どうしたら自分を愛せるか? マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』が描き出した答え

どうしたら自分を愛せるか? マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』が描き出した答え

2022/01/12
インタビュー・テキスト
金子厚武
編集:原里実(CINRA編集部)

「この一年は、自己肯定しないと生きづらいと感じる場面が多かったように思う」

テレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のオープニング主題歌として、メジャーからの最初のリリースとなった“生きるをする”から、『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の主題歌として、バンドが以前から掲げていた「全年齢対象ポップスロックバンド」を体現した“はしりがき”までのアルバム前半は、「自分を愛すること、自分を肯定すること」がテーマになっているように感じられる。

“生きるをする”の<僕が僕を愛し抜くこと なあ、まだ信じてもいいか?>や、“はしりがき”の<ただ あなたには自分を愛してほしいだけなのです>もそうだし、Oasisの“Whatever”風のストリングスが印象的な“メレンゲ”の<また僕を好きになりたい>も、同様のテーマだと言えよう。

はっとり:“生きるをする”は主人公のダイというより、コンプレックスを抱えながらもそれを表に出さずに頑張るポップというキャラクターを自分と重ねる部分も大きかったんですけど、当時の世の中はいまよりもっと沈んでいたので(“生きるをする”のリリースは2020年9月)、「生きる・死ぬ」ってことを考えざるを得なかったし、自問自答の時期だったのかもしれないです。「何をして生きてるときの自分が好きなんだろうか」と考えながらも、そんなことを考える暇もないくらい楽しい日々に早く戻りたいとか、そんなことも思ってたかもしれないですね。

マカロニえんぴつ“生きるをする”を聴く(Spotifyを開く

はっとり:“メレンゲ”もその頃の気持ちとリンクしていて、この曲は「JR SKISKI」のキャンペーンソングだったんですけど、CMがコロナ禍の影響で、「みんなでスキーに行って、そこで恋が生まれる」みたいな映像じゃなくて、「一人でスキーもいいんじゃない?」っていう内容になったので、それで自分に恋をするというか、自分をもう一度好きになるっていう歌になったんです。だから、この一年はそういう一年だったんでしょうね。自己肯定をちゃんとしていかないと生きづらい、そう感じる場面が多かったんだと思います。

マカロニえんぴつ“メレンゲ”を聴く(Spotifyを開く

アルバム前半を締め括る7曲目に置かれたのは、はっとりが姉の結婚式で歌うためにつくった曲で、ファンの間では音源化が待ち望まれていた“キスをしよう”。これまでのマカロニえんぴつのラブソングは、報われない関係性や、過去の失恋を振り返るようなものが多く、そのせつなさが人気の要因にもなっていた。しかしここでは幸せな二人の関係性を、会話を織り交ぜたはっとりらしい筆致で綴り、弾き語りでまとめている。

はっとり:結婚式で<冷めないで 消えないで>とか歌っちゃダメじゃないですか? だから、渋々幸せな歌になりました(笑)。まあ、歌詞を書くときは自分でフィルターとか壁をつくっちゃうときがあって、照れもあったから、これまでは「報われてどうするんだ」とも思ったりして。

でもこれは結婚式で歌う歌で、それこそ誰もがハッピーエンドを望んでるわけだから、照れる必要もなかったというか。なので、ここで一個自分の殻を破れて、この曲がなかったら、“なんでもないよ、”は書けなかったかもしれない。そういうきっかけになってくれたので、姉貴には感謝してます。

マカロニえんぴつ“キスをしよう”を聴く(Spotifyを開く

「音楽を聴きたくないと思うこともある。それでも歌は自分にとっての希望」

「自分への愛」から「他者への愛」へと視点が切り替わった“キスをしよう”を転換点に、アルバム後半は「他者とのつながり」を感じる曲が続く。その理由のひとつは、まずメンバー全員が作曲を手掛けるマカロニえんぴつの強みを生かした、個性的な楽曲が並んでいるということ。

もうひとつは、AOR調の“裸の旅人”が「キャンプ」、ギタリスト・田辺由明のハードロック愛が爆発した“TONTTU”が「サウナ」と、2021年のトレンドが楽曲のテーマになっているのだが、「ソロキャンプ」に代表されるように、これらは「一人」を見つめ直すことによって逆説的に「つながり」を再考するトレンドだったように思われる。

そんななかでも特に印象的なのが、キーボードの長谷川大喜が作曲した“ワルツのレター”。獄中で手紙を書く受刑者のドキュメンタリーに着想を得て、もう一度希望と絶望を見つめ、他者とつながる手段としての「歌」への想いを書き記している。

