Spotify日本上陸から5年。柴那典&ジェイ・コウガミが綴る激動

2016年11月10日にSpotifyが日本で正式サービスを開始してから丸5年。Apple MusicやLINE MUSIC、AWAといった音楽サブスクリプションサービスも、ほぼ同時期となる2015年からサービスを開始させた。

それから、社会は大きく変動した。ドナルド・トランプが大統領に就任した2017年。新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2019年。ジョージ・フロイドの死をきっかけにしてBLMが全世界に波及した2020年。日本では平成から令和へと時代が移り、オリンピック・パラリンピックの延期と1年越しの開催もあった。そして世界各地で、音楽イベントの相次ぐ中止という未曾有の事態が発生した。

激動の時代の中、Spotifyをはじめとする音楽のサブスクリプションサービスはこの日本においてどのように受け入れられてきたのだろうか。そして音楽界に、一人ひとりのリスナーの生活に、どのような変化をもたらしてきたのだろうか? Spotifyの各種ランキングデータを交えつつ、5年間の軌跡をコラムで振り返りたい。

執筆者は、『ヒットの崩壊』などの著書で知られる音楽評論家・柴那典と、音楽ビジネスメディア「All Digital Music」編集長も務めるジェイ・コウガミ。柴那典にはSpotifyをはじめとする音楽のサブスクサービスがもたらした「ヒット曲」の再定義と、その変化を象徴するアーティストたちについて。ジェイ・コウガミにはSpotifyを中心とした音楽サブスクリプションサービスがもたらした音楽ビジネスの地殻変動について、分析的視点を交えて考察してもらった。

(メイン画像:Photo by Filip Havlik on Unsplash)

「ヒットの定義」の変化を象徴する、あいみょんとヒゲダン(テキスト:柴那典)

ストリーミングサービスの普及によって、アーティストの飛躍の道筋は大きく変わった。Spotifyが日本でサービスを開始してからの5年間を振り返って、あらためてそう感じる。

Spotifyの日本ローンチ5周年に際してSpotifyが発表した「過去5年に国内で最も再生された楽曲 TOP20」のランキングを見ると、その上位5位はYOASOBI“夜に駆ける”、Official髭男dism“Pretender”、BTS“Dynamite”、King Gnu“白日”、優里“ドライフラワー”。どれも世を賑わしたヒット曲だ。

この5年間のTOP100ソングを紹介するプレイリスト「Go Stream」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

2016年に上梓した『ヒットの崩壊』(講談社現代新書刊)で、筆者は「さまざまな『特典商法』がパッケージ売上を押し上げたことで、シングルCDの売り上げ枚数を並べたランキングが形骸化し、流行歌の指標が失われた」という趣旨の文章を書いた。たしかに、2010年代初頭から中盤にかけてはそうだった。

が、状況は変わった。ストリーミングサービスの普及で「売れた枚数」よりも「聴かれた回数」がヒットの指標として大きな意味を持つようになり、Billboard JAPANが展開しているような複合型チャートが存在感を増したことで、ヒットチャートが再び流行の指標として機能するようになったのだ。

では、この先にどういう未来が待っているのか? ストリーミングサービスを起点にしてブレイクした楽曲やアーティストのトピックを振り返りつつ、音楽シーンの先行きを占いたい。

2016年から2021年までのヒット傾向を一挙に回顧。どう変化した?

興味深いのはSpotifyが今回発表した「2016年11月に日本で聴かれた楽曲 TOP5」の並びだ。The Chainsmokers“Closer”、ブルーノ・マーズ“24K Magic”、DJ SNAKE“Let Me Love You”、Maroon 5“Don't Wanna Know”、Major Lazer“Cold Water (feat. Justin Bieber & MØ)”となっている。すべて海外のヒットソングだ。つまりこれは、サービス開始当初はSpotifyのユーザー層自体が海外のポップ・ミュージックに興味を持つリスナーに偏っていたということを意味している。

The Chainsmokers“Closer”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

ブルーノ・マーズ“24K Magic”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

サービス開始当初は日本の大物アーティストの多くがストリーミングサービスに音源を解禁していていなかったことも、その理由としては大きいだろう。

しかし、2017年から2018年にかけて、徐々に状況は変わっていく。DREAMS COME TRUE、宇多田ヒカル、Mr.Children、椎名林檎など数々のヒット曲を持つメジャーアーティストたちが次々と楽曲を解禁していき、より広い層にサービスが浸透していった。

