川谷絵音の仕事を「ポップス」と「オルタナティブ」から読み解く

川谷絵音の仕事を「ポップス」と「オルタナティブ」から読み解く

2019/11/22
テキスト
金子厚武
編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

ichikoro、美的計画、SMAPなど、川谷のフックアップする / される力

川谷の「フックアップする力 / される力」についても言及しておきたい。SNSの時代となり、「個人」としての音楽家がクローズアップされ、ジャンルや知名度の差を越えて才能のあるもの同士が繋がり、コラボレーションをするようになったのは近年の世界的な傾向であり、川谷もまたそんな時代を体現する作家であると言える。

象徴的なのは、ギタリストのichikaをいち早くピックアップし、インストバンドichikoroを結成したこと。instagramやYouTubeへの動画投稿を特徴とする「SNSギタリスト」を代表する一人として、国外にも多数のフォロワーを抱えるichikaは、現状の日本の音楽シーンではオルタナティブな存在でありつつ、「次代のギターヒーロー」ともいえ、すでに海外の著名なアーティストとコラボレーションをし、先日は「(The Whoの)ピート・タウンゼントがファンだよってメッセージをくれた」というichika自身のツイートも話題に。ichikoroの存在は、今後その重要性をさらに増していくはずだ。

また、曲ごとに異なるボーカルを迎えるというソロプロジェクト「美的計画」の第一弾“KISSのたびギュッとグッと”では、川谷がTwitterで突如開催した弾き語り企画で選ばれた、世間的にはほぼ無名のシンガーソングライター「にしな」を抜擢。こうしたフットワークの軽さも、作家としての魅力に繋がっていると言える。

美的計画“KISSのたびギュッとグッと”を聴く(Spotifyを開く

一方、川谷自身がフックアップされる機会も多く、SMAPにアルバム『Mr.S』収録の“アマノジャク”と“好きよ”、シングル“愛が止まるまでは”を提供しているのに始まり、ジェニーハイにしても、お笑いサイドからのジャンルの垣根を越えたフックアップとも言える(そもそも、川谷が一時期芸人を志すほどのお笑い好きというのもあり)。

ジェニーハイ“シャミナミ”を聴く(Spotifyを開く

最近では、声優・結城萌子の“さよなら私の青春”で川谷の詞曲を菅野よう子が編曲し、坂本真綾のニューアルバム『今日だけの音楽』には“細やかに蓋をして”を提供。こうしたフックアップにしても、やはり「やりたいことをやる」というスタンスで、作家としての色を強固にしてきたからこそ起こるのだ。

結城萌子“さよなら私の青春”を聴く(Spotifyを開く

中間、ノンジャンル、曖昧さ。一面的な言葉では表せない川谷の音楽

最後に、川谷の楽曲に通底する感覚を言葉にするならば、それは「中間」ではないかと思う。「ポップス」と「オルタナティブ」の中間というのもそうだし、ノンジャンル的な感性もそう。「曖昧さ」と言ってもいいかもしれないが、そこにこそ真のオリジナリティーが宿るという感覚は、彼の作品に共通しているように思う。

また、川谷は作品のタイトルをつける際、特別な理由は設けず、感覚的に決めると語っているが、ゲス乙女が本格的に世に出たタイミングのアルバムである『両成敗』(2016年)というタイトルは、SNSによって白と黒の二項対立が進み、大小様々な規模の分断が進んだ世相を見事に射抜くものでもあった。続く『達磨林檎』(2017年)にしても、「同じものでも、見方によって達磨にも林檎にも見える」という感覚は非常に現代的で、川谷がフェイバリットに挙げるRadioheadが前年にリリースした『A Moon Shaped Pool』とも感覚をシェアするタイトルだったように思う。

ゲス乙女の音楽性にしても、川谷は「泣きながら踊る感じ」と説明していて、一面的な言葉では表せないが、とにかく感情が溢れ出てしまう感覚にこそ本質があるという視点は、彼の音楽においてとても重要なものだ。そして、その感情はつねに何かしらの切なさや悲しさを伴うものであり、それを「ブルー」と表現するのではなく、中間色の「インディゴ」として表現することが、川谷絵音という作家の魅力なのではないかと思う。

 

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