ダメな部分に光を当てる、川谷絵音の「女性目線」の詞を語り合う

ダメな部分に光を当てる、川谷絵音の「女性目線」の詞を語り合う

2021/11/10
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:西田香織 編集:金子厚武、CINRA編集部

自己表現から演技へ、REISの転機となった“WOMAN WOMAN”

―REISさんは「DADARAYの曲のなかから一曲」に対して、“WOMAN WOMAN”を挙げてくれています。

DADARAY『DADASTATION』から“WOMAN WOMAN”を聴く(Spotifyを開く

REIS:この曲が収録されている『DADASTATION』というアルバムまでは、歌詞のキャラクターに自分の経験や知識を重ねて理解しようとしていたんです。でも、だんだん当てはまらなくなっていきました。“少しでいいから殴らせて”とか、「殴らせろって思ったことないしな」って(笑)。

“WOMAN WOMAN”には<こうしてつまらない人生を / 誰にも共有出来ないのよ>という歌詞があります。私も根はネガティブではあるんですけど、だからこそそういうことは言いたくないと思って生きてきたから、自分で歌詞を書くときは気持ちをちゃんと転換して、きれいな言葉を使うようにしてきたんです。なので、“WOMAN WOMAN”の歌詞を最初に見たときは、まったく理解できなくて(笑)。

イッキュウ:あははははは。

REIS:で、どうしようと思ってたときに、この曲のミュージックビデオでダンスをすることになって。振付師の辻本(知彦)さんと初めてダンスのレッスンに入ったときに、最初「自分だったらどう表現する?」っていわれて、なにも出てこなかったんです。「だって、こんな気持ちわかんないもん」みたいな。

REIS

REIS:そのあとに振りを辻本さんからもらいました。ステップの大元がタンゴなんですけど、まったくのダンス未経験な私が辻本さんの振付で踊るからには、ちゃんと勉強しないとと思って、タンゴの歴史を調べたりして。

イッキュウ:真面目!

REIS:でもそうやって振りを覚えていくなかで、自己表現というより演技になっていったんです。「踊りは目線も大事なんだ」っていわれたことも、演技だと思ったらすごく腑に落ちた。わざわざ歌詞を自分にパズルみたいにハメなくても、キャラを演じるというか、憑依すればいいと思ったら、すごく楽になったんですよね。

自分の気持ちを守ったまま、ちゃんと役に入る。それが確立できたのが“WOMAN WOMAN”で、この曲のミュージックビデオがなかったら、そこに到達できてなかったなって。


DADARAY“WOMAN WOMAN”

―もともとはシンガーソングライターとして「自分」を歌ってきたから、他の人の歌詞でも最初はそこに自分を重ねようとしていたけど、ここでアプローチが変わったと。

REIS:それまでの変な真面目さ、ストイックさからもここで卒業できました。ストレスにならない程度に自分を乖離させて、曲に向き合うことができるようになったんです。

イッキュウ:転機になった曲なんですね。

REIS:かなりの転機でした。

女性にしか書けないようなディテールの細かさは、川谷の人間観察力の高さゆえ?

―「新作(『ジェニースター』)のなかから一曲」に対しては、イッキュウさんが“華奢なリップ(feat.ちゃんみな)”を挙げてくれています。

ジェニーハイ“華奢なリップ (feat.ちゃんみな)”を聴く(Spotifyを開く

イッキュウ:私が挙げた“グータラ節”と“華奢なリップ”は、絵音さんが女性目線の歌詞をたくさん書かれているなかでも、特に「なんでこんなに女性の気持ちがわかるのかな?」と思う2曲。<赤いリップで強くなったよ>とか、絵音さんは絶対経験ないじゃないですか……絶対とは言い切れないですけど(笑)。

REIS:あははははは。

イッキュウ:“グータラ節”にしても、自分の経験じゃないのにここまで細かく描写できるのが、不思議でならないんですよね。こういうのは「思いつく」とかじゃないじゃないですか? 経験した人が書いたみたいに詳しく書かれてるから、すごく不思議です。ゴーストライターがいるかもしれない(笑)。

イッキュウ

―ジェニーハイにゴーストライターがいたらいろいろ複雑ですけど(笑)、でもたしかに描写の細かさは川谷さんの歌詞の特徴のひとつですよね。

イッキュウ:“グータラ節”の冒頭の<私って身体から機械壊しちゃう電磁波でも流れてるのかしら / 新しい家電はことごとく電源入らなくなるしさ>とか、ホントにそういう人じゃないとこれでへこまへんやろうなって。

REIS:DADARAYの“URARAKA”には<ジャガイモの新鮮さを見極める>っていう歌詞があります。女性の生活がふと見えるような書き方で、それが抽象的ではなく、ディテールがあるのはびっくりしますね。「なんで? やってるの?」みたいな(笑)。

イッキュウ:さっきREISちゃんが「自分じゃないキャラクターを歌うのが難しかった」と言ってましたけど、自分じゃない人の生活の歌詞をなんで書けるのかなって。

―観察眼なのか、想像力なのか、もともと女性的な側面を持ってるからなのか……。

イッキュウ:人間観察力はすごく高そうな気がします。ちょっとしたInstagramの投稿とかを見て、会ったときに「あれはなんなの?」って聞いてきたり……よく見てるんやなって。

REIS:そういうのを記憶して、曲にするときに引き出すのってすごいですね。私は歌詞を書くとき「なにがあったっけ?」となって出てこなくなっちゃう(笑)。そのとき苦しいことは書けるけど、疑問に思っていたこととかって、なにか目印をつけておかないと忘れちゃうんですよね。

REIS

イッキュウ:絵音さんは気になったことを書きとめてるんですかね?

REIS:ネタ帳とかあるのかな?

―でもそういうイメージあんまりないかも。即興の曲づくりと一緒で、ベースはひらめきで書いていて、細かい部分を調べるくらいかなって。

イッキュウ:その場でポンポン出てくるイメージですよね。

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リリース情報

ジェニーハイ『ジェニースター』
ジェニーハイ
『ジェニースター』(CD)

2021年9月1日(水)発売
価格:3,300円(税込)
WPCL-13323

DADARAY『ガーラ』
DADARAY
『ガーラ』(CD)

2021年9月22日(水)発売
価格:3,300円(税込)
WPCL-13324

プロフィール

中嶋イッキュウ(なかじま いっきゅう)

ジェニーハイではボーカル、tricotではボーカルギターを務めるアーティスト。自身のアパレルブランドSUSU by Ikkyu Nakajimaではデザイナーを務める。

REIS(れいす)

休日課長(ゲスの極み乙女。)率いる3人組ユニットDADARAYのボーカリスト。DADARAYは今年9月に2ndフルアルバム「ガーラ」を発売し、2022年2月より東名阪ワンマンツアー「東名阪一番街」を開催。

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