宇多田ヒカルの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

Mr.Childrenの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

そして、ストリーミングサービスから注目を集めるヒット曲が生まれるようになる。転機になったのが、あいみょんの“マリーゴールド”だ。

あいみょん “マリーゴールド”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

2018年8月にリリースされたこの曲は、リリース時点のオリコンCDランキングは25位。CDが最初からヒットしていたわけでは、決してない。しかしSpotifyやApple Musicなどのランキングで長らく上位を獲得したことをきっかけに人気に火がつき、その年の『NHK紅白歌合戦』にも初出場を果たす。

「なぜあいみょんはストリーミングサービスから火がついた最初のスターになったのか」というテーマについては、CINRA.NETに当時掲載されたダイノジ・大谷ノブ彦さんとの対談企画「心のベストテン」でも語っているので、よかったらこちらも参照してみてほしい(参考記事:なぜあいみょんはブレイクしたのか? 大谷ノブ彦×柴那典が語る)。

そして2019年のヒットチャートを席巻したのがOfficial髭男dismの“Pretender”だった。

Official髭男dism “Pretender”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

この曲だけでなく“宿命”や“ノーダウト”や“Stand By You”など人気曲を続けざまに世に放ち、Official髭男dismは一躍ブレイクを果たしていく。グッドミュージックに徹するという姿勢を貫くことで「新時代の国民的バンド」となった彼らの歩みについては、当時のKompassの記事にも書いている(参考記事:ヒゲダンはなぜブレイク? 紅白も決定、新時代の国民的バンドへ)。

コロナ禍で音楽シーンだけでなく世の中全体が大きな変化を迎えた2020年には、YOASOBIの“夜に駆ける”がその年を代表するヒット曲になった。

YOASOBI“夜に駆ける”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

筆者がその存在を知ったのは2020年初頭のこと。King GnuやLiSAなどを押しのけてSpotifyバイラルチャートで1位になっていたのがきっかけだった。

CINRA.NETにいち早く書かせてもらった紹介記事には「YOASOBIの『物語』は始まったばかりのようだ――」と書いたが、それでも彼らがこれほどの人気になるとは当時は予期していなかった(参考記事:YOASOBI、ボカロ文化と繋がる「物語音楽」の新たな才能の真髄)。

こうしてここ数年でストリーミングサービスからその年を代表するヒットが生まれるようになった。2021年も優里“ドライフラワー”やAdo“うっせぇわ”などCD未発売のヒット曲は多い。こうした流れは今後も続いていくはずだ。

優里“ドライフラワー”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

Ado“うっせぇわ”をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

大きな存在感を放つ「RADAR: Early Noise」。あいみょん、ヒゲダン、King Gnuらをいち早く紹介

新人アーティストがブレイクしていく過程においてもストリーミングサービスは大きな役割を果たしている。なかでも大きな存在感を持っているのは、Spotifyが日本でのサービス開始当初から打ち出してきた「RADAR: Early Noise」(開始当初のプログラム名は「Early Noise」)だろう。

2017年にスタートした「RADAR: Early Noise」とは、Spotifyがその年に大きな飛躍が期待される新進気鋭の国内アーティストを選出し、その魅力をプレイリストやショーケースライブを通じて紹介していくプロジェクト。つまり、サービス側が一つのメディアとして、新しい才能を世に広めるサポートを行なうプログラムだ。

プレイリスト「RADAR: Early Noise」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

これまで「RADAR: Early Noise」が選出してきたアーティストの名前を並べると、その目利きの確かさがわかる。あいみょん、Official髭男dism、King Gnu、ビッケブランカ、藤井風、Vaundyと、いまや日本の音楽シーンを代表するアーティストたちが名を連ねている。

他にもCHAIや羊文学といったロックバンド、小袋成彬やカネコアヤノ、中村佳穂といった才気あふれるシンガーソングライター、Daichi Yamamotoや(sic)boyやLEXなど気鋭のラッパー、ずっと真夜中でいいのに。やPEOPLE1など素顔を明かさずに活動するアーティストも、「RADAR: Early Noise」のイベントやプレイリストなど、さまざまなプログラムを通して紹介されてきた。単に「人気が出そう」とか「ヒットしそう」という意味での「ブレイク期待」というよりも、日本の音楽カルチャーの現場の熱気を反映するようなセレクトが成されてきたのが「RADAR: Early Noise」の特徴だろう。

この先の課題は、こうした新進気鋭のアーティストたちの魅力をいかに国境を超えて伝えていくことができるか、ということだ。

(sic)boyの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

PEOPLE1の楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

ストリーミングサービスは、音楽とリスナーの「出会い方」の多様化を促進する

コロナ禍が長引き、日本だけでなく各国のアーティストの海外でのライブやツアーが制限されて久しい。その影響もあって、ここ1、2年は、オリヴィア・ロドリゴなど数少ない例外をのぞき、グローバルに人気を拡大する新人アーティストは少ない状況だ。

