デジタルディストリビューターが見た、日本の音楽業界の現在地

デジタルディストリビューターが見た、日本の音楽業界の現在地

2021/06/30
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:鈴木渉 編集:金子厚武、CINRA.NET編集部

収益は100%還元。アーティストの継続的な活動を支えるTuneCore Japan

―あらためて、それぞれのサービスの成り立ちをおうかがいしたいのですが、TCJの設立は2012年で、まさに日本のデジタルディストリビューターの先駆けですよね。

野田:そもそもCDを流通させるには、事務所やレーベルに所属して、流通会社を使う必要があったわけです。それでやっとタワーレコードやHMVにCDが並ぶっていう、音楽業界の決まった流れがあったわけですけど、どこかに所属しなきゃいけないとか、地方だとそもそも大変とか、いろんな弊害があったんですよね。

そんななか、世の中にオンラインが普及してきて、自分でつくった曲を個人でアップロードできるようにはなったものの、無料配布はできても、有料で、オフィシャルで発表できる方法がまだなかった。それをデジタルのサービスを使って解決したのが我々だと思っています。

会社を立ち上げた頃はまだストリーミングがなかったので、「何をどこに流通してるんだ?」と思われたかもしれないですけど(笑)、当時の主流はダウンロードで、iTunesだったり、AmazonのMP3だったりしました。それから4年後、日本のストリーミング元年といわれている2016年から、さらにサービスが広まっていく流れになりましたね。

野田威一郎

―会社として大事にしていたのはどんな部分でしたか?

野田:ぼくたちのミッションは、インディペンデントのアーティストが自分たちで楽曲を発表して、継続的な活動をできるようにすることなので、収益を100%還元するということがコンセプトとしてずっとあります。その代わり、ぼくたちは手数料をちゃんといただいて、それを使ってサービスを拡充するという役割分担です。

あとは、制作資金を出す代わりに権利をもらうのではなく、権利はアーティスト側が持つ。あくまでアーティストが自由に活動できるように、クリエイティブには一切かかわらないっていう、そのコンセプトもずっと変わらないですね。

アーティストを中心とした世界標準の活動を模索するFRIENDSHIP.

―FRIENDSHIP.は2019年のスタートなので、現在の日本のデジタルディストリビューターのなかでも後発組といえますが、そもそもはどんな成り立ちだったのでしょうか?

山崎:ぼくはもともとThe fin.というアーティストのマネージャーをずっとやっているんですけど、彼らが2016年の後半に拠点をロンドンに移して、向こうに住んで活動を始めて。そうなったら、現地のレーベルがついてないとプロモーションもできないと思ったので、向こうの音楽関係者といろいろ話をしたときに、「アーティスト自身でレーベルをつくって楽曲の権利を持ち、デジタルディストリビューターと一緒に仕事をしたら?」と、みんなから言われたんです。

The fin.“Shine”を聴く(Spotifyを開く

山崎:それから自分でもいろいろ調べるなかで、現地のディストリビューターを紹介してもらい、説明を聞いたら、「ひょっとして、これ自分でできるんじゃないか?」という内容だったんですよね。当時はもうイギリスもアメリカも、アーティストを中心にチームを組んで活動することがスタンダードになっていて、それこそデジタルディストリビューションもそうだし、PR会社やブッキングエージェントとの契約もアーティストが直接行うやり方が普通だったんです。

山崎和人

―でも、日本はまだそうじゃなかった。

山崎:そうですね。レコード会社とマネジメントがはっきり分かれていました。でも、もっとアーティスト主体で活動すれば、日本のどこにいたって海外にまで届けられる。なので、その学びをローカライズしたというか、日本の音楽業界に当てはめてスタートしました。デジタルディストリビューションが根底にありつつ、その周りにプロモーション、出版管理、フィジカルの製造や流通のサポート、マーチャンダイジングなどいくつかのオプションに分けて、必要なアーティストが必要に応じてそれを使う、みたいなかたちです。

―そのあたりがTCJとの条件面での違いにも表れているわけですよね。

山崎:FRIENDSHIP.はアーティストに収益の85%を戻す契約になっていて、その代わり固定費や追加の金額は一切ありません。そうなると、FRIENDSHIP.としては楽曲が再生されないと売り上げにならないわけです。だからこそ、配信するアーティストは応募していただいたデモのなかからこちらでセレクトさせてもらう代わりに、責任を持ってサポートする、というかたちになってるんです。

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プロフィール

野田威一郎(のだ いいちろう)

東京出身。香港で中学・高校時代を過ごし、慶應義塾大学卒業後、株式会社アドウェイズ入社。2008年に独立しWano株式会社を設立。2012年にはTuneCore Japanを立ち上げ、2012年10月にサービスを開始。

山崎和人(やまざき かずと)

1978年生まれ。2000年、株式会社ハーフトーンミュージック入社、2003年よりライブハウス"新宿MARZ"店長/ブッキングマネージャーを経て、2009年に株式会社ヒップランドミュージック・コーポレーション入社。The fin.、LITEのA&R/マネージャーとして、作品リリースやアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど数々の海外ツアーの制作を担当。2019年5月より、デジタル・ディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」をスタートさせる。

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