「バイラルチャート」に見る、リスナー主体のヒットの生まれ方

近年のヒット曲から見る、変化するヒットの起点

Spotifyのバイラルチャートが「ヒットの起点」になっている。

そのことは、今の音楽シーンにおいては、もはや常識の1つと言っていいだろう。2020年のナンバーワンヒットとなったYOASOBIのデビュー曲“夜に駆ける”が最初に注目を集めたのは同年1月。まだ一般的な知名度はゼロに近かった段階でバイラルチャート1位を記録している(参考:YOASOBI、ボカロ文化と繋がる「物語音楽」の新たな才能の真髄 )。

他にも、瑛人の“香水”、Tani Yuukiの“Myra”、川崎鷹也の“魔法の絨毯”など、2020年にはバイラルチャートでの首位獲得をきっかけに楽曲が注目を集め、アーティストがブレイクを果たす例が相次いだ。

Tani Yuuki“Myra”を聴く(Spotifyを開く

川崎鷹也“魔法の絨毯”を聴く(Spotifyを開く

その潮流は2021年も続いている。2021年3月15日付けのBillboard JAPAN 総合ソング・チャート「JAPAN HOT 100」では、Adoのメジャーデビュー曲“うっせぇわ”が初の総合首位を獲得。2位は優里の“ドライフラワー”となった。

今年上半期を代表するヒットとなったこの2曲は、ともに象徴的な推移を辿っている。配信限定でのリリースは“うっせぇわ”が2020年10月23日、“ドライフラワー”が10月25日。そしてウィークリーのバイラルチャートでは11月19日付で“うっせぇわ”が3位、“ドライフラワー”が4位と初めてTOP10圏内にランクインし、12月10日付で“うっせぇわ”が1位、“ドライフラワー”が2位。その後も数週にわたって上位を独占している。つまり、この2曲のヒットの起点は昨年11月から12月にかけてバイラルチャート上ですでに可視化されていたわけである。

そして、その存在が音楽業界や熱心なファンのみならず、広く一般に知られるきっかけとなった1つは『ミュージックステーション』(テレビ朝日系、以下『Mステ』)だ。今年1月22日放送回の『Mステ』ではSpotifyのバイラルチャートを「今バズっている曲ランキング」として特集し、YOASOBI、瑛人、川崎鷹也が出演。Adoも電話インタビューでテレビ初登場を果たした。2月12日放送回では優里が『Mステ』初出演で“ドライフラワー”を披露している。こうして配信リリースから約半年をかけ、CD未リリースながら楽曲の話題がオーバーグラウンドに広がったことがヒットに結実したと言える。

Ado“うっせぇわ”を聴く(Spotifyを開く

このことは何を象徴しているのか。CDが中心だった以前の音楽シーンにおいては、全国流通盤のリリース前にライブ会場や一部店舗限定で音源がリリースされることが多く、それを扱うライブハウスやレコードショップの店員など、現場の音楽関係者の口コミが新人アーティストのブレイクに大きく寄与していた。しかし、ストリーミングが普及したこと、そして誰もがデジタルディストリビューションサービスを用いて音源を配信できるようになったことで、こうした情報格差が縮まった。むしろSNSを介したユーザーのリアクションが「バズる」ための必須の条件となったと言える。それを反映しているのが「バイラルチャート」と言うこともできるだろう。

優里“ドライフラワー”を聴く(Spotifyを開く

注目はどう測定されているのか。「バイラル」の基準

では、そもそもバイラルチャートとはなにか。どんな仕組みで成り立っているのか。公式の発表によると、バイラルチャートとは「Spotify上から様々なSNSでシェア・再生された回数などのデータを元に、『いまSNSで最も話題になっている曲』をSpotifyが独自に指標化したもの」とのことだ。再生回数ランキングの「トップ50」と違い、楽曲の話題性をより即時性を持って反映することを目指して設計されたチャートと言える。

Spotify Japan コンテンツ統括責任者の芦澤紀子によると、すべてシステムがデータ解析に基づいて算出しているというバイラルチャートで参照されるのは、「Spotifyサービス内で直近の再生回数がどれだけ上昇したか」「TwitterやInstagramなどのSNSに楽曲がどれだけシェアされたか」「どれだけその曲が新しく発見されたか」という3つの要素だという。

ここで注意すべきポイントは、YouTubeやTikTokなど、外部のサービスにおける再生回数や、そこからリンクを辿った流入が直接的にカウントされているわけではない、ということだ。

