Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

Awich×KM×LEX鼎談 日本のヒップホップを生活にコネクトするために

2021/09/15
インタビュー
渡辺志保
撮影:玉村敬太 テキスト・編集:久野剛士

勇気を持って自分を曝け出してやってるかっていうのが基準です(Awich)

渡辺:今の日本のヒップホップって、大規模なイベントをやると、LEXさんの世代から、大御所の先輩まで同じステージに立ってますよね。第一世代と若手が同じ場所に立つのが、エキサイティングだと思います。Awichさんも自分より若いアーティストからいいエナジーをもらうこともありますか?

Awich:めっちゃあります。大人を見て嫌だったことは、凝り固まった考え方だったから。例えば時代が変化するような新しいスタイルが生まれたときに「あれはダメだ」って言う年長者をずっと見てきたし、その無意味さを知ってるから。みんなの話をできるだけオープンマインドでやることが、私自身の理想を超越するためにも重要なんですよね。

「これはダメ、あれはダメ」って言ってたら、絶対それになれないから。全てを包み込むイメージで、いろんな人の話を聞きたい。自分へのヘイトとかも、何も言われないよりかはうれしい。

渡辺:ヘイトも受け止められるようになったのっていつ頃ですか?

Awich:最近(笑)。でも、受け止めようと思ってからは簡単だった。自分がいろんなことを経験した上では、あの言葉があったからこそ今があるんだって思える。もちろん、本当はそんな経験はなくてもいいとも思うけど。人間は色んなことをこじつけて、「自分はもう強くなれてる」って思うかもしれない。そして、今「強い」って思えるなら実際に強いんだと思う。ずっとイメージしてると、だんだんそう見えてくると思うし。

Awich

渡辺:これは世界共通だと思いますが、今のアーティストってソーシャルメディアや、ヘイトなコメントとどうつき合うか、という問題を抱えていますよね。もちろん強くある必要はないんですけど、SNSとの折り合いのつけ方が必要な環境でアーティストとして前に出ていかなきゃいけないのは、相当なプレッシャーだろうなって思います。

Awich:私は、どんな分野でもいいので、それぞれのフィールドでしっかりステージに立って、勇気を持って行動している人の意見にだけ耳を傾けます。そうじゃない人の意見は無意味。今は安い席で見てるのに、人が取った行動に対して難癖をつける人が多すぎる。じゃあ、あなたは何かやってるんですかって聞くとやってない。

自分のことに集中して、夢中で何かをやってる人って、人のことをとやかく言わないですよ。そんな暇ないから。そういう人が、それでも言ってくれる言葉はちゃんと聞きます。だから、勇気を持って自分を曝け出してやってるかっていうのが基準です。

その点で、BAD HOPはすごいと思う。アリーナに立って、それが成功してもしなくても、勇気をもってやることに意味がある。絶対に自分たちの人生の価値につながってくるから。名前も伏せて顔も伏せて、何もやってない人たちに対しては、「お前、誰?」って思いますね。安い席が多すぎるんです。

日本にヒップホップがライフスタイルとして根づくんだったら、もうこのタイミングしかない(KM)

渡辺:今回「Connect=コネクト」がプレイリストのテーマにもなっています。「いろんなラッパーが繋がる」のは、ラップシーンそのものの面白さですし、先ほどBAD HOPさんの発言もありましたが、みんなで盛り上げていける強みなのかなと思うんです。

LEX:そうっすね。でも、なんかそうやって繋がる人たちと真正面から真剣に向き合って、言いたいことを言う。自分のほうが年下なんで、やるからには臆せずにやるっていうところはモットーにしてます。

渡辺:逆に、年下の方から「LEXさんコラボしてください」とかそういうオファーあったりします?

LEX:そうっすね。でも、しないっすね。

一同:(笑)。

Awich:スーパースターだもん、ティーンにとって。

LEX:才能があるのにもったいないなと思って、家呼んでレコーディングさせてあげたり、何かしてあげたいという思いはあるんですけど。「一緒にやりたい」は今のところないです。

LEX

渡辺:KMさんはどうですか?

