荏開津広×渡辺志保 ラップが席巻した10年代を振り返る

荏開津広×渡辺志保 ラップが席巻した10年代を振り返る

2019/12/04
インタビュー・テキスト・編集
久野剛士
撮影:豊島望

ラッパーにはストーリーがあるし、アメリカンドリームを示すのにふさわしいんです。(荏開津)

―たしかに、そこで「個人」がオリジナルの表現を簡単に発表できるようになった現在と、親和性はあったのかもしれませんね。

荏開津:あともうひとつ、注目したいのは2000年代にパリス・ヒルトンとかで盛り上がった「リアリティーショー」。それは2010年代にかなり変わったな、と思います。

―たしかに、ラッパーは音楽が自分の人生とかなり地続きだから、リアリティーショーと親和性が高いですね。

荏開津:たとえば、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)が2017年にメルセデス・ベンツのCMに出たんです。そのコマーシャルは10代のときにエイサップ・ロッキーはハーレムで育って、というところから、スターになるまでの過程を追ってるんですよ。

渡辺:なるほど。「成功者」としてエイサップ・ロッキー、そしてその証としてメルセデス・ベンツを見せようとしてるんですね。

荏開津:そうそう。パリス・ヒルトンとか、2世3世のセレブリティーたちのリアリティーショーは、その派手な生活を切り取って、それがおもしろおかしいだろっていう趣旨だったんですけど、そこには「ストーリー」も「語るべきこと」もないじゃないですか。

彼女らがリアリティーショーに出ている間に、ミックステープを無料で配るところから大成功を果たしたラッパーたちのほうが、ストーリーはあるし、アメリカンドリームを示すのにふさわしいですよね。それは、ラッパーがこれだけ人気になった原因に繋がっている気がします。

ヒップホップにモッシュ文化を持ち込んだのは、タイラー・ザ・クリエイターやエイサップ・ロッキーだと思っています。(渡辺)

―いまは背景の話なんですけど、実際の音に関しても伺いたいです。2010年代のヒップホップの音は、どんな傾向にあったと思いますか?

渡辺:明らかに音の数が少なくなり、よりメロディーが重視される傾向が生まれましたね。少ない音の中で、いかに遊べるか、工夫できるかっていうのが、特に顕著だったと思うんですよ。またちょっとBPMが速くなり始めているんですけど。

荏開津:いったん、すごく遅くなりましたよね。

渡辺:そうなんです。もともと「ヒップホップ黄金期」っていわれるような、1990年代の東海岸側のヒップホップって、BPM90とかで。

1990年代のヒップホップをセレクトしたプレイリスト(Spotifyを開く

荏開津:そうですよね。

渡辺:それがどんどんどんどん遅くなっていって。2010年代初頭にはBPM70ぐらいになるんですよ。エイサップ・ロッキーの“Purple Swag”(2011年)とかは本当に遅い。でも、その遅いビートを倍速で刻むと、BPM120とか140になる。それは、EDMとほぼ同じなんですよ。

エイサップ・ロッキー“Purple Swag”を聴く(Spotifyを開く

荏開津:たしかにそうなりますよね。

渡辺:面白いのが、2010年代ぐらいに、BPMがぐっと遅くなって、ヒップホップの音数がどんどん減っていたと同時に、EDMがすごく盛り上がってきた。かつ、EDMのDJとラッパーたちがどんどんコラボするようになったんですよね。

デヴィッド・ゲッタ(David Guetta)とニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)とか、エイサップ・ロッキーとスクリレックス(Skrillex)とか。それが2010年代の転機だったのかなと思っています。いままたEDMとヒップホップは、それぞれ別方向のサウンドにアプローチをしていって、ヒップホップは本当に暗い、重いビートになりましたね。でも、それが逆にメロディアスな効果を生んで、フェスとかでかかると、みんながモッシュをするんですよね。それが非常にユニークだなって。

デヴィッド・ゲッタ feat ニッキー・ミナージュ“Turn On Me”を聴く(Spotifyを開く

エイサップ・ロッキー feat. スクリレックス“Wild For The Night”を聴く(Spotifyを開く

荏開津:それを現地で実際に志保さんは、もう何回も経験したんでしょ。その話を伺いたいですね。モッシュとかって、普通にがんがん起こってるんですか?

