ISSUGIが語る、「なにをやらないか」が個性になる

多作にして駄作なし。近年のISSUGIは凄まじいペースで作品をリリースしてきた。2017~18年にはコラボレーションプロジェクト『7INC TREE』『7INC TREE -Tree & Chamber-』で毎月新曲を発表し、その間に盟友BESとの共作アルバム『VIRIDIAN SHOOT』とそのリミックス盤を発表している。そしてこの12月には待望のソロアルバム『GEMZ』が発売される。このアルバムはBudamunkや WONKメンバーであるHIKARU ARATA、 KAN INOUEなどといったミュージシャンたちと制作された。

ISSUGIの魅力は楽曲や活動から醸し出されるセンスと一本気な姿勢だ。かっこよく生きるのが難しい時代。今回は彼に、「かっこよさ」の源泉を探るべきロングインタビューを敢行した。

ヒップホップゲームでの「勝ち上がり」を第一に考えたことはない。

―ISSUGIさんはいつ頃からヒップホップを聴き始めたんですか?

ISSUGI:中学校1、2年生のときくらいですね。きっかけは中学1年のときに始めたスケートボードです。スケボーのビデオがあって、そのBGMでロックとヒップホップとファンクみたいなのがかかってたんです。だから誰かの作品を聴いて「これだ!」と思ったわけではなく、みんなと一緒にスケボーのビデオを見る中で徐々に好きになっていった感じですね。

ISSUGI(いすぎ)
東京出身のRapper / Beatmaker。MONJU(ISSUGI / Mr.Pug / 仙人掌)、SICKTEAM(5lack / ISSUGI / Budamunk)としても活動し、16FLIP名義でビートメイクもこなす。ソロを含めこれまでに複数のアルバムをリリース。

―当時のスケボービデオのBGMで特に印象に残ってる作品を教えてください。

ISSUGI:MOBB DEEPの『THE INFAMOUS』(1995年)ですね。『411VM』(1990年代に発売されたスケーターのビデオマガジン)というスケボービデオで、CMに使われてました。このアルバムは「クイーンズの音」だと思うんですよ。

MOBB DEEP『THE INFAMOUS』(1995年)を聴く(Spotifyを開く

―ニューヨークのクイーンズといえば、Run-D.M.C.からはじまり、クール・G・ラップ、ナズなどなど錚々たるヒップホップアーティストを輩出してきた地区ですね。

ISSUGI:「FLIP」っていうスケートブランドのCMに使われていて『THE INFAMOUS』の音には、クイーンズの音の歴史を感じるんです。そういう流れとか場所が出す共通性みたいなのが好きで、ビートを作ってるハヴォックや、途中からずっと一緒に活動してるアルケミスト(LAのヒップホップトラックメイカー)が純粋に彼らの音楽とリンクして作り出していったからMOBB DEEP=クイーンズの音みたいな感じになりましたね、自分の中で。

―リスナーだったISSUGIさんが、ラップを始めたのはいつ頃なんでしょう?

ISSUGI:たしか中学3年の頃だから、1998年ですね。だんだん自分にスケボーのスキルがないなって思うようになってきたんです(笑)。

ちょうどその頃、日本のヒップホップも流行り始めてて、自分でもやってみようと思いました。中学のスケボー仲間の中にMr.PUG(ISSUGIが所属するMONJUのメンバー)がいて。PUGはみんなで集まっててもスケボーはやらずに音楽ばっかり聴いてたんですよ。だから中学1年の頃から友だちだけど、もっと仲よくなったのは中3でラップを始めてからって感じですね。

―日本語のラップも聴かれていたんですね。

ISSUGI:途中まで結構いっぱい聴いてました。お話したこととかはないんですけど、一貫した音楽性って意味では、DEV LARGE(日本のヒップホップグループ、BUDDHA BRANDのメンバー、2015年に逝去)さんが作るビートとか好きでしたね。音楽好きなんだろうなという感じが滲み出ていて。あとサンプルする部分のメロディーとか一発でわかる感じがあったと思います。

