよね。
宇多丸:結局Tsuboi劇場だよね。
ANI:作・Illicit Tsuboi。
Bose:橋田壽賀子劇場的な。僕らはただの(『渡る世間は鬼ばかり』における)幸楽の人々(笑)。
Mummy-D:Tsuboiくんには3、4年前からこの曲はスチャとやるってなんとなくいってたんだけど。そのときから彼の頭の中ではOKAMOTO'Sのハマくんにベースを弾いてもらって、レイジにドラムを叩いてもらうという構想があったみたい。
Bose:ラップの歌詞は僕が最初に「こんな感じじゃない?」って書いたんですけど、そこからは僕、Dくん、ANI、宇多丸って順番さえ決めれば、もうどうにでもできると最初から思ってた。Dくんがカッコよく、かつ面白いラインを乗っけてくれると思ったし、実際そうなったから。で、ANIがわけわかんないラインを書いて、宇多丸がそれを貶しながら上手くまとめてくれるかなと。
Mummy-D:本当に最初のビジョンのまんまじゃん!(笑)。
Bose:予想通り。みんな優秀だからそうなるに決まってるんで。
スチャダラパーからのライムスター“Forever Young”を聴く(Spotifyを開く)
―あらためて宇多丸さん、どうですか? スチャダラパーとのコラボレーションが実現したことにやはり感慨深いものもあると思うんですけど。
宇多丸:そうですね。やっぱり昔のことを考えるとなかなか不思議な気持ちになりますよね。
Bose:あれだけいがみ合ってたしね(笑)。
宇多丸:実際は一度たりともそんなことなかったし、当時はいがみ合えるレベルでもなかったですから。スチャはどんどん先に行く急行みたいな存在だったし、ようやく我々の鈍行列車が追いついて。
Bose:はいはい、またネタがきました(笑)。
Mummy-D:そうやって毎回やってるのね(笑)。
宇多丸:でも、まじめなことをいえば日本でヒップホップをやってるいろんなラッパーやグループがいる中で、好きなものとか考え方は絶対に近いよなってずっと思っていて。実際に会ったことがないときからそう思っていたし、会えば絶対に仲良くなると思ってました。いったら、俺たちの周りにいる人たちよりも。いろんな発言を読んだり見たりすると本当にヒップホップが好きでラップ雑誌を隅から隅まで読んできたんだろうなと思うし。
Bose:逆に当時ライムスの周りのラッパーとかDJにはしょうもない映画とかに詳しかったり、日本のサブカルっぽいことを話す友だちはあんまりいなそうだもんね。
宇多丸:コワモテたちに囲まれてそのスタンス貫くのも大変ですよ(笑)。
Mummy-D:俺も宇多さんとスチャのライブに行ってたからね。
宇多丸:そう、客として。1989年にDE LA SOULが来日したときにフロントアクトとしてスチャダラパーが出るって知って、こっちは偵察のつもりで行ったからね。
Mummy-D:少しでも粗を探そうとしてね。
宇多丸:アルバムでもキョンキョン(小泉今日子)にコメントをもらったりしていて、「川勝正幸さんのお膳立てだろ!」って、そこでもまた嫉妬(笑)。
―でも、実際にライブを観たら……。
宇多丸:すごくよかった。ヒップホップとして同じ考え方を持ってると思ったし、本当にヒップホップが好きな人たちなんだと思ったから、「認めるよ、それは」っていう。
Bose:恥ずかしいわ! まあ考え方は近いもんね。
―JINさんはどうですか? スチャに対して当初持っていた印象というのは。
DJ JIN:自分もリアルタイムで『スチャダラ大作戦』(1990年5月リリースのスチャダラパーの1stアルバム)を買って聴いていたので。そのころからスチャで好きな曲をDJの日本語ラップセットに混ぜたりもしてるし。あとはSHINCOちゃんは俺がやってる『breakthrough』というレギュラーイベントに何回かゲストDJとして出てもらったりしていて。そういう現場の交流はあったので。
スチャダラパー『スチャダラ大作戦』を聴く(Spotifyを開く)
―あと、2000年にリリースされたライムスターの『リスペクト』のリミックスアルバム『リスペクト改』にはSHINCOさんがリミキサーとして参加(“隣の芝生にホール・イン・ワン SWG REMIX”)してますよね。
DJ JIN:そうそう!
Mummy-D:そのあたりから鈍行列車が追いつきつつあったのかな(笑)。
ライムスター『リスペクト改』を聴く(Spotifyを開く)
ロールモデルのいない2組が近づいた背景にあったのは、「文脈からの解放」
―一方、スチャのお三方はライムスターをどう見ていたんですか?