オリヴィア・ロドリゴの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

しかし、その一方でSpotifyには国境を超えてジャンルやムードに通じ合った曲を集めたプレイリストも多い。それらを日常的に聴いているリスナーはアーティストの国籍や活動拠点を意識せずに音楽を聴くことが当たり前になってきている。そして、コロナ禍でオンラインでの共同作業が簡易になったこともあり、アーティスト同士が国境を超えたコラボを行なうことも増えている。

たとえば「.ORG」というアジア圏のインディーミュージックを集めたプレイリストに、折坂悠太のニューアルバム『心理』収録曲の“윤슬(ユンスル) feat. イ・ラン”が入っている(記事執筆時点)のはその象徴とも言えるだろう。

プレイリスト「.ORG」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

音楽シーンは多様化に向かっている。世を席巻するヒット曲を並べたランキングは耳目を集めるが、むしろ音楽カルチャーの豊かさは、「数千万回」「数億回」といった再生回数の「大きな数字」ではなく、それぞれの表現を追求しているアーティストが着実に活動を続けられる、裾野の土壌の豊潤さにあらわれるはずだ。ストリーミングサービスをきっかけに、アーティストとリスナーの有機的な出会いが生まれ続けることを期待したい。

Spotify Japanの5年を振り返る動画

激変した音楽業界の常識。そして、見えてきたオーディオコンテンツの未来(テキスト:ジェイ・コウガミ)

2016年の登場以来、日本におけるSpotifyは、音楽ストリーミングの代名詞と言えるほど音楽界隈で浸透している。音楽好き同士でつながっている人々のSNSでは、毎日のように、多くのアーティストや楽曲のリンクが共有され、好きなアーティストやクリエイターについて投稿されている。

Spotifyをはじめとする音楽サブスクリプションサービスは、これまでの歴史上、類を見ない量の音楽を配信している。「Music Business Worldwide」が報じたところによると、Spotifyでは毎日、なんと60,000曲以上がカタログに追加されている。年間で計算するとざっと2,200万曲だ。新しい音楽が驚異的な速度で、世界各地で生まれている。

これは日本でも起きているトレンドだ。インディペンデントな音楽活動を続け、楽曲を配信したいアーティストやクリエイターたちの自由度が、ストリーミングの登場によって広がったことは、音楽業界における大きな変化だ。

「トップソング – グローバル」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

現在Spotifyは1億7,200万人の有料ユーザーを世界に抱え、いまもなお成長し続けている。そして、いまやSpotifyの企業価値は550億ドルまで高まり、あらゆるレコード会社を超えた。音楽に限れば、業界最大のサブスクリプションプラットフォームとなった。音楽に限れば、というのは、さまざまなサービスを提供するなかで音楽サブスクリプションで競合するAppleやAmazon、Googleの企業価値にはまだまだ及ばないからだ。

日本でも、Spotifyのようなストリーミングアプリでの音楽再生が当たり前になったと感じる人は多いだろう。しかしそれが、この数年で次なるステップに移りつつある。背景には、Spotifyが近年最も注力する音声、特にポッドキャストの存在がある。

音楽とトークを楽しめる新機能「Music+Talk」のベスト・エピソードを集めたプレイリスト「Best of Music + Talk Episodes」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

近い将来、Spotifyで再生されるコンテンツの20%以上は「音楽以外」のコンテンツに?

Spotifyは世界最大の「オーディオファースト」な企業を目指すことを、2019年に発表した。オーディオファーストとは、総合的なオーディオコンテンツを提供するプラットフォームを目指すという戦略。Spotifyのプラットフォームでは、音楽だけでなく、トーク番組のポッドキャスト、ドキュメンタリー番組、フィクションなど、オーディオコンテンツが世界中から投稿され、配信されている。

最近リリースしたアプリ「Greenroom」では、リアルタイムトーク配信という新たなオーディオ市場にも進出した。ライブオーディオルームをホストしたり、参加したりできるというアプリで、ライブディスカッションやトークの模様はポッドキャストとしても配信可能だ。

2019年、Spotifyの創業者兼CEOであるダニエル・エクは、「ラジオ業界のデータをもとに考えると、将来的にSpotifyの視聴内容の20%以上が音楽以外のコンテンツになることも十分に考えられる」との予測を明かした。そういった見通しのもとで進められている、耳で聴くあらゆるオーディオコンテンツを取り込むSpotifyの戦略によって、音楽配信がどのような相互影響を受けるか、その可能性や課題を音楽業界は議論していく必要があるだろう。