―ラップでは「成り上がりストーリー」や「勝ち上がりマインド」が好まれる傾向にありますが、ISSUGIさんのリリックからは、そうしたものを感じませんよね。

ISSUGI:その傾向も全く嫌いではないし、ない訳ではないんですけど、表立ってみせるそういう表現って2000年頃にアメリカでヒップホップが白人の人たちの層まですごく売れて一気にビジネス的にメジャーになってからの傾向だと思うんですよ。自分はもっと表現として素朴でいいっていうかそんな感じです。飾り気なしでいいんだと思えたのがヒップホップだったので。

俺がスケボーをやってたときに聴いてたのは、BLACK MOONやTha Alkaholiksといったアーティストで、彼らは「ヒップホップゲームで成り上がる」という部分も勿論あったと思いますが、「ハードな人生をどう生き抜く」「自分たちの哲学」みたいなニュアンスのほうが強かったような気がします。

当時、俺はスケボーで毎日いろんな技を練習していても、自分が納得できる形で技ができるようなったときがうれしかったんです。いったらヒップホップもその延長線上にある感覚なので、「勝ち上がり」を第一に考えたことはなくて好きだからやってるって感じですね。

Tha Alkaholiks『Coast II Coast』(1995年)を聴く(Spotifyを開く

かっこいい人たちは、なにをやるのかと同時に、なにをやらないかも選択している。

―「誰かに勝つ」ことよりも「自分を磨くこと」が重要なんですね。

ISSUGI:俺はスケボーから「スタイルを持つ」ことがなにより大切だと学んだんですよ。昔、秋葉原の駅前のでっかい広場があって、毎日いろんなスケーターたちが集まってきて。俺やPUG、あとアルバムのアートワークを一緒にやってる52とかと一緒に自分たちも遊びつつ、夜になって上手い人たちが集まってくると「あの人のフリップはかっこいい」「この人はヒールがイケてる」みたいな感じでかっこいいスケーターをチラチラ観察してました。

いろいろ見たりやったりしてるうちに、スケボーってスキルだけじゃないなと気づいたんですよ。

―スキルではない魅力がある、と。

ISSUGI:好きなスケーターはみんなそれぞれ自分のスタイルを持ってたんです。もちろんそういう人は前提としてスキルがある。でも「この技ができればかっこいい」みたいなことでは全然なかった。点数を競ってる感じではなかったし、もっと全体的ななにかに魅かれていましたね。

MONJUという同じグループの中でも、俺とPUGと仙人掌は、みんな違う人間ですよね。だから、それぞれのソロアルバムを聴くともっとそれぞれの音楽性が細かく解ってきて面白い。「こいつはソロだとこういうビートが好みなんだな」とか「こういうことをラップしたいのか」ってわかってくる。

音楽をやってる奴は俺も含めてみんな、自分の音楽を第一に知って欲しいと思っているように感じるんですよ。だから本当にそのアーティストの音楽性について知りたいなら、しっかりそういう意味でのいち個人のセンスを吟味しないといけないと思っています。もちろん、音楽に限らず、日常の人付き合いでもそうですけど。

―人の個性って、どんなところに現れると思いますか?

ISSUGI:自分が音楽で好きなかっこいい人たちは、曲を作るときになにをやるのかと同時に、「なにをやらないか」も選択してる。俺はハイテックやマッドリブやグラディスナイスのようなビートメイカーが好きで。目まぐるしくトレンドが移り変わるけど、その中で彼らは取り入れるものと取り入れないものをしっかり選択してると思う。そして俺は彼らが取り入れたトレンドと同時に、取り入れなかったものも知ることで、彼らの個性をより深く知ることができるようになるし。

Hi-TekがプロデュースしたClockworkdj“RIDE”(2018年)を聴く(Spotifyを開く

しっかりした根っこがあっていろんな色の花が咲いてるのは面白いけど、毎回根っこが違うものになってしまうと違和感がある。

―スケートボードに出会うまでに、好きなこと、影響されたものってあるんでしょうか?

ISSUGI:実は中学以前のことで好きだったことよく覚えてないんですよ(笑)。スケボーにハマるまでは特に好きなこともなくて。記憶もかなりボヤッとしてるんですよね。もちろんTVゲームとかサッカーみたいなことは普通にしていて友だちもいたけど、そこまでのめり込んでなかった。

―なぜスケボーにはのめり込んだんでしょう?