Bose:年齢的にもほぼ同世代だし、あとは「MCが2人ともラップが上手いのはいいなあ」って思ってた。
ANI:ですよね。
SHINCO:他人事(笑)。
Bose:当時、僕らもいっぱいフィーチャリングゲストを呼ぶ感じでもないし、ライムスターはライムスターで途中からは外部プロデューサーを入れたりするようになったけど、最初は自分たちだけで作ってる感じだったから。そういう意味でも近しいイメージは持ってました。
―ANIさんは?
ANI:偉いなと思ってる。
宇多丸:偉いって(笑)。
ANI:ライムスターはちゃんと後輩を育ててるじゃないですか。
Bose:ウチらはこれといった後輩とかいないもんね。
ANI:ライムスターはビッグな後輩をいっぱい輩出してるから。RIP SLYMEやKICK THE CAN CREWもそうだし。だから、文化をまとめて底上げしてるような。
Mummy-D:本当は全然育てたりしてないんだけどね。
Bose:でも、結果的にみんな大きく羽ばたいて、結局ずっと低空飛行で活動してるのは意外とウチらとライムスターなのかなって(笑)。
宇多丸:そうだね。
―SHINCOさんは?
SHINCO:トラックメイカーとしてもライムスターの曲は気にしてました。だからいつも新しい曲を聴くのが楽しみだし。
―たとえば今30代から40代の日本語ラップヘッズといわれるリスナーからすると、シーンにおける1つの大きなトピックとして1996年7月に1週間前後して日比谷野音で開催された『さんピンCAMP』と『大LB夏まつり』の比較論から始まって、ライムスターとスチャダラパーの関係性に対立構造を浮かべる人も少なくなかったわけで。
宇多丸:とはいえ、べつに仲が悪かったことなんて一度もないはずで。
Bose:小さな世界の話だからね。
宇多丸:ライバル心があったとしても、それは仲が悪いとは違うからね。
―学校は同じだけどつるんでた仲間や世話になった先輩が違うというニュアンスなんですかね?
宇多丸:いや、学校も違うんじゃない?
Bose:学校は違うはずだね。
SHINCO:お互い隣町の噂というか(笑)。
ANI:そんな感じかもね。
―この2組は先達のロールモデルがいない中で、独立したスタイルと立ち位置を貫いてきたわけで、お互いの30周年というタイミングで交差して、この多幸感に満ちた様相で“Forever Young”という曲を歌うのはやっぱりグッとくるものがあります。
Mummy-D:今はもういい意味で文脈がなくなったからさ。スチャだったらサブカル寄りで、俺らのほうは『さんピン』とかハードコアなヒップホップ寄り云々とかさ。そういう文脈からお互い解放されたし、2組とも、もともとそういう文脈に守られるグループでもないからね。自分たち自身が1つのジャンルみたいなグループだし、結果的にそれがよかったのかなっていう。
―文脈に絡め取られず走り続けてきた。
Mummy-D:どちらのグループもそんなに器用な人たちじゃないし、「これしかできませんけど、僕たち」という感じでやってきただけだと思うんだけど。
―続けてきたからこそ交差するという意味では、ライムスターとTHA BLUE HERBの緊張関係の雪解けみたいなことも去年あったじゃないですか。あれも外側にいる人たちの憶測が話を膨らませてきた部分もあったとは思うんですけど。
Bose:揉めてたの(笑)?
宇多丸:揉めてないんだけど、大昔ちょっとピリピリしていたのは事実で。でも、そういうピリピリが完全に解けたのもイベントでTHA BLUE HERBと一緒になったのが大きかった。
―2016年の福岡の『Sunset Live』ですよね。
宇多丸:そう。もともと徐々に雪解けていたんだけど、あの日で完全に(雪解けた)。それこそBOSS(ILL-BOSSTINO)と「こういうところで一緒にやる曲があるといいよね」って話したりして。
Mummy-D:やっぱりそういうのも文脈がなくなったのが大きいよね。
DJ JIN:文脈がなくなれば生き残ったおじさんたち同士で話せることもあるし。
ANI:そこで仲よくしないと、ただでさえ同世代の仲間が少ないしね(笑)。
Bose:お互い辞めてないしね。
―辞めないで続けられた要因はなんだと思いますか?