バイラルにランクインする、3つのきっかけ

では、どんな楽曲が、どんなタイミングで「バイラルチャート」上位にランクインするのか。ここ最近の推移を見ると、いくつかのキーとなる傾向が浮かび上がってくる。

1つ目は、アーティスト自身の大きなアクションによる話題性だ。最近の例をあげるならば、2月25日付チャートで1位になったDaft Punkの“One More Time”がその代表だろう。2月22日に解散を発表した彼ら。それを受け、多くの人が解散を惜しむ思いとともに曲をSNS上でシェアした。それをきっかけに新たに彼らの音楽に触れた人も多く、結果としてこの週はトップ50のうち18曲がDaft Punkの楽曲という結果となった。

Daft Punk“One More Time”を聴く(Spotifyを開く

また、悲しいことではあるが、アーティストの死を受けて沢山の人が追悼の言葉をSNSに連ねることで、その代表曲がバイラルチャートにランクインしてくることも多い。2月9日に79歳で死去したチック・コリアや、1月30日に不慮の死を遂げたSOPHIEも、その後に代表曲がバイラルチャート上位となった。

チック・コリア“Crystal Silence”を聴く(Spotifyを開く

SOPHIE“Immaterial”を聴く(Spotifyを開く

2つ目は、映画やドラマやCMとのタイアップによる話題性だ。最近の例をあげるならば、Awesome City Club“勿忘”がその代表だろう。映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして制作されたこの曲は、予告編にも多く使用されたことで映画のヒットと共に話題が広がり、2月25日付チャートで2位に。その後も2位、3位と上位をキープしている。また、3月11日付チャートではフレンズ“NIGHT TOWN”やきのこ帝国“クロノスタシス”など、劇中で使用された楽曲もTOP50入りを果たし、SNSで感想を語りたくなる仕掛けが込められたこの映画ならでは影響の広がりを感じさせる。

Awesome City Club“勿忘”を聴く(Spotifyを開く

記録的なヒットとなった映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』主題歌として公開されたLiSAの“炎”も昨年11月15日付チャートで1位を獲得。また映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開をきっかけに、テーマソングの宇多田ヒカル“One Last Kiss”や、劇中歌でもある水前寺清子の“真実一路のマーチ”など関連楽曲が最大11曲、3月16日付けのチャートでランクインした。 他にも、Momの“あかるいみらい”など、印象的なCMソングが「バイラルチャート」上位にランクインすることもたびたびある。

LiSA“炎”を聴く(Spotifyを開く

宇多田ヒカル“One Last Kiss”を聴く(Spotifyを開く

Mom“あかるいみらい”を聴く(Spotifyを開く

そして3つ目は、TikTokのUGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)による自然発生的なブームだ。これに関しては、いわゆる世間一般の注目とは全く別のきっかけで話題性が発生するので、上記の2つに比べてその経緯が掴みづらい。かつ、ショートムービープラットフォームであるTikTokはいわゆるSNSと違って「どこで話題になっていたのか」が見えづらいのも特徴だ。

TikTokはアルゴリズムによるリコメンドが強力に作用する仕組みを持っている。どのアカウントをフォローしたかだけでなく、どの動画を見たか、それを最後まで見たか、途中で飛ばしたか、お気に入りをタップしたかどうかなど、ユーザーの行動履歴を秒単位で分析することで、そのユーザーへのリコメンデーションが変わってくる。一方、好リアクションを獲得した動画は投稿者のフォロワー数が少なくとも「おすすめ」として多くのユーザーにリコメンドされる。

つまり、インフルエンサーとしての個人の影響力が重視されるInstagramなどのSNSと対称的に、投稿されたショートムービーの興味喚起力や中毒性自体がバズの原動力となるのがTikTokのアルゴリズムの特性だ。瑛人やTani Yuuki、Adoなど、多くのニューカマーが無名な存在から一気にバイラルチャートを駆け上がった現象はこうして生まれたのである。

最近の例では、3月11日付のチャート1位となった和ぬか“寄り酔い”がその代表だ。リリースは昨年11月24日で、すでにTikTokでは様々なタイプの動画に楽曲が用いられている。ダンス動画をきっかけに支持を広げたボカロPのChinozo“グッバイ宣言”、3MCのヒップホップクルーBLOOM VASEの“Bluma to Lunch”も注目曲だろう。

和ぬか“寄り酔い”を聴く(Spotifyを開く

Chinozo“グッバイ宣言”を聴く(Spotifyを開く

BLOOM VASE“Bluma to Lunch”を聴く(Spotifyを開く

こうして見ていくと、今の時代の「バイラル」という言葉には、2つの意味が重なり合っていることがわかる。1つは「口コミによって話題が広がっていく」という従来の意味。そしてもう1つは「アルゴリズムによって駆動された、(いつどこでバズるものが出現するか予測できない)カオス現象的な話題の拡散」という意味だ。これは今までとは異なる、とても興味深いことが起こっていると思う。

『バイラルトップ50 - 日本』を聴く(Spotifyを開く

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