ISSUGI:スケボーで、ものづくりの楽しさを知ったのも大きいですね。仲間同士でスケボーのビデオを録って、そこに好きな音楽を付けたりするんです。それをみんなで見て、あーでもないこーでもないとかやっていたのは本当に楽しかった。いま思えば、自分でやりたい事は技術が未熟でもやりたければ全部やるみたいな感じの始まりでしたね。

―ISSUGIさんが多作なのは、ものづくりがそもそも好きだからなんですね。

ISSUGI:それは間違いなくあると思います。なにか作ってるのが生活の一部なんで、やってれば自然とスキルが積み重なって身に付くと思うしそれが面白くなってまた次やりたくなりますね。

音楽の場合だとアーティストがどんどん生きていく中でその音楽性を変化させていくことも面白みだと思っているから好きなアーティストだとこれまでの音楽性の「過程」とかもを追うようになるんです。この時期こういう感じだーとか。

―毎日、曲を作っていても変わらずに意識していることもあるんでしょうか。

ISSUGI:グルーヴですね。楽曲だけではなく、アートワークとかも含めて、自分の作品から一貫したグルーヴを感じさせたいですね。でもそれは変わらないって意味じゃなくて。生きていれば当たり前のように変化するから、当然俺が作るものも変わるけど個人としてのセンスの根っこは変わらないと思うので。

今回のアルバム『GEMZ』ではバンドの音を取り入れたりとか、いままでやってきてなかったことやったりして。でもだからこそ、その中で自分の芯にある感覚を大切にしたいと思ってるんです。しっかりした根っこがあっていろんな色の花が咲いてるのは面白いけど、毎回根っこが違うものになってしまうのは自分じゃないなと感じるので。

︎ISSUGIの最新アルバム『GEMZ』(2019年)を聴く(Spotifyを開く / Amazonで購入する

普通に音楽をやれることのありがたさを病気になって痛感させられた。

―『GEMZ』ではバンド以外にも、数多くのミュージシャンが参加していますね。今回、多くのミュージシャンとの共作を選択したのはなぜですか?

ISSUGI:『Thursday』(2009年)や『EARR』(2013年)の頃は、割とビートもラップも自分1人で完結していました。自分の音楽性と持つ色を聴き手に伝えるには、アルバム全曲16FLIPで両方やって聴かせるのが一番手っ取り早いと思ってたんです。

リスナーとしてもプロデューサーの色に統一感があるアルバムが昔から好きだったりしたので。でもビートメーカー誰かと1枚とか一緒に作ることを何回か経験するうちに、グルーヴが合わさって混ざって起こる化学反応が面白いと思うようになったすね。やっぱりヒップホップはラッパーやビートメイカーがただ個体で存在しているというより、それぞれの関係性と距離感で生まれる音楽が面白いし熱いから。そういう動きが見え易いのがヒップホップの面白さのひとつだと思う。

ISSUGI『Thursday』(2009年)を聴く(Spotifyを開く

―さまざまなプロデューサーとタッグを組んだ『7INC TREE』シリーズやBESさんとの共作が関係しているんですね。

ISSUGI:はい。とはいえ、別に自分がハブのような存在になりたいとか考えて作品作りをしてるわけじゃないんですよ。単純にやりたい人とやってるだけで、結果として誰かと誰かが繋がっていけばいいですね。

福岡に住んでるビートメーカーのGQってやつと東京に住んでる弗猫建物のVANYってやつが仲良くなってたりしてて嬉しかったりするし。

―ISSUGIさんが一緒にやりたいと思う基準とはどんなところにあるんですか?

