リナ・サワヤマ『SAWAYAMA』を紐解く。音と詞に込められたもの

リナ・サワヤマ『SAWAYAMA』を紐解く。音と詞に込められたもの

編集
後藤美波(CINRA.NET編集部)

00'sサウンドを2020年仕様にアップデートした大文字のポップ。『SAWAYAMA』の「ニューメタル」を考察する(テキスト:渡辺裕也)

時代は巡り、欧米では2000年代ポップの再検証がいよいよ本格化しつつある。そんな機運を感じさせるのが、リナ・サワヤマの1stアルバム『SAWAYAMA』だ。

ここでいう00年代ポップとは、たとえばバレアリックビートなどから派生したニューディスコ、ティンバランドやネプチューンズらが牽引したヒップホップ / R&B、そしてLimp Bizkitなどに象徴されるニューメタルなど、要は00年代前半の北米チャートを席巻した一連のメインストリームポップのことだ。そんな00'sサウンドを現代的な視点で捉え直し、音楽的にはもちろん、思想的な側面においても2020年仕様にアップデートさせた、大文字のポップ。筆者は『SAWAYAMA』をそういう作品として受け取っている。

1990年生まれのサワヤマ自身が上記のような00年代ポップに影響を受けていることは、その世代からすれば何も驚くべきことではない。ましてや当時のR&Bやダンスミュージックは現在のそれと地続きなのだが、ここに再評価の対象としてニューメタルが加わると、話は少し変わってくる。というか、まさかこういうアプローチでニューメタルが見直される時がくるとは思わなかった。『SAWAYAMA』におけるニューメタル再評価とは如何なるものなのか。そこを紐解くにあたって、まずはニューメタルとはどんなジャンルなのか、改めて振り返ってみよう。

『SAWAYAMA』ジャケット
『SAWAYAMA』ジャケット

ニューメタル(Nu-Metal)とは、オルタナティブロックの流れをうけたヘビーメタルがヒップホップと折衷することによって生まれたジャンルのこと。ラップメタルとも呼称されていたように、もはやクロスオーバーが当然となった21世紀のポップ音楽に先鞭をつけたジャンルともいえる。

ニューメタルの特徴として押さえておきたいのは、大きく分けて2点。まずひとつは、とにかく音が重たいこと。7弦ギターと5弦ベースを多用し、さらにそれをダウンチューニングして繰り出す重低音は、ニューメタルを定義づける最大の要素といっていいだろう。

もう1点は、このジャンルに分類される音楽のほとんどが、白人男性によるものだったこと。つまり、ニューメタルにおけるジャンル間のクロスオーバーで主導権を握っていたのは、あくまでもロックであり、そのプレイヤーの大半は白人だったのだ(のちにその立場を逆転させたのが、昨今のエモラップやグランジラップ)。そして、もちろんEvanescenceやKittieなどの例外もいるとはいえ、総体的にみればニューメタル系のミュージシャンは圧倒的に男性が多数派を占めていた。


Evanescenceの2003年のヒットソング“Bring Me To Life”


Limp Bizkit “Break Stuff”。1999年発表のアルバム『Significant Other』に収録

怒りや不満が爆音とともに放たれるニューメタルは、ストレス発散として非常に機能的な音楽だ。同時にその歌詞表現には露骨なミソジニーが見られる例も多く、それゆえに同ジャンルは再評価されづらいところがあった。これについてはサワヤマ自身も『ガーディアン』誌のインタビューで言及しており、彼女はニューメタルを「間違いなく男性的なジャンル」としたうえで、「これを利用して私自身の怒りを追い払うべきだと感じた」と述べている。つまり、サワヤマはニューメタルが男性的な音楽であると知りながら、意図的にそれを取り入れているのだ。

そんなサワヤマのニューメタル解釈を顕著に表したのが“STFU!”だ。ディストーションギターの迫りくるような音圧もさることながら、曲中でなんども繰り返される「Shut the fuck up」というフレーズに至るまで、どこを切り取ってもLimp Bizkitを連想せずにはいられないこの曲で、サワヤマは怒りをストレートに表明している。それは、彼女が日本人女性として受けてきた偏見や差別的な言動に対する怒りだ。

『SAWAYAMA』収録曲“STFU!”を聴く(Spotifyを開く

他にも、ゴシックな世界観がEvanescenceを彷彿させる“Dynasty”、清涼感あるダンスポップに耳をつんざくようなギターノイズを差し込んだ“XS”など、『SAWAYAMA』にはニューメタル的な意匠がたびたび登場し、怒りを伝えるものとして機能している。恐らくそこにはパロディ的な意味合いも込められているのだろうが、いずれにせよ、サワヤマのこうしたアプローチが旧来のニューメタル像に揺さぶりをかけたのは、まず間違いない。


『SAWAYAMA』収録曲“XS”PV

宇多田ヒカルの初期3作に多大な影響を受けたと本人も公言しているとおり、サワヤマの音楽性はあくまでもR&Bを基調としており、そのスタイルに異ジャンルを折衷させることによって、彼女は独自のサウンドを築き上げた。しかも、前述したニューメタルの引用がそうであったように、そこには影響を受けたポップスへの憧れだけでなく、それらの音楽が無自覚に差別的であったこと、ヘテロ的な価値観を前提としてきたことへの批判も含まれていたりするのだ。

ジャンル混合的なサウンドの一つひとつに何かしらの意図が込められた『SAWAYAMA』は、ある意味では非常にハイコンテクストな作品ともいえるだろう。同時に、このアルバムは聴く者の耳を瞬時に掴んでしまうほどの極めてキャッチーな作品でもある。ポップスの過去を問いただし、ともすればアンクールな存在になりかけていたジャンルさえも現行のポップスとして蘇生させた『SAWAYAMA』は、間違いなく2020年における最重要作の1つだ。

リナ・サワヤマ『SAWAYAMA』を聴く(Spotifyを開く

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リリース情報

Rina Sawayama『SAWAYAMA』
Rina Sawayama
『SAWAYAMA』

2020年4月17日(金)配信

1. Dynasty
2. XS
3. STFU!
4. Comme des Garçons(Like The Boys)
5. Akasaka Sad
6. Paradisin’
7. Love Me 4 Me
8. Bad Friend
9. Fuck This World(Interlude)
10. Who’s Gonna Save U Now?
11. Tokyo Love Hotel
12. Chosen Family
13. Snakeskin
14. Tokyo Takeover(ボーナストラック)

サービス情報

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プロフィール

Rina Sawayama
Rina Sawayama(りな さわやま)

ロンドン在住。幼少期から歌うことが大好きだった彼女は、13歳から音楽制作を始動。ケンブリッジ大学卒業後から本格的にアーティスト活動を始め、作詞・作曲、プロデュース、ミュージックビデオの監督をするなど多才。The FADERで「2017年の知っておくべきアーティスト」、DAZEDの人気企画「DAZED 100(次世代を担う100人)」に選出された。VOGUEやi-Dなどファッション誌でモデルを務める他、VERSUS VERSACEやadidasなど、ファッションブランドのキャンペーンにも起用された。2019年6月には情熱大陸に取り上げられ、「ネクスト レディー・ガガ」と称される。

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