KM:「コネクト」という視点で言うと、さっきAwichさんが言ってたように、ステージに上がっている相手とは話し合えるんです。Chakiさん(日本の音楽プロデューサーChaki Zulu)が曲を出したら、ChakiさんにLINEして「ヤバかったです」って伝えるし。

ラッパーとかアーティストって全員、このラップゲームにいる以上はライバルでもある。でも、日本では深刻なトラブルとかもあんまりないですよね。

渡辺:殺し合うレベルものはないですもんね。

KM:日本のラップゲームは、そこが一つの強みだと思う。海外のような、バイオレンスやフレックス(自慢・虚勢を張るを表すスラング)でなくてもいい。アメリカとは違う形で、2021年以降、日本のヒップホップが変わるんだったらいいなと思ってます。

本当に日本にヒップホップがライフスタイルとして根づくんだったら、もうこのタイミングしかないと思ってる。もう、何度か失敗してるので。でも、これまで失敗した時期と違って、文句ばかり言ってる人には発言権がない。

KM

Awich:そういう面では、私も責任じゃないけど、「みんな、一緒にやっていこうぜ」って言える気がするんですよ。女だからこそ、変な男同士のマウンティングとは距離を置けてると思う。少なくとも、私が必要とされる要素が、以前のシーンよりはあると思う。

渡辺:かつてはジャンルの内部でも、シーンが盛り上がると批判する人が一部いましたけど、今はそれを言う人があんまりいないのは、どうしてなんでしょう?

KM:俺はAwichさんの言ってることが全てだと思う。ステージに上がらない人がとやかく言える権利はもうない。そんな人の言うことは、誰にも届かないから。リスペクトされたいんだったら、どれだけ自分を磨くかだけですから。

Awich:もちろん、ヘイターもコメントの数を増やして盛り上げてくれるからありがたいんですよ。今までは私のことを好きな人だけが聴いてくれていたけど、知らない人の耳にも伝わっているという、いい証拠なんだと思う。

ただしその分、私は私のことを好きでいてくれるファンとちゃんと団結して活動したい。そうすると、ファンたちもウォッチャーとしての責任を持ってくれるし。

渡辺:そうですね。1回新陳代謝があってシーンがガラリと変わって、次のフェーズに移行していると私も強く感じます。

KM:地方の若いラッパーなんかもすごくいいアーティストが出てきているし。人と違う、自分にしかない何かをそれぞれが探して楽しんで欲しい。なんでもそうだけど、参加するのが一番楽しいですからね。そういう遊びの先に日本独自のヒップホップがあるかも知れないと思ってます。


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左から:KM、Awich、LEX

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リリース情報

「+81 Connect」
「+81 Connect」(プレイリスト)

5年間展開してきた「New Era: J-Hip Hop」プレイリストを、新しいカバーデザインとともに、「+81 Connect」(エイティーワン・コネクト)というタイトルでリブランド。SpotifyのJ-Hip Hopのフラッグシッププレイリストがよりアーティストコミュニティーに深く浸透し、影響力のあるブランドとしてシーンと共に大きく成長する事を目指す。

プロフィール

Awich(エイウィッチ)

1986年、沖縄県那覇市生まれ。14歳のときに沖縄産ヒップホップのコンピレーションアルバム『Orion Beat』に客演で参加。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期にビジネスを学ぶため米国アトランタに渡る。ファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で起業学とマーケティング学の学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫が他界。その後、娘と共に沖縄に帰郷。2017年8月、Chaki Zuluの全面プロデュースによる10年ぶりのフルアルバム『8』(読み:エイト)をリリース。2020年には最新アルバム『孔雀』をリリース。同年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。

KM(ケーエム)

音楽プロデューサー。ヒップホップに根ざした音楽スタイルを保ちつつ、異ジャンルとの果敢なクロスオーバーを試みながら楽曲制作やリミックスを手がけている。2017年に初のインスト作品集『lost ep』を発表。2019年に田我流とのコラボ作『More Wave』、2020年には(sic)boyとコラボしたミニアルバム『(sic)'s sense』とアルバム『CHAOS TAPE』をリリースした。2021年、最新アルバム『EVERYTHING INSIDE』を発表。

LEX(レックス)

2002年神奈川生まれ。音楽ファイル共有サービス、SoundCloudで人気に火が点き、2019年4月にアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表。でデビュー。昨年8月26日にはサード・アルバム『LiFE』を発表し、その評価を確固たるものとした。

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