柳樂光隆が語る、専門性の大切さ アーティストの微細な違いを知る

柳樂光隆が語る、専門性の大切さ アーティストの微細な違いを知る

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:寺内暁 編集:久野剛士、山元翔一(CINRA.NET編集部)

アーティストごとの微細な違いを掘り下げるには、専門性が必要なんです。

柳樂光隆

―『JTNC』自体にも変化がありますよね。当初は「グラスパー以降をマッピングする」という意図があったと思いますが、6に至って、「拡張するジャズはマッピングできない」という方向になってきた(笑)。

柳樂:そうですね(笑)。最初に『JTNC』をつくるときは、書き手を見つける以前に、こうした音楽を聴いている人すら見当たらない状況でした。どこにいるんだろうと、レコ屋のバイヤーさんといった人たちを探していったんですね。そんな状況ですから当初は入門書を目指したんですが、『JTNC2』からは、「とりあえずマッピングはしたからもういいだろう」「あとは好きにやろう」と。

この頃からですかね、ミュージシャンサイドもプロモーションではなくて、深く掘り下げていくような、目的のよくわからないインタビューを許してくれるようになってきたんですよ。サンダーキャット(Thundercat)に『JTNC』を渡すと、「友だちしか載ってない!」といいながらめくってくれます(笑)。その時点で『JTNC』の大まかな方向性、「こいつはなにを聞きたいのか」というインタビューの意図もある程度、伝わるんです。

―当初はグラスパーを起点にしたネットワークを描き出すというところから入っていき、次第に横の広がりだけでなく、世代をまたいだ人間関係や歴史も掘れるようになっていった、ということでしょうか。

柳樂:はい。ジャズってよく理解しづらい音楽ではあるのですが、セオリーも歴史も世界中でシェアされていて、巨大なひとつのコミュニティーであることは間違いないんですよ。そのコミュニティーをどれだけ理解できるか、その理解する精度やグリッドをどれだけ細かくできるか、がポイントになるんですね。その観点でいうと、『2』以降は質問をだいぶ正確にできるようになってきて、引き出せる話の深さも変わってきた気はします。

柳樂光隆

―ただ、ここまでジャズの拡張を描く『JTNC』は、逆に「なぜジャズを中心に据えるのか」という必然性も問われますよね。

柳樂:メソッドなどとは別に、たとえばアメリカの、アフロ・アメリカンのコミュニティーで共有されているレガシーやナラティブのようなものがジャズにはあります。つまり、「そこにしかないジャズ」のようなローカルに根づいたものがあるんですね。僕は今、そこにすごく興味があります。

たとえばサンダーキャットに話を聞くなら、彼がどんなにヒップホップが好きでも、一方で彼はロサンゼルスのジャズコミュニティーの歴史と紐づいていて、まったくヒップホップっぽくないことをやっているジャズミュージシャンにも接続するはずだ、という聴き方をしているんです。たとえば今回の『JTNC6』ではサンダーキャットに、彼の新作アルバム『It Is What It Is』に参加したスコット・キンゼイ(Scott Kinsey)というキーボーディストについて聞いています。

スコット・キンゼイ『Kinesthetics』を聴く(Spotifyを開く

柳樂光隆

―これはどういう方なんですか? フュージョン・バンド「Tribal Tech」(1980~1990年代に話題を呼んだ技巧派バンド)のメンバーと書かれていますが、ジャズ史において重要な人なんですか?

柳樂:うーん、現状、いうほど重要とはされていないんです。語弊があるといけないんですけど、現代的な感覚を持ってるフュージョンおじさんというか……(笑)。

―なるほど。彼はLAのフュージョンおじさんなんですね(笑)。

柳樂:「スコットは、Weather Reportという1970年代を代表するジャズバンドのキーボーディストにして先駆者である、ジョー・ザヴィヌルのマニアですよね」と僕は重ねて聞いています。サンダーキャットにスコット・キンゼイの話をひたすら聞いているのは、世界中でも僕だけだと思います……(笑)。