渡辺:ウソだろってタイミングでも起こりますよ。日本でも最近、人気の高いTohjiとかのライブでは、若いファンのモッシュが必ず起きていて、ちょっと感動します。ちなみに私は、ヒップホップにモッシュ文化を持ち込んだのは、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)やエイサップ・ロッキーだと思っていて。なぜかというと、タイラーは、「OFWGKTA(Odd Future)」っていうクルーをLAで結成していて、スケーターの子たちととても仲がよかったんですよね。

だから、パンクロックのバンドとも一緒に音楽活動をしたり、自分のレーベルに引き入れたりしていて。だから、ファンの中にはナードなヒップホップヘッズだけでなく、白人のスケーターキッズもいるんですよね。そしてタイラーと仲がよかったのがエイサップ・ロッキー。2人は音のアプローチこそ全然、違うんですけど、新しいものを探してる若者にフィットするっていう点ではすごく親和性が高かったのではないかなと思います。

Tohji『angel』(2019年)を聴く(Spotifyを開く

Odd Future『The OF Tape Vol.2』(2012年)を聴く(Spotifyを開く

荏開津:やっぱりOdd Futureは大きいですよね、いまのヒップホップを考える上で。タイラーみたいに、スケボーをやった後に一服しながら聴く音楽みたいなのは、ヒップホップだけじゃないわけです。1970年代のソウルやファンク、ブラジル音楽やレゲエ、ロックを聴いたりして、色々なジャンルが混ざってくると思うんですよね。音楽を作る職人みたいな人たちだけが作って聴く人たちに届けるという一方通行ではなく、生活の中で色々な聴かれ方をして鳴っている音楽が、新しい音楽にフィードバックしてる感じがします。

あと、EDMの話と接続すると、ダンスミュージック全体のセールスがよくなってくると音楽フェスも盛り上がりますよね。そうすると、いわゆる「横乗りスポーツ」の人たちが好きなパンクのノリも混じってくると思うんです。

渡辺:そうですよね。ジュース・ワールド(Juice WRLD)とかリル・ウージー・ヴァート(LIL UZI VERT)とかのライブでも絶対モッシュが起こるんですよ。亡くなってしまったけど、XXXテンタシオン(XXXTentacion)とか、リル・ピープ(Lil Peep)とかもそうですね。

あと、ここ数年は小さい頃にロックを聴いていたキッズたちが数多くラップを始めているのも大きいですね。その一番ハイブリッドな形がポスト・マローン(Post Malone)。彼も、もともとメタルとかパンクとかが好きだったし、自分もベースやギターを弾いてたけど、音楽的な表現として選んだのはラップだったっていう。

荏開津:彼らが20年前に生まれていたら、多分オルタナティヴロックを選んでいたと思うんですよね。ラップがフェスを席巻する前の時代、オルタナの時代があり、それはパンクからの流れが大きいですから。

ジュース・ワールド『Death Race For Love』(2019年)を聴く(Spotifyを開く

ポスト・マローン『Beerbongs & Bentleys』(2018年)を聴く(Spotifyを開く

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プロフィール

荏開津広(えがいつ ひろし)

執筆 / DJ / 京都精華大学、東京藝術大学非常勤講師、RealTokyoボードメンバー。東京生まれ。東京の黎明期のクラブ、P.PICASSO、MIX、YELLOWなどでDJを、以後主にストリート・カルチャーの領域で国内外にて活動。2010年以後はキュレーション・ワークも手がけ、2013年『SIDECORE 身体/媒体/グラフィティ』より、ポンピドゥー・センター発の実験映像祭オールピスト京都ディレクター、日本初のラップの展覧会『RAP MUSEUM』(市原湖畔美術館、2017年)にて企画協力、神奈川県立劇場で行われたPort Bの『ワーグーナー・プロジェクト』(演出:高山明、音楽監督荏開津広 2017年10月初演)は2019年にヨーロッパ公演を予定。翻訳書『サウンド・アート』(フィルムアート社、2010年)、『ヤーディ』(TWJ、2010年)。オンラインで日本のヒップホップの歴史『東京ブロンクスHIPHOP』連載中。

渡辺志保(わたなべ しほ)

音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタヴュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。

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