Bose:その理由はよくわからないですけどね。普通グループだとソロをやり始めてバラバラになっていくパターンも多かったりするんだろうけど。
Mummy-D:だいたいはケンカしちゃうからね。
Bose:僕らは今は特にレーベルと何年契約して、というやり方をしてないから。それをしていても自分たちのペースに合わないなってずいぶん前に気付いて。単純に過去の曲が多いから、新しいアルバムを作ってツアーをやると前に作ったやりたい曲ができなくなることも増えてきて。だから年に2、3曲作るくらいがちょうどいいんじゃないかというのはある。特に今のお客さんはアルバムをしっかり聴く感じでもないと思うし。
―でも、『シン・スチャダラ大作戦』はかなりアルバムとしての聴き応えがありますよ。
Bose:今回はアルバムとしていい感じにまとまりましたけどね。でも、曲作りはそのくらいのスピード感でいいかなと思ってる。
スチャダラパー『シン・スチャダラ大作戦』を聴く(Spotifyを開く)
キャリアのスタートからズレ続けてきた。ずっと好きなことを続けてきた2組
―ライムスターは2007年の日本武道館公演から2009年の『ONCE AGAIN』のリリースまで約2年間の活動休止期間がありましたけど、その前後で変化したところはありますか?
Mummy-D:それこそどんどん自分たちを縛ってきた文脈がなくなってきたから、それによってちょっとモードが変わったというか。自分たちもずっとヒップホップシーンと呼ばれてる場所の中での立ち位置が微妙で、グレイゾーンにいることの居心地がいいんだか悪いんだかという感じもあって。
でも、『ONCE AGAIN』で戻ってきてから1回そういう立ち位置から解放されたんだと思う。あとは風通しよくいろんなフィールドにいる人たちと付き合うようになったし、宇多さんがラジオを始めたり、「ライムスターってよくわかんないけどつねに面白いことをやってる人たちだよね」みたいな見え方が生まれたりしたと思うと、それもよかったなって。
ライムスター『ONCE AGAIN』を聴く(Spotifyを開く)
宇多丸:で、(活動再開後は)前よりグループでできることが明確化して。1人じゃできないこともハッキリしたからこそ、それぞれの役割も明確になった。それが制作にもプラスに反映されてる感じかな。
―ライムスターが去年、このキャリアで新旧の楽曲を織り交ぜたセットリストで47都道府県ツアーをやったことも驚異的だと思うし、スチャのニューアルバム『シン・スチャダラ大作戦』がコンセプトも含めて1stを更新する内容なのも一貫してブレてないということの証左なわけで。
Bose:自分たちにとっての面白いことがあんまり変わってないというかね。やっぱ普通じゃちょっとつまんねえなという感じでずっとやってきてますね。あとは最近だんだん自分らにちょっと怖さが出てきてるのがいいなと思って(笑)。
―怖さというのは?
Bose:「おじさんなのにまだそんなことやってんだ」みたいな(笑)。「あのおじさんずっと喋ってて怖いな」みたいな感じ。そういう領域にだんだん近づいている自覚があるから、たとえばそれをアー写にも利用できる。
―ああ、あの最新アー写はたしかにスチャならではの怖さがありますね(笑)。
Bose:そっちの怖さが出てるほうが面白いと思うから。僕らはずっと「若々しい」とかいわれるけど、いってることは昔からジジイみたいな文句ばっかりで。昔からワイワイ外で遊ぶタイプでもないし、「もともと老成してる」っていわれてたし。最初から老けてるけど、格好だけはずっと若いみたいな。
宇多丸:「今の若い子たちはそんな音楽聴いてませんよ」とかいわれるとさ、「昔から誰も聴いてない音楽をやってきたんだよ、バカ!」っていいたくなるよね。
Bose:最初からズレてるんだよね。最初から若者代表じゃないんだよ。
宇多丸:若いころから世間とズレてるんだから、今の若者のトレンドがどうたらとかいわれて、「そんなことでビビると思うなよ、ボケが!」って感じですよ。
Bose:怖いおじさんがいる(笑)。
Mummy-D:でも、本当に最初からマイノリティーだったからね。「ラップが好き」なんて今の比じゃないくらいマイノリティーだったから。だから勝手なことを毎回やってるだけなんだよね。若いとかなんとかじゃなくて、自分たちが面白いと思ったことを勝手にやってる。
Bose:タモさんとか見てたら同じような感じなのかなと思うけどね。みうらじゅんさんとかもそうだけど。
宇多丸:最初から自分の好きなことを一貫してやっているだけで。
Bose:ANIなんて今、スタンプ集めてんだよ?
ANI:俺のスタンプノート見ます?