たとえばNHKラジオニュースもSpotifyで聴くことができる(Spotifyを開く

音楽市場の再成長を促進したサブスクリプションサービス

2010年代、SpotifyやApple Music、Amazon Musicなどの音楽サブスクリプションの登場は、音楽ビジネスのあらゆる側面、ビジネスモデル、収益化の仕組みを変えた。音楽サブスクリプションサービスの登場以前、「デジタルで音楽を聴く」といえばダウンロードであり、2000年代と2010年代、その多くは違法ダウンロードだった。

世界の音楽業界やレコード会社、アーティストは、蔓延する違法行為に成す術なく、収益だけが奪われていった。そんな状況を変えるべく、フリーミアムモデル(「フリー」と「プレミアム」を合わせた造語。基本的なサービスを無料で提供し、高度な機能を有料で提供することで収益を得るビジネスモデル)を先駆的に導入したのがSpotifyだった。

これにより、長年にわたって迷走してきた音楽業界は、再び成長し始めた。音楽サブスクリプションへとビジネスの軸足を移行したことで、メジャー、インディーズ問わず多くのレーベルやアーティストは新しい収益源を獲得できるようになった。国や言語、文化を超えて、楽曲やカタログ音源、権利の収益化が可能になったことにより、原盤権の収益分配やライセンスビジネス、著作権ビジネス、ライブ、物販など収益モデルの多様化と近代化が進んだ。これによって、独立した音楽活動を持続できるインディペンデントアーティストやクリエイター、インディーレーベルに成長の機会が増えていったのだ。

レーベルと契約せず、CDリリースもしないインディペンデントな音楽活動で頭角を現したChance The Rapper(Spotifyを開く

IFPI(国際レコード産業連盟)が毎年発表している、世界の音楽市場レポートによれば、2015年を境にして音楽市場の成長が始まった。新型コロナウイルスの感染が拡大し、ライブやフェスに限らず、あらゆる行動制限が課された2020年でも、音楽市場は成長が続いた。2020年の音楽市場は売上高216億円(約2兆4500億円)。その内訳は62.1%がストリーミングからの売上だった。ここにはSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションサービスと、YouTubeなどの広告型ストリーミングが含まれている。

最も大きな変化となったのは、2016年を機に、音楽業界最大の収益源がCDなどの「フィジカル」なメディアから、ストリーミングへとシフトしたことだろう。それ以来、売上規模の観点では立場が逆転している。

市場成長が続く2つの分野は、ストリーミングと、高単価商品で希少価値が高いアナログレコードだ。価格帯も再生方法もまったく違うフォーマットが人気となったのは興味深い。いまでは、世界のレコード会社の多くは、「フィジカル」という言葉をアナログレコードの新譜や復刻盤を指すために使っている。

世界の一歩先を行くアメリカのサブスク収益化

2016年は、前述の通りSpotifyが日本でローンチされた年だ。世界2位の音楽市場である日本市場は、Spotifyがアジア進出を実現し、成長トレンドを推進するうえで、重要な市場だった。偶然だが、Spotifyは2011年にアメリカ進出を実現した。つまりいまから10年前にアメリカ、5年前に日本と、5年おきに世界で1位、2位の音楽市場に参入してきたことになる。

世界最大の音楽消費国であるアメリカでは現在、音楽市場の売上の83%がストリーミングから生まれている。2020年には、アメリカの音楽史上初めてストリーミングの売上が100億ドルを超えた。この中には、SpotifyやApple Music、YouTubeなど有料と無料ストリーミングが含まれるが、アメリカではFacebookなどのSNSや、Pelotonのようなフィットネス系サブスクリプションサービスからも、レーベルやアーティストが収益化できるようになり始めている。

わずか数年で音楽ストリーミング大国となったアメリカ。ストリーミングへの移行をきっかけに、旧態依然とした業界構造からの脱却と、新しい収益化モデルの導入と先行投資を加速させ、世界よりも一歩先を行こうとしている。

ストリーミングサービスの普及が進む国の2つの「成功法則」とは?