はっとり:絶望と希望の正体はいまもわからなくて、じつは絶望に背中を押されてるんじゃないかと思ったりもします。希望こそすごく曖昧なものだとも思うけど、自分がそういうものを見失いかけたときに、「何か」がそれに気づかせてくれることで救われたりする。その「何か」が僕にとっては「歌」なんです。

音楽を仕事にしちゃうと、音楽を聴きたくないと思う瞬間もあったりはするんですけど、それでもやっぱり自分のモチベーションを上げてくれるのは「歌」だし、自分にとっての希望です。なので、希望を見失ってる人に対して、俺がこの歌を歌ってる間はこれを希望にしてくれて構わないっていう、押しつけがましいけど、そんな想いがあった気がします。

マカロニえんぴつ“ワルツのレター”を聴く(Spotifyを開く

どうしたら自分を愛せるのか? 一つの答えは、誰かに必要とされること

自分と他者を見つめ続けたアルバムが最初の帰結を迎えるのが、昨年11月にリードトラックとして配信が開始され、大きな反響を呼んだ“なんでもないよ、”。生感の強いピアノと、無機質だけどグルーヴ感のある電子ドラムの組み合わせが、冷たくも温かい独特の音像をつくり出し、耳元で歌っているようなはっとりの歌が印象的なこの曲は、<僕には何もないな 参っちまうよもう>と歌い出した主人公が、最後の一行で<君といるときの僕が好きだ>と自分を肯定する、感動的なラブソングだ。


マカロニえんぴつ“なんでもないよ、”ミュージックビデオ

はっとり:何もないところから自分を好きにはなれないんですよね。「これをしてるときの自分が好き」とか「誰々といるときの自分が好き」とか、そうやって自分のことを好きになっていくと思うから、この曲で一番言いたかったのは最後の一行です。

「好き」に理由づけは必要ないはずなのに、どうしても言葉を探しちゃって、でもやっぱりどんな言葉も野暮に感じられて、結局何も言えなくなっちゃう。それでも最後の最後にやっと、飾らない言葉で想いを伝えてるんですよね。

人を好きになるのってエゴだと思うんです。「一緒にいてくれ」もエゴだし、「先に死なないでくれ」もエゴ。でもそれがリアルだし、僕も誰かに必要とされたらどんなに辛くても頑張れますもん。歌の言葉はきれいに飾ってしまいがちだけど、この曲は飾ることをしなかった、飾らないラブソングなんです。それがたぶん、ジワジワ届いていったのかなって。

マカロニえんぴつ“なんでもないよ、”を聴く(Spotifyを開く

「多様性」という言葉の裏側で膨れ上がった「みんなには何かがあるけど、僕には何もない」という絶望的な自意識が行く当てもなくさまよう現代。スマートフォンの画面を通じて立ち現れる「みんなには何かがある」は、実際のところ大抵幻想だったりするのだが、それをそうと割り切ることは決して簡単なことではなく、何もない自分を愛せないがゆえに、他者を傷つけてしまったりもする。

それでも、そんな自分を必要としてくれる誰かがいることが希望になって、自分を肯定することができるはず。いまの時代に何より必要なのは、そんな「他者を通じて自分を愛するためのラブソング」であり、それを飾らない言葉で歌った名曲が“なんでもないよ、”なのではないだろうか。

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リリース情報

マカロニえんぴつ『ハッピーエンドへの期待は』
マカロニえんぴつ
『ハッピーエンドへの期待は』通常版(CD)

2022年1月12日(水)発売
価格:3,300円(税込)
TFCC-86799

1. ハッピーエンドへの期待は(映画『明け方の若者たち』主題歌)
2. 生きるをする(テレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』オープニング主題歌)
3. 八月の陽炎(大正製薬「コパトーン」CMソング)
4. 好きだった(はずだった)(TBS系『王様のブランチ』2021年4月~9月テーマソング)
5. メレンゲ(JR SKISKI 2020-2021 キャンペーンテーマソング)
6. はしりがき (『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』主題歌)
7. キスをしよう
8. トマソン(ブルボン「濃厚チョコブラウニー」CMソング)
9. 裸の旅人(ColemanウェブCM「灯そう」テーマソング)
10. TONTTU
11. ワルツのレター(TBS系『news23』新エンディングテーマ)
12. なんでもないよ、
13. 僕らが強く。
14. mother(テレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』エンディング主題歌)

プロフィール

マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ

2012年はっとり(Vo / Gt)を中心に神奈川県で結成。メンバー全員音大出身の次世代ロックバンド。はっとりのエモーショナルな歌声と、キーボードの多彩な音色を組み合わせた壮大なバンドサウンドを武器に圧倒的なステージングを繰り広げる。

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