DJ JIN:LINEのスタンプとかではない(笑)。
ANI:ポケモンのスタンプラリーとか、あとこれはローソンのやつ。
Bose:これをおじさんが1人でローソンに押しに行ってるんだよ。ヤバくない? やってることウチの子どもと一緒だよ(笑)。
一同:(笑)。
宇多丸:わざわざ押しに行ってるんだ。
ANI:東急の駅のスタンプとか、サービスエリアにあるスタンプを押すためにわざわざ行ってる。
Bose:おじいちゃんになってくると、そういう怖さもありなのかなと思って。それは今回のコラボレーションのアー写と繋がる話でもあるんだけど。ライムスターも他人ごとじゃないよ。僕は同じ枠だと思ってるからね。本当は今回のコラボのアー写のアイデアとして全員宇多丸になるっていうのがあったんだけど(笑)。
Mummy-D:イヤだよ!(笑)。
宇多丸:この人たちはこうやってレコーディング中にも次から次へとふざけたことを思いついて全部取り入れようとするわけ(笑)。「いろんな面白いことが起こりすぎだからちょっと整理しようか」ってこっちがいってたもんね。そこは感心した。
Bose:面白いことを入れすぎると逆に全体がブレるというライムスターのバランス感覚もすごいなと思ったよ。
―実際にコラボレーションしたからこそ実感できるお互いのすごみもみなさん感じられたでしょうし。
Mummy-D:そうだね。ヒップホップだからこういう格好をしなきゃいけないとか、こういうビートでやんなきゃいけないという縛りが、シーンが細分化され尽くされた結果としてなくなったから。だからちょうどこういうコラボもやりやすい。このトラックもべつに今のトレンドっぽい感じではないし。
―でも、めちゃくちゃエバーグリーンだと思います。サンプリングと生音の昇華という側面においても、ヒップホップの方法論ならではのダイナミズムに富んでるし。
Mummy-D:そう、Tsuboiくんがいろんな要素を足したことでちょっと怖いんだよね。キャッチーだけどちょっと怖いなっていう(笑)。
Bose:怖さが増してるよね、おじさんたちが思うズレたキャッチーさと相まって。
Mummy-D:そこで「なめんなよ」って気概は伝わる気がする。
―でも、本当にこのコラボレーションの続編を期待してます。
Bose:続編はすごく意地悪なことばっかりいうとか、拗ねたことばっかりいうみたいな曲をやりたいね。
宇多丸:このまま生きていたくない……とか。
ANI:もう消えてしまいたい……。
宇多丸:「若者がムカつく」とかハッキリ歌ったらすごくいいかもしれない(笑)。
Mummy-D:基本的にポップミュージックって若者に媚を売ってるものだからね。
Bose:そうだね。どうせ普通にできないんだから僕たちは勝手なことをやればいいんだよ(笑)。
- リリース情報
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- スチャダラパーからのライムスター
『Forever Young』 -
2020年4月1日(水)配信
- スチャダラパーからのライムスター
- リリース情報
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- TBSラジオ「アフターシックスジャンクション」(Podcast)
- プロフィール
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- スチャダラパー
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ANI、Bose、SHINCOの3人からなるラップグループ。1990年にデビューし、1994年『今夜はブギー・バック』が話題となる。以来ヒップホップ最前線で、フレッシュな名曲を日夜作りつづけている。デビュー25周年となる2015年にアルバム『1212』をリリース。2016年に『スチャダラ2016 〜LB春まつり〜』を開催し、ミニアルバム『あにしんぼう』をリリース。2017年に『ミクロボーイとマクロガール / スチャダラパーとEGO WRAPPINʼ』、『サマージャム2020』の2曲を発売。2018年4月に日比谷野外大音楽堂で『スチャダラパー・シングス』を開催し、ライブ会場限定販売となる4曲入りCD『スチャダラパー・シングス』を発売。2019年11月に『ヨン・ザ・マイク feat. ロボ宙&かせきさいだぁ』を配信リリース。2020年4月8日、デビュー30周年記念アルバム『シン・スチャダラ大作戦』リリース。
- ライムスター
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1989年結成。宇多丸(Rap)、Mummy-D(Rap / Total Direction / Produce、作曲家としての名義は「Mr. Drunk」)、DJ JIN(DJ / Produce)からなるヒップホップ・グループ。ライブ力に定評があり自らも「キング・オブ・ステージ」を名乗る。グループ結成の80年代末/90年代前半の日本にはまだ、アメリカ文化であるヒップホップ、ラップは定着しておらず、日本語でラップする可能性、方法を模索、試行錯誤を重ねて曲を作り続け、また精力的なライブ活動によって道を開き、今日に至るまでの日本ヒップホップシーンを開拓牽引してきた。近年はグループとしての益々旺盛なリリース、ライブ活動の一方で、メンバーそれぞれがラジオパーソナリティ、役者としてなど多方面に活躍をひろげる。2019年に結成30年を迎えて様々な記念リリースと、47都道府県48公演の記念ツアーなどの企画を成功させる。2019年11月27日「マクガフィン/岡村靖幸さらにライムスター」、2020年4月1日「Forever Young/スチャダラパーからのライムスター」をリリース。