Spotifyなどのストリーミングサービスの普及が進んでいる国や地域のレコード会社および音楽業界では、2つの共通した「成功法則」のトレンドが見られる。1つは、サブスクリプションの収益化への移行に成功していること。2つ目は自国の音楽の海外輸出に成功していることだ。とりわけ、この5~6年は、音楽輸出が進む国や地域が顕著になり始めた。

音楽輸出の代表的なジャンルは、グローバルヒップホップ、ラテン音楽、K-POPだ。これまで、アメリカや英語圏以外でつくられるヒップホップに、陽の目が当たる機会は少なかった。それがいまや、インドやアフリカ、東ヨーロッパ発のヒップホップアーティストたちが、自分たちの文化をミックスした楽曲をストリーミングでリリースして、世界で聴かれている。

Bad Bunny、J Balvin、Malumaなどラテン音楽のスターアーティストの台頭が著しいが、このジャンルもストリーミングでつねに再生される人気のジャンルとなって定着しただけでなく、YouTubeやTikTok、Fortniteなどグローバルプラットフォームの活用に積極的だ。

Bad Bunnyの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

J Balvinの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

Malumaの楽曲をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

そして、日本でも何度も目にするK-POPの世界市場拡大の話題は、ストリーミング時代を代表する出来事と言える。振り返ると、Spotifyは韓国でサービスをローンチするまで時間がかかり、正式に開始したのは今年2月と遅かった。しかし韓国でローンチしたときには、すでに数多くのK-POPアーティストは、海外のストリーミングサービスで人気だった。

SpotifyはK-POPが現在ほどの世界的カルチャートレンドになる以前から、K-POPに注目していたと業界関係者から聞いたことがある。同社が韓国進出する数年前から、世界各地でK-POP人気に火がつき始めていたことは、再生データで明らかだった。そのためSpotifyや韓国の音楽業界は、将来より多くの人々にストリーミングでK-POPを届けるための準備と体制づくりを数年掛けて築いたのだという。

K-POPの成功は、音楽を世界進出、海外輸出するビジネスモデルのグローバル化が、全世界的に進んでいることを示している。そして、音楽を世界に届けようとするアーティストは、増え続けることはあっても、減ることはないだろう。音楽を世界展開するためのプラットフォームとして、Spotifyなどのストリーミングサービスが最適であることを物語っている。

最先端のK-POPを紹介するプレイリスト「K-Pop Fresh」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

サブスクサービスは、日本の音楽ビジネスのあり方を変え続ける

ここ数年、日本においても、YouTubeやTikTok、Netflix、Spotifyといったストリーミング型のエンターテイメントを楽しむことが急速に一般化した。これらのプラットフォームを通じて、バイラルヒットが生まれたり、アーティストのファンが世代や国を横断して増えたりするようになった。この事実を日本の音楽業界はどう捉えるべきだろうか?

国内外でSpotifyを通じてこの5年間によく聴かれたアーティストや楽曲

日本の音楽業界でストリーミングへの移行が遅れている話はたびたび耳にする。CDパッケージ依存の比重が高く、ストリーミングからの収益額や分配額が上がらないと指摘されてきた。

そうした背景には、機能性と収益性ばかりに目を向け過ぎたことがあるのではないか? いつでもどこでも音楽を聴くことができるストリーミングサービスは、むしろグローバル展開を加速する方法であり、ファンと音楽との距離を縮めて維持するための重要なエコシステムである。その本質に気づくのが、日本ではやや遅れたと言えるかもしれない。

音楽業界の収益構造や組織づくり、人材、ルールを5年で入れ替えるには、日本の音楽業界は巨大になりすぎていたのだろう。しかし、今後はストリーミングの重要性を理解する日本のレコード会社やアーティストにとって、世界とつながるためにはSpotifyをはじめとするサブスクリプションサービスが大きな原動力になっていくはずだ。

今後多くの国で、音楽ストリーミング市場は欧米を上回る速さで成長が続くと予想される。結果として、時間を要するが、J-POPや邦楽カタログの世界でのヒット創出につながっていくはずだ。Spotifyから始まった音楽ストリーミングの波は、本格的なグローバル化へと流れており、次なるフェイズへ移り始めている。

日本発の音楽を紹介するプレイリスト「Tokyo Super Hits!」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

世界的な注目を集めている1980年代の日本のシティポップを集めたプレイリスト「City Pop '80s」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く

現行のシティポップを紹介するプレイリスト「City Pop: シティ・ポップの今」をSpotifyで聴く(Spotifyを開く



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「Kompass」は、ネットメディア黎明期よりカルチャー情報を紹介してきたCINRA.NETと、音楽ストリーミングサービスの代表格Spotifyが共同で立ち上げた音楽ガイドマガジンです。ストリーミングサービスの登場によって、膨大な音楽ライブラリにアクセスできるようになった現代。音楽の大海原に漕ぎだす音楽ファンが、音楽を主体的に楽しみ、人生の1曲に出会うガイドになるようなメディアを目指し、リスニング体験を交えながら音楽の面白さを紹介しています。

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