ISSUGI:センスに共感できるということかな。あとは俺1人では表現しきれない、音楽的な幅広さを一緒にやることで表現できる人。ビートメーカーだったらそのビート聴いて上がるかどうかだけですね。

それが前提で、あとは単純に自分がリスナーだったとしてチェックしてるアーティストが意外な人と曲を作ってると面白いじゃないですか? そんな感覚もあって『7INC TREE』はまさにそういうシリーズだったと思いますね。

ISSUGI『7INC TREE』(2017年)を聴く(Spotifyを開く

―これだけ多作でも、まだまだ表現しきれないものがあるんですね。

ISSUGI:そうですね。作りたい気持ちはなくならないですね。もっとアルバムを出したいし、やったことないビートメイカーと曲を作りたい。ちょっと前にジョージア・アン・マルドロウ(アメリカのジャズ、ソウルシンガー)と一緒に制作したのも初めてR&B作れたくせーと思って楽しかった。もっと海外で活動できたらいいですけど全然できてないですね(笑)。

とりあえずいつも、そのときの自分がいいと思ってる音楽を作っています。だからリスナーの人たちが、俺のいままでの作品とこれからの動きを線で追って総合的に楽しんでもらいたいんですよね。

16FLIP feat. ジョージア・アン・マルドロウ『Love it though』(2019年)を聴く(Spotifyを開く

―……これは余談に近いんですけど、ここまでストイックに音楽に打ち込むISSUGIさんでも不安になることってあるんですか?

ISSUGI:全然ありますよ(笑)。不安の種類によりますけど。SICKTEAMの『SICKTEAM』と『EARR』を出す間くらいに顔面神経麻痺になっちゃったときとか。ある日、九州にライブ行く前日に顔の左側が麻痺してしまって。

いま考えると命にも関わらない全然大したことではないのでアレですが。なってすぐはどういう感じにどの程度回復する病気か調べてなかったので、焦ってこのまま顔の左だけ動かないとラップしづらいなとか、左耳と右耳の聴感が対称じゃないのがわかってたので作ってる曲に対して、自分は左右こういうバランスで聴こえてるけどみんなにはどう聴こえてるのかな? とかがあってこの感覚で音楽を続けていけるのか、不安な感覚はありました。

ISSUGI『EARR』(2013年)を聴く(Spotifyを開く

―そんなことがあったんですね。

ISSUGI:色んな方にやさしい言葉をもらいましたね。それで“ONE ON ONE”ていう曲もできたし。正常に顔の神経が再生していく過程で口を動かす神経と目を閉じる神経が繋がりやすいので、そこはちょっといまも喋ったりラップすると引っ張られてダルいんですけど(笑)。ほぼ回復したしもう問題ないですね。実は俺のリリースペースが上がったのはそこからなんですよ。普通に音楽をやれることのありがたさを病気になって痛感させられて。

―ISSUGIさんの活躍ぶりには、その経験も関係していたんですね。

ISSUGI:そうですね。とりあえずやれるし作ろうみたいな感じで。あとはいつも自分に対してもっとヤバいの作れるっしょみたいな悔しさが音楽をやる原動力になってる部分もあります。だからリリースし続ける。そこに、ちゃんと意味があると思ってるんですよ。

リリース情報
ISSUGI
『GEMZ』(CD)

2019年12月11日(水)発売
価格:2,750円(税込)
レーベル:P-VINE, Inc. / Dogear Records
品番:PCD-25284

1. GEMZ INTRO / prod BUDAMUNK
2. ONE RIDDIM / prod BUDAMUNK
3. NEW DISH / prod 16FLIP & BUDAMUNK
4. BLACK DEEP ft. Mr.PUG, 仙人掌 / prod 16FLIP
5. DRUMLUDE / prod BUDAMUNK
6. HERE ISS / prod 16FLIP
7. LIL SUNSHINE REMIX
8. FIVE ELEMENTS ft OYG, Mr.PUG, 仙人掌 / prod BUDAMUNK
9. 踊狂REMIX ft. 5lack / prod BUDAMUNK
10. OLD SONG ft DEVIN MORRISON / prod BUDAMUNK
11. HEAT HAZE REMIX ft Mr.PUG / prod ENDRUN
12. LOUDER / prod 16FLIP & DJ SCRATCH NICE
13. MISSION ft KOJOE / prod HIKARU ARATA
14. 再生 / prod BUDAMUNK
15. No.171 / prod BUDAMUNK
16. GEMZ OUTRO / prod BUDAMUNK

プロフィール
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東京出身のRapper / Beatmaker。MONJU(ISSUGI / Mr.Pug / 仙人掌)、SICKTEAM(5lack / ISSUGI / Budamunk)としても活動し、16FLIP名義でビートメイクもこなす。ソロを含めこれまでに複数のアルバムをリリース。



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