柳樂光隆

―でも、そこに引き継がれている歴史があるわけですよね。

柳樂:新作にスティーヴ・レイシー(The Internetのギタリスト、プロデューサー)や、スティーヴ・アーリントン(伝説のファンクバンド、Slaveのメンバー)、チャイルディッシュ・ガンビーノが参加しているのは分かる気がするし、みんな聞くだろうと思うんですよ。でも、「なぜスコット・キンゼイなのか」というところに事の本質がある気が僕はしていて、そこのつながりを聞いて書くのが自分の仕事だ、という意識があるんです。

たとえば、今のジャズがヒップホップと混ざっているということに価値を置く書き方は、海外のメディアも含めて多くなされているし、自分もやっていたわけですけれど、そうした記事ってすごくたくさんあるわけじゃないですか。「ハイブリッド」というと、言葉の上ではロバート・グラスパー(Robert Glasper)もサンダーキャットも同じようなものとして表現されてしまう。しかし軸足を置いている場所によって、アーティストごとに微細な違いがあるはずなんです。ただ、その細かな違いを掘り出すには「専門性」が要るんですよ。

―それが、柳楽さんがよく仰っている「専門性」の大切さなんですね。

柳樂:そうですね。最近、新しいものをただ「新しい」といっているだけ、という例をよく見る気がします。あとは音楽だけじゃなくて今は映画も海外ドラマも、って幅広く、上澄みを見聞きしている人による語りってたくさんありますけど、そういう人がカルチャーに関して語ることって大抵似てくる気がするんですよね。そうじゃないことを、「専門性」をもとにやりたいんです。

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商品情報

『Jazz The New Chapter 6』

2020年2月17日(月)発売
価格:1,980円(税込)
監修:柳樂光隆

SPECIAL INTERVIEW
Thundercat
Flying Lotus
Christian Scott aTunde Adjuah
Brittany Howard
Meshell Ndegeocello
ChassolJacob Collier

COLUMN
『Flamagra』と『The Renaissance』
ロバート・グラスパー『Fuck Yo Feelings』の先進性
非西洋科学的テーマに注がれる視線
ジェイコブ・コリアーに至る合唱曲史(小室敬幸)

PART1:A NEW GENERATION OF JAZZ
James Francies / Joel Ross / Jazzmeia Horn

PART2:DISC SELECTION
New Standards 2018-2020(選盤・執筆:柳樂光隆)
COLUMN:サウンド・アメリカン / アンジェリーク・キジョー / Jazz The New Chapter Ternary

PART3:VISION OF GROUND UP
グラウンド・アップ・フェス潜入ルポ
Michael League / Jason “JT” Thomas / Bob Reynoldsa musical journey:David Crosby(高橋健太郎)
Becca Stevens / Michelle Willis
Good Music Company

PART4:DRUMMER-COMPOSERS
Kassa Overall
Nate Smith
Kendrick ScottMark Guiliana
COLUMN:「音色」の探求へと進むドラマーたち(高橋アフィ)
Louis Cole
Perrin Moss

PART5:INSIDE AND ALONGSIDE THE L.A. JAZZ SCENE
COLUMN:コミュニティとシェアの文化が育んだLAシーンの背景(原雅明)
Carlos Niño
Flying Lotus
Mark de Clive-Lowe

PART6:BRING A NEW PERSPECTIVE ON SAXOPHONE
Charles Lloyd
Marcus Strickland
Braxton CookDonny McCaslin
Dayna Stephens

PART7:CULTURAL ACTION IN U.K.
COLUMN:文化的な運動として続くジャズの継承と発展
Courtney Pine
The Comet Is Coming

SPECIAL INTERVIEW
Marcus Miller
Marquis Hill
Stu Mindeman
Camila Meza

COLUMN
若手育成を支えるアメリカのジャズ教育システム
ヌエバ・カンシオンとトロピカリア
チャーチ出身のミュージシャンはなぜ強靭なのか(唐木元)
ドン・シャーリーから考えるジャズ・ピアノ史
セファルディムとアシュケナジム
ノンサッチ×ニューアムステルダムなぜ今、アンソニー・ブラクストンなのか(細田成嗣)

リリース情報

『三原勇希×田中宗一郎 POP LIFE:THE PODCAST』柳樂光隆ゲスト回

2020年3月20日(金)配信

プロフィール

柳樂光隆(なぎら みつたか)

1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。

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